それにしても、なぜグッドウィルはここまで介護事業にこだわってきたのか。
グッドウィル・グループ全体の売り上げで、介護事業の割合はそれほど多くはない。
私見だが、この背景には派遣業界全体の行き詰まりがあるのではないか。
というのも、この間派遣業界は成長が限界に達し、統合・再編が進んでいるからだ。
好景気と、労働力人口低下の人材難で、派遣会社はどこも「募集」に困難を極めている。
昔は大した広告費をかけなくても、人はいくらでも集まった。
ところが今企業は優秀な人材の囲い込みのために、正社員化を進めている。
それに追い打ちをかけたのが、生命保険会社の保険金不払い事件だ。
本来保険金が支払われるべきケースで、保険金を支払われないケースが大量に発生したため、
その対応で事務系派遣が大量に必要になったのだ。
これをきっかけにして派遣業界の「人材不足」は一気に加速した。
さて、派遣各社によるこの情況への対応策は大きく言って3つある。
①派遣労働者の待遇向上
②イメージアップ作戦
③既存の派遣業以外への投資
それぞれ見ていこう。
①「派遣労働者の待遇向上」は分かりやすい。

賃金を上げたりして、募集をしやすくしようというのだ。
フルキャストやグッドウィルは「データ管理費」を廃止した(この点については、実はまだ先行きがわからないようだが)。
また他の派遣会社でも若干の賃上げ傾向がある。
②「イメージアップ作戦」では、例えば「富士スタッフ」が、
この間派遣労働者の「メンタルヘルスケア」をウリにして募集を増やそうとしているように、
企業イメージの向上で、募集を増やそうとしている。
③「既存の派遣業以外への投資」は①、②による利潤率の圧迫を恐れ、
そもそも派遣業以外へ投資したり、未開拓の分野への派遣を増やしたりするものだ。
例えば、テンプスタッフは管理職や主婦層の派遣事業に力をいれているし、
アデコやヒューマントラストは韓国や中国からの派遣を受け入れる準備をすでに始めている(新規派遣市場開拓)。
また、パソナでは、人材紹介業を開拓している(派遣業外への投資)。
グッドウィルが介護事業にこだわるのは、こうした流れの中で、
②「イメージアップ作戦」に対応し、介護事業を請け負っているというイメージのよさを残したい、
③「既存の派遣業以外への投資」の意味でも介護事業を囲い込みたい。
こうした意図が働いているのではないだろうか?
実際には③の先行きも閉ざされ、②も完全に破綻した。
今回これだけ問題が大きくなったこと自体がイメージダウンの原因になるだろうし、
もはやグッドウィルが派遣業界で生き残っていく道は閉ざされつつあるように見える。
今後派遣業界の統合・再編圧力は強まっていくに違いない。