一見、何の変哲もない近未来家族だが、この一家が暮らす世界(社会)はどこか冷ややかで"生気"が感じられない。養子。クローン人間への偏見。どこか唐突な隣家の双子娘。生成の顛末や定着の履歴が伏せられながら人間社会に同化している「テクノ」と呼ばれる人型AIロボット。この世界の人々は生殖能力を喪失してしまっているのかもしれない、と思った。
観終わって巻頭のダンスバトルが物語のテーマを象徴して秀逸だったことに気づく。世界中の4人家族が参加し、本来は人間的運動であるはずのダンスが、機械のような非人間的運動の域に達するまで画一化され、その同一性の優劣が競われているようだ。見えてくるのは、エンタメ化してまでも家族の一体化を図らなければならない=人間とクローンとAIロボットの一体化を推進しなければならないほどの社会の「断絶」だ。
生物にとっての記憶は、究極的に遺伝子となて「断絶」することなく末代へと受け継がれる。AIロボットのメモリーに記録された映像は、はたして彼らの遺伝子に昇華し得るのだろうか。中国系の養女ミカ(マレア・エマ・チャンドラウィジャヤ)の兄役を務める同じ中国系の容姿を持ったAIロボット・ヤン(ジャスティン・H・ミン)は、アジアの記憶をミカに伝えたいと言っていた。いままで英語で会話していたミカが突然中国語で話し始めたとき、ヤンの目論見は成就したのだろうか。
以前、ネットで見かけた芸術人類学者の中島智の一文を思い出したので引用しておきます。・・・〔引用〕AIが「AI自身の意識」に目覚めた場合、「人間の意識」はそれを理解できず、よって「AIに意識はない」と判断することになる
(11月8日/WHITH CINE QUINTO)
★★★★
【あらすじ】
近未来。ジェイク(コリン・ファレル)とカイラ(ジョディ・ターナー・スミス)夫婦は中国系の養女ミカ(マレア・エマ・チャンドラウィジャヤ)のシッターとして購入した"長男”のAIロボットのヤン(ジャスティン・H・ミン)ともに暮らしていた。ところが突然ヤンが故障し動かなくなり落胆したミカは学校へも通えなくなってしまう。修理に奔走するうちにジェイクは、ヤンに法律では禁止さていた記憶メモリーが内蔵されていたことを知り、そこに残されていた若い女性(ヘイリー・ルー・リチャードソン)の断片映像を頼りにヤンの記憶をたどる。それは「テクノ」のと呼ばれるAIロボットの無意識(遺伝子)にせまることでもあった。(96分)