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刑法論点

刑法論点

真実性の証明の法的効果と真実性の錯誤

2006年04月18日 | 刑法各論ー総則
□ 真実性の証明の法的効果
① 構成要件該当性阻却説(今はとる人はいない)
  真実性の証明があったときは定型的に違法性がないとして構成要件該当性そのも
のが阻却される。
〔批判〕
・ 230条の2の問題は名誉と表現の自由の法益衡量の問題であるから、構成要件の
問題とするのは無理がある。
② 違法性阻却事由説(通説)
230条は名誉毀損の構成要件要素で、他人の不名誉な事実を公表することを原則的
に禁止した規定であり、230条の2は構成要件に該当する行為でも一定の条件のもとに違法性を阻却させる例外的許容規定。
  〔論拠〕
・ 230条の2は、個人の名誉の保護と表現の自由の保障の調和を図った規定である
から、正当な言論の行使と認められる限り、犯罪の成立そのものを否定すべき。
・ 事実の公共性と目的の公益性を不処罰の条件としているということは、行為および結果を評価の対象としているのであり、単なる政策的見地から不可罰にしているとは考えられない。
  〔批判〕
・ 犯罪の成立要件にかかわる違法性阻却事由について挙証責任の転換を認めること
は「疑わしきは被告人の利益に」の原則に反するので妥当でない。
③ 処罰条件阻却事由説
事実を指摘して人の名誉を毀損した以上名誉毀損罪は成立するが、処罰が阻却され
る。
  〔論拠〕
・ 230条の構成要件が、事実の有無に関わらず罰することになっているのは、人の
社会的評価を低下させるに足りる事実を指摘すること自体が違法であり、事実の真偽は違法性と無関係
 →真実の証明があった場合には「違法ではあるが処罰しない」と解すべき
・ 230条の2の文言が「証明があったときは」となっている。
    →真実の指摘も違法であるという230条の原則を維持しながら、挙証責任を被告人に転換し、真実性の立証に成功した場合に限り例外的に名誉毀損行為を処罰しないという趣旨。
  〔批判〕
   ・ 230条の2の不処罰の根拠が表現の自由にある以上、その不処罰は犯罪成立そのものの阻却を意味するものでなければならない。

□ 真実性の錯誤:行為者が主観的には真実であると思っていたが、客観的には真実である
ことの証明に失敗した場合をいう。
 ⇒この錯誤をどのように扱うべきか。230条の2の規定の解釈と関連して問題となる。

○行為者が摘示事実を真実であると信じていた以上、無罪とする見解
〔論拠〕
・(②違法性阻却事由説から)真実性の錯誤は違法性阻却事由を構成する事実の錯誤であるから、責任故意を阻却する。
〔批判〕
 ・ 行為者が単なる噂を軽率にも真実であると軽信したような場合まで無罪とすることは、無責任な名誉毀損行為の横行を招き、被害者の名誉の保護に欠ける。
○証明に失敗した以上、処罰されるとする見解
〔論拠〕
 ・(③処罰阻却事由説から)真実性の錯誤は処罰阻却事由の錯誤であるから故意の成否には無関係であるから、常に名誉毀損罪が成立する。
〔批判〕
・ 表現の自由が大きく損なわれる。

「錯誤が相当な根拠に基づく場合には名誉毀損罪は成立しない」(通説)という結論が妥当。
 ⇒では、この結論をいかなる理論構成で説明するか(錯誤論からのアプローチ)

○ 真実性の錯誤は違法性阻却事由の錯誤であり、その錯誤は違法性の錯誤である(厳格故意説)から、相当の理由がある場合には責任が阻却される。(福田)
〔批判〕
 ・ 構成要件該当事実を認識しても違法性阻却事由の前提事実を誤認した場合には、違法性の意識を直接的に可能ならしめるような事実認識がないので、責任故意を認めることは出来ない。
○ 違法性阻却事由の対象を「事実が真実であること」ではなく「事実が証明可能な程度に真実であったこと」に修正する(二分説・判例)
 →行為者が証明可能な程度の資料・根拠をもって事実であると誤信=事実の錯誤
  その程度の資料・根拠なしに事実を真実であると妄信=違法性の錯誤