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明治日本の産業革命世界遺産

産業遺産情報センター、明治日本の産業革命世界遺産と税金の使い道、一般財団法人産業遺産国民会議について。

日本の過去清算問題と解決の方向性

2020-07-20 11:15:56 | 日記
日本の過去清算問題と解決の方向性
小林 久公
1. 問題の根底にはなにがあるのか

 強制動員など日本の過去清算問題が日韓の間で大きな課題となっているが、そもそも日本の過去清算問題は、日本の国内問題なのである。
 日本国憲法は「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」、「人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」、そして「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる」と謳ってる。
 それにも拘わらず戦争終結から70数年を経た今日でも、アジア各地で日本が与えた戦争被害、植民地被害に対する戦後処理し遅々として進んでいない。それは日本人被害者についても同様である。
 なぜ、日本の戦後処理は進まないのか、その根底に在るのが未だ克服されない民衆の帝国主義(植民地主義)である。幸いにも安倍政権は市民が、このことを考える機会を提供してくれている。
 過去清算については、戦後すぐに叫ばれた一億総ざんげがある。(この一億人とは日本人7000万、朝鮮人2,500万に、台湾人500万のことだと言う)、そして今、「受任論」が幅をきかせ、戦時中と同様の「しかたがない論」に飲み込まれようとしている。しかも、日本の植民地支配下にあった人々に対しても、当時は日本人であったのだからと「受任論」を強制しようとしている。
 日本はこんな社会を何時まで続けるのだろうか、過去清算は日本社会のためにこそ必要なのである。

2. 二種類の個人請求権が残されている
 
 個人請求権には二種類の請求権があることを知っておきたい。一つは財産請求権であり、他の一つは慰謝料などの損害賠償請求権である。いずれにしてもこれは国家の請求権ではなく個人の請求権である。
 この個人が持っている請求権を、二国間の政府の合意で消滅させることはできない。このことについては日本政府もそのように理解している。それで「条約上は、国の権利として持っている外交保護権を放棄したのであって個人の請求権を直接消滅させたものではない」としている。
 そして、二つの個人請求権のうち財産請求権については日本の国内法で消滅させる手続きを取ったが、損害賠償権については、国内法でも何の措置もされていない。
 この国内法が「韓国人財産措置法」(1965年法律第144号)である。その法案説明で外務大臣は「日韓両国間の財産及び請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決されることになったことを確認し、日本国にある韓国及び韓国民の財産等に対してとられる措置に対しては、韓国はいかなる主張もできないものとする旨を規定しております。したがいまして、この協定が発効することに伴ってこれらの財産等に対してとるべき措置を定めることが必要となりますので、この法律案を作成した次第であります」と述べている。
 日韓請求権協定で言う「完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」、「国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする」とはこのようなことなのである。すなわち、条約上は個人請求権に対する法的実行力の取極めは行われておらず、日本の国内法ではじめて法的に解決しているということである。それも、個人の財産請求権についてのみであり、個人の損害賠償請求権は残されたままである。これが日本政府の理解であり、韓国の大法院判決も同様の理解である。条約の解釈に日本と韓国との間でさほどの違いはないのである。
 


3. 今後の解決の展望

 安倍政権は、韓国の民事訴訟で差し押さえられた日本企業の資産が現金化されたならば、新たな対抗手段を取ると恫喝している。だが、これは日本政府が介入すべきではない民事事件のことである。高齢の被害者のことを考えると、私は、原告の裁判上の利益を満たすことが急がれなければならないので現金化は行うべきであると考えている。その結果は、更に日韓関係が険悪になったとしても、原告の個人の権利は保障されるべきものであり、更なる険悪化を避けるために個人の権利が奪われるようなことがあってはならない。
 もし、更なる悪化があったとしても、それは後日に解決されるものであるからである。

(1) 国内法を変えれば、財産請求権も復活させられる
 
相手国が外交保護権を放棄し、そのことを主張しないとの約束があるので、自国で働いた外国人労働者の賃金をその人たちに支払わないことにしてよいのであろうか、日本政府は、国内法でそのようにしてしまったのである。
 東京法務局をはじめ全国の法務局に朝鮮人強制動員被害者の未払い賃金が供託されており、そこには175,221人の朝鮮人労働者の名前と住所、未払い金額が個別に把握されている。その金額の合計は1億2千万円を超えている。これは、日本が本人に返そうと思えば返せるものである。この他にも福岡の郵便貯金事務センターには、朝鮮人労働者の郵便貯金通帳が数万冊保管されたままになっている。これも本人に返そうと思えば返せるものである。しかし、日本政府は、そうしてこなかった。日韓請求権協定と国内法で解決済みであるとして返さないまま今日まで来ている。これが「諸国民の公正と信義」を尊重する日本の姿であってよいのだろうか。
 これは日本社会のあり方の問題である。問題解決には、条約の変更は必要ではなく、国内法で支払いを認めれば済むことなのである。

(2) 日韓条約で「法的に解決済み」であっても、日本政府は問題解決に取り組んできた教訓を生かして

 日本政府は、日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決した」と言いながらも、日本軍「慰安婦」問題でもその解決に動き、韓国人被爆者問題でも次官通達を撤回し援護対象とした、サハリン在住韓国人問題でも資金提供をした。しかし、根本的な解決に至っていないのが現状である。
 その理由の一つは、被害当事者と向き合わないままの政府間解決であったこと。二つ目は、国が行った加害事実を認めず、あいまいな事実認定のままでのお詫びの言葉でしかなかったことがあげられる。
 たとえ「法的には解決済み」であったとしても、日本政府は解決のための努力をしてきているのである。それが未だ解決に至っていないとしても、そこから教訓を汲み取り解決の努力を続けなければいけない。
 その教訓の一つに被害当事者とその遺族が持っている損害賠償請求権を法的に消滅させてこなかったこれまでの作為の誤りがある。
 日本政府は、賠償の支払いを拒み続けるあまり、被害者の損害賠償請求に応じてこなかった。1965年から10年間に渡って韓国政府に提供した役務、生産物の無償3億ドル、韓国人被爆者の「人道医療支援基金」として支払った40億円、サハリン残留韓国人の「里帰り」支援や韓国帰国・定住のための事業(住宅建設等)に支払った70億円、アジア女性基金の医療福祉支援として支出した政府資金約7億5000万円、2015「慰安婦合意」の10億円などの支出をしているが、それらは全て賠償金ではないと日本政府は説明している。これらが日本政府の賠償金として支払われていたならば、被害者の損害賠償請求権を法的に消滅させ得たかもしれないが、日本政府はそうすることをしなかった。これは、日本政府の失策であり税金の無駄遣いであっただけでなく、歴史に向き合い負の歴史を繰り返さないという日本国憲法の姿からの逸脱であった。
 何故このような失策が繰り返されるのか、それは、政府も国民も被害事実に目をつむり帝国主義(植民地主義)を脱していないからだと思われる。

4. 歴代政権の努力をつなごう

日本は、十分ではないにせよ日本国憲法を生かし、これまでも東アジアでの平和実現の努力を続けてきたのも事実である。歴代総理大臣は、歴史の節目で談話を発表し、それは日本社会に受け入れられてきている。
だが、最近の日本社会の風潮ではそれも受け入れられなくなって来ているのかも知れない。既に、安倍政権は、2010年の菅総理大臣談話を首相官邸のホームページから削除している。
 ここで表明され繰返し使われている「お詫び」という言葉を、日本政府は韓国語では「謝罪」と訳して広報している。「謝罪」とは、罪を認めて謝る言葉であるが、日本政府は「罪」を認めないまま「謝罪」という言葉だけを使っている。日本の言語文化がこのように壊されている。このことも、日本社会にとっては大きな問題である。これら歴代総理大臣の談話において一貫して欠けているのが、日本政府の「国家責任」、法的責任を認めていないことである。日本政府が「国家責任」を認め謝罪することが解決の前提条件となる。
        
1995.08.15の村山談話
「「植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします」

1998.10.08 日韓共同宣言 -21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ- 
 我が国が過去の一時期韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実
を謙虚に受けとめ、これに対し、痛切な反省と心からのお詫びを述べた」

2002. 09.17 日朝平壌宣言
「日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を
謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明した。
双方は、国交正常化を実現するにあたっては、1945年8月15日以前に生じた事由に基づく両国及び
その国民のすべての財産及び請求権を相互に放棄するとの基本原則に従い、国交正常化交渉においてこ
れを具体的に協議することとした」

2010,08.10 菅直人内閣総理大臣談話 閣議決定
「本年は、日韓関係にとって大きな節目の年です。ちょうど百年前の8月、日韓併合条約が締結され、以後36年に及ぶ植民地支配が始まりました。三・一独立運動などの激しい抵抗にも示されたとおり、政治的・軍事的背景の下、当時の韓国の人々は、その意に反して行われた植民地支配によって、国と文化を奪われ、民族の誇りを深く傷付けられました。
 私は、歴史に対して誠実に向き合いたいと思います。歴史の事実を直視する勇気とそれを受け止める謙虚さを持ち、自らの過ちを省みることに率直でありたいと思います。痛みを与えた側は忘れやすく、与えられた側はそれを容易に忘れることは出来ないものです。この植民地支配がもたらした多大の損害と苦痛に対し、ここに改めて痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明いたします」
(2019年12月22日) 
                                       
小林 久公 061-2273 札幌市南区豊滝2丁目9-6 電話090-2070-4423 Email: q-ko@sea.plala.or.jp


東京に設立された産業遺産情報センターについて

2020-07-20 11:13:09 | 日記
東京に設立された産業遺産情報センターについて

1. 産業遺産情報センターとは何か

 (1) 設立の経緯

 ① 日本政府は、産業遺産情報センターを2020年3月31日に東京都新宿区若松町の総務省第二庁舎別館に開設しました。この施設は「明治日本の産業革命世界遺産」の登録に当たって、日本政府が約束した「「説明戦略」の策定に際しては,「各サイトの歴史全体について理解できる戦略とすること」との勧告に対し,真摯に対応する。より具体的には,日本は,1940 年代にいくつかのサイトにおいて,その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと,また,第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である。日本はインフォメーションセンターの設置など,犠牲者を記憶にとどめるために適切な措置を説明戦略に盛り込む所存である」との国際公約に基づいて設置されたものですが、その実態は多くの問題点があり国際的に大きな批判を呼ぶものになっています。
 なぜこのような施設になってしまったのか、その経緯と問題点を明らかにし、今後の改善の方向を考えたいと思います。
 この施設について産業遺産情報センターのホームページでは何も説明していません。[i]
このホームページでの説明は産業遺産情報センターの設立理由を隠蔽したものになっています。そしてまた、それは日本が世界に約束した産業遺産情報センターとは異なるものであることを物語っています。
  
 ② この世界遺産「明治日本の産業革命遺産」について、内閣官房のホームページには、次のような記載
があります。[ii]


 稼働中の産業遺産については、遺産価値の適切な保全と稼働を担う企業の経営への制約の最小化との両立を図る必要があることから、平成24年5月25日に稼働中の産業遺産又はこれを含む産業遺産群を世界遺産登録に向けて推薦する場合の新たな枠組みを閣議決定しました。
 その後、平成26年1月に政府として世界文化遺産に推薦し、平成27年5月のイコモスによる記載勧告を経て、平成27年7月の第39回ユネスコ世界遺産委員会において、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」は世界遺産一覧表への記載が決定されました。

    
 ここでも、どのような経過を経て「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産に登録されたのかについての説明がありません。日本政府はねその経緯の中にある「日本の約束」について触れようとしません。日本はどのような約束をして「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録を得たのかを以下に説明します。

  ③ 2015年の世界遺産登録時の日本政府の国際公約に基づいて設立された施設

この2015年(平成27年)7月の第39回ユネスコ世界遺産委員会において、「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産に登録されましたが、その時に日本政府は以下のような約束をしました。
そして、日本政府は2017年11月30日にユネスコ世界遺産センターに提出した保全状況報告書で、「内閣官房は、産業労働に関する一次史料を、2019 年度中を目途に東京に設置が予定されている『産業遺産情報センター』において一般市民に共有する方向で検討している」ことを表明し、この約束に基づいて日本政府が設置したのが産業遺産情報センターなのですが、残念ながら、その約束を果たすものになっていないのです。登録に当たって日本政府が約束した内容は次のものです。

平成27年7月5日 世界遺産委員会における日本側発言(日本語)
議長,
日本政府を代表しこの発言を行う機会を与えていただき感謝申し上げる。
日本政府としては,本件遺産の「顕著な普遍的価値」が正当に評価され,全ての委員国の賛同を得て,コンセンサスで世界遺産登録されたことを光栄に思う。
日本政府は,技術的・専門的見地から導き出されたイコモス勧告を尊重する。特に,「説明戦略」の策定に際しては,「各サイトの歴史全体について理解できる戦略とすること」との勧告に対し,真摯に対応する。
より具体的には,日本は,1940 年代にいくつかのサイトにおいて,その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと,また,第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である。
日本はインフォメーションセンターの設置など,犠牲者を記憶にとどめるために適切な措置を説明戦略に盛り込む所存である。
日本政府は,本件遺産の「顕著な普遍的価値」を理解し,世界遺産登録に向けて協力して下さったベーマー議長をはじめ,世界遺産委員会の全ての委員国,その他関係者に対し深く感謝申し上げる。


  ④ この約束の実行について日本政府は、2017年11月30日にユネスコ世界遺産センターに提出した保全状況報告書で、「2019 年度中を目途に東京に設置が予定されている『産業遺産情報センター』において一般市民に共有する方向で検討している」ことを表明し、「同センターは、産業遺産の保全の普及啓蒙に貢献する『シンクタンク』として、『明治日本の産業革命遺産』の資産全体を中心としつつ、産業労働を含む産業遺産に関する他の情報も発信する予定である。内容の詳細は現在検討中である」と述べました。
 これに対し、この報告書を審査した2018年の第42回世界遺産委員会は、「関係者との対話を継続することを促し」との勧告を日本政府に行いました。
 しかし、日本政府はその勧告を無視し、韓国政府や強制動員被害者やその支援団体などの関係者との対話を一度も行わないまま一方的に開設したものとなっています。

 (2) どのような展示が行われているか

  本来ならばこの産業遺産情報センターは、明治日本の産業革命世界遺産の普遍的価値を展示するものですが、そのような展示になっていません。その普遍的価値とは、その構造物とともにその構造物で働いた労働者が生み出した産業的価値であり、その現場で展開されていた労働実態こそが記憶されるべき普遍的価値なのです。
 残念ながらコロナ禍のなかで、私はまだ直接見学していませんが、新聞報道などによると展示内容は、次のようなものと思われますが、朝鮮人の強制労働だけでなく、それらの産業遺産で働き産業を支えた名もなき人々の尊い文明の仕事を次世代に継承する展示は一つもないようです。
 
● 軍艦島の元島民の証言動画や給与明細などを紹介し、朝鮮半島出身者が差別的な扱いを受けたとする韓
国側の主張とは異なる実態を伝える。情報センターを運営する一般財団法人「産業遺産国民会議」の加
藤康子専務理事は産経新聞の取材に対し「一次史料や当時を知る証言を重視した。判断は見学者の解釈
に任せたい」と語った。(産経新聞 2020)年3月30日)
● この施設に入ると、入口に日本が2015年に明治日本の産業革命遺産をユネスコ世界遺産に登録するま
での沿革が書かれている。沿革の一番下に、当時のユネスコ会議で日本政府代表が述べたこの発言が書
かれている。しかし、この日公開された産業遺産情報センターでは、この文言以外、日本政府がユネス
コ世界文化遺産に登録する際に約束した犠牲者を記憶にとどめるための措置はなかなか見受けられな
かった。(ハンギョレ新聞 2020年6月14日)
● 同センターでは、軍艦島や長崎造船所、八幡製鉄所など登録された23資産について、パネルや動画で
解説。「国民徴用令」など「官あっせん、徴用、引き揚げについて理解できる五つの文書」をパネルで列
挙した。その隣には1965年の「日韓請求権協定」の全文が掲示された。日本側は、元徴用工らへの賠
償問題に関し、この協定で解決済みとの立場を取っている。同じ部屋には、元島民らのインタビューも
紹介。父が端島(軍艦島)炭鉱で働いていたという在日韓国人2世の元島民が「いじめられたとか、指
さされて『あれは朝鮮人ぞ』とは全く聞いたことがない」などと証言している。加藤康子センター長は
「政治的な意図はない。約70人の元島民へのインタビューで、虐待を受けたという証言はなかった」
と説明。今後、インタビューを拡充していくという。(朝日新聞2020.6.14)

(3)  産業遺産情報センターの設置に使われた税金5億4千万円

産業遺産情報センターは、使われていなかった新宿区若松町の 総務省第二庁舎別館を改修して設置されたものですが、その建物の整備は飛島建設株式会社が142,000,000円で、設備などのハード部分を385,000,000円で株式会社乃村工藝社が行い、展示内容のソフト部分を産業遺産国民会議が12,100,000円で請負って設置されたもので、総額が約5億4千万円の税金がかかっています。
 そして、内閣官房産業遺産の世界遺産登録推進室の担当者の説明によると、ハード部分は内閣府の所有であるが、ソフト部分の著作権は、運営を委託している産業遺産国民会議にあると言っています。
このことは、国がお金を出して建物と設備を整備し、展示は政府がお金を出すが産業遺産国民会議に丸投げし展示内容もその団体の好き放題にお任せする仕組みを作っているということです。
そして、政府は運営を産業遺産国民会議に委託し、所長を同法人の専務理事の加藤康子氏に任命し、好き勝手な展示の仕組みをつくり出しているのです。

2. 一般財団法人産業遺産国民会議とはどのような団体か

 同団体の2013年6月に出された設立趣意書には「産業を支えた名もなき人々の尊い文明の仕事を次世代に継承することを目的とし、ここに国民会議を設立する」とされていますが、同団体のホームページでその実際の取組みを見ると、「産業を支えた名もなき人々」である労働者とその労働実態については焦点が当てられておらず、もっぱら強制労働の事実を如何になかったことにするかに情熱が注がれています。[iii]
 同団体の法人登記簿を見ると、2013年9月10日設立とされていますが、その設立目的には次のように書かれています。「この法人は、現役の産業設備を含む産業遺産の継承により、学術、科学技術及び文化の振興、並びに国際相互理解の促進に寄与することを目的とする」と。しかし、この法人は「国際相互理解の促進に寄与する」ことはなく、歴史を偽造、変造のセンターとなっているようです。
 更には、違法状態にある団体と思われることです。法人の登記簿謄本には、決算報告などの公告方法は「官報に掲載する方法により行う」と記載されていますが、設立以来の7年分の官報を検索しても、その決算報告は見当たらず一度も決算公告したことありません。
これは、決算公告を義務付け罰則まで定めている「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成18年法律第48号)」の違反であり、この団体は違法状態にある団体と言えます。また、同法人のホームページを見る限り、法人の総会開催されている記録も見当たりません。
 このような団体が、何故に産業遺産情報センターの運営の委託を受けるのか、安倍政権と産業遺産国民会議の癒着について次に解明します。

3. 安倍政権と産業遺産国民会議との関係

 (1) 安倍晋三と加藤康子はお友達
 加藤康子氏は、自民党の大物議員の一人であった加藤六月氏の娘で、現在の厚生労働大臣加藤勝信の義理の姉です。彼女は、国内外に多くの人脈を作っており世界遺産登録への可否を事前に審査するイコモスのオーストラリア、イギリス、カナダの関係者などを国費で日本に度々招いています。
産業遺産国民会議の理事、評議位に父・加藤六月氏のかつての人脈が名を連ね、代表理事に元大蔵事務次官の保田博氏や、名誉会長を引き受けた今井敬(新日本製鐵元社長、第9代経済団体連合会会長)などがいます。[iv]
更に、安倍晋三氏のお友達として、本や雑誌からニュースを掘り起こすインターネットサイトの『LITERA』(リテラ)が、2020.年6月17日配信の記事「安倍政権が軍艦島世界遺産で約束した徴用工の説明センターに『朝鮮人差別ない』の一方的証言! センター長は安倍首相の幼馴染のあの女性」と次のような記事を載せています。[v]

明治産業遺産は安倍首相が幼馴染の加藤康子氏に「俺がやらせてあげる」と言って始まった

 「週刊新潮」(新潮社)2015年5月21日増大号に掲載された彼女のインタビューによると、自民党が野党に転落していたころ、安倍晋三氏は「明治産業遺産」の世界遺産登録への熱意を語った康子氏にこう語ったという。
 「君がやろうとしていることは『坂の上の雲』だな。これは、俺がやらせてあげる」
 安倍首相は総裁の地位に返り咲いた3日後、彼女に電話をかけ、「産業遺産やるから」と、決意を語ったという。実際、第二次安倍政権誕生後のやり方は強引としか言いようのないものだった。文科省の文化審議会は2013年8月に「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」を正式に推薦候補として決定していたにもかかわらず、内閣官房の有識者会議は対抗するように「明治産業遺産」を正式推薦に選定した。


 (2)  第二次安倍内閣の誕生と産業遺産国民会議の設立

 それまでの民主党政権に替わって第二次安倍内閣が2012年12月26日に誕生しますが、その前の野田佳彦内閣の時に「稼働中の産業遺産又はこれを含む産業遺産群を世界遺産登録に向けて推薦する場合の取扱い等について」を2012年5月25日 閣議決定します。この閣議決定は、それまで文化庁が担当していた世界遺産登録を「稼働中の産業遺産」については、内閣官房が担当することにしたものですが、この閣議決定に至る裏側はまだ分かりません。
 安倍政権が誕生して半年後、加藤康子氏は、前出の設立趣意書を出して産業遺産国民会議の設立の取組みを始めます。
 そして、加藤康子氏は安倍内閣の一員として2015年7月2日より2019年7月31日まで、内閣官房参与(産業遺産の登録および観光振興を担当)に就任します。内閣官房はそれまで主に三菱総合研究所に委託していた事業を、2016年度予算から産業遺産国民会議に委託するようになります。その事業委託費は4年間で5億円を超えています。
 この事業委託は、発注側に内閣参与の加藤康子氏がおり、受注側に産業遺産国民会議の専務理事の加藤康子氏という同一人物がおり、違法な利益相反行為として疑いが持たれるものです。
 
2013年度 稼働中の産業遺産の世界遺産登録等に係る調査研究 株式会社三菱総合研究所 27,649,650円
2014年度 稼働中の産業遺産の世界遺産登録等に係る調査研究 株式会社三菱総合研究所 48,459,600円
2015年度 稼働中の産業遺産の世界遺産登録等        株式会社三菱総合研究所 19,980,000円
2016年度「明治日本の産業革命遺産」産業労働に係る調査 一般財団法人産業遺産国民会議
                                          89,640,000円
2017年度「明治日本の産業革命遺産」産業労働に係る調査 一般財団法人産業遺産国民会議
                                        145,800,000円
2018年度「明治日本の産業革命遺産」インタープリテーション更新に係る調査研究
   一般財団法人産業遺産国民会議   125,084,520円
2019年度明治日本の産業革命遺産」各サイトの歴史全体におけるインタープリテーションに係る調査研究
                          一般財団法人産業遺産国民会議  132,990,000 円 

4. 産業遺産情報センターの今後

 産業遺産の労働実態を含む普遍的価値が展示されなければならない産業遺産情報センターですが、残念ながらそのような展示になっていません。そこには改善すべき多くの課題が考えられますが、その根幹は産業遺産情報センターを偽りの展示で自己の歴史認識を宣伝する場に変質させている安倍政権とそのために国の資金を大量に消費している産業遺産国民会議をこの施設の運営から手を引かせることです。
 また、これまで調査研究が不十分であった産業遺産とそこでの労働実態の真相究明を更に進めることです。当該施設で働いた生存者の所在調査をはじめこれまでの聞き取りとその裏付け調査や、外国人労働者とともに日本人労働者の調査研究も必要な課題です。
 この度、日本政府が関係者との対話を一切行わず開設を強行したことは許されません。このような振舞いは、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」と宣言している日本国憲法に反するものです。
 さらに言えばユネスコ憲章に違反しています。ユネスコ憲章は「政府の政治的及び経済的取り決めのみに基づく平和は、世界の諸人民の、一致した、しかも永続する誠実な支持を確保できる平和ではない。よって、平和が失われないためには、人類の知的及び精神的連帯の上に築かれなければならない」と宣言しています。
日本政府が関係者との対話を誠実に行うことは、産業遺産の普遍的価値を正しく認識し、その普及に努めることと表裏一体のものです。何故ならば、産業遺産そのものが具現している強制労働の歴史を記憶し、表現し、継承することは必須の前提であり、日本政府が一方的な解釈で被害者側との対話を行わないままに、一方的な見解を述べて全てを終わりにしようとすることは許されません。
 政府が招集し報告を求めた「産業遺産情報センターに関する検討会」の問題もあります。委員は、伊東 孝(元日本大学教授、産業考古学会会長)、小野寺英輝(岩手大学理工学部准教授)、工藤 教和(座長、 慶應義塾大学名誉教授)、後藤 治(学校法人工学院大学理事長)、松岡 資明(学習院大学客員教授)の5名ですが、ここには近現代史の研究者や国際法学者が含まれていません。
日本政府が国際公約をしっかり守り、産業遺産国民会議設立趣意書にある「「産業を支えた名もなき人々の尊い文明の仕事を次世代に継承する」施設として展示内容の改善を求めて行きたいと考えます。
 また、産業遺産情報センターを使って、産業遺産の保全の普及啓蒙に貢献する「シンクタンク」として扱おうとしており、明治日本の産業革命遺産のインタープリテーションに関する認定制度をつくり、その人材育成研修と研修マニュアルを制定することを日本政府は考えていますが、このことは市民の歴史認識の形成を政府が管理し、政権の歴史認識を浸透させるものとなる危険性があります。[vi]
 安倍政権が進めている行政の私物化、政権と癒着した団体への業務委託システム、一方的で偏った歴史認識の宣伝と歴史の歪曲、これらをやめさせなければなりません。

小林 久公 (強制動員真相究明ネットワーク事務局次長) 2020年6月20日
連絡先 電話 090-2070-4423   Email q-ko@sea.plala.or.jp

[i]  産業遺産情報センター https://www.ihic.jp/

[ii]  内閣官房産業遺産の世界遺産登録推進室 http://www.cas.go.jp/jp/sangyousekaiisan/

[iii]  一般財団法人産業遺産国民会議 https://sangyoisankokuminkaigi.jimdo.com/

[iv]  『ウィキペディア(Wikipedia)』 

[v]   https://lite-ra.com/2020/06/post-5480_3.html

[vi]  ユネスコ世界遺産センターへの保全状況報告書(2017年) https://www.cas.go.jp/jp/sangyousekaiisan/state_of_conservation_report.html


明治日本の産業革命世界遺産の歴史的価値とは

2020-04-13 23:41:40 | 日記
日本政府は明治日本の産業革命世界遺産の歴史的価値を正しく表示せよ
                          小林 久公

1. 日本政府は、関係者との対話を誠実に履行せよ

 2015年7月5日、第39回世界遺産委員会 におい明治日本の産業革命遺産について、日本政府は「「日本は,1940年代にいくつかのサイトにおいて,その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと,また,第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である」と発言してユネスコ世界遺産に登録することができた。

 この第39回世界遺産委員会は、世界遺産の登録に当たって、日本政府に「各サイト の歴史全体についても理解できるインタープリテーション(展示)戦略とすること」(g項目)と勧告した。

 この勧告の対応について強制動員真相究明ネットワークは、当時内閣参与をしていた加藤康子氏と内閣官房の産業遺産の世界遺産登録推進室の今村氏と面談したことがある。  その席では、三者とも「歴史の事実を展示する」との認識を共有したが、その後の推移は「歴史の事実」について正しく表示するものとはなっていない。この時の面談で、加藤氏が「私は、自分がやってきたことなので、無給でこの参与を引き受けている、全部私のポケットマネーです」と冒頭から言い出したことに私は違和感を持った記憶がある。何故にそのようなことを言い出したのかと気になったのであるが、その時すでに内閣参与が無報酬でも、多額の税金が流れ込むシステムが動き出していたことを私たちはまだ知る由も無かったのである。

 この勧告に対する日本政府の進捗状況の報告は、2017年11月30日に「保全状況報告書」としてユネスコ世界遺産センターに提出された。

 そこでは「3) 産業労働の展示は、顕著な普遍的価値に重点を置くことを前提に、顕著な普遍的価値の対象期間における日本の産業労働に焦点を当てつつ、当該対象期間以外の産業労働については、第二次大戦中に日本政府としても国家総動員法に基づく徴用政策を実施し、戦前・戦中・戦後に多くの朝鮮半島出身者が日本の産業の現場を支えていたことが理解できる展示に取り組む」とされていた。
 「その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者」の規範が「朝鮮半島出身者が日本の産業の現場を支えていた」と大きく書き換えられていたのである。
 このことに対し韓国社会から批判の声が上がった。強制動員真相糾明ネットワークも韓国の市民団体と共に共同声明を出し、また、2018年5月18日に「意見書」をユネスコ世界遺産センターに送った。
 相対立する意見がユネスコに提出され、2018年7月の第42回世界遺産委員会では、日本政府に「関係者との対話を継続することを促し」(第10項)との勧告を行い、2019年12月1日までに履行状況を報告することを求めることになった。
 第42回世界遺産委員会が求める「関係者の対話」とは、当然に韓国政府や意見書を提出している日韓の市民団体と日本政府との対話を求めているものであるが、日本政府は対話を実施せずに、2019年11月29日に「報告書」を世界遺産委員会の事務局のユネスコ世界遺産センターに一方的に提出した。

 この間に、韓国政府からの「持続的な対話要請」が行われ、それに日本政府が応じないままであるとの報道もあり、私が外務省北東アジアに、韓国政府から明治の産業革命世界遺産について「持続的な対話要請」が届いているかを確認したところ、「その話が有ったことは聞いている。韓国政府からは何度か明治の産業革命世界遺産についての発言があるので、局長級や担当者との間での協議の中で日本側も発言している」と協議を行っているとの趣旨の回答であった。しかし、昨年11月29日にユネスコ世界遺産センターに提出した報告書には、そのように書かれていないことを指摘するとその担当者は、その報告書を知らないようであった。

 2019年の保全報告書を作成する過程で日本政府は新たな変造を行った。勧告第10項の「関係者との対話を継続することを促し」の関係者から韓国政府や強制動員被害者を除外したのである。

そして「関係者との対話について『明治日本の産業革命遺産』の関係者間において、定期的に協議を行い、幅広い対話に努めてきた」と報告していたのである。これが虚偽でなくて何であろうか。
主たる関係者を排除し、「関係省庁、地方公共団体、資産所有者、管理者をはじめ、国内外の専門家、地域コミュニティ、観光関係の事業者及び地方公共団体・商工会議所・観光協会で構成される協議会等」と「積極的な対話に努めてきた」と報告をしているのである。
 このような日本政府の振舞いは、国際的な約束に違反し、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」と宣言している日本国憲法に違反する行為である。
 さらに言えば「政府の政治的及び経済的取り決めのみに基づく平和は、世界の諸人民の、一致した、しかも永続する誠実な支持を確保できる平和ではない。よって、平和が失われないためには、人類の知的及び精神的連帯の上に築かれなければならない」と宣言して始まったユネスコ憲章に違反するものである。

 日本政府が関係者との対話を誠実に行うことは、産業遺産の普遍的価値を正しく認識し、その普及に努めることと表裏一体のものである。何故ならば、産業遺産そのものが具現している強制労働の歴史を記憶し、表現し、継承することは必須の前提であり、日本政府が一方的な解釈で被害者側との対話を行わないままに、一方的な見解を述べて全てを終わりにしようとすることは恥ずかしい限りである。まさに強制労働と一帯のものとして明治日本の産業革命世界遺産の普遍的価値があるのであり、そのことを理解しない日本政府は、普遍的価値そのものを理解せず、展示する能力を失っていると言わざるをえない。

この日本政府の報告書は、本年6月29日から中国で開催される第44回世界遺産委員会において審議される予定である。そして、東京に産業遺産情報センターが一方的に開設されることになったのである。

2.  産業遺産情報センターの設置について

 前述した2015年の世界遺産登録時に日本政府は「日本は,1940年代にいくつかのサイトにおいて,その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと,また,第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である」と述べ「その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたことを理解できるような措置を講じる」と発言し約束した。
 そして、2017年11月30日にユネスコ世界遺産センターに提出した保全状況報告書で、「内閣官房は、産業労働に関する一次史料を、2019 年度中を目途に東京に設置が予定されている『産業遺産情報センター』において一般市民に共有する方向で検討している」ことを表明した。

 「産業遺産情報センター」の設置について「第39回世界遺産委員会における決議(39COM 8B.14)の採択時に、勧告g)の脚注として日本政府のステートメントの記録が言及された。このため、日本政府は、2019 年度中を目途に総合的な情報センターとして『産業遺産情報センター』を東京に設置する方針であり、そのための費用を2018 年度予算案に計上することを検討している。同センターは、産業遺産の保全の普及啓蒙に貢献する『シンクタンク』として、『明治日本の産業革命遺産』の資産全体を中心としつつ、産業労働を含む産業遺産に関する他の情報も発信する予定である。内容の詳細は現在検討中である」と同報告書で述べ明治日本の産業革命遺産のインタープリテーションに関する認定制度をつくり、その人材育成研修と研修マニュアルを制定することを表明した。

 このことは市民の歴史認識の形成を政府が管理し、政権の歴史認識を浸透させるものとして極めて危険な施策の実施を表明したものである。安倍政権が進める歴史歪曲の中心的な宣伝センターとしての役割を産業遺産情報センターが担うことになる極めて危険な構想であった。残念ながら私は、この危険な構想を当時はまだ見抜けないでいた。しかし、このような危険な構想を含む日本政府の2017年の報告書に対して、この報告書を審査した2018年の第42回世界遺産委員会は、「関係者との対話を継続することを促し」との勧告を日本政府に行ったことは前述した通りである。
 だが、関係者との対話を行わないまま本年年3月31日に産業遺産情報センターの開所式を実行した。
 この日本政府のこの公式発表前の3月30日に安倍政権の歴史変造の代弁者となっている産経新聞が次のように伝えた。

 「『産業遺産情報センター』を東京都内に設置することが30日、分かった。31日に開館記念式典を開く。軍艦島の元島民の証言動画や給与明細などを紹介し、朝鮮半島出身者が差別的な扱いを受けたとする韓国側の主張とは異なる実態を伝える」、「情報センターを運営する一般財団法人「産業遺産国民会議」の加藤康子専務理事は産経新聞の取材に対し『一次史料や当時を知る証言を重視した。元島民から話を聞いたが、朝鮮人が虐待されたという証言は聞かなかった。判断は見学者の解釈に任せたい』と語った」という内容の記事である。危惧は現実となって表れた。

私は、国際社会と日本の市民が、このような安倍政権の措置を監視し、批判し、日本政府が責任を持って歴史的価値を正しく表示するように取り組むことを願ってやまない。

3.  明治日本の産業革命世界遺産で使っている税金とその使い道

 内閣府の毎年度の明治日本の産業革命世界遺産に関係する予算額は次の通りである。産業遺産の世界遺産登録推進経費は2013年度から計上され、当初は内閣府の地域活性化推進経費の中に計上されていたが、2016年度からは独立した事業として登場する、内閣官房予算の中の単独事業として産業遺産の世界遺産登録推進経費として計上されるようになったのである。その予算額の毎年度分の金額を内閣官房がホームページに公開している「歳出概算要求額明細表」から拾うと次の通りである。
 
2013年度 産業遺産の世界遺産登録推進経費 予算額 29,461千円
      調査謝金として技師に一日当たり47~27千円、諸謝金として国内専門家分806千円、海外
                    専門家としてイギリス1,440千円、カナダ2,341千円、オーストラリア1,574千円がある。 
                    
2014年度 産業遺産の世界遺産登録推進経費 予算額 55,083千円
      調査謝金として技師に一日当44~25千円、
                      諸謝金として有識者会議2,265千円、
                      国内教授級1時間当8.100円、海外専門家1時間当11,600円も。
                      この他に旅費合計19,471千円の外に国際会議出席旅費1,200千円がある

2015年度 予算合計 143.001千円
委員手当        予算額  2,956千円
非常勤職員手当      予算額  15,648千円
諸謝金         予算額  71,575千円 
(国内専門家1,084千円、海外専門家5,355千円がある)
      職員旅費        予算額  20,368千円
委員等旅費       予算額  9,823千円
庁費          予算額  19,069千円
                   情報処理業務庁費    予算額  3,562千円 
                                
2016年度 予算合計 194,203千円
委員手当        予算額  0千円
非常勤職員手当      予算額  0千円
諸謝金         予算額 183,381千円
(国内専門家427千円、海外専門家20,293千円がある)
      職員旅費        予算額   5,549千円
委員等旅費       予算額  3,354千円
庁費          予算額  1,919千円
                    情報処理業務庁費    予算額   0千円 
                                
2017年度 予算合計 291,629千円
諸謝金         予算額 279,946千円
(国内専門家1,437千円、海外専門家7,423千円がある)
      職員旅費        予算額   5,851千円
委員等旅費       予算額  4,172千円
                  庁費          予算額  1,660千円 
                            
2018年度 予算合計 222,714千円
諸謝金         予算額 211,045千円
(国内有識者1,437千円、海外有識者12,837千円がある)
      職員旅費        予算額   6,034千円
委員等旅費       予算額  3,980千円
                   庁費          予算額  1,655千円

2019年度 予算合計 200,399千円
諸謝金         予算額 188,268千円
(稼働中の産業遺産調査費58,021千円に、国内有識者5,173千円、海外有識者13,940千円)
      (総合戦略に係る調査経費54,858千円に、海外有識者関係で18,793千円がある)
(歴史調査に係る調査経費34,616千円に、国内有識者15,596千円、海外有識者3,915千円)
(世界遺産専門家研究に係る調査経費40,773千円に産業労働勉強会講師謝金1回当500千円)
      職員旅費        予算額 6,143千円
委員等旅費        予算額 4,329千円
                    庁費          予算額  1,659千円  
                           
2020年度 概算要求合計 180,312千円
      諸謝金       概算要求額 170,549千円
      職員旅費      概算要求額   4,486千円
委員等旅費     概算要求額  4,031千円
庁費        概算要求額  1,246千円
                          
 この8年間の明治日本の産業革命世界遺産り税金支出は、おおよそ13億円を超えることとなる。また、内閣官房のホームページに公開されている「委託調査費の支出状況」によると、明治日本の産業革命世界遺産に関係する調査事業が次のように委託され支払われている。

2013年度 稼働中の産業遺産の世界遺産登録等に係る調査研究 株式会社三菱総合研究所 27,649,650円

2014年度 稼働中の産業遺産の世界遺産登録等に係る調査研究 株式会社三菱総合研究所 48,459,600円

2015年度 稼働中の産業遺産の世界遺産登録等 株式会社三菱総合研究所 19,980,000円

2016年度「明治日本の産業革命遺産」産業労働に係る調査 一般財団法人産業遺産国民会議  89,640,000円

2017年度「明治日本の産業革命遺産」産業労働に係る調査 一般財団法人産業遺産国民会議 145,800,000円

2018年度「明治日本の産業革命遺産」インタープリテーション更新に係る調査研究
一般財団法人産業遺産国民会議 125,084,520円

2019年度明治日本の産業革命遺産」各サイトの歴史全体におけるインタープリテーションに係る調査研究  一般財団法人産業遺産国民会議  132,990,000 円

 合計すると始の3年間は株式会社三菱総合研究所が独占しており、受注額は3件で96,089,250円、一般財団法人産業遺産国民会議がその後4年間の受注を独占しており、合計受注額は493,514,520円である。

 2019年度までの予算額のこの委託調査費の合計は、589,603,770円となる。この額は2019年度までの予算の49%を占めている。
 残りの50%の多くは、旅費と謝金であり、その受取人はイコモス(国際記念物遺跡会議)の海外の専門家と国内の御用学者に支払われていると思われる。
また、同財団は、2015年9月に「産業遺産のデジタルドキュメンテーション展企画・運営事業」を文部科学省から受託し、財務省造幣局からも「世界遺産貨幣セット用小冊子編集業務 一式」、「世界遺産貨幣セット用小冊子編集業務」を受託している。

4.  一般財団法人産業遺産国民会議とは

 一般財団法人産業遺産国民会議は、2013年9月10日に「産業遺産の継承により、学術、科学技術及び文化の振興、並びに国際相互理解の促進に寄与することを目的」に設立された民間団体である。日本政府の一般競争入札D級の資格を持ち、業者コード0000174908 法人番号010005021418である。

 同法人は、前述したとおりこれまでに約5億円の資金を国から得ているが、財団の決算報告は公表されていない。一般財団法人は、法律で決算報告が義務付けられており、違反の罰則規定も定められている。
 同法人の登記簿謄本によると、法人設立や決算報告などの公告について「官報に掲載する方法により行う」としているが、同法人が設立された2013年9月10日以降、本日まで官報に一つの掲載もされていない。これは、同法人が設立から本日まで違法状態にあるということである。同法人のホームページを見ても定款や評議会の議事録も無ければ、2018年度以降は理事会や評議会の開催記録の記載もない。
 
 この財団の設立当初からの専務理事が加藤康子氏である。同氏は、安倍内閣における内閣官房参与(産業遺産の登録および観光振興を担当)を2015年7月2日から2019年7月31日まで務めていた。この間に内閣官房が行った一般財団法人産業遺産国民会議との入札契約は、実質的に利益相反取引に当たるものであり違法な委託契約であると思われる。逆に言えば、明治日本の産業革命世界遺産に関して、加藤康子氏らの産業遺産国民会議に内閣官房が牛耳られている異常な状況が今日まで続いているということである。そして、加藤康子氏らのために税金が湯水のごとく流れ出ているということである。

 一般財団法人産業遺産国民会議は、2015年7月5日の第39回世界遺産委員会 において日本政府日本政府が約束した「日本は,1940年代にいくつかのサイトにおいて,その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと,また,第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である」について、朝鮮人や中国人の強制労働現場として有名な端島についてそのホームページで次のように記載しているのである。

 端島炭坑は、高島より南西3kmに位置し、高島炭坑と同じ、西彼杵海底炭田を鉱床とする。三菱は高島の炭鉱経営に成功したことを機に、端島の購入を決断。同じ炭田を鉱床としているため、高島と同様に炭質がよく、高値で売れた。1891年より端島から出炭をし、1897年には端島は出炭量で高島を凌駕したが、採炭量が増加すると、採炭により出てくるボタで、島の周囲を埋立て、島を拡張した。
岩塊の小島を取り巻く新たな土地は、高波から島を守るため、要塞のような護岸に囲まれた。最盛期、端島は世界で最も人口過密な炭鉱コミュニティであった。
 
 当初は「その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者」であったものを、次には「朝鮮半島出身者が日本の産業の現場を支えていた」と変更し、そして「炭鉱コミュニティであった」と説明するのみで、日本人をはじめ朝鮮人や中国人、連合軍捕虜の強制労働の現場であったことについての説明は一切削除してしまっているのである。
 削除するだけでなく『軍艦島の真実-朝鮮人徴用工の検証-』というWEBページを作成し、「本ウェブサイトで配信する証言は、 証言者の記憶に基づいたもので、 事実にあいまいな点が含まれることをご留意下さい」と言い訳をしながら、軍艦島の歴史について事実でない主張を事実として世界に伝え、歴史を歪め、さらなる誤解を生みだしているのである。
 このような一般財団法人 産業遺産国民会議が、内閣官房が設置した産業遺産情報センターの管理運営を行うのであるから、その展示がどのようなものになるかを予想することは難しくない。

5.  明治日本の産業革命世界遺産の普遍的価値とは何か

 明治日本の産業革命世界遺産の認定に当たり、第39 回世界遺産委員会は、その普遍的価値について次のように認定した。 

① 19 世 紀 の 半ば、封建社会の日本が、欧米からの技術移転を模索し、西洋技術を移転する過程において、具体的な国内需要や社会的伝統に合わせて応用と実践を重ね、20世紀初めには世界有数の産業国家に変貌を遂げた道程を顕している。
本遺産群は、産業のアイデア、ノウハウ、設備機器のたぐい希な東西文化の交流が、極めて短期間 のうちに、重工業 分野において嘗てない自力の産業発展を遂げることで、東アジアに 深大な影響を与えた。

② 製鉄・製鋼、造船、石炭産業 など、基幹産業 における技術の集合体として、非西洋諸国 において初めて産業化に成功した、世界史上類例のない、日本の達成を証言している。西洋の産業の価値観へのアジアの文化的対応としても、産業 遺産群の傑出した技術の集合体であり、西洋技術の国内における改善や応用を基礎として急速かつ独特の日本の産業化を顕している。

 このような世界遺産としての普遍的価値を説明することを主なテーマとして設置される産業遺産情報センターは、この世界遺産が語っている普遍的価値として、次のような説明すべきである。
 日本が「20世紀初めには世界有数の産業国家に変貌を遂げた道程を顕している」と評価されているのであるから、その「道程」がどのようなものであったのかについて説明すべきである。
 欧米からの技術移転を成し遂げたのは、そこで働く労働者たちの労働であり、その労働実態は国内需要や社会的伝統に合わせて過酷なものであったことを説明すべきである。世界遺産として残されたこれらの施設を建設した人々はどのような人々であったのか、その建設を成し遂げた労働者たち、その施設を稼働させていた労働者たち、その人間とその労働実態を各施設で説明すべきである。
 この産業遺産は「産業発展を遂げることで、東アジアに 深大な影響を与えた」歴史を語るものである。日本がどのようにして東アジアを侵略して行くことになったのか、その力はどのように形成されたのか、そして、日本は何故敗北したのか、その歴史をこの世界遺産は物語っている。だからこそ、その歴史を説明することが必要である。
「急速かつ独特の日本の産業化を顕している」とされるこの世界遺産は、日本の労働実態の「独特さ」を物語っているが、そのことは一つも説明されていない。当時の日本に於ける独特な封建的強制労働の実態について説明すべきである。

 日本政府は明治日本の産業革命世界遺産の歴史的価値を正しく継承し表示しなければならないが、それを損ねているのが一般財団法人産業遺産国民会議であり、そこに毎年度資金を与えているのが安倍政権の公共の私物化である。私は、最後にこのことを糾弾して本論を閉じることとする。

小林 久公 (強制動員真相糾明ネットワーク 事務局次長)  2020年4月11日
連絡先 電話 090-2070-4423   Email q-ko@sea.plala.or.jp


明治日本の産業革命世界遺産 1.日本政府は、関係者との対話を誠実に履行せよ

2020-04-13 11:11:48 | 日記
日本政府は明治日本の産業革命世界遺産の歴史的価値を正しく表示せよ
                             小林 久公
1. 日本政府は、関係者との対話を誠実に履行せよ
 2015年7月5日、第39回世界遺産委員会 におい明治日本の産業革命遺産について、日本政府は「「日本は,1940年代にいくつかのサイトにおいて,その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと,また,第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である」と発言してユネスコ世界遺産に登録することができた。
 この第39回世界遺産委員会は、世界遺産の登録に当たって、日本政府に「各サイト の歴史全体についても理解できるインタープリテーション(展示)戦略とすること」(g項目)と勧告した。
 この勧告の対応について強制動員真相究明ネットワークは、当時内閣参与をしていた加藤康子氏と内閣官房の産業遺産の世界遺産登録推進室の今村氏と面談したことがある。  その席では、三者とも「歴史の事実を展示する」との認識を共有したが、その後の推移は「歴史の事実」について正しく表示するものとはなっていない。この時の面談で、加藤氏が「私は、自分がやってきたことなので、無給でこの参与を引き受けている、全部私のポケットマネーです」と冒頭から言い出したことに私は違和感を持った記憶がある。何故にそのようなことを言い出したのかと気になったのであるが、その時すでに内閣参与が無報酬でも、多額の税金が流れ込むシステムが動き出していたことを私たちはまだ知る由も無かったのである。
 この勧告に対する日本政府の進捗状況の報告は、2017年11月30日に「保全状況報告書」としてユネスコ世界遺産センターに提出された。
 そこでは「3) 産業労働の展示は、顕著な普遍的価値に重点を置くことを前提に、顕著な普遍的価値の対象期間における日本の産業労働に焦点を当てつつ、当該対象期間以外の産業労働については、第二次大戦中に日本政府としても国家総動員法に基づく徴用政策を実施し、戦前・戦中・戦後に多くの朝鮮半島出身者が日本の産業の現場を支えていたことが理解できる展示に取り組む」とされていた。
「その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者」の規範が「朝鮮半島出身者が日本の産業の現場を支えていた」と大きく書き換えられていたのである。
このことに対し韓国社会から批判の声が上がった。強制動員真相糾明ネットワークも韓国の市民団体と共に共同声明を出し、また、2018年5月18日に「意見書」をユネスコ世界遺産センターに送った。
相対立する意見がユネスコに提出され、2018年7月の第42回世界遺産委員会では、日本政府に「関係者との対話を継続することを促し」(第10項)との勧告を行い、2019年12月1日までに履行状況を報告することを求めることになった。
第42回世界遺産委員会が求める「関係者の対話」とは、当然に韓国政府や意見書を提出している日韓の市民団体と日本政府との対話を求めているものであるが、日本政府は対話を実施せずに、2019年11月29日に「報告書」を世界遺産委員会の事務局のユネスコ世界遺産センターに一方的に提出した。
この間に、韓国政府からの「持続的な対話要請」が行われ、それに日本政府が応じないままであるとの報道もあり、私が外務省北東アジアに、韓国政府から明治の産業革命世界遺産について「持続的な対話要請」が届いているかを確認したところ、「その話が有ったことは聞いている。韓国政府からは何度か明治の産業革命世界遺産についての発言があるので、局長級や担当者との間での協議の中で日本側も発言している」と協議を行っているとの趣旨の回答であった。しかし、昨年11月29日にユネスコ世界遺産センターに提出した報告書には、そのように書かれていないことを指摘するとその担当者は、その報告書を知らないようであった。
 2019年の保全報告書を作成する過程で日本政府は新たな変造を行った。勧告第10項の「関係者との対話を継続することを促し」の関係者から韓国政府や強制動員被害者を除外したのである。
そして「関係者との対話について『明治日本の産業革命遺産』の関係者間において、定期的に協議を行い、幅広い対話に努めてきた」と報告していたのである。これが虚偽でなくて何であろうか。
主たる関係者を排除し、「関係省庁、地方公共団体、資産所有者、管理者をはじめ、国内外の専門家、地域コミュニティ、観光関係の事業者及び地方公共団体・商工会議所・観光協会で構成される協議会等」と「積極的な対話に努めてきた」と報告をしているのである。
 このような日本政府の振舞いは、国際的な約束に違反し、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」と宣言している日本国憲法に違反する行為である。
 さらに言えば「政府の政治的及び経済的取り決めのみに基づく平和は、世界の諸人民の、一致した、しかも永続する誠実な支持を確保できる平和ではない。よって、平和が失われないためには、人類の知的及び精神的連帯の上に築かれなければならない」と宣言して始まったユネスコ憲章に違反するものである。
 日本政府が関係者との対話を誠実に行うことは、産業遺産の普遍的価値を正しく認識し、その普及に努めることと表裏一体のものである。何故ならば、産業遺産そのものが具現している強制労働の歴史を記憶し、表現し、継承することは必須の前提であり、日本政府が一方的な解釈で被害者側との対話を行わないままに、一方的な見解を述べて全てを終わりにしようとすることは恥ずかしい限りである。まさに強制労働と一帯のものとして明治日本の産業革命世界遺産の普遍的価値があるのであり、そのことを理解しない日本政府は、普遍的価値そのものを理解せず、展示する能力を失っていると言わざるをえない。
この日本政府の報告書は、本年6月29日から中国で開催される第44回世界遺産委員会において審議される予定である。そして、東京に産業遺産情報センターが一方的に開設されることになったのである。