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明治日本の産業革命世界遺産

産業遺産情報センター、明治日本の産業革命世界遺産と税金の使い道、一般財団法人産業遺産国民会議について。

東京に設立された産業遺産情報センターについて

2020-07-20 11:13:09 | 日記
東京に設立された産業遺産情報センターについて

1. 産業遺産情報センターとは何か

 (1) 設立の経緯

 ① 日本政府は、産業遺産情報センターを2020年3月31日に東京都新宿区若松町の総務省第二庁舎別館に開設しました。この施設は「明治日本の産業革命世界遺産」の登録に当たって、日本政府が約束した「「説明戦略」の策定に際しては,「各サイトの歴史全体について理解できる戦略とすること」との勧告に対し,真摯に対応する。より具体的には,日本は,1940 年代にいくつかのサイトにおいて,その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと,また,第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である。日本はインフォメーションセンターの設置など,犠牲者を記憶にとどめるために適切な措置を説明戦略に盛り込む所存である」との国際公約に基づいて設置されたものですが、その実態は多くの問題点があり国際的に大きな批判を呼ぶものになっています。
 なぜこのような施設になってしまったのか、その経緯と問題点を明らかにし、今後の改善の方向を考えたいと思います。
 この施設について産業遺産情報センターのホームページでは何も説明していません。[i]
このホームページでの説明は産業遺産情報センターの設立理由を隠蔽したものになっています。そしてまた、それは日本が世界に約束した産業遺産情報センターとは異なるものであることを物語っています。
  
 ② この世界遺産「明治日本の産業革命遺産」について、内閣官房のホームページには、次のような記載
があります。[ii]


 稼働中の産業遺産については、遺産価値の適切な保全と稼働を担う企業の経営への制約の最小化との両立を図る必要があることから、平成24年5月25日に稼働中の産業遺産又はこれを含む産業遺産群を世界遺産登録に向けて推薦する場合の新たな枠組みを閣議決定しました。
 その後、平成26年1月に政府として世界文化遺産に推薦し、平成27年5月のイコモスによる記載勧告を経て、平成27年7月の第39回ユネスコ世界遺産委員会において、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」は世界遺産一覧表への記載が決定されました。

    
 ここでも、どのような経過を経て「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産に登録されたのかについての説明がありません。日本政府はねその経緯の中にある「日本の約束」について触れようとしません。日本はどのような約束をして「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録を得たのかを以下に説明します。

  ③ 2015年の世界遺産登録時の日本政府の国際公約に基づいて設立された施設

この2015年(平成27年)7月の第39回ユネスコ世界遺産委員会において、「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産に登録されましたが、その時に日本政府は以下のような約束をしました。
そして、日本政府は2017年11月30日にユネスコ世界遺産センターに提出した保全状況報告書で、「内閣官房は、産業労働に関する一次史料を、2019 年度中を目途に東京に設置が予定されている『産業遺産情報センター』において一般市民に共有する方向で検討している」ことを表明し、この約束に基づいて日本政府が設置したのが産業遺産情報センターなのですが、残念ながら、その約束を果たすものになっていないのです。登録に当たって日本政府が約束した内容は次のものです。

平成27年7月5日 世界遺産委員会における日本側発言(日本語)
議長,
日本政府を代表しこの発言を行う機会を与えていただき感謝申し上げる。
日本政府としては,本件遺産の「顕著な普遍的価値」が正当に評価され,全ての委員国の賛同を得て,コンセンサスで世界遺産登録されたことを光栄に思う。
日本政府は,技術的・専門的見地から導き出されたイコモス勧告を尊重する。特に,「説明戦略」の策定に際しては,「各サイトの歴史全体について理解できる戦略とすること」との勧告に対し,真摯に対応する。
より具体的には,日本は,1940 年代にいくつかのサイトにおいて,その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと,また,第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である。
日本はインフォメーションセンターの設置など,犠牲者を記憶にとどめるために適切な措置を説明戦略に盛り込む所存である。
日本政府は,本件遺産の「顕著な普遍的価値」を理解し,世界遺産登録に向けて協力して下さったベーマー議長をはじめ,世界遺産委員会の全ての委員国,その他関係者に対し深く感謝申し上げる。


  ④ この約束の実行について日本政府は、2017年11月30日にユネスコ世界遺産センターに提出した保全状況報告書で、「2019 年度中を目途に東京に設置が予定されている『産業遺産情報センター』において一般市民に共有する方向で検討している」ことを表明し、「同センターは、産業遺産の保全の普及啓蒙に貢献する『シンクタンク』として、『明治日本の産業革命遺産』の資産全体を中心としつつ、産業労働を含む産業遺産に関する他の情報も発信する予定である。内容の詳細は現在検討中である」と述べました。
 これに対し、この報告書を審査した2018年の第42回世界遺産委員会は、「関係者との対話を継続することを促し」との勧告を日本政府に行いました。
 しかし、日本政府はその勧告を無視し、韓国政府や強制動員被害者やその支援団体などの関係者との対話を一度も行わないまま一方的に開設したものとなっています。

 (2) どのような展示が行われているか

  本来ならばこの産業遺産情報センターは、明治日本の産業革命世界遺産の普遍的価値を展示するものですが、そのような展示になっていません。その普遍的価値とは、その構造物とともにその構造物で働いた労働者が生み出した産業的価値であり、その現場で展開されていた労働実態こそが記憶されるべき普遍的価値なのです。
 残念ながらコロナ禍のなかで、私はまだ直接見学していませんが、新聞報道などによると展示内容は、次のようなものと思われますが、朝鮮人の強制労働だけでなく、それらの産業遺産で働き産業を支えた名もなき人々の尊い文明の仕事を次世代に継承する展示は一つもないようです。
 
● 軍艦島の元島民の証言動画や給与明細などを紹介し、朝鮮半島出身者が差別的な扱いを受けたとする韓
国側の主張とは異なる実態を伝える。情報センターを運営する一般財団法人「産業遺産国民会議」の加
藤康子専務理事は産経新聞の取材に対し「一次史料や当時を知る証言を重視した。判断は見学者の解釈
に任せたい」と語った。(産経新聞 2020)年3月30日)
● この施設に入ると、入口に日本が2015年に明治日本の産業革命遺産をユネスコ世界遺産に登録するま
での沿革が書かれている。沿革の一番下に、当時のユネスコ会議で日本政府代表が述べたこの発言が書
かれている。しかし、この日公開された産業遺産情報センターでは、この文言以外、日本政府がユネス
コ世界文化遺産に登録する際に約束した犠牲者を記憶にとどめるための措置はなかなか見受けられな
かった。(ハンギョレ新聞 2020年6月14日)
● 同センターでは、軍艦島や長崎造船所、八幡製鉄所など登録された23資産について、パネルや動画で
解説。「国民徴用令」など「官あっせん、徴用、引き揚げについて理解できる五つの文書」をパネルで列
挙した。その隣には1965年の「日韓請求権協定」の全文が掲示された。日本側は、元徴用工らへの賠
償問題に関し、この協定で解決済みとの立場を取っている。同じ部屋には、元島民らのインタビューも
紹介。父が端島(軍艦島)炭鉱で働いていたという在日韓国人2世の元島民が「いじめられたとか、指
さされて『あれは朝鮮人ぞ』とは全く聞いたことがない」などと証言している。加藤康子センター長は
「政治的な意図はない。約70人の元島民へのインタビューで、虐待を受けたという証言はなかった」
と説明。今後、インタビューを拡充していくという。(朝日新聞2020.6.14)

(3)  産業遺産情報センターの設置に使われた税金5億4千万円

産業遺産情報センターは、使われていなかった新宿区若松町の 総務省第二庁舎別館を改修して設置されたものですが、その建物の整備は飛島建設株式会社が142,000,000円で、設備などのハード部分を385,000,000円で株式会社乃村工藝社が行い、展示内容のソフト部分を産業遺産国民会議が12,100,000円で請負って設置されたもので、総額が約5億4千万円の税金がかかっています。
 そして、内閣官房産業遺産の世界遺産登録推進室の担当者の説明によると、ハード部分は内閣府の所有であるが、ソフト部分の著作権は、運営を委託している産業遺産国民会議にあると言っています。
このことは、国がお金を出して建物と設備を整備し、展示は政府がお金を出すが産業遺産国民会議に丸投げし展示内容もその団体の好き放題にお任せする仕組みを作っているということです。
そして、政府は運営を産業遺産国民会議に委託し、所長を同法人の専務理事の加藤康子氏に任命し、好き勝手な展示の仕組みをつくり出しているのです。

2. 一般財団法人産業遺産国民会議とはどのような団体か

 同団体の2013年6月に出された設立趣意書には「産業を支えた名もなき人々の尊い文明の仕事を次世代に継承することを目的とし、ここに国民会議を設立する」とされていますが、同団体のホームページでその実際の取組みを見ると、「産業を支えた名もなき人々」である労働者とその労働実態については焦点が当てられておらず、もっぱら強制労働の事実を如何になかったことにするかに情熱が注がれています。[iii]
 同団体の法人登記簿を見ると、2013年9月10日設立とされていますが、その設立目的には次のように書かれています。「この法人は、現役の産業設備を含む産業遺産の継承により、学術、科学技術及び文化の振興、並びに国際相互理解の促進に寄与することを目的とする」と。しかし、この法人は「国際相互理解の促進に寄与する」ことはなく、歴史を偽造、変造のセンターとなっているようです。
 更には、違法状態にある団体と思われることです。法人の登記簿謄本には、決算報告などの公告方法は「官報に掲載する方法により行う」と記載されていますが、設立以来の7年分の官報を検索しても、その決算報告は見当たらず一度も決算公告したことありません。
これは、決算公告を義務付け罰則まで定めている「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成18年法律第48号)」の違反であり、この団体は違法状態にある団体と言えます。また、同法人のホームページを見る限り、法人の総会開催されている記録も見当たりません。
 このような団体が、何故に産業遺産情報センターの運営の委託を受けるのか、安倍政権と産業遺産国民会議の癒着について次に解明します。

3. 安倍政権と産業遺産国民会議との関係

 (1) 安倍晋三と加藤康子はお友達
 加藤康子氏は、自民党の大物議員の一人であった加藤六月氏の娘で、現在の厚生労働大臣加藤勝信の義理の姉です。彼女は、国内外に多くの人脈を作っており世界遺産登録への可否を事前に審査するイコモスのオーストラリア、イギリス、カナダの関係者などを国費で日本に度々招いています。
産業遺産国民会議の理事、評議位に父・加藤六月氏のかつての人脈が名を連ね、代表理事に元大蔵事務次官の保田博氏や、名誉会長を引き受けた今井敬(新日本製鐵元社長、第9代経済団体連合会会長)などがいます。[iv]
更に、安倍晋三氏のお友達として、本や雑誌からニュースを掘り起こすインターネットサイトの『LITERA』(リテラ)が、2020.年6月17日配信の記事「安倍政権が軍艦島世界遺産で約束した徴用工の説明センターに『朝鮮人差別ない』の一方的証言! センター長は安倍首相の幼馴染のあの女性」と次のような記事を載せています。[v]

明治産業遺産は安倍首相が幼馴染の加藤康子氏に「俺がやらせてあげる」と言って始まった

 「週刊新潮」(新潮社)2015年5月21日増大号に掲載された彼女のインタビューによると、自民党が野党に転落していたころ、安倍晋三氏は「明治産業遺産」の世界遺産登録への熱意を語った康子氏にこう語ったという。
 「君がやろうとしていることは『坂の上の雲』だな。これは、俺がやらせてあげる」
 安倍首相は総裁の地位に返り咲いた3日後、彼女に電話をかけ、「産業遺産やるから」と、決意を語ったという。実際、第二次安倍政権誕生後のやり方は強引としか言いようのないものだった。文科省の文化審議会は2013年8月に「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」を正式に推薦候補として決定していたにもかかわらず、内閣官房の有識者会議は対抗するように「明治産業遺産」を正式推薦に選定した。


 (2)  第二次安倍内閣の誕生と産業遺産国民会議の設立

 それまでの民主党政権に替わって第二次安倍内閣が2012年12月26日に誕生しますが、その前の野田佳彦内閣の時に「稼働中の産業遺産又はこれを含む産業遺産群を世界遺産登録に向けて推薦する場合の取扱い等について」を2012年5月25日 閣議決定します。この閣議決定は、それまで文化庁が担当していた世界遺産登録を「稼働中の産業遺産」については、内閣官房が担当することにしたものですが、この閣議決定に至る裏側はまだ分かりません。
 安倍政権が誕生して半年後、加藤康子氏は、前出の設立趣意書を出して産業遺産国民会議の設立の取組みを始めます。
 そして、加藤康子氏は安倍内閣の一員として2015年7月2日より2019年7月31日まで、内閣官房参与(産業遺産の登録および観光振興を担当)に就任します。内閣官房はそれまで主に三菱総合研究所に委託していた事業を、2016年度予算から産業遺産国民会議に委託するようになります。その事業委託費は4年間で5億円を超えています。
 この事業委託は、発注側に内閣参与の加藤康子氏がおり、受注側に産業遺産国民会議の専務理事の加藤康子氏という同一人物がおり、違法な利益相反行為として疑いが持たれるものです。
 
2013年度 稼働中の産業遺産の世界遺産登録等に係る調査研究 株式会社三菱総合研究所 27,649,650円
2014年度 稼働中の産業遺産の世界遺産登録等に係る調査研究 株式会社三菱総合研究所 48,459,600円
2015年度 稼働中の産業遺産の世界遺産登録等        株式会社三菱総合研究所 19,980,000円
2016年度「明治日本の産業革命遺産」産業労働に係る調査 一般財団法人産業遺産国民会議
                                          89,640,000円
2017年度「明治日本の産業革命遺産」産業労働に係る調査 一般財団法人産業遺産国民会議
                                        145,800,000円
2018年度「明治日本の産業革命遺産」インタープリテーション更新に係る調査研究
   一般財団法人産業遺産国民会議   125,084,520円
2019年度明治日本の産業革命遺産」各サイトの歴史全体におけるインタープリテーションに係る調査研究
                          一般財団法人産業遺産国民会議  132,990,000 円 

4. 産業遺産情報センターの今後

 産業遺産の労働実態を含む普遍的価値が展示されなければならない産業遺産情報センターですが、残念ながらそのような展示になっていません。そこには改善すべき多くの課題が考えられますが、その根幹は産業遺産情報センターを偽りの展示で自己の歴史認識を宣伝する場に変質させている安倍政権とそのために国の資金を大量に消費している産業遺産国民会議をこの施設の運営から手を引かせることです。
 また、これまで調査研究が不十分であった産業遺産とそこでの労働実態の真相究明を更に進めることです。当該施設で働いた生存者の所在調査をはじめこれまでの聞き取りとその裏付け調査や、外国人労働者とともに日本人労働者の調査研究も必要な課題です。
 この度、日本政府が関係者との対話を一切行わず開設を強行したことは許されません。このような振舞いは、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」と宣言している日本国憲法に反するものです。
 さらに言えばユネスコ憲章に違反しています。ユネスコ憲章は「政府の政治的及び経済的取り決めのみに基づく平和は、世界の諸人民の、一致した、しかも永続する誠実な支持を確保できる平和ではない。よって、平和が失われないためには、人類の知的及び精神的連帯の上に築かれなければならない」と宣言しています。
日本政府が関係者との対話を誠実に行うことは、産業遺産の普遍的価値を正しく認識し、その普及に努めることと表裏一体のものです。何故ならば、産業遺産そのものが具現している強制労働の歴史を記憶し、表現し、継承することは必須の前提であり、日本政府が一方的な解釈で被害者側との対話を行わないままに、一方的な見解を述べて全てを終わりにしようとすることは許されません。
 政府が招集し報告を求めた「産業遺産情報センターに関する検討会」の問題もあります。委員は、伊東 孝(元日本大学教授、産業考古学会会長)、小野寺英輝(岩手大学理工学部准教授)、工藤 教和(座長、 慶應義塾大学名誉教授)、後藤 治(学校法人工学院大学理事長)、松岡 資明(学習院大学客員教授)の5名ですが、ここには近現代史の研究者や国際法学者が含まれていません。
日本政府が国際公約をしっかり守り、産業遺産国民会議設立趣意書にある「「産業を支えた名もなき人々の尊い文明の仕事を次世代に継承する」施設として展示内容の改善を求めて行きたいと考えます。
 また、産業遺産情報センターを使って、産業遺産の保全の普及啓蒙に貢献する「シンクタンク」として扱おうとしており、明治日本の産業革命遺産のインタープリテーションに関する認定制度をつくり、その人材育成研修と研修マニュアルを制定することを日本政府は考えていますが、このことは市民の歴史認識の形成を政府が管理し、政権の歴史認識を浸透させるものとなる危険性があります。[vi]
 安倍政権が進めている行政の私物化、政権と癒着した団体への業務委託システム、一方的で偏った歴史認識の宣伝と歴史の歪曲、これらをやめさせなければなりません。

小林 久公 (強制動員真相究明ネットワーク事務局次長) 2020年6月20日
連絡先 電話 090-2070-4423   Email q-ko@sea.plala.or.jp

[i]  産業遺産情報センター https://www.ihic.jp/

[ii]  内閣官房産業遺産の世界遺産登録推進室 http://www.cas.go.jp/jp/sangyousekaiisan/

[iii]  一般財団法人産業遺産国民会議 https://sangyoisankokuminkaigi.jimdo.com/

[iv]  『ウィキペディア(Wikipedia)』 

[v]   https://lite-ra.com/2020/06/post-5480_3.html

[vi]  ユネスコ世界遺産センターへの保全状況報告書(2017年) https://www.cas.go.jp/jp/sangyousekaiisan/state_of_conservation_report.html


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