"とうとう、写したんだ。" そう思うと急に力が抜けて、へなへなと雪の上に座りこんでしまった。
数日後には取材を切り上げる積りでいただけに、この瀬戸際での成功は、何か、危うい拾いものをしたような気持ちであった。
もう一度、レールを見てみる。雪は、今も夕日にまぶしく輝き、レールはにぶい光を放ってはいても、もう、とても、あのような瞬間---動輪の穴がチラチラと踊っていた---はよみがえってはこない。
思いついて、小さな宴を催すことにした。雪の山の上の、たった一人のよろこびは、なんとも寒く、つめたいものであったが、かみしめてみるには充分な、味と香りがした。
三脚で、できるだけ大きな穴をほり、体を半分、沈めた。自製のアルコール ランプをともし、雪を沸かす。米をとぎ、缶詰をあける頃、温い湯気が雪の野に舞う。のどもとをウイスキーと歌が往復し、かじかんだ掌のうちならす手拍子が、寒空に鳴った。
原 元 鉄道写真集 「C62重連」 ニセコ紀行より