ぽんしゅう座

優柔不断が理想の無主義主義。遊び相手は映画だけ

■ こちらあみ子 (2022)

2022年07月27日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」

さて、困ったものを観てしまったなあというのが正直な感想。他者に対して真摯であろうとしたときに、お前なら“あみ子”的な存在とどうかかわるつもりだ、という問いを突き付けられたからだ。私はすでに十分に"ずるい”大人なのですぐにレッテルを貼ってコトを済まそうとする。

例えばアスペルガー症候群とかADHDといった“理由”が頭に浮かぶ。理由を見つけた私は“あみ子”的なものを世間のなか、つまりは自分のなかのお約束の位置に据えて折り合いをつけたつもりになる。しかしこの映画は、そんな私の目を見つめながら「それで?」とさらに問いを重ねてくるのだ。厳しい映画だ。

分かったようなレッテルを“あみ子”的なものに貼り付けたとしても、それは“あみ子”のためではなく自分のための言い訳にすぎず、彼女と周囲(私)との関係(かかわり方)に結論めいたこと(映画の感想)が成立するわけではない。その意味で本作の惹句「あのころの私が呼んでいる」もこの映画の本質をはぐらかしていると思う。映画で描かれる世界の主体は執拗なまでに“あみ子”であり、おおかたの観客の「あのころの私」は“あみ子”の家族であり級友のはずだから。

それほど本作は大沢一菜という新人俳優の強烈な“あみ子”的なものに依存している。新人監督・森井勇佑が、すべてを大沢一菜の存在感に託した思い切りの良さは十二分に成功していると思うし、中心に据えた彼女を活かす(特に音に関する)細やかな心遣いも素晴らしかった。ただ森井勇佑が伝えたかったことを「映画」というカタチにするにはもう少し主体的な工夫(補助)が必要な気がした。

この状態、つまりは“あみ子”的なもの以外のすべてを突き放した状態に、私はいささか混乱している。浜辺のあみ子の心情と、これからの彼女の生きにくさを想像すればするほど、あみ子の孤独を評価する基準を持ち合わせていない私は、本当はこの映画に点数など付けてはいけない気が、今でもしている。

(7月23日/新宿武蔵野館)

★★★


【あらすじ】
広島の海沿いの町。小学五年生のあみ子(大沢一菜)は、思い立ったらじっとしていられない性格。突飛な言動で学校でも家でも浮いた存在だ。クラスのお気に入りののり君(大関悠士)に付きまとい、そんなあみこ子に坊主頭(橘高亨牧)は何かとちょっかいを出してくる。優しいお兄ちゃん(奥村天晴)はいつもそばにいてくれるが、お母さん(尾野真千子)は、あみ子の気まぐれに手を焼いていて、お父さん(井浦新)は家族のためにみんなに理解を示そうと努めていた。そして、あみ子が中学生になったとき、まわりの人たちの様子に大きな変化が起き始めていた。森井勇佑の初監督作となる芥川賞作家今村夏子のデビュー作の映画化。(104分)

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■ ビリーバーズ (2022)

2022年07月26日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」

設定の魅力は原作に負うとすれば、三人の信者の生真面目さが不気味さや滑稽さにまで至らずサスペンス演出もいささが雑で中途半端。城定秀夫監督にはもう少しベタなケレンを期待してました。全体的に「金かけなくても面白いもんは撮れる」的な過信というか甘えがありません?

北村優衣さんの“奮闘“に加点。

(7月23日/テアトル新宿)

★★★

 

【あらすじ】
宗教団体ニコニコ人生センターの本部から無人島に派遣された三人の信者がいた。教団幹部でリーダーの議長(宇野祥平)のもと、DV夫から逃れてきた副議長(北村優衣)と本部との通信担当のオペレーター(磯村勇斗)は互いに励まし合い、ときに監視し合いながら教祖の教えに従い、就寝中にみた夢を完全に記録することでより高い精神性の獲得を目指すという修行に励んでいた。いつ終わるとも知れない修行が続くなか、やがて本部から支給される水や食料が滞り始める。自給自足の生活を強いられるなか三人の規律に緩みが生じ始めるのだった。カルト集団のなかで露呈する欲望を描く山本直樹のコミックの映画化。脚本・監督は城定秀夫。(118分)

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■ 神は見返りを求める (2022)

2022年07月25日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」

何ごとも断らない男(ムロツヨシ)の自意識は、他者に開かれているようでいて世界には閉じられている。表現の意味をはき違えている女(岸井ゆきの)の向上心は、世間の暇つぶし消費に媚びているだけだ。主体性なき者たちの空回り。きっと吉田恵輔はこんな人たちが嫌いなのだ。

吉田恵輔の前々回作『BLUE ブルー』の主人・瓜田(松山ケンイチ)もまた無償で人に尽くす男だった。瓜田の無償はボクシングという閉じられた世界でストイックに遂行される。田母神(ムロツヨシ)の主体性なき無償はには規律が存在せず、だらだらと垂れ流され続ける。瓜田が尽くす相手の向上心は勝利という明確な目的に向かった修練に費やされる。田母神が尽くすユーチューバーゆり(岸井ゆきの)の主体性なき向上心は、活動することが目的化してしまった円環のなかで浪費されているだけだ。

田母神とゆりは、互いに互いの“愚かさ”に気づき始めたように見えた。だが二人は関係を修復できないだろう。何故なら、吉田恵輔は主体性と規律なき人間が、きっと嫌いだから。吉田にとって『BLUE ブルー』の主人・瓜田(松山ケンイチ)の「無償」こそが敬意に値する価値ある行為なのだ。吉田は硬派なのだ。その辛辣な視線は容赦なく“軟弱な世間”を突き放す。吉田のオリジナル作は面白い。

(7月14日/TOHOシネマズ南大沢)

★★★


【あらすじ】
イベント会社に勤める田母神(ムロツヨシ)は合コンで知り合ったパッとしないユーチューバーゆりちゃん(岸井ゆきの)の動画作りを無償で手伝うようになる。相変わらず登録者は伸び悩んだままだか、ゆりちゃんは田母神の見返りを求めない誠実さに、田母神は若くてピュアなゆりちゃんの期待に応えようと共同制作を続けていた。ところが、人気ユーチューバー(吉村界人/淡梨)とのコラボを切っ掛けに一気に人気者になったゆりちゃんは、新進デザイナー村上(柳俊太郎)とコンビを組んで田母神を敬遠しはじめる。恩を仇で返すような言動に田母神の自尊心はズタズタになってしまう。吉田恵輔脚本・監督のオリジナル・ドロ沼ドラマ。(105分)

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■ あなたの顔の前に (2022)

2022年07月22日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」

これから起きることに意味を見出さない。過ぎ去ったことに意味を求めない。それが今するべきことのすべて。希望も郷愁も封印し目の前のものがすべてだと思い込もうとする。そんな彼女はうまそに煙草をくゆらす。喫煙は自らに許した「今」の存在を確認するための赦しだろう。

心に留まるシーン(エピソード)がたくさんある。特に私の印象に残ったものを3つだけ上げます。

サンオク(イ・ヘヨン)がブラウスの裾に染みを付けてしまいさかんに気にするエピソードがある。そのあと、映画監督(クォン・ヘヒョ)との会食の際にブラウスの裾をさりげなく結んで“着こなし”のように見せて染みを隠しているカット(二人で煙草を吸うシーン)が出てくる。ホン・サンスの演出だろうか。イ・ヘヨンのアイディアだろうか。サンオクの繊細さと生真面目さを感じさせる可愛らしい演出だった。

酒がすすむにつれ、ホン・サンス定番の泥酔のぐだぐだシーンへ行き着いて、そんなサンオクのタガが外れる。映画監督(クォン・ヘヒョ)の申し出でに挑発的な売り言葉。そして咄嗟の買い言葉。何がホントかウソか・・・。どうしようもなく人間らしいだらしなさ、が露呈する。店を出た二人が傘を差し無言で路地を抜けて行く後姿から、いわく言い難い後悔と羞恥のようなものが立ち上がる。

そして妹のジョンオク(チョ・ユニ)が見たという“好い夢”を、自らの白昼夢のような酔狂に重ね、その不覚を高笑いで紛らわせる姉サンオクの諦念と寂寥。朝が明けまた「今」が始まるのだ。

(7月13日/UPLINK吉祥寺)

★★★★

 

【あらすじ】
ずっとアメリカで暮らしていた元女優のサンオク(イ・ヘヨン)が急に韓国に戻ってきた。久々に妹のジョンオク(チョ・ユニ)と再会して彼女のマンションに身を寄せていた。その日の午後に会食の予定がある姉を誘って妹は街を散策する。マンション建設が進みさま変わりする風景もあり、昔のままの姿を残す場所もある。そして午後、会食相手の映画監督ジェウォン(クォン・ヘヒョ)から、昔からファンだったあなたに、ぜひ自分の映画に出て欲しいと誘われる。初めはとり合わないサンオクだったが、酒がすすみ酔いが回るうちに心が揺れ始めるのだった。捨てたはずの故郷に舞い戻った中年女性の葛藤を描くホン・サンス脚本・監督作。(85分)

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■ イントロダクション (2021)

2022年07月20日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」

めんどくさい青年(シン・ソクホ)の“足踏み状態”が三つのパートに分けて描かれる。各パートの間に起きたことは描かれない。だから青年の行動は唐突で一貫していないように見える。たぶん青年のなかでは「だってあのとき・・」という筋が通っているのだろう。

だから観る側は、青年の「だってあのとき」に何が起き、何をして、何をしなかったのかを想像して彼の意志と行動を補填しなければならない。めんどくさい青年の“足踏み状態”をめんどくさい語り口で描くホン・サンスの「虫食いクイズ」のような映画。きっと観た人の数だけ、この青年のモラトリアムの理由や意味(すなわち答え)が存在するのだろう。

(7月13日/UPLINK吉祥寺)

★★★


【あらすじ】
気は好いのだが、どこか頼りない青年ヨンホ(シン・ソクホ)。鍼灸院を営む父との関係は、ぎくしゃくしていて折り合いは良くなさそうだ。最愛の恋人ジュウォン(パク・ミソ)は、衣装デザインを学ぶために彼を置いてドイツに留学してしまう。ヨホンの方は俳優を志してはみるもののあっさり挫折して、そんな夢はうやむやに。息子の将来を心配した母親(ソ・ヨンファ)はアドバイスをもらおうと、有名なベテラン俳優(キ・ジュボン)とともにヨンホを呼び出すのだが・・・。将来にも恋愛にも優柔不断。どこにも行けず、行かない青年をめぐるホン・サンス脚本・監督の“抱擁について”の三つの物語。(白黒/66分)

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