脳科学研究センター-脳研究の最前線

脳の研究を総合的に行うべく、脳科学総合研究センタが1997年に設立された。

対メカニズム療法

2024-08-09 09:57:43 | 脳科学
「アルツハイマー病の最大の謎」の項で述べたように、Aβが蓄積して認知症に至るメカニズムは残念ながら解明されていません。この問題が克服されない限りは、アルツハイマー病の完全な予防と治療は不可能でしょう。
現在考えられている主な可能性を示します。「炎症反応」は、おもにマイクログリア(免疫系のマクロファージに相当)等が活性化してラジカル等を産生し、これによって神経細胞が傷害されると考えられています。一方マイクログリアは老人斑などの異常蓄積物を除去する作用があることも指摘されています。したがって、炎症反応が悪玉なのか善玉なのかはっきりしていません。今のところ、抗炎症剤の投与によって病態が際立って改善されることはないようです。
酸化ストレスは、加齢に伴って過酸化脂質などが増加することや前述のマクログリアの活性化によって引き起こされます。最も影響を受けるのは核酸DNAです。加齢に伴って発現の下がる遺伝子は、酸化ストレスに対し脆弱であることが知られています。抗酸化剤としてビタミンEやクルクミン(ウコンの成分)が知られています。発症後の効果は顕著ではないようですが、発症前に長期服用することによって、予防効果が期待されます。抗高脂血症剤であるスタチンや非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)は、疫学的研究や動物実験から、有効性が指摘されています。
タウオパシーについては、過剰リン酸化が原因であるならば、タウタンパク質をリン酸化する酵素を阻害する薬剤が、予防薬・治療薬となることが期待されます。また、近年、神経細胞の変性や死に関与する細胞内プロテアーゼとしてカルパインやカスパーゼが注目されています。これらのプロテアーゼ阻害剤も予防薬・治療薬の候補です。
最後に、Aβの重合凝縮を抑制する目的で、前述のAβワクチン以外に、低分子の凝縮抑制剤が開発されています。これは、Aβの分子間相互作用を高めることによって、重合を抑制したり、いったん重合したものを解離させる作用があります。第三相の臨床試験が行われている化合物がありましたが、2007年八月に失敗が報じられました。


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