天変地異がおさまると、霧の中から女の影が現れました。
影は言いました。
「大いなる掟を破ってしまった私は、もうここへいることができません。どうか私の手をとって、その舟に乗せてください。人間として、お前の妻として、湖のほとりで共に暮らすのです。」
両親は人ではないその姿を恐れ、息子がそのようなものを妻にすることを悲しみました。
しかし、心やさしき青年は、約束を守るためにその手を差し出しました。
女の . . . 本文を読む
青年は急いで岸へ戻ると、両親にそのことを伝えました。
しかし、2人ともその話をまったく信じようとしませんでした。
「私は毎日湖の上にいるようなものだが、そんなものにお目にかかったことは一度もない。どうせお前の夢か幻に違いない。」
「そんな嘘をついてはいけないよ。そんな子供に育てた憶えはない。」
自分の話に一向に耳を傾けようとしない父親と母親に、青年はいてもたってもいられなくなり、思わずテーブルに置 . . . 本文を読む
青年は不安になりましたが、それでも勇気をだして言いました。
「人ではないなにものかよ、貴女がその身を呈して警告するとおっしゃるのなら、私は貴女のものになりましょう。こうして舟を漕ぎ進めたのも、貴女の笑う姿に惹かれたからです。だから、もうそれ以上泣くのはおよしなさい。」
すると、女の影は泣くのをやめて言いました。
「まもなく天変地異が起こるでしょう。大地は大きく揺らぎ、運命の神が空から降りてきて、あ . . . 本文を読む
「美しき湖上の君よ、なぜ貴女はそんなにも心を痛めておられるのですか。」
青年が尋ねると、女の影は言いました。
「私はこの湖を司るもの。お前の親のその親が生まれてくるずっと前から、この湖を守り続けてきたものです。心やさしき青年よ、お前が私のものになると誓うなら、私は大いなる掟を破り、これからお前達にふりかかるであろう災いについて警告いたしましょう。」 . . . 本文を読む
青年は好奇心に駆られるまま、沖のほうへと舟を漕ぎ出しました。
沖へとすすむにつれ、晴れていた空は曇りだし、やがて霧に包まれてなにも見えなくなりました。
青年が目を凝らすと、湖の上に女の影がうかび上がりました。
よく見れば、うかない表情をうかべているその瞳からは、大粒の涙がとめどなくこぼれ落ちているのでした。 . . . 本文を読む
昔々、湖のほとりに、心のやさしい夫婦がすんでおりました。
とても仲のよいその夫婦は、湖の魚を採りながら日々を暮らしておりました。
時は満ちて、2人のあいだにかわいらしい男の子が生まれました。
男の子は大切に育てられ、湖水のように澄んだ瞳をもつ、心やさしき青年へと成長しました。
ある日、青年が湖のそばに腰かけていると、湖面を照らす陽の光が、きらきらと笑いながら彼を誘っているのに気がつきました。 . . . 本文を読む
ところでそれを全部みていた神様が、さっきの悪魔をひきずりだして叱りつけると、なにもかもをすべて元通りにしてやりました。そして男に向かってこう言いました。「やあやあ。さっきは君にかなしい思いをさせてしまって申し訳なかったね。お詫びにひとつおしえてあげよう。この悪魔にも、万物をつくったこの私でさえも、どうにもならないものがある。それは人の心だよ。」
なにもかもが元通りになった今、男は複雑な気持ちで窓の . . . 本文を読む
すると悪魔は言いました。「命だと?私はそんなものには興味がないよ。私がほしいのは、人間の歪んだ感情だ。そして希望を失い、生きる喜びを見出せなくなる姿だ。それが手に入るなら、私はどんな手段も選ばない。我々と契約して大きな力が手に入るなどとうぬぼれている人間どもよ、お前達は我々の策略にも気づかずに、焼けた鉄板の上で踊るのだ!」
そして悪魔は部屋の影となって消えていきました。 . . . 本文を読む
悪魔は立ち上がると、部屋につるしてあった鳥かごを手に取って、おびえる小鳥をつかまえ、床にたたきつけ、踏みつぶしました。その鳥は男にとってたった一人の友達であり、男が唯一心をひらいた存在だったのです。
男は悲しみのあまりその場に立ち尽くしました。そして我にかえると悪魔に向かって叫びました。
「なんてことをしてくれたんだ!私の命を奪えばいいではないか!」 . . . 本文を読む
「すまないが、私はお前と契約した憶えはない。」震える声で男がそう言うと、悪魔は笑ってこう言いました。
「契約は私のほうで勝手にむすばせてもらったよ。私は人間の都合のいいように動く便利な道具ではないのでね。お前の望み通りお前の父親は死んだ。それでは契約の代償をいただこう。」 . . . 本文を読む