日本政府は明治日本の産業革命世界遺産の歴史的価値を正しく表示せよ
小林 久公
1. 日本政府は、関係者との対話を誠実に履行せよ
2015年7月5日、第39回世界遺産委員会 におい明治日本の産業革命遺産について、日本政府は「「日本は,1940年代にいくつかのサイトにおいて,その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと,また,第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である」と発言してユネスコ世界遺産に登録することができた。
この第39回世界遺産委員会は、世界遺産の登録に当たって、日本政府に「各サイト の歴史全体についても理解できるインタープリテーション(展示)戦略とすること」(g項目)と勧告した。
この勧告の対応について強制動員真相究明ネットワークは、当時内閣参与をしていた加藤康子氏と内閣官房の産業遺産の世界遺産登録推進室の今村氏と面談したことがある。 その席では、三者とも「歴史の事実を展示する」との認識を共有したが、その後の推移は「歴史の事実」について正しく表示するものとはなっていない。この時の面談で、加藤氏が「私は、自分がやってきたことなので、無給でこの参与を引き受けている、全部私のポケットマネーです」と冒頭から言い出したことに私は違和感を持った記憶がある。何故にそのようなことを言い出したのかと気になったのであるが、その時すでに内閣参与が無報酬でも、多額の税金が流れ込むシステムが動き出していたことを私たちはまだ知る由も無かったのである。
この勧告に対する日本政府の進捗状況の報告は、2017年11月30日に「保全状況報告書」としてユネスコ世界遺産センターに提出された。
そこでは「3) 産業労働の展示は、顕著な普遍的価値に重点を置くことを前提に、顕著な普遍的価値の対象期間における日本の産業労働に焦点を当てつつ、当該対象期間以外の産業労働については、第二次大戦中に日本政府としても国家総動員法に基づく徴用政策を実施し、戦前・戦中・戦後に多くの朝鮮半島出身者が日本の産業の現場を支えていたことが理解できる展示に取り組む」とされていた。
「その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者」の規範が「朝鮮半島出身者が日本の産業の現場を支えていた」と大きく書き換えられていたのである。
このことに対し韓国社会から批判の声が上がった。強制動員真相糾明ネットワークも韓国の市民団体と共に共同声明を出し、また、2018年5月18日に「意見書」をユネスコ世界遺産センターに送った。
相対立する意見がユネスコに提出され、2018年7月の第42回世界遺産委員会では、日本政府に「関係者との対話を継続することを促し」(第10項)との勧告を行い、2019年12月1日までに履行状況を報告することを求めることになった。
第42回世界遺産委員会が求める「関係者の対話」とは、当然に韓国政府や意見書を提出している日韓の市民団体と日本政府との対話を求めているものであるが、日本政府は対話を実施せずに、2019年11月29日に「報告書」を世界遺産委員会の事務局のユネスコ世界遺産センターに一方的に提出した。
この間に、韓国政府からの「持続的な対話要請」が行われ、それに日本政府が応じないままであるとの報道もあり、私が外務省北東アジアに、韓国政府から明治の産業革命世界遺産について「持続的な対話要請」が届いているかを確認したところ、「その話が有ったことは聞いている。韓国政府からは何度か明治の産業革命世界遺産についての発言があるので、局長級や担当者との間での協議の中で日本側も発言している」と協議を行っているとの趣旨の回答であった。しかし、昨年11月29日にユネスコ世界遺産センターに提出した報告書には、そのように書かれていないことを指摘するとその担当者は、その報告書を知らないようであった。
2019年の保全報告書を作成する過程で日本政府は新たな変造を行った。勧告第10項の「関係者との対話を継続することを促し」の関係者から韓国政府や強制動員被害者を除外したのである。
そして「関係者との対話について『明治日本の産業革命遺産』の関係者間において、定期的に協議を行い、幅広い対話に努めてきた」と報告していたのである。これが虚偽でなくて何であろうか。
主たる関係者を排除し、「関係省庁、地方公共団体、資産所有者、管理者をはじめ、国内外の専門家、地域コミュニティ、観光関係の事業者及び地方公共団体・商工会議所・観光協会で構成される協議会等」と「積極的な対話に努めてきた」と報告をしているのである。
このような日本政府の振舞いは、国際的な約束に違反し、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」と宣言している日本国憲法に違反する行為である。
さらに言えば「政府の政治的及び経済的取り決めのみに基づく平和は、世界の諸人民の、一致した、しかも永続する誠実な支持を確保できる平和ではない。よって、平和が失われないためには、人類の知的及び精神的連帯の上に築かれなければならない」と宣言して始まったユネスコ憲章に違反するものである。
日本政府が関係者との対話を誠実に行うことは、産業遺産の普遍的価値を正しく認識し、その普及に努めることと表裏一体のものである。何故ならば、産業遺産そのものが具現している強制労働の歴史を記憶し、表現し、継承することは必須の前提であり、日本政府が一方的な解釈で被害者側との対話を行わないままに、一方的な見解を述べて全てを終わりにしようとすることは恥ずかしい限りである。まさに強制労働と一帯のものとして明治日本の産業革命世界遺産の普遍的価値があるのであり、そのことを理解しない日本政府は、普遍的価値そのものを理解せず、展示する能力を失っていると言わざるをえない。
この日本政府の報告書は、本年6月29日から中国で開催される第44回世界遺産委員会において審議される予定である。そして、東京に産業遺産情報センターが一方的に開設されることになったのである。
2. 産業遺産情報センターの設置について
前述した2015年の世界遺産登録時に日本政府は「日本は,1940年代にいくつかのサイトにおいて,その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと,また,第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である」と述べ「その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたことを理解できるような措置を講じる」と発言し約束した。
そして、2017年11月30日にユネスコ世界遺産センターに提出した保全状況報告書で、「内閣官房は、産業労働に関する一次史料を、2019 年度中を目途に東京に設置が予定されている『産業遺産情報センター』において一般市民に共有する方向で検討している」ことを表明した。
「産業遺産情報センター」の設置について「第39回世界遺産委員会における決議(39COM 8B.14)の採択時に、勧告g)の脚注として日本政府のステートメントの記録が言及された。このため、日本政府は、2019 年度中を目途に総合的な情報センターとして『産業遺産情報センター』を東京に設置する方針であり、そのための費用を2018 年度予算案に計上することを検討している。同センターは、産業遺産の保全の普及啓蒙に貢献する『シンクタンク』として、『明治日本の産業革命遺産』の資産全体を中心としつつ、産業労働を含む産業遺産に関する他の情報も発信する予定である。内容の詳細は現在検討中である」と同報告書で述べ明治日本の産業革命遺産のインタープリテーションに関する認定制度をつくり、その人材育成研修と研修マニュアルを制定することを表明した。
このことは市民の歴史認識の形成を政府が管理し、政権の歴史認識を浸透させるものとして極めて危険な施策の実施を表明したものである。安倍政権が進める歴史歪曲の中心的な宣伝センターとしての役割を産業遺産情報センターが担うことになる極めて危険な構想であった。残念ながら私は、この危険な構想を当時はまだ見抜けないでいた。しかし、このような危険な構想を含む日本政府の2017年の報告書に対して、この報告書を審査した2018年の第42回世界遺産委員会は、「関係者との対話を継続することを促し」との勧告を日本政府に行ったことは前述した通りである。
だが、関係者との対話を行わないまま本年年3月31日に産業遺産情報センターの開所式を実行した。
この日本政府のこの公式発表前の3月30日に安倍政権の歴史変造の代弁者となっている産経新聞が次のように伝えた。
「『産業遺産情報センター』を東京都内に設置することが30日、分かった。31日に開館記念式典を開く。軍艦島の元島民の証言動画や給与明細などを紹介し、朝鮮半島出身者が差別的な扱いを受けたとする韓国側の主張とは異なる実態を伝える」、「情報センターを運営する一般財団法人「産業遺産国民会議」の加藤康子専務理事は産経新聞の取材に対し『一次史料や当時を知る証言を重視した。元島民から話を聞いたが、朝鮮人が虐待されたという証言は聞かなかった。判断は見学者の解釈に任せたい』と語った」という内容の記事である。危惧は現実となって表れた。
私は、国際社会と日本の市民が、このような安倍政権の措置を監視し、批判し、日本政府が責任を持って歴史的価値を正しく表示するように取り組むことを願ってやまない。
3. 明治日本の産業革命世界遺産で使っている税金とその使い道
内閣府の毎年度の明治日本の産業革命世界遺産に関係する予算額は次の通りである。産業遺産の世界遺産登録推進経費は2013年度から計上され、当初は内閣府の地域活性化推進経費の中に計上されていたが、2016年度からは独立した事業として登場する、内閣官房予算の中の単独事業として産業遺産の世界遺産登録推進経費として計上されるようになったのである。その予算額の毎年度分の金額を内閣官房がホームページに公開している「歳出概算要求額明細表」から拾うと次の通りである。
2013年度 産業遺産の世界遺産登録推進経費 予算額 29,461千円
調査謝金として技師に一日当たり47~27千円、諸謝金として国内専門家分806千円、海外
専門家としてイギリス1,440千円、カナダ2,341千円、オーストラリア1,574千円がある。
2014年度 産業遺産の世界遺産登録推進経費 予算額 55,083千円
調査謝金として技師に一日当44~25千円、
諸謝金として有識者会議2,265千円、
国内教授級1時間当8.100円、海外専門家1時間当11,600円も。
この他に旅費合計19,471千円の外に国際会議出席旅費1,200千円がある
2015年度 予算合計 143.001千円
委員手当 予算額 2,956千円
非常勤職員手当 予算額 15,648千円
諸謝金 予算額 71,575千円
(国内専門家1,084千円、海外専門家5,355千円がある)
職員旅費 予算額 20,368千円
委員等旅費 予算額 9,823千円
庁費 予算額 19,069千円
情報処理業務庁費 予算額 3,562千円
2016年度 予算合計 194,203千円
委員手当 予算額 0千円
非常勤職員手当 予算額 0千円
諸謝金 予算額 183,381千円
(国内専門家427千円、海外専門家20,293千円がある)
職員旅費 予算額 5,549千円
委員等旅費 予算額 3,354千円
庁費 予算額 1,919千円
情報処理業務庁費 予算額 0千円
2017年度 予算合計 291,629千円
諸謝金 予算額 279,946千円
(国内専門家1,437千円、海外専門家7,423千円がある)
職員旅費 予算額 5,851千円
委員等旅費 予算額 4,172千円
庁費 予算額 1,660千円
2018年度 予算合計 222,714千円
諸謝金 予算額 211,045千円
(国内有識者1,437千円、海外有識者12,837千円がある)
職員旅費 予算額 6,034千円
委員等旅費 予算額 3,980千円
庁費 予算額 1,655千円
2019年度 予算合計 200,399千円
諸謝金 予算額 188,268千円
(稼働中の産業遺産調査費58,021千円に、国内有識者5,173千円、海外有識者13,940千円)
(総合戦略に係る調査経費54,858千円に、海外有識者関係で18,793千円がある)
(歴史調査に係る調査経費34,616千円に、国内有識者15,596千円、海外有識者3,915千円)
(世界遺産専門家研究に係る調査経費40,773千円に産業労働勉強会講師謝金1回当500千円)
職員旅費 予算額 6,143千円
委員等旅費 予算額 4,329千円
庁費 予算額 1,659千円
2020年度 概算要求合計 180,312千円
諸謝金 概算要求額 170,549千円
職員旅費 概算要求額 4,486千円
委員等旅費 概算要求額 4,031千円
庁費 概算要求額 1,246千円
この8年間の明治日本の産業革命世界遺産り税金支出は、おおよそ13億円を超えることとなる。また、内閣官房のホームページに公開されている「委託調査費の支出状況」によると、明治日本の産業革命世界遺産に関係する調査事業が次のように委託され支払われている。
2013年度 稼働中の産業遺産の世界遺産登録等に係る調査研究 株式会社三菱総合研究所 27,649,650円
2014年度 稼働中の産業遺産の世界遺産登録等に係る調査研究 株式会社三菱総合研究所 48,459,600円
2015年度 稼働中の産業遺産の世界遺産登録等 株式会社三菱総合研究所 19,980,000円
2016年度「明治日本の産業革命遺産」産業労働に係る調査 一般財団法人産業遺産国民会議 89,640,000円
2017年度「明治日本の産業革命遺産」産業労働に係る調査 一般財団法人産業遺産国民会議 145,800,000円
2018年度「明治日本の産業革命遺産」インタープリテーション更新に係る調査研究
一般財団法人産業遺産国民会議 125,084,520円
2019年度明治日本の産業革命遺産」各サイトの歴史全体におけるインタープリテーションに係る調査研究 一般財団法人産業遺産国民会議 132,990,000 円
合計すると始の3年間は株式会社三菱総合研究所が独占しており、受注額は3件で96,089,250円、一般財団法人産業遺産国民会議がその後4年間の受注を独占しており、合計受注額は493,514,520円である。
2019年度までの予算額のこの委託調査費の合計は、589,603,770円となる。この額は2019年度までの予算の49%を占めている。
残りの50%の多くは、旅費と謝金であり、その受取人はイコモス(国際記念物遺跡会議)の海外の専門家と国内の御用学者に支払われていると思われる。
また、同財団は、2015年9月に「産業遺産のデジタルドキュメンテーション展企画・運営事業」を文部科学省から受託し、財務省造幣局からも「世界遺産貨幣セット用小冊子編集業務 一式」、「世界遺産貨幣セット用小冊子編集業務」を受託している。
4. 一般財団法人産業遺産国民会議とは
一般財団法人産業遺産国民会議は、2013年9月10日に「産業遺産の継承により、学術、科学技術及び文化の振興、並びに国際相互理解の促進に寄与することを目的」に設立された民間団体である。日本政府の一般競争入札D級の資格を持ち、業者コード0000174908 法人番号010005021418である。
同法人は、前述したとおりこれまでに約5億円の資金を国から得ているが、財団の決算報告は公表されていない。一般財団法人は、法律で決算報告が義務付けられており、違反の罰則規定も定められている。
同法人の登記簿謄本によると、法人設立や決算報告などの公告について「官報に掲載する方法により行う」としているが、同法人が設立された2013年9月10日以降、本日まで官報に一つの掲載もされていない。これは、同法人が設立から本日まで違法状態にあるということである。同法人のホームページを見ても定款や評議会の議事録も無ければ、2018年度以降は理事会や評議会の開催記録の記載もない。
この財団の設立当初からの専務理事が加藤康子氏である。同氏は、安倍内閣における内閣官房参与(産業遺産の登録および観光振興を担当)を2015年7月2日から2019年7月31日まで務めていた。この間に内閣官房が行った一般財団法人産業遺産国民会議との入札契約は、実質的に利益相反取引に当たるものであり違法な委託契約であると思われる。逆に言えば、明治日本の産業革命世界遺産に関して、加藤康子氏らの産業遺産国民会議に内閣官房が牛耳られている異常な状況が今日まで続いているということである。そして、加藤康子氏らのために税金が湯水のごとく流れ出ているということである。
一般財団法人産業遺産国民会議は、2015年7月5日の第39回世界遺産委員会 において日本政府日本政府が約束した「日本は,1940年代にいくつかのサイトにおいて,その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと,また,第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である」について、朝鮮人や中国人の強制労働現場として有名な端島についてそのホームページで次のように記載しているのである。
端島炭坑は、高島より南西3kmに位置し、高島炭坑と同じ、西彼杵海底炭田を鉱床とする。三菱は高島の炭鉱経営に成功したことを機に、端島の購入を決断。同じ炭田を鉱床としているため、高島と同様に炭質がよく、高値で売れた。1891年より端島から出炭をし、1897年には端島は出炭量で高島を凌駕したが、採炭量が増加すると、採炭により出てくるボタで、島の周囲を埋立て、島を拡張した。
岩塊の小島を取り巻く新たな土地は、高波から島を守るため、要塞のような護岸に囲まれた。最盛期、端島は世界で最も人口過密な炭鉱コミュニティであった。
当初は「その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者」であったものを、次には「朝鮮半島出身者が日本の産業の現場を支えていた」と変更し、そして「炭鉱コミュニティであった」と説明するのみで、日本人をはじめ朝鮮人や中国人、連合軍捕虜の強制労働の現場であったことについての説明は一切削除してしまっているのである。
削除するだけでなく『軍艦島の真実-朝鮮人徴用工の検証-』というWEBページを作成し、「本ウェブサイトで配信する証言は、 証言者の記憶に基づいたもので、 事実にあいまいな点が含まれることをご留意下さい」と言い訳をしながら、軍艦島の歴史について事実でない主張を事実として世界に伝え、歴史を歪め、さらなる誤解を生みだしているのである。
このような一般財団法人 産業遺産国民会議が、内閣官房が設置した産業遺産情報センターの管理運営を行うのであるから、その展示がどのようなものになるかを予想することは難しくない。
5. 明治日本の産業革命世界遺産の普遍的価値とは何か
明治日本の産業革命世界遺産の認定に当たり、第39 回世界遺産委員会は、その普遍的価値について次のように認定した。
① 19 世 紀 の 半ば、封建社会の日本が、欧米からの技術移転を模索し、西洋技術を移転する過程において、具体的な国内需要や社会的伝統に合わせて応用と実践を重ね、20世紀初めには世界有数の産業国家に変貌を遂げた道程を顕している。
本遺産群は、産業のアイデア、ノウハウ、設備機器のたぐい希な東西文化の交流が、極めて短期間 のうちに、重工業 分野において嘗てない自力の産業発展を遂げることで、東アジアに 深大な影響を与えた。
② 製鉄・製鋼、造船、石炭産業 など、基幹産業 における技術の集合体として、非西洋諸国 において初めて産業化に成功した、世界史上類例のない、日本の達成を証言している。西洋の産業の価値観へのアジアの文化的対応としても、産業 遺産群の傑出した技術の集合体であり、西洋技術の国内における改善や応用を基礎として急速かつ独特の日本の産業化を顕している。
このような世界遺産としての普遍的価値を説明することを主なテーマとして設置される産業遺産情報センターは、この世界遺産が語っている普遍的価値として、次のような説明すべきである。
日本が「20世紀初めには世界有数の産業国家に変貌を遂げた道程を顕している」と評価されているのであるから、その「道程」がどのようなものであったのかについて説明すべきである。
欧米からの技術移転を成し遂げたのは、そこで働く労働者たちの労働であり、その労働実態は国内需要や社会的伝統に合わせて過酷なものであったことを説明すべきである。世界遺産として残されたこれらの施設を建設した人々はどのような人々であったのか、その建設を成し遂げた労働者たち、その施設を稼働させていた労働者たち、その人間とその労働実態を各施設で説明すべきである。
この産業遺産は「産業発展を遂げることで、東アジアに 深大な影響を与えた」歴史を語るものである。日本がどのようにして東アジアを侵略して行くことになったのか、その力はどのように形成されたのか、そして、日本は何故敗北したのか、その歴史をこの世界遺産は物語っている。だからこそ、その歴史を説明することが必要である。
「急速かつ独特の日本の産業化を顕している」とされるこの世界遺産は、日本の労働実態の「独特さ」を物語っているが、そのことは一つも説明されていない。当時の日本に於ける独特な封建的強制労働の実態について説明すべきである。
日本政府は明治日本の産業革命世界遺産の歴史的価値を正しく継承し表示しなければならないが、それを損ねているのが一般財団法人産業遺産国民会議であり、そこに毎年度資金を与えているのが安倍政権の公共の私物化である。私は、最後にこのことを糾弾して本論を閉じることとする。
小林 久公 (強制動員真相糾明ネットワーク 事務局次長) 2020年4月11日
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