これらなかで、βセクレターゼは、新規の膜結合型アスパラギン酸プロテアーゼ BACE‐1であることが報告されました。他のセクレターゼと比較して基質の配列特異性が高いうえに、BACE‐1遺伝子を破壊したノックアウトマウスではAPPのβ部位での切断が完全に消滅することから、薬学的な効果が期待できるとして注目されています。当初、遺伝子ノックアウトマウスに重篤な異常が見られないとされていたことも理由です。実際、多くの基礎研究者が企業研究者がβセクレターゼ阻害剤の合成や探索に取り組んでいます。
しかし、ニューレギュリンという神経調整タンパク質も基調であることがわかり、ノックアウトマウスに末梢の髄鞘形成異常が見いだされました。現在、多くの研究者や製薬企業がBACE‐1阻害剤の探索に取り組んでいますが、長期投与しても副作用のない薬品の開発が望まれます
αセクレターゼの候補とついては、以前からいくつかの可能性があがっていますが、現時点では完全に確定していません。数年以上前から、細胞表面タンパク質 Adam 10およびAdam 9. Adam 17とよばれるプロテアーゼが有力な候補として指摘されています。私の印象では、これは間違いないと思いますが、他の可能性を否定するのが難しいことが大きな理由です。αセクレターゼを活性化するとAβ産生が減少することが知られています。しかし、今のところ顕著にαセクレターゼを活性化することが出来るのはホルボールエステルという発ガンプロモーター(発ガンを促進する物質)だけですから、αセクレターゼから攻めるのは難しいのが現状です。
γセクレターゼは、基質の膜貫通領域を切断する特異なプロテアーゼです。βセクレターゼで切断されたAPP断片に作用して、Aβ40およびAβ42を産生します。その実体は上述のプレセニリンを必須の構成成分とする巨体な分子複合体てあると考えられています。この複合体を構成するタンパク質として、ニカストリン、APH‐1、PEN‐2が知られています。
γセクレターゼは多くの基質が知られています。代表的なものは、神経発生過程に必須のNotchと呼ばれる膜タンパク質です。プレセニリン1のノックアウトでは、Notchのプロセッシンクに異常が生じて胎児致死となっています。したがって、γセクレターゼを阻害することによってAβ産生を抑制するという戦略は、副作用が危惧されます。
しかし、Aβ42産生だけを選択的に抑制するような薬剤(第二世代γセクレターゼ阻害剤)の探索がなされており、このような問題が克服されることが期待されます。