NPO法人POSSE(ポッセ) blog

事前周知されずに福島原発周辺で作業


3・11の震災を機として、日本の企業社会の負の側面が次々と露呈している。
全国で横行する「便乗解雇」(企業が震災を口実として不当な解雇や退職を迫る)。震災直後にもかかわらず出された出勤命令。依然として収束の目途が立たない福島第一原発では、高濃度の放射能汚染という劣悪な環境での被曝労働が重大な問題として社会的に認知されるようになった。
そして5月に明らかになったのは、大阪の労働者2人が事前に周知されることなく福島原発の周辺地域で働かされた事件である。

「運転手のはずが原発敷地内作業…あいりんで紹介」(5月9日付読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/job/news/20110509-OYT8T00670.htm


求人の内容は「宮城県女川町でダンプカー運転手として働く」というものだったが、実際の勤務地は福島第一原発の周辺で、タンクから水を運んだり、瓦礫を撤去する労働に従事したという。
今回、原発問題という情勢と関連しているため話題に上っているが、求人の内容と実際の労働契約が違ったり、労働契約を明示されなかったりという労働問題は少なくない。そのような詐欺的行為はこれまでもブラック企業の常套手段として用いられてきた。例えば、「正社員で募集し、労働契約を結んだのに、働いてみたら契約社員だった」、「営業職として採用されたはずなのに事務作業をさせられた」、「拘束時間、時給が面接時に説明されたものと違っていた」など、労働契約の締結に際してきわめて悪質な問題が横行している。
求人票はハローワークや労働センターなどで出されているが、それ自体は募集を目的としているので、記載されている内容が即労働契約の内容にはならない。しかし、職業安定法では契約締結時に使用者には労働条件を明示する義務があると定められており、勤務地を偽って労働契約を締結することは違法である。そして使用者には明示した労働条件を履行する義務があるので、労働者は契約不履行として使用者に損害賠償を支払わせたり、契約が違うということで即時労働契約を解除したりする権利がある。さらに、今回の場合は福島から労働者が帰るために必要な金や交通手段がなかったことも報じられた。

今回の事件は格差・貧困問題という問題を再認識させる。岐阜県大垣市の建設業者から求人があり大阪府西成区・あいりん地区にある財団法人・西成労働福祉センターで仕事が紹介された。あいりん地区は日雇労働者が仕事を求めて集まる寄せ場として知られている。生活保護を申請する労働者や野宿者が非常に多い地域で、手配師(仲介業者)による違法な人材派遣(職業安定法44条で禁止されている労働者供給事業)が横行している。そこでは派遣元と派遣先の間にいくつもの業者が介在するという多重下請け構造であるために中間搾取が行われており、最終的に労働者が受け取る賃金は極めて低く設定されている。しかし、最下層の労働者や失業者はとにかく食いぶちを求めており、職を選ぶ余裕がない。そのため、「どれほど劣悪な労働条件だろうと求人に飛びついてくるはずだ」という想定の下で違法な人材派遣が行われている。低賃金で生活が困窮した労働者が低賃金の職にしか就けず、いつまでたっても貧困状態から抜け出せないという悪循環である。
貧困が貧困を招くという貧困ビジネスの環を断ち切るためには、労働者が声を上げ、適正な労働条件と福祉を実現できる仕組みが必要である。とりわけ生活保護の受給水準を上げること、労働組合の力によって労働市場を規制し、労働者の買いたたきをさせない規範を形成することは喫緊の課題である。 
また、今回の事件に関してはなによりも、虚偽の求人を行った企業に対して徹底的な責任追及がなされなければならない。なぜなら、ある企業の違法行為が是正?されなければ、企業間の競争はいかに巧妙に違法行為を行って利潤を獲得するか、という競い合いになってしまうからである。人件費というコストを抑えるためにはどのようにして法規制の網の目を潜りけるか、を追求することが企業のマネジメントにとって至上命題になってしまう。
00年代後半、日本では格差や貧困がしきりに叫ばれたが、今に至っては熱も冷めつつある。しかし問題は依然として継続しており、この間の震災によってむしろ深刻化するであろう。格差問題を一過性のブームとして終わらせるのではなく、問題を再認識し構造から変えていくための取り組みは、依然として重要な課題である。



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