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日本の医療・介護制度はこれからどうなるのか。東京都立大学経済経営学部の宮本弘曉教授は「団塊ジュニアが高齢者になる2040年には、社会保障給付費はいまの1.5倍の190兆円にまで膨らむ。このままでは制度の維持が難しく、医療・介護の問題は深刻な事態に陥る」という――。
※本稿は、宮本弘曉『101のデータで読む日本の未来』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
まもなく団塊世代が全員、後期高齢者になる
医療や介護は、年金や雇用、労災とならぶ社会保険制度の一種です。保険制度なので、その費用は本来、サービスを受ける人々が払う保険料でまかなうものです。しかしながら、実際には、国や地方自治体による公費が投入されています。医療保険では財源の約4割、介護保険では財源の5割が公費でカバーされています。
日本の社会保障給付費を見てみましょう。社会保障給付費とは年金・医療・介護・福祉といった社会保障制度を通じて国民に給付される金銭やサービスの合計額のことです。社会保障給付費はこの20年で約1.7倍になっており、2021年度には約129兆6000億円で過去最高となっています。特に近年、医療と介護の給付額の伸びが大きくなっています。
昨今、「2025年問題」が叫ばれています。2025年にはいわゆる「団塊の世代」が全員75歳を超えて、後期高齢者となります。この時、75歳以上の人口は2180万人となり、総人口の約18%を占めると予測されています。つまり、日本人の5.5人に1人が75歳以上になるのです。2025年問題とは、これほどの高齢国家が訪れることで生じる様々な問題のことを言います。
「前期→後期」で医療費1.6倍、介護費10倍に膨らむ
2025年問題で特に深刻なのが、医療・介護費用の増加とそれに伴う現役世代の負担増です。具体的には、75歳以上の後期高齢者の医療費は1人当たり年間約92万円で、65~74歳の前期高齢者の約55.5万円と比べると、約1.6倍となっています。
また、介護費用は、後期高齢者では1人当たり年間約47万円で、前期高齢者の約4万9000円のおよそ10倍まで膨れ上がります。なお、厚生労働省のデータによれば、日本人が生涯で使う医療費は1人当たり2700万円ですが、75歳以上でその4割にあたる1000万円を費やすとされています。
さらに今、「2040年問題」と呼ばれる問題も叫ばれています。これは、2040年頃には団塊ジュニア世代が高齢者となり、65歳以上の人口が約4000万人でピークに達するとされ、さらなる医療・介護費の増加が見込まれる問題です。
財務省は、団塊の世代全員が75歳以上となる2025年には、医療と介護にかかる費用が2018年と比べてそれぞれ1.2倍と1.4倍に、2040年には医療・介護費は2025年と比較してそれぞれ1.4倍、1.7倍に膨れ上がると予想しています。これらの結果、社会保障給付費は今後も持続的に増加し、2025年には約140兆円、2040年には約190兆円まで増加すると予測されています。
医師の長時間労働で支えられている日本の医療
ところで、医療や介護が抱える問題はその費用だけではありません。まず、医療について見ていくと、「医療従事者の長時間かつ過重労働」という問題が挙げられます。現在、日本の医療は医師らの自己犠牲的な長時間労働に支えられています。
厚生労働省が実施した勤務医の勤務実態調査によると、一般に「過労死ライン」と言われる月に80時間以上の残業を超えて働く医師が全体の約4割、過労死ラインの2倍を超えて働く医師が1割弱存在しています。また、総務省「就業構造基本調査」によると、1週間の労働時間が週60時間を超える割合を職種別にみると、雇用者全体の14%に対して、医師は41.8%と最も高い割合となっています。
平均入院日数16日は先進国の中で突出して長い
ここで、世界と比べた日本の医療の特徴について、把握しておきましょう。まず特筆すべきは、その病床数(ベッド数)の多さです。OECD諸国における人口1000人当たりの病床数について、日本は最も多い12.8床となっています。
これはOECD平均である4.4床の2.9倍であり、医療提供体制が充実しているとされるドイツでも、日本の約6割となっています。他の先進国ではこの30年間で病床数は大きく削減されました。日本も減少傾向にあるものの、その減少幅は小さく、他の先進国と比べて病床数が圧倒的に多いのが現状です。
また、入院日数が長いのも日本医療の特徴です。日本での平均入院日数は16日となっていますが、これはOECD諸国のなかで突出して長く、OECD平均の6.5日の2.5倍となっています。病床数と同様に、多くの国では1990年代初頭から入院日数は減少してきました。日本も1990年代半ばには、入院日数は30日以上で、現在はその半分程度となりましたが、それでも他国と比較すると長くなっています。
近年増加傾向だが医師の数はまだまだ足りない
病床数が多く、入院日数が多いことは何を意味するのでしょうか。それはつまり、病床数当たりの医師が不足していて、サービスが手薄になり、その結果、入院日数が長くなっていると考えられます。実際に、日本ではベッド数はOECDの中で一番多いのに対して、人口1000人当たりの医師数は2.5人で、OECD平均の3.5人を大きく下回っています。
結局、医師の数が少ないことは、先に述べた医師の長時間労働・過重労働問題にもつながっています。現在、医師数は増加傾向にあり、アメリカ(2.6人)やカナダ(2.8人)に近づきつつありますが、ベッド数が多いことを考慮すると、まだまだ他の先進国よりも少ないと言えるでしょう。
「80代は6割」加齢とともに急速に増える介護需要
医療の次に、介護に関する問題を見ていきましょう。日本の介護保険制度は、介護が必要になった人に社会保険でその費用を給付する仕組みで、2000年4月に始まりました。増加する高齢者の介護を社会全体で支える「介護の社会化」を図ることをその最大の目的としています。
冒頭でも少し触れましたが、その財源の半分は公費で、残りの半分は40歳以上のすべての人が負担する保険料です。被保険者は65歳以上の第1号被保険者と、45歳以上64歳以下の第2号被保険者です。給付を受けられるのは要支援・要介護の認定を受けた人です。
介護は誰にでも、またどの家庭にも起こりえる課題ですが、加齢とともに急速に介護が必要となる人は増えていきます。65歳以上の被保険者について、要支援・要介護の認定を受けた人の割合を見ると、65~69歳で要介護等の認定を受けた人は2.9%ですが、75歳以上になると認定率は32.2%まで上昇します。さらに年を重ね、85歳以上になると、約6割の人が認定者となります。
いったい誰が介護を担うのか
また、誰が介護をするのかという問題も深刻です。要介護等認定者の増加に伴い、介護に従事する職員数は増加傾向にあります。介護保険制度が始まった2000年には54万9000人でしたが、2019年には210万5000人と約3.8倍となっています。
しかし、厚生労働省「国民生活基礎調査」によると、介護者の5割強は同居している家族、そのうち65%が女性となっています。しかも最近では、要介護者の受け皿となる施設が不足しているため、在宅介護へのシフトが進んでいます。
そのような中、問題となっているのは介護者の就業です。家族内に介護を必要とする人がいるため、その介護にあたる人の就業が妨げられるというものです。就業者のうち、家族の介護をしている人の割合を見ると、介護をしている人は627万6000人で、そのうち有業者は346万3000人でした。有業者全体で介護をしている人の割合は5.2%となっています。
宮本弘曉『101のデータで読む日本の未来』(PHP新書)
年齢別にみると、40代前半までは4%未満と高くないものの、50~64歳ではその倍に近い約1割となっています。先ほど、75歳以上になると要介護・支援認定者になる高齢者が増えるというデータをみましたが、50~64歳というのは、その親がちょうど75歳以上になる年齢層であり、この年齢層の有業者で介護をしている人が多くなるのは納得がいく数字です。
総務省統計局「平成29年就業構造基本調査」によると、介護・看護のための離職者数は2007年には14万5000人でしたが、2012年に10万1000人、そして2017年に9万9000人と減少傾向にあります。離職者のうち、介護・看護のために離職した人の割合も、2007年には2.2%でしたが、2017年には1.8%まで低下しています。現在、介護や看護を理由とした離職者は増加傾向にあるわけではありませんが、介護が就業を抑制するという研究結果もあり、今後、要介護等者が急増する中では注意が必要です。
そのほか、介護における問題については、老々介護、ダブルケア、孤独死といった問題も取り上げられています。今後、介護を巡る問題はより一層、深刻さを増すことが予想されます。
- 宮本 弘曉(みやもと・ひろあき)
- 東京都立大学経済経営学部教授
- 1977年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、米国ウィスコンシン大学マディソン校にて経済学博士号取得(Ph.D. in Economics)。国際大学学長特別補佐・教授、東京大学公共政策大学院特任准教授、国際通貨基金(IMF)エコノミストを経て現職。
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