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ひょっこり猫が我が道を行く!

カオスなオリジナル小説が増殖中。
雪ウサギが活躍しつつある、ファンタジー色は濃い目。亀スピードで更新中です。

ひょっこり猫で新たな仲間 01

2010年03月03日 12時41分09秒 | 日記

ひょっこり猫のブログ管理人・ラクトは、休養のためにひょっこり猫島にやって来ていました。さあ、今日もゆっくりゴロ寝するぞ~~! と意気込んでいたその時です。。

 【新たな仲間 01】 

「ギャ――――ッ」

「?」

「?」

??「どうしたの、ラクト」

「その声はルビリアナちゃんッ! あのさぁ・・・ ……………………は、はあぁぁ~~~~っ????」

「フフッ、やっと気付いたようね。ラクトったら、気付くの遅いんだから」

 雪ウサギの被り物をかぶったラクトは、テンパッている。
 文章作法の基本でもある、三点リーダ(……←コレ)をふんだんに使っている様子から、心は遥か彼方にぶっ飛んでしまったようだ。
 ちなみに今書いている地の文は、詳しい説明が無いと何の事やらさっぱりな人用に書いてあります。これを書くと、小説風に見え……なくもないですよね? 
 自分の文章上達の願いも込めて、情景描写しました。ではでは続きをどうぞ。。
 
「なっ、なっ、ルビリアナちゃん、一体何があったの? どうしてルビリアナちゃんも雪ウサギなの??」

「ちょっと自作の薬を作って振り撒いたのよ。そしたら、雪ウサギになっちゃった。どう?」

「どうって・・・そりゃ、可愛いけど。・・・瞳の色が紫色なんだねぇ~~」

「ええ、魔族の証だもんねぇ。ラクトとの区別も付きやすいし、バッチグーじゃない??」

「う、うん。で、でさぁ~~、この子達の事なんだけど・・・何か知らない?」

「あ、その子達はねぇ、ラクトの頭に居る子があゆさん。ちなみに私の頭の上に乗っかってるのが玲君よ」

「は、は、はぁ――――――ッ????」

「ひょっこり猫で登場させたかったんでしょ?」

「ちょっ、ちょっとルビリアナちゃん! そんな勝手な事をしないでムギャッ!」

「雪ウサギに変身させたのは良かったんだけど、実はその子達、ここでは言葉を喋れないのよ。まだ生まれたてなのかもね」

「しょ、しょうなの?? あ、あぎゃっ! ちょっとあゆさん、私の耳を引っ張らないでよ――――っ! とんでもないお転婆だなぁ・・・」

「ふふっ、でもこんなに小さかったら可愛いわ。雪ウサギにして良かった」

「もう、勝手なんだから・・・」

「あゆさんと玲君、やっぱり人間だからあんまり好きになれなくて。悪いなぁって思ってたのよ。
 ・・・でもこの子達なら、ウンと可愛がるわ! ねっ、ラクト」

「むぎゃっ、むごっ、・・・う、うむ。そうだね。お転婆だけど、やっぱり可愛いや。よし、ひょっこり猫で面倒見て行くか!!」

「ラクトはそうでなくちゃ! さっ、ちょっとひょっこり猫内で遊びましょ

「「オーーッ!!」」


さてさて、どうなる事やら。。
続くかどうかは、ラクト次第です。。
(てか、あゆさんと玲君を勝手に出してゴメンナサイ。。)




026 旅は道連れ、世は情け―5―

2010年03月02日 16時19分06秒 | 小説作業編集用カテゴリ

 本当はポネリーアに住んでみたかった。でも魔族が住むデルモントにも興味が無いとは言い切れなくて、ルビリアナさんの執拗な誘いにより、ついうんと返事を返してしまった。その途端、彼女の紫色の瞳は狂喜の色を纏い、強いて言えば大輪の薔薇がほころぶ様な笑顔を表現してくれたんだ。・・・年相応の喜ぶ姿に、この人の本当の顔は一体どれなんだろうと疑問に思う。

「さっ、もうここには用が無いわっ♪」

 ヒョイッと片手で私の体を持ち上げられ、ガウラの近くに寄り意識を集中させる。異常な魔力の高ぶりに、二人の魔族は慌てだした。

「まさかと思うけどルビ姉、俺らを置いて帰るなんて事は――」
「モチのロンッ!可愛い弟とその友1を置いて行くのは、非常に心苦しいトコなんだけどもね〜〜」
「可愛い弟・・・初めて言われましたね」
「その友1・・・」

 私の触り心地を確かめながら、白い体に頬ずりしてくる。自然に伸びる手が、自らのキュロットのポケットに突っ込む。手に掴んだ物がチャリンと音を鳴らし、一瞬だけ王様とエヴァディスさんに見せたかと思うと、勢い良くハーティスさんに放り投げた。

「「「!!」」」

 パシッと右手に掴んだ鍵を暫く検分して、眉を顰めたハーティスさんがルビリアナさんに問い掛けた。

「これは、もしやこの牢獄の鍵? どうしてこの牢屋の鍵を姉上が?」

 王様とエヴァディスさんが驚愕する。何故ならハーティスさんに投げられた物体は、なんとこの絶魔の牢獄の鍵だったからだ。

「ふっふん♪内通者がいるからよん。さて、この牢獄を知っている人物で、尚且つ鍵の存在を知っている者とは誰でしょう!」

 金の瞳を見開く。
 知ってるヒト? 
 ルビリアナさんに通じてる人なんて・・・?

「チュウ(悪いな、猫の嬢ちゃん、ガウラのおっさん・・・)」
「ニャ、ニャアア(えっ、ハンス?)」

 灰色ネズミのハンスが、私の頭に乗っかりながら謝る。えっ、まさか内通者ってハンスが?! 

「ハンス、お前・・・!」

 ギリッと歯を食いしばるガウラ。友達だと思っていたのに、裏切ったと思ったのかもしれない。
 睨みつけられたハンスは、少しばかりしょげている。

「レプリカを作るのなんて造作も無い事よ。本物があればね・・・ハンスは私の使い魔だから、王宮の鍵を簡単に持ち運び出来たのよ? こんな感じにね」

 右手で自らの胸元に手を突っ込み、中から沢山の部屋の鍵をそれぞれの指の間に挟んで見せる。色んな形の鍵がある。もしかして、この王宮の全ての鍵をルビリアナさんは模したの?  

 沢山の鍵を見せつけられ、エヴァディスさんもライさんも驚きに声が出ないみたいだ。
 絶魔の牢獄の鍵を作れるんだ。だったら閉じ込められていた牢屋から脱獄するのもお手のものなんだろう。

「デルモントに帰還する。クロウ家の名の許に門よ開け・・・」
「エヴァディス!!」
「御意!」

 ガキィッと剣とメイスのぶつかる音がする。
 私を持つ手とは反対の左手で、エヴァディスさんの振り落としを難なく防ぐ辺り、彼女は凄く力持ちだと推定できた。

「お前達が牢獄に現れた時点で、誰がここから逃がすと思う? ライウッド、魔族とリオ、守護獣ガウラを捕縛しろ」
「は、はいっ!」

 ルビリアナさんが身動き出来ない内に、王様が下した捕縛命令で、ライさんが私達に近づいて縄で縛りつけようとした時、彼女の形の良い唇は最後まで言葉を発する事に成功した。

「――ダークゲート!!――」

 ゴウッ!!

「わぁっ!」
「クッ!」

 私達を取り囲む黒い靄(もや)が現れて、男性二人を思いきり壁側に弾き飛ばす。
 その黒い靄の中から姿を現したのは、私の世界のタロットカードでお馴染みの黒山羊の悪魔、バフォメットが現れた。

「グオオオオオッッ!!」 

「ニャ、ニャァアァアァッ((とんでもないの出て来たぁ!!))」 
「チュウウウウッ((バフォのおっさんが出たぁーー!!))」
「リオ!」

 咆哮一つに部屋の中が激しくビリビリ響く。
 その激しさに鉄の棒も振動し、落ちそうになった所をハンス共々、ガウラに咄嗟に助けて貰った。ハンスはおずおずと居た堪れない動作をしてたけど、どうやらガウラはハンスを許したみたいだ。

 黒山羊の頭からは二本の角と、額には五芒星の痣。血走る目に、口からは悪臭のする激しい息使い、体中の筋肉が隆々し、背中には黒い大きな翼。二メートルは越えるその姿に、一同息を呑む。

「邪魔しないでね? んじゃバフォちゃん、行こっか♪」

 返事する変わりに、涎を垂れ流す口から長い下を出し、ベロリとルビリアナさんの上半身を丹念に舐め上げる。そのギラつき欲望にたぎる目は、女であるルビリアナさんを欲する雄の目と化し、既にエヴァディスさんやライさんを視界に留めては居なかった。

 愛撫とも見える熱の籠った行為に別段特に気にもしないで、徐々に靄の中へ引き込まれて行く。

「じゃーね、ハーティス、ゼル。ちゃんと生きて帰ってくるのよーー」
「最後まで助けろよっ、ルビ姉のケチッ!!」
「あんな薄情な姉を持つ私が、一番の不幸者ですよね・・・」

 私達をデルモントへ移動させるのに邪魔されない様、腕力のあるバフォメットが立ち塞ぎつつ、ガウラとハンスと共に黒い靄の中へ取り込まれて行く。メイスを持つ左手で左右に振り、ルビリアナさんを含めた私達の姿は、完全に牢獄内から居なくなった。 

 *******

 見渡すは小宇宙の如く、星々が煌めく空間に私達は浮かんでいた。

「ニャ、ニャア?(ここは・・・)」 

 ・・・酔いそうだ。天地もクソもあったもんじゃ無い。吐き気がするぅぅ。

「フフッ、リオちゃんは初めてだよね、デルモントを繋ぐ地底トンネルは?」 
「地底トンネル?」

 ガウラに抱き込まれた状態で、この場を見渡す。赤色、黄色、水色に光る星は、満天の夜空の中に私達が入っているみたいだ。こういうの、私達の世界で言うプラネタリウムにそっくり。
 黒山羊の悪魔、バフォメットに横抱きされてるルビリアナさんは、クスリと笑って一緒に眺める。

「デルモントとファインシャートを繋ぐ地底トンネル、“底の知れない深い穴、(アビスロード)”と私達魔族はそう呼んでるわ」 
「ニャア(アビスロード?)」
「ここはまだデルモントじゃないから、暗闇をこうして星が照らしてくれてるの。でも太陽が無いと、星が輝く事は無い・・・デルモントには太陽が無いから、星を眺める事も出来ないのよ?」 

 不条理よね? と力無く訴えるルビリアナさんは、さっき迄のハツラツさが無い。
 太陽が無いと、私達人間は生きる事等無理に等しいのは良く分かる。彼女もきっとその事で悩んでいるのかもしれない。だからって、それが人を殺しても良いとは決して言えないが・・・

「リオちゃん、あの光を超えた先が私達の住む“デルモント”よ」 
「ニャニャッ!(おおっ、魔族の住む世界?)」

 ファインシャートの世界では、ディッセントの王宮とその首都であるポネリーアしか見れなかった。しかもポネリーアは焦げ跡と崩れた瓦礫が多かったせいか、よく分からなくて特徴も掴めなかった。ある意味残念だったんだけど・・・

「ニャ?(あ、あれは!!)」
「デルモントの入口を守る番人、ケルベロスよ。私やバフォちゃんが居れば、絶対に襲わないわ。勿論リオちゃんもね」

 そう言われて、ケルちゃんにガウラ共々匂いを嗅がれる。三匹それぞれ顔を近付かれて、ベロリと舐め上げられた。

 ・・・ファインシャートよりもファンタジー過ぎだろ。
 だって頭が三つもあるんだよ!尻尾をブンブン振り回すその仕草は可愛い犬と変わらないが、如何(いかん)せんどうにも巨大すぎる。三つも頭があるから、どの頭で舐めるか喧嘩してるし、そんなバフォちゃんとケルちゃんと共に、ルビリアナさんは全身を舐め倒されていた。

 暫く全身を涎で汚されたルビリアナさんが、改めて私達に向き直し丁寧にお辞儀する。 
 鉄で出来た巨大な門の隙間から紫色の光が溢れ出し、逆光によって彼女の顔がよく見えない。それでも気品溢れる声が私の耳に届き、ガウラと共に現実味の無い世界からの歓迎を受けた。

「太陽の無い、闇に支配された眠れぬ町不夜城、“デルモント”にようこそ。異世界の覇者リオ、その守護獣ガウラ。ルビリアナ・レット・クロウは貴方達を歓迎します」
「ニャ、ニャアアッ(わ、わあああっ)」
「凄い量の紫色だな――こっちの世界は常に魔力で灯しているのか?」

 アビスロード(底の知れない深い穴)とデルモントを繋ぐ、出入口らしき巨大な門をルビリアナさんの魔力で押し開き、小高い丘を下りながら全貌を眺める。
 
 一面の闇夜には、ドラゴンらしき飛竜が何匹も優雅に飛び交う。
 眼下に広がるばかりの紫色や群青色の光。
 紺色の、暗い夜の海には全身は魚だけど、手足が付いている半漁人。
 石で出来た四角い建物や三角の屋根には、鶏の代わりに複数のコカトリス。コケコケッと鳴いて、歌でも口ずさんでいるんだろうか?

「ニャアアアッ(何だか楽しそうだね)」 
「ああ、違う種類の魔物が仲違いする事無く住むなんて、ファインシャートでは見ない風景だ」

 ガウラにしがみ付き、優しく背を撫でられる。
 カイナの種族同士では、ガウラを取り戻しに襲撃する位だから仲は良いと思うんだけど。

「貴方達を魔族の王ファランティクス様と、その息子である第一王子ソルトス殿下に紹介したいわ。さあ、行きましょう」
「ニャ!(う、うん!)」
「リオ、城に着いたらオレと二人で愛の巣を早速作ろうな」
「チュウウウッ(頼むから、二人してオイラの事も忘れるなよっ)」

 ハンスを私の頭に乗っけて一同、魔力で照らされた鉱石が夜道を照らす、天まで届くお城へ向かいだす―――

 <第一部、ファインシャート編 完>
 
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025 旅は道連れ、世は情け―4―

2010年03月02日 16時12分33秒 | 小説作業編集用カテゴリ

 牢獄の中は、新たな人物の登場により戸惑いを隠せない状況に陥っていた。
 ガウラを閉じ込めた商人が単身“絶魔の牢獄”まで乗り込み、手土産という人の体の一部分を持ち込んで、挙句に自らの顔の皮を剥いで変身まで遂げたからだ。

 紫の瞳と長く尖った耳、血でベッタリと付着した手と顔を除けば、何処にでも居る女の人だと疑う事は無い。いや、誰も彼女の“変装”を見破る事なんか出来なかった。イルさんの変装を見破るエヴァディスさんや、この国の王様さえ、彼女の奇行に目を見開き絶句している顔がそれを裏付ける証拠だ。

 先程商人スタイルだった、ストライプの柄模様の服を雑に脱ぎ捨てて言い捲る。

「はああっ・・・肩凝るわ、蒸せるわで、ホント散々っ! 変装するにしても相手を選ばなきゃ駄目よねぇ。おっさんの服は臭いし汚いし、気が遠くなりそう・・・」

 次は可愛い女の子に変装したいと呟きながら、持参した布で両手の血液を拭いている。
 自らの凝り固まった肩を拳で軽く叩く当たり、どうしても凄惨な凶行を行った女の人には見えない。
 見掛けはフリージアちゃんより少し上くらいかな?と思うんだけど。
 牢獄内が静まった事により、魔族のお姉さんは姿勢を正して私達に微笑んだ。

「あっ、商人の時は確か自己紹介してなかったよね。では、改めて・・・」

 コホンと咳払いして次に口を開きかけた時、プラチナの切っ先が音も無く彼女を捉える。エヴァディスさんの威嚇を物ともしない態度で、真っ直ぐ前を見て一言。

「私の名前はルビリアナ・レット・クロウと申します。そこの牢屋に入っている、ハーティス・レット・クロウ、長髪愚弟の姉で御座います。以後、お見知り置きを――」
「うげぇっ、ルビ姉が何でここに・・・!!」
「全く。・・・愚弟だなどと、姉上はっ!」

 うろたえるゼルさんと、手を顔に当て押し黙るハーティスさんを見て、口元に手を当てながらオホホと淑やかに笑いだす魔族のお姉さん。私は二人を見比べて、また一癖二癖ある人物が出て来たなと思わずにはいられなかった。

***

 商人改め、ルビリアナさんの登場で私達獣と三人の人間、二人の魔族は一斉に彼女に質問攻めしていた。それを予想していた彼女は沢山の質問を鬱陶しがる事もなく、丁寧に対処していく。

「まず、お前が商人に成り変わった人物はどうした?」
「ポネリーアに入る前に殺しちゃった」

 二人の魔族の内の一人、ハーティスさんのお姉さんと言う事で、休戦を宣告した王様が尋問する事に。もちろん二人の魔族も同様に頷き、その休戦を受け入れたと見える。牢屋からは出ないままで、彼らも座って話を聞く事になった。
 ガウラとライさんは、恨みの籠った目で彼女を睨みつけ、渋々ながら大人しくする事をエヴァディスさんに約束させられた。それから彼女への質疑応答を始める。

「ファインシャートで“覇者の降臨”のお祭りがあるって聞いて、デルモントから遥々(はるばる)急いで異空間飛んで来たの! でもポネリーアには結界張ってあるでしょ? だから殺っても良さそうな人間に目星付けて、背後から襲っちゃった☆」

 てへへっ、と悪びれも無く王様の問いに答えるルビリアナさん。
 腰に括りつけた部分から、菱形の突起が特徴の重そうなメイスを取り出して、片手に持ち肩を軽快に叩いている。
 私が人間の時に重宝してたのは木製の孫の手だ。重量のある金属を軽々と扱う彼女はやっぱり人間じゃ無い。

「“魔石”を用いた催しもお前が企てた事なのか?」
「そうね。成り変ったのは港町に入る前だったしぃー、まぁ “カイナ”の彼には悪い事しちゃったわ。本当は催しなんてする必要も無かったんだものね。でも私が行わない事には、折角の変装も不審がられちゃうでしょ?」

 牢屋の中から王様が彼女に尋問して、一つ一つ答えを確かめている。冷たい床に座りながら、私達は彼女の話を聞いて行く。悪びれも無い彼女に対し、ガウラの地の底から這うような声が響いた。
 
「お前が“魔石”を作らなければ、オレは王宮に閉じ込められる事も無かったし、仲間をディッセント国に襲撃させる危険も無かったんだ」
「“魔石”の存在が在る無しに関わらず、遅かれ早かれ貴方は本物の商人によって王宮に閉じ込められてたわ。足を怪我したカイナを間近で見れるのは貴重だとね。――私はそれを利用しただけよ」

 ガウラの問いに素早く切り返した紫の瞳に、澱(よど)みが見える。
 腰まである黒い髪を耳の下で二つに括り、その色とは間逆の上下白い服を着た紫色の瞳のルビリアナさん。背にある黒い翼をはためかせ、太腿までのキュロットからスマートな脚を組み一言。

「私は元々人間は嫌いだし。貴方を連れ戻しにカイナ達がこの国を襲撃すれば、人間を無差別に殺戮出来るとも思ったわ。・・・尤(もっと)も、それは全て失敗に終わったけどね」

 チラリとコッチを見る魔族のお姉さんに、私は背筋が寒くなりガウラにしがみ付く。すると吐き気を抑えたライさんが口を開き、抑揚のない声で喋り出す。

「ウルド・・・牢番の兵士を殺さなくても良かったんじゃないか?あいつの体をバラしてお土産だなんて、あんたの神経を疑うね・・・」

 その言葉を聞き、ルビリアナさんの紫の瞳は一層澱みを深くして、ライさんを睨み返す。近付いて彼の顎を掴み上げ、間近で捲し立てた。

「そうかしら?戦死した敵国の兵士、王族の首や死体を曝し者にして、城壁に飾ったりする人間共の神経とは如何ほどかしら? 略奪や女を慰み物にする、人とも思わないその行為に私達魔族と人間の違いって奴を、ぜひ貴方の持論とやらで説明して欲しいのだけど?」
 
 ここでの世界でも、見せしめに曝す行為があると言う事を、お姉さんは淡々と喋る。反対に言葉で言い負かされたライさんは、それ以上何も云わずに黙り込む。話し終えたお姉さんは手を離して、満足気に壁にもたれた。

 心無い狂戦士によって国や領土を奪われた敗者の末路とは、彼女が言う通りなんだ。ぐうの音も出ないライさんは、悔しそうに床をただ見つめるだけだった・・・

 一通り話を終わらせ、タイミングを見計らったゼルさんが我慢出来ずに文句を垂れた。鉄の棒を握りしめ、今にも聞きたそうにうずうずしている。

「こっちに来るってのを、何で俺達にまで内緒にするんだよ? わざわざ変装までして、ルビ姉は何か目的でもあったのか?」
「ゼル、姉上を調子付けてはいけな「よくぞ聞いてくれたわねっ」・・・ブフッ!!」

 ルビリアナさんが持って来た、どす黒く変色した袋から片手で軽々掴み上げる。勢い良く投げられた斧の柄がハーティスさんの顔に直撃して、彼は会話を強制終了させられた。

「“パンナロット”を使役する事ができ、尚且つ獣達を屈服する事が出来る“異世界の覇者”を、是非デルモントへ連れて帰ろうと思ってね! うん、これが目的なのよ」
「ニャニャ!!(ええっ、ここで私かよ!!)」
「リオはオレのだ。リオが行くならオレも行く」

 それ迄、ガウラに優しく背を撫でられて少しウトウトしていた矢先、なんと矛先がこちらに向いて来た。
 ちょっと、何でこのお姉さんは無茶な事を言うのかな?

「さっきからもう我慢出来なかったのよっ。毛並みの良い白い毛、クリクリのつぶらな瞳、左右に動くシッポ、柔らかそうな体・・・おっと、言い出したら切りがないわね」

 ジュルリと涎を流すルビリアナさん。な、なんか獣の本能が逃げろと訴えてくるのはナゼ?ブルブル震えだすと、ガウラが一言。

「リオとの愛の巣を造る為の家を用意できるのか?それが第一条件だ」
「勿論あるわっ!こっちはデルモントのお城に住み込める許可を取ってあるもの!朝昼晩の三食付きに水浴び場でだってヤリタイ放題だし、それに“覇者限定、デルモント永久フリーパス”だって強奪したんだから、損はさせないわ!!」

“ヤリタイ放題”に過剰反応するガウラ。卑猥な意味は無い・・・と信じたい。強奪・・・一体誰が犠牲になったんだろう? お姉さんは凄いよ、ガウラと一緒になって打ち所のない会話で緻密に計算してるんだから。
 二人で暴走してどうすんの? フリーパスって・・・遊園地じゃないんだから! 突っ込み所満載だよ。

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024 旅は道連れ、世は情け―3―

2010年03月02日 16時02分02秒 | 小説作業編集用カテゴリ
残酷な表現があります。苦手な人は読まないで下さい。












 体は至って無傷、全身黒色で統一した服だけがボロボロの状態の王様。
 唐突に提案した“殺り合い”について、随分と自分達に分が悪いと解釈した二人の魔族は顔を歪めて憤る。
 エヴァディスさんを含めた私達は牢屋の外で、彼ら三人の攻防を身動き出来ずに眺める事しか出来なかった。

「俺達をこんな所に閉じ込めて、何企んでんだっ」
 
 王様が持つ長剣と、魔族が持つ二つのナイフが激しく衝突して火花が散る。

「企む? 考えた事など無いが、まず殺す前に聞かなくてはならない事があったな。私とした事が、すっかり失念していた」
 
 先手を取り、赤い瞳の魔族ゼルカナンダは手にした二本のナイフで斬り掛かる。
 軌道を視界に留めている王様は、やはり難なく剣で弾いている。手に持つブロードソードで大きく横に振り払い、後ろに引かせるとその隙を付いて、一気に壁際まで追い込んだ。 

ギンギンギンッ!!

「クッ!」 

ガキッ!!

「剣技に関しては私の方が一枚上手の様だな。もうお終いか?」
「確かにゼルは押されてますね、ですがここには私もいるのです。忘れて貰っては困りますね」
 
 壁に追い込み身動きできない状態まで追い込んだが、ゼルカナンダと対峙している王様の背後にハーティスが立ち、手に持つロッドを王様の肩越しに突き付けた。「バチッ」と音がするかと思うと、素早く二人の魔族から離れる。

「チッ、後少しだったのに・・・!」
「追い込まれていたのはどこのどなたです? ゼルはもうちょっと頭を使った攻撃を覚えてください。馬鹿の一つ覚えじゃあるまいし」
「ばっ、馬鹿じゃねーよっ!」

 ハーティスの嫌味にも取れる台詞(せりふ)を吐き出した後、王様は喋り出す。

「世界共通語の“ハヌマ語”を話す事が出来る翻訳機能、あれはお前達魔族の持つ魔力を凝縮して詰め込んだ“魔石”だ。最近ファインシャートに持ち込んだか聞きたいのだが?」
「“魔石”ぃ?そんなん知るわけ「“魔石”は私達が作る事は確かに出来ますが、貴方の言う石については私達の存外知らぬ事です」・・・ハーティスッ!」

 紅い瞳のゼルカナンダの話を遮り、変わりに答えた黒髪の長髪ハーティスは何も知らないと豪語する。紫の瞳に真実を語るかを判断した王様は眉を顰め、質問を続けた。

「では、港町ポネリーアを襲った、同格の上級魔族はお前達だけなのか。何らかの方法で町に侵入し、魔術師を殺め結界を解除した魔族はお前達二人の内のどちらだ?」 
「・・・」
「どうした、何故答えない」

 この質問に対して、二人の魔族は答えを渋った。ハーティスは何かを考え、逆にゼルカナンダはその答えに戸惑いを持つ。

「ハーティス、お前は何かを知っているんじゃないのか? 俺達の他にも魔族が居るって・・・」

 紅い瞳を見開きながら、隣に居る白い貴族風のシャツを中に着て、黒いロングコートを纏った魔族を見る。ゼルカナンダの疑問に、ハーティスは忌々しげに口を開いた。

「私達の他にも、この国に潜入した魔族が居ると言う事ですね。しかも、独自で暗躍しているみたいですが。・・・おかしいとは思ったんですよ。この国の結界をさあ壊そうと行動に移す時、既に魔術師は事切れ、結界は解除された後だったんですから」
「なっ、どこかオカシイとは思わなかったのかよ!」
「おかしいとは言いましたよ?でもゼルは微塵にも取らなかったじゃないですか。確か『ラッキーだったな!』で済ませましたよね?」
「ぐっ・・・!」

 気付いていたならもっと詳しく教えて欲しかったと、友でもあるハーティスに文句を述べて不貞腐れる。知らなかった事実を他人なんかに、しかも人間に教えられるなんて、自分の馬鹿さ加減に拍車を掛けたも同然だ。

「何であれ、国の結界を壊す手間が省け、楽に潜入出来たんです。この混乱に乗じて中に入ってしまえばいいかと思ったんですよ」
「・・・罠だったらどうすんだよっ」
 
 チッと舌打ちするゼルカナンダを宥(なだ)め、それにと続けるハーティスに、

「たとえ我らに歯向かう上級魔族だろうと、力でねじ伏せれば良いだけですからね」

「―――そんな事無理ですよ?」

 ハーティスの“ねじ伏せる”宣言を、思い気り否定する声が此処に居る全ての者の耳に届く。牢屋の外側、牢獄の入口方面から静かに、しかしハッキリと響き渡る声が聴こえる。 
 カツカツと、軽やかな足取りで近付いて来たのは・・・

「お前――!!」
「ニャ、ニャアアッ(あっ、貴方は!)」
「ガウラ殿、リオ殿、こ奴を知っておられるのか?」

 エヴァディスさん、ライさんが私達の前に来てそれぞれ剣を抜き、切っ先を人に向ける。剣を向けられた人物は、それでも足を進める事を止めない。

 ガウラの琥珀色の瞳が限界まで見開く。
 私を抱く力は何時もよりか力強い。
 手の平には汗が噴き出ていた。
 
「王族・貴族の皆様、ご機嫌麗しゅう御座います。今宵のパーティに私が参加できる事、大変に恐縮の思いです」

 笑顔を貼り付け、こちら側を視界に留めるその姿。
 道化を装い、媚びへつらう表情の人物に私とガウラ、ハンスは目を疑った。

「ニャ、ニャアア(あの時の、商人さん――?)」

 彼を、ガウラを傷付けるのはもう止めて。
  

 ****

 王様が居る牢屋の中では依然と緊迫した状態が続く中、鉄の棒で隔てたこちら側では、新たな直面に瀕していた。
 怪我したガウラを牢屋に閉じ込め、宴と言う場所で彼を笑い物にし、カイナの群れから離した事で、ディッセント国を危機に乏しめた張本人が今ここにいるからである。
 グルル・・・と唸るガウラは、琥珀の瞳に烈火を灯し、今にも跳びかからんばかりだ。

「ニャア、ニャアアッ(ガウラ、お願いだから心を静めて・・・)」
「!・・・リオ、済まない。お前が止めてくれなかったら、今頃奴に突っ掛かっていた」

 有難うと頬にキスされ、背を撫でられる。照れていると、エヴァディスさんとライさんがコホンと咳払い。もう少しでいつものガウラの愛の告白が始まる所だった。周りに居る二人もその事を知って、KY<空気読めない>ガウラに釘を刺してくれたんだろう。示し合わされた行動にガウラも舌打ちしていた。
 すると異様な事態を察知した王様が、剣を手に握ったまま商人風の男の人に尋ねた。

「お前を警備していた牢番の兵士は如何(どう)した?」
「ええ、皆様にお土産をと思いまして、こんなの御用意させて頂きました。気に入ってくれると嬉しいです!」

 どうぞと袋の中から取り出したのは、生暖かい鮮血がポタポタ流れ落ちる、人間の腕だった――

「ニャッ!(ヒャァッ!)」
「リオ、見るな!」
「お前、何て事を・・・!」
 
 ガウラの胸に抱き込まれるようにして視界を遮られる。
 ライさんは剣を持つ反対の手で吐き気を抑え、エヴァディスさんは更に警戒心を強める。金の瞳に映るヒトの腕。じゃあ、持ち主は――?

「アレ、気に入ってくれませんでした? じゃあコレなら如何(いかが)です?」
 
 白色の袋は完全にどす黒く変色し、入口から床に、紅い染みを点々と続かせている。
 気に入られなかったと判断した、“ヒトの腕”を悪ぶれも無く袋にポイッと戻す。 
 片手で持つには些(いささ)か不便だと思ったのか、床にドスッと落とし、今度は両手で“ある物”をヨイショと掬(すく)い上げた。

「どうぞ、お気に召して頂けました?」
「・・・!!」 
「!!グゥッッ」
「ウルド・・・?貴様が殺したのか・・・」

 漂う臭気と悲惨な状態に、遂に耐え切れなくなったライさんは、隅に移動して吐き出した。
 エヴァディスさんは、“ウルド”という兵士の名前を出して、剣を持つ手に力を入れる。
 首から上を鋭利な刃物で、戸惑いも無く切り落とされた人間の生首――。少し時間が経っているのか、顔色は青白く変色している。それを覗き見た二人の魔族は、感心していた。

「ヒュウ〜、やるね。俺もあれくらい頑張んなきゃな!!」
「ゼル、我らがアレの何処を真似る必要があるのです?あれ位朝飯前じゃないですか」

二人の会話を耳にした王様は、焦げ茶の瞳を険しくさせて黙らせる。この異様な事態に、牢屋の中では一時休戦したみたいだ。

「あれ・・・、コレもお気に召さない? でも大丈夫です。私の“とっておき”は、まだありますからね!」

 すくっと立ち上がり、大量の血液の付いた両手で自分の顔をベリベリ剥がし出す。
 グチャッと精巧な作りの顔の皮が全部剥がれ落ちた時、目の前には知らない人物。

「どうです、お気に召して頂けましたか?これが今日一番の“とっておき”なんですよ!」

 黒い髪を二つに括り、可愛く首を傾ける紫の瞳のお姉さんが立っていた――

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023 旅は道連れ、世は情け―2―

2010年03月02日 15時42分49秒 | 小説作業編集用カテゴリ

「ニャ?(ハンス、一体どうしたの?)」
「チュウウッ(見て驚くなよっ、コレが仕掛けとなって・・・っと!!)」

 灰色ネズミのハンスを近衛騎士ライさんに自己紹介した後、私達は謁見の間にある玉座を丸く囲んでうろついていた。
 玉座の後ろにハンスがチョロチョロと走り、イスの背中部分に隠された突起物目掛け、自分の手で押してみる。「ポチッ」と音がするかと思うと、下部に位置する人間が国王を敬い窺うであろう場所の、広い面積の床が反応して少しづつ横にずれ出した。

 ズズズ・・・ン・・・!

「・・・」 
「チュウ、チュウ!!(やりぃ!やっぱりコレが入口のスイッチだったんだ!!)」
「ニャア、ニャア(良かったね!)」
「驚いたな、こんな人の目に触れそうで触れられない場所に階段を設置してるとは」

 絶句しているライさんの背中を猫の手で押しやると、獣と人間を合わせた四人一同は、薄暗い階段を下りだす。

 階段に入った後、自動的に床が動いて出入り口を塞がれた。その近辺を探ると壁側にボタンがある。多分これが開閉するための仕掛けなんだろう。
 暗闇の中、光を灯す魔法「アースホール」を唱えて貰い、地下階段を下る獣と人間はやや疲れ気味のライさんに、聞きたがっている事を少しずつ説明しながら進みだす。
 人間が四人くらい並んでも余裕がある階段自体は、特に何の仕掛けも無く、壁に手をやり歩けば転げ落ちる事もない。石造りの頑強な壁が、ひび割れ等も無く何メートル先も続いていた。

「何から説明を求めたら良いのか、自分でも理解に苦しむよ・・・」 
「ハンスが言うには、これから“絶魔の牢獄”という場所で魔族を見る事が出来ると言って来たんだ。だからオレとリオも、聞いた事しか知らない」 
「謁見の間に、しかも玉座の後ろなんて誰も触れないボタンなんか、陛下にしか触る事しか出来ない! ・・・誰の目にも触れさせない様に造られた階段なんて、かなり極秘とされている物か、情報を最深部に隠しているに決まってる!!」

 いつもの能天気さは無く声を荒げるライさんに、私達は仰天した。
 ライさんの肩に乗っかってるハンスは、今にもずれ落ちそうだ。先頭を歩くいつもと様子が違うライさんに、恐る恐る声を掛ける。

「ニャ、ニャア(ラ、ライさん・・・?)」
「僕が探っている事を、もし陛下に知られたら降格どころじゃ済まない。殺されるかもしれないよ・・・」
「幾らなんでも悪い方に考えすぎじゃないか? あの国王がそんな事でお前を罰する事など考え付かないが・・・」
「陛下は優しいよ、“普段”はね。でも怒らせるとエヴァディス宰相より怖いんだ」

 下を俯き、ポツリポツリと呟くライさん。
 王様の“怖い”様子・・・出来れば私だって見たくない。いかにもその形相を見た事があると、疑わせるような物の言い用に過去に何かがあったのだろうか。

「・・・乗り掛かった船だ。その“牢獄”とやらに、最後迄付き合うよ」 

 顔を上げ、覚悟を決めたライさんは真っ直ぐに前を睨み付ける。大丈夫だライさん、私達獣三匹が味方するよ!!うん、善処する・・・と思う。

 階段を全て降り、そんなに長く無い距離を歩くと最深部らしき場所に辿り着いた。
 閉ざされた扉は少し錆びついてるが、頑強に出来た分厚い造りに一同固唾を飲む。この中に何があるのか、やっぱり皆気になるようだ。

「・・・引き返すなら今の内だけど、皆良いかい?」
「ニャ、ニャアアッ(も、勿論でゴザイまする!!)」
「チュウ、チュウウ(オ、オイラもっ!男に異論は無い!!)」
「オレ達皆この先の“牢獄”とやらに興味があるんだ。今更引き返す事なんか出来ない。危険な事があったとしても、リオだけは命を懸けて守り通す」

 喉を優しく撫でられて、頬ずりしてくるガウラ。嬉しいけど、出来れば自分の命も大切にして欲しい。心配して見上げると大丈夫だと諭された。
 それを聞いたハンスは「オイラはっ?」と慌てて聞き返し、余裕があればお前も守ると答えを返すガウラだった。


 ****

 ライさんが取っ手を握り、鈍い音を立てて扉は中へと開き出す。
 開けた先は、縦に細長く道が伸びており左右に三つ、計六部屋の鉄の棒を取り付けられた牢屋が造られていた。区切られた壁にそれぞれランプが灯され、中の様子がよく分かる。私達は一歩一歩確かめる様に進みだした。

 一番奥の部屋の牢屋に辿り着くと、左側の牢屋によく見知った人物二人が牢屋の中に佇んでいた。
 王様と宰相エヴァディスさんだ。
 エヴァディスさんは昼間見た時と同じ上下白い服装で、逆に王様は煌びやかさを一切失くした、上下真っ黒い、動きやすさを重視した服を着込んでいた。昨日、今日と傍に居た王様の守護獣ディルは、今は何処にも居ない。もう帰っちゃったのだろうか?

「ニャ、ニャアアアッ(王様!!)」
「ん? リオか、どうやって此処まで来た?・・・守護獣ガウラ、近衛騎士ライウッド、肩の上に鼠まで乗っけて、こんな夜更けにどこかに遊びにでも行くのか」

 私達の方を振り向く王様の顔は、いつもと変わらぬ飄々(ひょうひょう)とした顔だ。
 だけど、何時もは鞭しか持って無いのに、今日は腰に剣まで所持している。言うなれば、何処か違和感を拭えない。

「・・・っすみません陛下!僕、隠し階段を見て、どうしてもその先を見たくてここまで来てしまったんです」
「その事についてはオレ達が悪いんだ。嫌がるライウッドに無理矢理ついて来て貰った。
責任は「だから何だ?」・・・!」

 牢を隔てた内側に居る王様に跪き頭を下げ、許しを乞うライさんは物凄く震えている。
 ライさんをフォローし、ガウラの発言を遮る王様は見掛けはいつも通り。なのに目もとや迫力が今迄と全然違うんだ・・・この感じは、私と初めて会った時と少し似ている? 

「陛下、ご無礼を承知の上で私からもお願い申し上げます。
“フリージア姫”の専属近衛騎士に免じて、どうかライウッドの処罰を不問にして頂きたい!」

 それまで動きが無かったエヴァディスさんが、ライさんに倣(なら)って片膝をつく。
 フリージアちゃんの名前が出ると、王様の眉がピクリと動き溜息を吐いた。

「・・・分かった、今迄の功績に免じ“処罰”は不問とする。フリージアに文句を延々と言われるのは嫌だからな。近衛騎士ライウッド、今まで通りフリージアの専属騎士として職務に励め」
「はっ、はい、陛下の温情、有り難く思います!!」
「有難う御座います、陛下」
「ライウッドは私よりもエヴァディスに感謝しろ。職務怠慢、王族の私有室に許可なく侵入した二つの重罰を不問にするのだからな」

 王様は未だ跪くエヴァディスさんを立たせて、ライさんを見やる。
 力無くライさんは、エヴァディスさんを見た。宰相さんも答える様にそれに頷く。やっぱり宰相さんは心底怖い人じゃ無かったんだ・・・

「ところでリオ達は何でこの“牢獄”の存在を知っている?」

 こちらを向き直した王様は、腕を組んで喋り出す。
 ガウラに強くしがみ付くと、優しく背を撫でられた。

「オレ達はこの場所で魔族が現れると聞き、ここまでやって来ただけだ。他意は無い」
「・・・まぁ、こんな地下まで来て帰れなんか言えないしな。しょうがないからお前達も見て行け」
「・・・っ陛下、よろしいんですか」
「構わん。リオも“魔族”は初めて見るんだろう? 見ていっていいぞ」

「ニャ、」
「但し、その場面を見て気分を害しても責任は取れんからな」

 私の固まった顔を見て王様はクッと笑い、鉄の棒の間から腕を伸ばし、私の鼻をピンッと弾く。フギャッと声を出して痛みに悶絶していると、ガウラが鋭く睨みつけた。

「さて、エヴァディス。もう二時間(リコク)は経ったろう?そろそろ例の魔族とやらを解き放ってくれないか?」
「御意!では、部屋の中央へ行かせて頂きます」 
広々とした牢屋の中でゆっくりと歩くエヴァディスさんは、柄の真ん中に朱い宝石の付いたプラチナの剣を抜き言い放つ。

「縛朱壁―アンチウォール―、解除!」

 *****

 朱い牢獄が部屋一杯現れ、カッと光が溢れ出した後、気だるい様子の二人の魔族が現れた。その髪は黒く、尖った長い耳と紫の瞳と、紅い瞳に一同釘付けになる。

「・・・よくも俺達を長い事閉じ込めてくれたな。舐めた真似しやがって」

 床にだらしなく寝そべり、背に黒い翼を生やした魔族が起き上がり紅い瞳でこちらを睨み付ける。
助骨あたりを手で押さえ、喋る口元からは血の色らしき色が付着している。唸りながら恨み事を発する所為(せい)で、鋭い牙が覗いて見えた。

「・・・デルモントへ帰還する隙を突くなんて、人間は姑息な手を使うんですね。プライドは無いんですか?」
 
 皮肉を込め、紫の瞳を横目にチラリとこちらに向けた長い黒髪の魔族は逆にあっさりとした態度。緊迫感を感じないのは、彼らがこの状況を危機的に捉えていないからだ。

「エヴァディス、ポネリーアの被害総額は幾らか憶測で計算できるか?」 
「金の硬貨が50万個は下ります」
「ってめぇ、俺達を無視すんじゃねえ!!」

 頭を沸騰させた少しばかり背の低く紅い瞳の彼は、太腿に巻き付けたベルトから固定されていた二つのナイフを両手に持ち、国王の方へ斬りかかる。

 ギイィィン・・・!

「はした金だが、お前達に損害した費用の一部を払って貰おうか」
「ハッ、払う金なんか何も無いね!」

 跳躍し、ザッと間合いに詰め込んだゼルカナンダのナイフの衝撃を造作なく受け止める。腰に括り付けたブロードソードを見事に片手で使いこなし、ナイフによる目にも留まらぬ斬撃を軽くいなす。

「・・・っ、避けてんじゃねーよ、このヤロッ!!」
「こっちの魔族は口が悪いな」
 
 ギリギリギリ・・・

 二人対峙した状態から、ゼルカナンダがパッと素早く横へ移動させると、後ろから黒髪の長いハーティスが闇の魔法を素早く詠唱して連携攻撃を狙って来た。弾丸の如く、烈風を纏った黒い残撃が国王目掛けて降り注ぐ。

「!!」
「闇属性による五月雨(さみだれ)攻撃、避けれますか?―ダークネスショット―!!」

 ガガガガガッ!!

「どうだっ、二人のコンビネーションはっ!!」
「まぁまぁですかね。しかし、彼は全然モノともしてないようです」

 ザザッと同じ位置へ跳び戻り、打ち込んだ手応えを確かめる。
 黒髪の長髪・ハーティスの傍へ素早く跳躍して近寄る紅い瞳のゼルカナンダは、体勢を素早く整え次の攻撃に移行できるよう準備を整える。
 遠くから見る国王は、確かに攻撃は受け、黒い質素な服はボロボロになったが静かに立つ姿は威厳を損なわない。

「提案をしようか。もし私と殺り合い、お前達が勝てばこの牢獄から出るなり何なり好きにしたらいい。世界を滅ぼすも良し、人間を皆殺しにするも良し」
「へえ、じゃあ俺達が負けたらどうするんだ? さっきも言った通り、俺達は人間共が使う金やらは持ってないからな。あったとしても渡さねーけど?」

 ナイフを交差させた状態で馬鹿笑いするゼルカナンダに、国王ハシュバットは口角を上げて口を開いた。
 
「金が無いのなら体で返して貰おうか。そうだな、魔族の紫の瞳や魔力が沢山詰まった血液、内臓、頭蓋骨・・・ポネリーアの被害総額には遠く及ばんが、収集家にはそれなりに売れるだろう」

「なっ!」
「品性の欠片も無い・・・貴方の方こそ私達魔族や悪魔(デーモン)に近いじゃないですか」
 
 二人の魔族は憤る。何せ、自分達の瞳や血液が結構な値段になると国王は言い張るのだから。
 上級魔族の意地により、ますます負ける事など出来ない。

「言い忘れてたが、この牢屋はお前達魔族の為の牢獄で、どんなに力を開放してもこの牢獄の中だけは崩壊出来ないように、耐久魔法を幾重にも掛けている。だから私やお前達が思い切り魔法を使おうが、どちらかが死ぬ迄この牢屋から出る事は敵わんぞ?」
「俺達が勝ったらここから出れるのかよ・・・」 

「ここの牢屋の鍵は私が持っている――」

 バッとその声の主の方を向くと、なんと先程まで牢屋の中に居たエヴァディスさんだった。今、私達と同じ牢屋の外側に立っている。

「アイツ、この前の俺達を閉じ込めた銀髪の奴だ・・・!!!」

 憎悪を込めた紅い瞳が爛々と輝き、助骨あたりを手で押さえ、ギリギリと歯ぎしりする。

「やられましたね。目の前の人物を倒そうが、牢屋の鍵は向こう側に居る人物が

 持っているじゃないですか・・・この場所から出す気なんか、最初から無かったんですね」

鋭く鈍い光を放つ二人の魔族に、国王ハシュバットが一言、 

「“絶魔の牢獄”へようこそ、パーティーの開演だ―――」

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022 旅は道連れ、世は情け―1―

2010年03月02日 15時36分50秒 | 小説作業編集用カテゴリ

 ガウラ、灰色ネズミのハンス、そして猫の私は食料保存庫でもある彼のネグラを、音を立てずに出る事にした。
 昨日の魔族襲来で、家を失った者達の為の貴重な食糧でもあるから、兵士が目を光らせているらしい。ここで大きな音を立てると見つかりかねないからと、私達に教えてくれた。

 暗闇の中を、静かに動いて階段を駆け上がるなんて目が鮮明に見えないと出来ない動作だ。
 ハンスは自分のネグラだけあって慣れた動作で駆け上がり、私はと言うと、いつも通りガウラに抱き上げられて厨房の裏口を目指す。

「ニャアア、ニャア?(ねぇハンス、貴方が言う“絶魔の牢獄”は地下にあるって言ってたけど、そっちの地下にはどう行けばいいの?)」
「チュウ、チュウウ!!(フフンッ、よくぞ聞いてくれた!このとっておきの情報は、オイラしか知らないんだぞっ!!)」
「ハンス、お前しか知らないって、普段は目に見えない場所にでもあるのか?」
「チュウウウッ!(意表を突く場所にあるんだ。普通の人間には絶対分からないさ!)」

 裏口を抜け、王宮の中へ入る為に正面の建物に沿って歩き出す。ある程度歩くと、ハンスはガウラのズボンのポケットに隠れ出した。
 正面玄関にあたる重厚な扉に槍を持った二人の兵士が立っていたが、勿論普通に通して貰った。彼等は私が居る事を認めると、間を開けて道を譲ってくれたのである。

「ニャア、ニャア!(見張り御苦労さまでっす!)」

 口を引き締め毛むくじゃらの右手を頭の上に、ビシッと勇ましく敬礼のポーズを取る。兵士の彼らにも敬わなければっ。

「「?」」
「見張り御苦労だと言っている」
「いえっ、それが私達の仕事ですから。あっ、そうだ、今から何処へ向かわれるのですか?」
「・・・謁見の間にでも行って、国王に会おうかと思っているが」

 ガウラは咄嗟に思い付いたらしい。
“絶魔の牢獄”へ行くと言えば、きっと怪しまれると思ったのだろう。

「今は国王陛下は居られません。この王宮からは出られてないですし、自室でお休みかと思うのですが・・・それと、エヴァディス宰相から言伝を伺っています。お休みになるのでしたら、客間を使ってくれて構わないと言っておられました」
「・・・そうか、わかった。有り難く使わせて貰う」

 客間の場所を聞き、一旦その場所を離れる。
 ランプで照らされた廊下を通り、兵士の彼らから見えない突き当たりの廊下に来るとハンスがポケットから顔を上げ出した。 

「・・・チュ、チュウ(うーーん・・・どうしよう。“絶魔の牢獄”へ行くには、謁見の間に行かなくちゃ駄目なんだよな)」
 あーでもこーでもナイと唸りながら喋り出すハンスに、私とガウラは眉間に皺を寄せて聞き返した。

「ニャ、ニャアア?(ハンス、如何して謁見の間なんかに牢獄があるの?)」
「チュ、チュウッ(言ったろ、誰の目にも触れられず、且つ意表を付く場所にあるって)」
「“牢獄”と名の付く場所にあるのだから、オレが元居た場所の近くに在るのかと思ったのだが」 

 小声で喋る私達は、一見すると怪しい人物に違いない。
 これ以上騒ぐと後で王様に何言われるか分かったもんじゃ無いと、諦めていたその時。

「アレ?こんな所でガウラは何をやってるの?」
「「「!!」」」

 そんな怪しい獣三匹に、声を掛ける能天気な声が聞こえる。
 近衛騎士のライウッドさんだ!腰に剣を括り付けたまま、欠伸をしながら近付いて来た。閃いた私達は後ろを向き、素早く顔を見合わせ頷いてから作戦を立てる。

「別に・・・あっと、そうだ。リオが“謁見の間”を見た事が無いと言っているので、今見たいと言っている。ぜひお前に案内して欲しいのだが?」
「ええっ、こんな夜更けにかい? 駄目だよ。もう陛下との謁見時間は過ぎちゃってるし、案内すると僕が怒られるじゃないか」
「ニャ、ニャアアッ(そこを何とか!!お願いライさん)」

 ガウラは手に持った私をライさんの顔にズイッと近付ける。

 猫である私の魅力溢れる姿をトクと見よ! 
 渋りまくるガウラからも了承を得た事だし、“悪女”のスキルをいかんなく発動!
 私は潤んだ瞳でお強請りし、頬ずりして最後の仕上げとばかりにペロリと鼻を舐め上げた。
 いつもよりかは二割増可愛く見える筈なんだけど、やっぱり効果があるのは守護獣ガウラだけかな? と、固唾を呑んで待っていると・・・

「〜〜〜っ、分かったよ!その代わり、中を覗いたら絶対直ぐに出るんだよ。良いね?」
「ニャアアアッ(ありがとう、ライさん!)」 

“ザ・ライさん牢獄道連れ獣旅”スタート!!

 *****

 四人で来た道を戻り、玄関から見た正面通路の突き当りにある謁見の間まで辿り着く。
 閉じられた華美な両開きの扉の前に、屈強な兵士が二人立っていた。

「ちょっと謁見の間に入らせて貰っていいかな?」

 入ろうとするライさんに、槍を持った二人の兵士は咄嗟に交差させて道を塞ぐ。
 警備は万全みたいだ。何の計画も立てず、真っ直ぐこっちへ来なくて良かった。

「ライウッド殿の頼みでも、今この時間に通らせるのは如何なものかと・・・」
「ちょっと確認するだけで良いんだ。・・・エヴァディス宰相の許しも得てるし」
「うっ、」
「エヴァディス宰相の・・・?」

 それを聞いた兵士の二人は宰相さんの名前を聞き、たじろいでいた。
 案の定二人顔を見合わせ、それなら問題無いと私達を含めた4人を奥へ通らせてくれたのだ。彼からの了承を得たと言う証拠も無いのに信用するなんて、エヴァディスさんは部下にとって、きっと怖い存在なんだろう。

 ゴゴゴゴ・・・

 両開きの扉を開くと、少し照明を押さえたオレンジ色の光が百畳はある部屋の中を照らし出している。天井からシャラリとした綺麗な飾り具が左右垂らされ、床には赤い絨毯が玉座まで敷かれていて崇高さが表れている。

「で、ここで何があるんだい?」

 流石にライさんも疑い深くなって来た。
 謁見の間で何か事が起きれば、間違い無く自分に責が起こると解釈しだしたんだろう。
 能天気はそのままでいれば良いのに!!

「ハンス、いい加減出てきて説明しろ」
「チュ、チュウウッ(本当は入口に入った後出てくる予定だったんだけど、しょうがないか)」

 プハッと深く息を吐いて、ガウラのズボンのポケットから出て来た灰色ネズミのハンスに、ギョッっと驚き目を見開くライさん。

「な、な、何でネズミがいるんだ?」
「チュウウッ(まぁまぁ、固い事言いっこ無しで、これから道中宜しくっ♪)」
「名前はハンスだ。これから道中宜しく頼むと言っている。因みにオレとリオの友達だ」
「ニャアアアッ(そう言う事なんです。ライさん、猫共々宜しくね!)」

 ポケットに居るハンスと顔を見合わせ、「ネーッ♪」 とそれぞれ一鳴き。
 気が遠くなりそうな顔をしたライさんは 「エヴァディス宰相の名を使ってしまったし、これがバレたら減給か降格される・・・」 とブツブツ呟いていた。ゴメンネ、ライさん!!

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021 暗転  ―2―

2010年03月02日 15時33分12秒 | 小説作業編集用カテゴリ

 門の前で警備している兵士に私達が帰った事を伝えると、すんなり通して貰えた。
 王様の元へと進み出し、謁見の間に繋がる廊下を歩いていると、灰色ネズミのハンスが物陰に隠れて、私達を手招きして来た。自分のネグラにぜひ招待したいとのお誘いだったんだ。

 外へ一旦出ると、西の別棟の裏庭に出た。
 建物の小さな隙間からハンスが入り、中からしか開く事が出来ない、蝶番(ちょうつがい)の鍵をカチリと横に動かすと裏口の扉が開く。
 中に入ると正面と右横に二つの扉があり、右側にある押すだけで開く扉を開けると、更に階段で下った部屋に食糧保存庫はあった。今居る所が彼のネグラだ。

 地下にある為小窓は無い。光が漏れる訳もなく、二匹と一人は暗がりの中、井戸端会議を開いて話に花を咲かせる。つまり私達は暗闇の中で喋っているのだ。
 私は近くの物だけ見えるけど、ガウラやハンスは鮮明に見えるらしい。きっとナイトスコープ並に見えるんだろう。

「チュウウウッ!!(いやぁ、ガウラのおっさんが助かって良かったよ! オイラ、どうしようかと思っちゃったじゃないか)」
「ニャ、ニャアアアッ!(もうっ、ハンスは調子いいんだから!! 貴方が気絶した後、私凄く心細かったんだからねっ)」

 ガウラの腕の中でプリプリ怒り出す。
 ハンスはそんな私の様子を気にもしない様子で、厨房からくすねたチーズを食べていた。

「チュウ、チュウウ!(そんな怒る事無いだろっ! お詫びと言っちゃなんだが、ガウラのおっさんの群れに伝書カラスを送っといたんだぞ。おっさんの命は助かったってな!)」

 胸を逸らしてふんぞり返るハンスに、ガウラは目を丸くして驚いた。

「そうだったのか・・・ハンス、お前良い奴だな。これで無用な争いは無くなる」
「チュウウッ(オイラの家をカイナ達に壊されたくないもんでね。自分の身に降りかかる事については、機敏に動くんだ)」 

 ビッ!と親指を立てポーズを決めるハンス。
 私も親指立てたい・・・エイッ・・・ダメだ、肉球が邪魔をする。

「ニャアアア(でも、コッチの世界では伝書鳩ならぬ伝書カラスかぁ)」

 カラスってそんなに長距離飛べたかな?と疑問に思ったのだが、異世界だしいっか! と思うようにした。

「チュ、チュウウウ!(そういえば、ポネリーアで早速大活躍だって? やっぱり猫の嬢ちゃんはオイラの見込んだ通り、異世界の覇者だったんだな!)」
「ニャア、ニャア(私、言うほど何もしてないけど・・・)」

 ションボリしてガウラにしがみ付くと、彼は喉を優しく撫でてくれた。

「チュウウウッ(何言ってんだよ、ウミネコのネェさんにバッチリ聞いたぞ! 猫の嬢ちゃんが一匹で情報収集してるって。そんでその後、また別のトリから聞いたんだが巷(ちまた)のオス猫どもを懲らしめたってね! なんでも様相が白い猫のマッチョだと!!)」

 ちぎっては投げ捨て、オス猫どもをボコボコのケチョンケチョンにしたって、野良猫達の間で間違った情報が広まってるらしいと明かしてくれた。
 ハンスはマッチョの私を想像して、うつ伏せて体を小刻みに震わせている。手を激しく床に叩いて、最後には馬鹿笑いしていた。私のマッチョ像を想像したガウラも、次第に体を震わして、私がムッと睨んだら咳払いした。

「チュウウッ(そうだ、猫の嬢ちゃんはこの国を襲った魔族って知ってるか?)」
「ニャ?(えっ、魔族?特には聞いてないなぁ)」
「チュウウッ(もうすぐこの王宮の地下にある、“絶魔の牢獄”という場所で魔族をお目に掛ける事が出来るぞ)」

 ・・・なんちゅー怖いネーミング。魔物を閉じ込める為の牢屋か何かか?
 ガウラが閉じ込められて居た牢屋とは、また別の所だろうか?

「チュウウ(猫の嬢ちゃんも行ってみたら?)」
「ニャ、ニャアアア?(はっ、はあああ?やだよ、そんな拷問でもされそうな場所!!)」
「チュウウウッ!(男は度胸だ!なぁ、ガウラのおっさん!!)」
「リオは女だ。ハンス、わざわざそんな危険な所へリオを連れて行けるわけないだろう」

 馬鹿だなと、ハンスの首根っこを掴み上げ睨むガウラ。

「チュ、チュウウッ(オイラの情報魂が叫んでるんだよ!知らない事を知り尽くせって。なぁ、嬢ちゃんが一緒だと安心するんだよ。部屋の前まででも良いんだ。そこから一人で何とかするから!!)」 

 ハンスの執拗なまでの懇願に根負けして、一人と二匹はこの王宮の地下、“絶魔の牢獄”へ行く事になった。その判断を、私は物凄く悔やむことになる――

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020 暗転  ―1―

2010年03月01日 21時16分50秒 | 小説作業編集用カテゴリ

 太陽に相反するように出現した闇夜によって、包み込むようにファインシャートを覆い隠す――

 肌寒い風は、国民の恐怖心を煽り悪夢の助長を促して心の傷を抉り出す。
 空に広がる満天の星々は、全てを見透かし真実を隠し通す。
 瞼の裏を焼き尽くす程の禍々しい程の満月は、住民の心を嘲笑う。

 平穏の世を望む人々の祈りは、神にも届かぬ位置にあり。

〜〜先の覇者が居なくなった後の、吟遊詩人が嘆いた詩(うた)より〜〜


「リオッ」
「ニャッ!(はっ!)」

 騎士団の隊長ケネルさん、副隊長ノキアさんとポネリーアで別れた後、私とガウラは王宮へ戻る為に、元来た道を辿っていた。
 満月の為か、幾分か夜目が利く整備された道の上で、夜空を眺めて違和感を感じてしまった。







(昨日見た月とはまた雰囲気が違う・・・?)
 
 薄ら寒いを通り越して不気味だなんて、自分はどうかしてしまったのだろうか? ブルリと体を震わせて、ガウラによじ登る。

「どうしたんだ、どこか体調でも悪いのか?」

 心ここにあらずの私の様子を見て、不安気に窺ってくるガウラ。

「ニャア、ニャア(別に、どこも悪くないよ。心配させてゴメンネ、ガウラ)」 

 何とも無いと訴えると納得してくれた。
 ガウラは私の心の変化に気付いたのかもしれない。

「悲しい事や苦しい事は、全部オレに伝えて欲しい。・・・もうオレはリオの泣く顔を見たくない」
「ニャア(ガウラ・・・)」
「オレとの愛を育む部屋では、幾らでも甘い声でよがり鳴いてくれて構わないから・・・」 

 ソッチの漢字かよっ!
 でも、よっぽど私と逸れたのが身に沁みたんだろう。滅多な事では私を傍から離す事はしなくなったガウラ。
 私と再開した時、泣いた理由を聞きたがったが、自分でも言葉にするのが難しくて戸惑った。

(・・・ガウラにも自由を感じて欲しいんだよ。草原を駆ける事は出来なくても、せめて心は自由奔放だと感じる位には)

 耳に響く甘い言葉を連ねられながら、一人と一匹は明かりの灯った王宮を目指す――


 〜〜フリージア視点〜〜
 
 エヴァディスおじ様、イールヴァ、ライウッドの三人と港町ポネリーアを離れ、王宮に戻ったのは夕刻が過ぎた頃だったと思います。
 ポネリーアの惨状を見聞きし、心身が疲れ果て、王族と云えど華美な食事を制限した食べ物を無理やり喉に詰め込み飲み込んだ。一緒に食べていた三人はどんな事態にも備えられるよう訓練されているので、心身には異常が見られなかったと思います。質素な食事をペロリと食べていました。

「護衛ご苦労様でした。エヴァディスおじ様、イル、ライ、いつも迷惑掛けて御免なさい・・・その、ゆっくり休んでくださいね」
「いえ、我々は常に王族を守る為にあるのですから、謙遜なさらないで下さい。では、私は陛下に報告をしなければいけないので、この場で失礼致します。イル、ライ、後の事は頼んだぞ」

「「ハイッ、承りました!!」」
 
 残りの二人にしっかりと釘を刺す様は、流石はおじ様だと思います。
 踵を翻(ひるがえ)して食堂から姿が見えなくなる迄、私を含めた三人は直立不動で見送ったのですから。

「でも、今回はエヴァディス宰相の“お灸”が不問で助かったよ。僕、まだ昨日の“訓練”での筋肉痛が抜けてないんだ」
「・・・俺もだ。体の節々が痛いのは半月ぶりじゃないか?俺達もまだまだ“訓練”が足りないと言う事か」
「貴方達二人は、もう充分他の者達を凌駕しています。エヴァディスおじ様が更にお強いだけじゃないの!」
「あっ、」
「・・・っ姫、俺達より先に行くな!」

 その代わりに彼等は私と共に半日はポネリーアの住民に、治療のお手伝いをしていました。
 ・・・瀕死の重傷患者が多数居るのに、疲れているとは決して言えません。ですがおじ様や自らの父に命令された事は、絶対に遂行しなければならないので彼等二人の近衛騎士は、私の自室前での警備も確定しています。
 疲れていようが、常に交替で勤務に当たるその姿を見て、いつも胸が痛みます。罪滅ぼしとはまた違いますが、私も自室で休みたい気持ちを押しやって、自らの母に今日の事を報告しなくてはいけないのですから、痛み分けと言う事でしょうか。

 ですが、これからはそんな甘い事等言ってられません。
 私が将来女王になる為に、幾多の困難を乗り越えなければならないのですから。彼ら二人の協力が必要不可欠です。
 さて、二人の近衛騎士にはまたいらぬ面倒だと思いますが、母の自室まで護衛として共に来て貰いましょう――


 〜〜ハシュバット視点〜〜

 白い石造りの頑丈な外壁共に内壁は、私が作り出した第一上級魔法の守護結界により、外からの生きとし生ける全ての者を遮断して、完璧に防いだつもりだった。ただ、覇者による守護獣任命の儀に於いて、崩壊した東の離宮を除いては計算外の事態として受け止め、修繕に臨んでいる。

 今日一日のエヴァディスが調査した被害報告を、玉座に座り守護獣ディルの頭を撫でながら聞き取っていた。二人の上級魔族を含めた、魔物半数を見事に鎮圧してみせた腹心の部下に労いの言葉を掛ける。

「エヴァディスが居れば百人力だな。本当によくやった、国王として礼を言う」
「勿体無いお言葉、感謝の極みです。それと陛下、ポネリーアの住民における生き残りの人数は千人程確認しました。残りの四千人については名前と顔が一致しないので引き続き調査中です」

「そうか」
「水の眷属、ティアレストに清涼水の増量を望むよう交渉する等、魔術師をプロテカ神殿に明日送ります。よろしいですか?」
「それで良い、続けてくれ」
「はっ、同国内のレーニン、カナレイア、オゼ村共に魔族の襲来による被害は報告されておりません。しかし、最大の貿易を誇る首都ポネリーアを襲われたと聞き、どの国民にも動揺が走ったと思われます」
「ふむ、今回の襲撃は人間の心理を突いてきたな」

「・・・と言いますと?」
「最近魔族はパッタリと現れなかっただろう?しかし昨日現れたのは異世界の覇者が降臨した喜ばしい祭りの日。浮かれ切った住民を圧倒的な力で一気に奈落の底に突き落とし、這い付くばせる事に成功した。――これで魔族に逆らう者が居ると思うか?」

「いえ・・・」
「目的が何にせよ、これを機に魔族が地表に現れるかもな」
  
 玉座から立ち上がり、床に跪いているエヴァディスに命令した。

「エヴァディス、2リコク後に、捕縛した二人の魔族を“絶魔の牢獄”で解き放て」
「御意、陛下の仰せのままに!」 

 
――ディッセント国内に降り立った事、存分に後悔するが良い。


****こちらからでも飛べます暗転1 番外編

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