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創家

2005-05-15 00:07:02 | ラーメン店調査 (56~60点)
東京都内の家系にここまでハイレベルな店があるとはいったい誰が想像したであろうか。各地のラーメンを食べ歩いていると、時に、自分の予想を遙かに凌駕する名店に出逢うことがある。そのような時、私はラーメン食べ歩きの深遠を改めて痛感させられるとともに、自らの見識の甘さを猛省することになるのだ。

この「創家」もその中のひとつであった。私はこの店に出逢うまで「六角家」を皮切りに覚えているだけでも「吉村家」「本牧家」「武蔵家」「大山家」「笑の家」「こうや」「おーくら家」「味濱家」「相原家」など何軒かの家系のラーメン屋を巡り歩いてきたが、そのほとんどが確かにそれなりに旨いものの何だか物足りないと感じたものばかりであり「ああ、家系ラーメンってこういうものなんだな」と解ったような気になっていたことは確かである。

しかし、この「創家」によって、そのような家系に対する認識が根底から覆されてしまった。家系ラーメンとはここまで奥が深いものだったのかという感動を噛み締めずにはいられない。まさしく極限にまで旨い家系ラーメン、それがここ「創家」のラーメンなのである。

「創家」はJR中野駅とJR高円寺駅の間を南北に縦断する環状七号線沿いにある。中野よりも高円寺からの方が近いので、高円寺からアクセスした方が便利だろう。JR高円寺駅北口を出て線路沿いの道を中野方面に進むとやがて環七にぶつかるが、そこで左折(野方方面)し、しばらく歩いたところにある環七をまたぐ陸橋を渡ればその袂にある黄色い屋根を頂いた横長の店が「創家」だ。

営業時間は19:00からと遅め。19時から27時までの8時間営業となっているが、私が訪問した20時においても絶えず「創家」の味を求める客が店の門を叩き、かなり繁盛している模様であった。席数はカウンターのみの8席。カウンターからは店主が鬼気迫る様相でラーメンづくりに没頭する姿を間近で拝むことができる。寸胴の中のスープを一心不乱にかき混ぜる店主の姿はまさに、ラーメンづくりに命を捧げているといった感じであり、食べ手としては、このような魂の籠もったラーメンを食べることができる幸せを噛み締めざるを得ない。

私はラーメンに味付玉子をトッピングし、小ライスをサイドメニューとしてオーダーした。麺硬め、味濃いめで注文。

実は、この店、最近店主が「東池袋大勝軒」で半年間修行をしてきたらしく、もりそばは大勝軒直伝のものを作るらしいのだが、都合(スープお休み中とのこと)により2004年3月現在は提供を休止している。もし、もりそばの永続的な提供が可能になれば、ラーメンは家系、もりそばは大勝軒系のものを作る、しかも両方とも超本格派という化け物じみた名店が誕生することになるわけだが、そのような離れ業を現実のものとしつつあるのは、ひとえに店主のラーメンに対する熱意が尋常ならざるものであるからに他ならない。人気に驕り、味の改良を怠っている有名店の店主に爪の垢でも煎じて飲ませたいところである。

出てきたラーメンは、茶褐色の少しゲル状にすらなったスープに、「本牧家」の店主から認められた者でなければ卸してもらえないという酒井製麺の特注太麺が泳いでいる。具は典型的な家系の伝統を踏襲した海苔三枚、ほうれん草、チャーシュー(焼き豚)。

私はそのビジュアルを眺めた瞬間、これはただ者ではないなと直感した。まず、麺の湯切りが徹底的に施されているためか、麺が水で全くふやけていない。スープに麺の水分が混ざることもない芸術的な芸当だ。スープも本場九州博多のトンコツスープも真っ青な程、豚骨が完璧に煮込まれた芯がしっかり通った名品。それに醤油ダレのコクが加わり、醤油と豚骨の2者が互いが互いを排斥することなく相互補完的にひとつの豚骨醤油の世界を形成している。

数多くの豚骨醤油系ラーメンを食べてきた私でも、「ああ、豚骨醤油とはこういう食べ物なのか」と改めてその奥の深さを痛感せずにはいられないほど完璧な作品。それにほどよい案配で鶏油(チーユ)が加わると、もはや私ごときが何ら口を挟むことなどできない超ウルトラ級の旨味を誇るスープが完成する。

実食。まずは、いつものとおりレンゲにスープを掬い一口啜る。ダメだ、旨すぎる。豚骨の円やかさとコクに醤油の旨味が見事な調律で加わった無敵の豚骨醤油スープはもはや敵なしといったところであり、ただただ「まいりました」と頭を下げるほか術はない。前の日の夜に訪問した「相原家」のスープもそれなりに旨かったが、同じ家系であっても全くもって較べものにならない次元を超えた旨さである。酒井製麺製の太麺も、このように使えば100%持ち味を引き出すことができるんだというお手本のようなものであり全くもって欠点は見あたらない。

麺とスープのバランスも最高レベル。二郎系を除く超一流の名店のラーメンに共通する要素として「食べ進めていく内にスープと麺が同時に減っていき最後に同時に空になる」があるが「創家」のラーメンもその例外ではなく、夢中で食べている内にいつのまにか丼を空にしてしまっていた。そもそも、家系でこのような水準の店があることがまさしく驚異的であり、私にとって新たな発見となった。

具のチャーシューは煮豚ではないが臭みが完全に除去された逸品、味付玉子も黄身がスープに溶け出すことを嫌ったのか程良い硬さの半熟玉子であり、家系他店との根本的なレベルの違いを感じさせる。

評価としては麺:15点、スープ:20点、具:4点、バランス:10点、将来性:10点の59点。

豚骨醤油らーめんの可能性を極限まで追究し、このジャンルの最高峰を極めた「家系を超えた家系ラーメン」である。


所在地:高円寺
実食日:2004年3月

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