★Ep7オープニング
私は、動機なんて真犯人を特定するには一切不要とばかりに、犯行が可能かどうかだけで、秀吉か紗音のいずれかが、愛しているはずの譲治を含めて大勢を殺害した冷酷な殺人者であると★心をないがしろにした推理をしていましたが、ウィルに、探偵気取るなら、心を忘れるんじゃねェと怒られてしまいました。
★事件の洗い直し
Ep6までで、ほとんどの謎に説明をつけてきたつもりですが、真犯人の動機は明らかになっていません。それに、動機は一切不要だと言っておきながら、結局真犯人が秀吉か紗音か絞れていない体たらくです。そして、Ep6ラストに出てきた★18人目と17人の謎も今までの推理では説明できません。
ここは、改めて、ホワイダニットにも重きを置いて残された謎を考察してみようと思います。そうすることによって今度こそ真犯人を特定できるかもしれません。
★大ヒントとしての探偵宣言
まずは、Ep5で出てきた●探偵宣言が大きな手掛かりとなるので、ここから始めます。
まず前提として、前半総括の★川畑機長犯人説の項で述べたが、“この島には18人以上の人間は存在しない”という宣言から、生きている人間が最大17人まで六軒島に存在できるということが導かれる。これは全ゲームに共通することなので、Ep1~8全てで例外なく適用される。
そして、Ep5の探偵宣言。探偵宣言時の六軒島は、古戸ヱリカ以外の在島者の人数は、これまでのゲームとまったく同じで、これまでの世界には存在しなかった古戸ヱリカが1人増えている状態である。そのうえで生きている人間が最大17人までなのだから、古戸ヱリカを加えても17人を越えてはならない。従って、古戸ヱリカが登場するタイミング以降で、古戸ヱリカ以外に六軒島に存在できる人間は、最大16人までということになる。逆に、古戸ヱリカが登場するタイミングより前なら古戸ヱリカ以外の人間は最大17人まで存在できる。ここで、“古戸ヱリカが登場するタイミング”とは、薔薇庭園で薔薇を探す真里亞に誰かが接触する時のことである。
ところがEp1では、“古戸ヱリカが登場するタイミング”の後でも、戦人視点で蔵臼、絵羽、留弗夫、楼座、朱志香、譲治、真里亞、夏妃、秀吉、霧江、南條、源次、紗音、嘉音、熊沢、郷田の16人の存在が確認されており、戦人も入れると17人で人数オーバーである。従って、戦人視点は探偵視点であるにもかかわらず、誰かを誰かに誤認をしていることが明らかになる。ある人物Xが、別の人物Yに変装して戦人の前に現れたのに、戦人にはその変装Y(X)が見破れなかったということだ。このX、Yに該当する、変装者と変装対象にあたる人物は絶対に存在する。そして、ノックス第10条により、手掛かりなき他の登場人物への変装を禁ずるのだから、逆に、どこかにその手掛かりが絶対に示されているはずである。
★変装Y(X)の検証方法
戦人が誰かを誰かに誤認をしていることが明らかになったので、誰が誰に変装している可能性があるのかを検証しなければならない。その組み合わせは16×15=240通り考えられ、本当ならその全ての組み合わせのひとつひとつについてそれがあり得るかどうかを検証すべきかもしれないが、それは実質不可能だ。例えば、郷田が真里亞に変装するなんていうのは、普通ならあり得るはずもないが、郷田は、本当はものすごく小柄で普段は肉襦袢とシークレットブーツで体格を大きく見せており、真里亞に変装する時は肉襦袢とブーツを脱いでいると考えると、可能性はゼロではない。郷田が真里亞に変装している手掛りなど探したってあるはずもないが、ただ見つけられてないだけと言われたらこれも否定できない。つまり、こんな馬鹿げた組み合わせであっても否定しきれないのに、それを240通り検証しても、徒労に終わるだけである。これは“解けるようにこのゲームの謎を生み出した”に反する。別のアプローチで検証すべきだろう。
探偵視点は基本的には真実として扱いたいので、ある人物Xが別の人物Yに変装している組み合わせY(X)は、なるべく少ない方が望ましい。たった1組ならそれがベストだ。だがだからと言って、はじめから1組しかないとするのは決めつけが過ぎる。
そこで、以下のような手順で考える。
[1]ノックス第8条とノックス第10条より、まず手掛りを見つけることを優先させ、それを探す。
[2]見つけた手掛りをもとに、変装の組み合わせB1(A1)、すなわちA1がB1に変装していると仮定する。
[3]B1(A1)を仮定することで生じる矛盾を解消できなければ、B1(A1)は破棄。
[4]B1(A1)を仮定するために、別の変装BN(AN)を仮定する必要が出てしまってもB1(A1)は破棄。
[5] [3][4]どちらでも破棄されなかったら、B1(A1)で確定。他に変装はないものとする。
[6]破棄された場合は、別の手掛りを探し、別の変装B2(A2)を仮定する。
[7] [3][4]同様に、B2(A2)を検証する。問題なければそれで確定。他に変装はないものとする。
[8]ただし、B2(A2)を仮定するために、先に破棄されたB1(A1)を仮定する必要が生じた場合、ただちに破棄にはせず、先にB1(A1)を破棄した理由が、B2(A2)を仮定する必要があったから、であった場合は、B1(A1)、B2(A2)がともに成り立つものとする。
[9] B1(A1)、B2(A2)で矛盾がなければそれで確定。他に変装はないものとする。
[10]以上を確定が出るまで繰り返す。
★“手掛り”
以下は、Ep1で戦人の前に紗音が登場し、戦人が紗音の胸を揉むふりをして朱志香にしばかれた後のシーンを、そのまま抜粋したものだ。
「あはは、じゃあ命令させてもらうことにするよ。次から戦人くんが胸に触ろうとしてきたら、平手打ちで反撃すること。いいね?」
「……は、はい。仰せつかりました。以後、そのようにさせていただきます。戦人さま、ご承知おきくださいませ…。」
紗音ちゃんは優雅な仕草で俺にお辞儀しながらそう宣言する。
表情は晴れやかだった。
俺は、それでOKと親指を立てて応えてやる。
「6年前はお手伝いさんの連れ子がついでにお手伝いみたいな印象だったんだけど、……すっかり一人前の使用人さんだなぁ。今年で何年になるんだぁ?」
「はい。お陰様で10年ほどお仕えさせていただいております。」
彼女は紗音。……“シャノン”と読む。
これまた日本人離れしたすげぇ名前だ。
昔は俺もガキだったので大して気にせずこの名前を鵜呑みにしていたのだが、右代宮家の人間でないにも関わらず、このネーミングセンスは珍しい。
…恐らく、使用人の源氏名みたいなもんだろう。
…だとすると、さっき薔薇庭園で出会った嘉音くんのネーミングセンスも納得できる。
彼女は6つの時からここに勤めているという古参の使用人だ。
容姿がすっかり変わってしまったので記憶は繋がらないが、6年前の彼女にはお互い面識がある。
内気な感じの性格は今も昔も変わらないようだが、やはり歳相応の女の子らしい魅力が宿ったような気がする。
特に胸だな、胸。
「さっき会った嘉音くんは彼女の弟なんだよ。」
「…弟というわけでは…。でも、私のことを姉と慕ってくれます。…何か失礼なことはしませんでしたか?」
「はは! 相変わらずいつも通りだぜ。もうちょっと愛想よくすればいいのによ、勿体無いやつー。」
「…嘉音くんがご迷惑をお掛けしたようで、…申し訳ございません……。」
「別に迷惑なんか何も! 同じ男としてわかるさ、ありゃあ気難しい年頃だ。愛想が悪いのは当り前だぜ!」
「うー! 真里亞もよく言われる! 愛想悪いって言われるー! 嘉音と一緒! うー!」
「くす、……真里亞さまは愛想悪くなんかありません。」
「うー? 一緒が良かった…。うー。」
「えっと、食事の準備が出来たんだっけ?」
「あ、……はい! 失礼いたしました! …お食事のご用意が整いましたので、皆様をお屋敷へご案内いたします。」
紗音は形式的なお辞儀をし直して勤務モードに復帰する。
これ以上、下らない話に付き合わせれば、それはかえって彼女の仕事に迷惑をかけてしまうことを察した俺たちは、それ以上の脱線はせず腰を上げることにした。
「じゃ、お屋敷に行こうか。みんなもお腹が空いてたところでしょ。」
「だなー。郷田さんがいる時のメシは楽しみなんだよ。あの人、どこぞの有名ホテルでシェフをやってたらしくて、かなり料理の腕があるんだぜ!」
「ほぅほぅ! そ~りゃ楽しみぃ!! 行こうぜ真里亞! ガツガツ犬みたいに食い散らかすぞ!!」
「うー! 犬みたいに食い散らかす!」
「ダメダメ! 戦人くんの言うことはいちいち真に受けちゃダメだよ? 全部冗談なんだから。さ、行こ行こ。」
俺たちは紗音ちゃんに先導され、お屋敷へ向かうのだった。
これが、誰かが誰かに変装している事を示す“手掛り”である。
★紗音は嘉音の実の姉?
嘉音は紗音の事を姉さんと呼んでいるのに、私たちは、紗音と嘉音が実の姉弟ではないと思っている。それはなぜか。
それは、[A]Ep1に、紗音自身が嘉音を弟ではないと否定するシーンがあるからである。それが上記のシーンだ。
また、[B]戦人視点でもそれ以外でも、“嘉音は紗音を姉と慕っている”という表現が度々出てくるからである。普通は、実の弟が実の姉のことを“姉と慕う”とは言わないので、紗音と嘉音が実の姉弟ではないように見える。
そして、[C]赤字でも探偵視点でもない地の文の中で、ほぼ直接的に、紗音と嘉音が実の姉弟ではないと言っている個所が存在するからである。
以上の根拠[A][B][C]により、私たちは、紗音と嘉音が実の姉弟ではないと思っている。
★“手掛り”とは
根拠[A]について。紗音自身が嘉音を弟ではないと否定するシーンの前後が明らかに戦人視点なので、紗音自身が嘉音を弟ではないと否定するシーンも戦人視点の様に見える。
だが、★“手掛り”を良く見ていただきたい。“紗音は形式的なお辞儀をし直して勤務モードに復帰する。”という一文がある。戦人視点では紗音は“紗音ちゃん”と呼ばれるはずなので、この一文は戦人視点ではない。だから、この一文につながるその直前の一連の会話シーンも、戦人視点ではない。この一連の会話シーンの中には、紗音自身が嘉音を弟ではないと否定するシーンも含まれており、すなわち、紗音自身が嘉音を弟ではないと否定するシーンは戦人視点ではない。
戦人視点で話が進められていたところに、紗音自身が嘉音を弟ではないと否定するシーンで、とたんに戦人視点でなくなることこそが、伏線であり、“手掛り”だと考える。
★姉と慕う
根拠[B]について。“姉と慕う”という表現は、普通は実の姉に対しては使わない。
だが、公には紗音も嘉音も16歳で同い年ということになっている。同い年で実の兄弟姉妹の場合、可能性としては、双子か、もしくは、母親が違うか、である。それを踏まえて、以下の例文はいかがだろうか。例文なので事実とは異なる。
*紗音と嘉音は双子なので、実質どちらが上ということもない。実際嘉音は紗音に辛辣な口をきくことも多い。だがそれでも、嘉音は紗音を姉と慕っている。
*紗音と嘉音は母親が違い、一緒に過ごした時期は非常に短い。母親同士も仲が良くなかったので、お互いを姉弟と認めていなくてもおかしくない。だがそれでも、嘉音は紗音を姉と慕っている。
例え実の姉であっても、姉と認めなくてもおかしくない環境が前提として存在するなら、あえて“姉と慕う”と表現しても不自然ではない。紗音と嘉音は同い年として通用している以上、“姉と慕う”という表現があるからといって、紗音と嘉音が実の姉弟ではないということにはならない。
★“手掛り”の意味
私たちは、紗音と嘉音が実の姉弟ではないと思っているが、それ自体は重要ではない。
重要なのは、私たちは、“ゲーム盤の登場人物は、紗音と嘉音を実の姉弟ではないと思っている”と思っていることだ。
だが、根拠[A][B][C]をひも解くと、戦人視点で、ゲーム盤の登場人物が紗音と嘉音を実の姉弟ではないと思っているシーンは存在しない事がわかる。
“手掛り”で示されるように、私たちは意図的に、“ゲーム盤の登場人物は、紗音と嘉音を実の姉弟ではないと思っている”と思わされている。それは逆に、“ゲーム盤の登場人物は、紗音と嘉音を、血のつながった実の姉弟だと思っている”という事実が、意図的に隠されているということである。
★紗音嘉音同一人物説
誰かが誰かに変装する場合、長らく六軒島から遠ざかっていた戦人の目だけなら、もしかしたら欺けるかもしれない。だが、実際には戦人だけでなく、共犯者でない他の全員の目も欺かなければ、いざ事件が起こった時に真っ先に疑われてしまう。だから、戦人だけでなく、使用人も含めてお互い顔を合わせる機会の多い登場人物全ての目を欺く変装を想定する必要がある。
Ep1●使用人としての嘉音で述べたが、嘉音は多くの人間にその存在を確認されていることが、戦人視点で描写されている。だから、嘉音が皆にとって既知の人間の変装だとしたら、それが長らく気付かれないのは不自然である。だが、ゲーム盤の登場人物は、紗音と嘉音を、血のつながった実の姉弟だと思っているのなら話は別だ。紗音が嘉音に変装すれば、その嘉音は当然紗音にそっくりである。紗音と嘉音が実の姉弟ではないとすれば、そんな変装はすぐにばれてしまう。しかし、血のつながった実の姉弟だと思っているのなら、嘉音が紗音に似ていても当然なので、不自然には思われない。
紗音と嘉音でどちらがどちらの変装かを考える場合、紗音の方が長く六軒島で働いているので、紗音が嘉音に変装するようになったと考える方が自然だ。
紗音と嘉音は探偵視点では同時に姿を現さないので、嘉音が紗音の変装だと仮定するために、他の変装を仮定する必要がないのが、この仮定の強みだ。
以上より、上記で示した“手掛り”をもとに、紗音が嘉音に変装していると仮定する。
それはつまり、皆の目の前に現れる嘉音は、紗音の変装であるという意味である。戦人が嘉音だと思っていた人物は、実は紗音だったということである。戦人視点は探偵視点であるにもかかわらず、嘉音を紗音と誤認していたため、金蔵を除き、自分を含めて17人と数えてしまったということである。
紗音は、皆の目の前では、ひとりで“紗音”としても“嘉音”としても振舞っているので、そういう意味では“紗音”と“嘉音”は同一人物である。だが、紗音=嘉音であると主張しているわけではない。
★生じる矛盾
Ep6までのゲーム盤の謎を解くのに、紗音嘉音同一人物説は全く必要ではなかった。なのに、探偵宣言から明らかになる人数誤認の問題を解決するために、紗音嘉音同一人物説がここにきて初めて飛び出してきた。そうなると当然これまでの推理と矛盾が生じてしまう。以下に列挙する。
【Ep2第二の晩】
“嘉音はこの部屋で殺された”とある以上、嘉音は本当の意味で必ず殺されている。しかし、嘉音は、紗音の変装であるはずなのに、第二の晩以降も紗音の生存は確認されている。
【Ep3第一の晩】
“金蔵、源次、紗音、嘉音、郷田、熊沢の6人は死亡している!”とあるが、嘉音は、紗音の変装であるのだから、6人ではなく、5人のはずである。また、マスターキーは“各使用人が1本ずつで5本だ。”ということだが、嘉音は、紗音の変装であるのだから、5本でなく、4本のはずである。
しかも、第一の晩の後、ゲストハウスの1階ロビーに生きている12人全員が集まっていることが戦人視点で確認されており、“古戸ヱリカが登場するタイミング”以降なのに、生者と死者合わせて、金蔵を除いて17人を数えてしまっている。
【Ep4●見たことない女】
戦人は探偵視点で、ベアトリーチェのことを見たことない女として目撃している。しかしその時点で六軒島に存在できる人間は、最大16人までで、嵐が来たら六軒島には出入りできないのだから、そのベアトリーチェは既知の誰かの変装であるはずなのだ。それなのに、戦人はその変装を見破れていない。つまりこれは、“紗音が嘉音に変装している”以外に、戦人が見破れない変装がもう一組存在することになる。
【Ep4嘉音の死】
“嘉音は死亡している。霧江たち5人の中で、一番最初に死亡した。つまりは、9人目の犠牲者というわけだ。”とある。霧江たち5人とは、蔵臼、霧江、南條、紗音、嘉音のことだが、嘉音は、紗音の変装であるので、5人ではなく、4人のはずである。
【Ep6ロジックエラー】
“戦人を救出したのは、間違いなく嘉音本人である。”はずだが、嘉音は、紗音の変装であり、その紗音は“封印時の隣部屋に居たのは、秀吉、譲治、熊沢、紗音、南條である。”として、完全に隣部屋に閉じ込められている。ロジックエラーの謎は、窓の封印を暴かずとも解けるはずなのだが…。
【本人以外の名乗り】
“嘉音の名を名乗ることが出来るのは本人のみ! 異なる人間が名乗ることは出来ない!”
“全ての名は、本人以外には名乗れない!!”
そもそも、これらの赤字がある以上、誰かが誰かに変装してその名を騙ることはできないように見える。変装者と変装対象にあたる人物は絶対に存在するというのが間違いだったのか?
【Ep2 5人の誤認】
“彼らは異なる人物を嘉音と誤認することは絶対にない!”
Ep2において、この彼らとは、南條、源次、紗音、熊沢、郷田のことである。この5人だけは、紗音の変装がどんなに巧みでも、紗音と嘉音を、血のつながった実の姉弟だと思っていても、嘉音ではないと認識していた人物を、嘉音と認識しなおすことはない。でも、嘉音は、紗音の変装であるはずなのに、みんな嘉音として認識していたように見える。
以上の矛盾を全て解消できなければ、“紗音が嘉音に変装している”説は破棄される。
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