昨日、日本フラメンコ協会から、新人公演の講評が載った会員向けの冊子『LAZO(きずな)』が送られてきた。同封されていた諸々の公演チラシの中に、新宿文化センター大ホールで開催される『フラメンコ・フィスティバル・イン・東京~flamenco flamenco』のものを見つけ、思うところあって、踊りをやっている方に向けて久しぶりに書くかなと当ブログを開いたら、あら、びっくり!本文を1年半ほど更新していないのは自覚していたものの、その代わりTwitterのつぶやきを表示させていたはずなのに、リンクが切れているではないの!
考えるに、昨年の秋にブログのデザインを変更した際、リンクを再設定しなければならなかったのを、私が気づかずにいたのだろう。てことは、おそらくこの1年、このブログは何の変化もなかったってことだ。それなのに、今でもアクセスしてくださる方々が結構いるようで、申し訳ないやらかたじけないやら。わーん、間抜けでごめんなさい。これからは、もうちょっと本文の更新に努めます!
ということで、気を取り直して今秋の『フラメンコ・フェスティバル』である。今秋といっても10月12日から3日間なので、もう間近だ。舞踊が中心の公演で、出演は12日がベレン・マジャ&マヌエル・リニャン、13日がイスラエル・ガルバン、14日がロシオ・モリーナ舞踊団という、現代スペインのモダンなフラメンコ舞踊を牽引しているトップスターたちばかり(エバ・ジェルバブエナのみ来年3月)。送られてきたチラシによると今秋の概要は次の通り。
フラメンコ・フェスティバル
flamenco festival in Tokyo
flamenco flamenco
【公演概要】
■10月12日(土) 14:00~
ベレン・マジャ&マヌエル・リニャン
“Trasmiín (トラスミン) ”
天才舞踊家を父に持つサラブレッドにしてトレンドセッター 8年ぶりの来日
■10月13日(日) 14:00~
イスラエル・ガルバン
“La Edad De Oro (黄金時代) ”
新境地を切り開く真正フラメンコ
■10月14日(月・祝) 14:00~
ロシオ・モリーナ舞踊団
“Danzaora (ダンサオーラ) ”
天才的な音感、驚異的な身体能力、そして天性の踊り手としての感性
●公演日程
2013年10月12日(土)~14日(月・祝)14:00開演 (13:30開場)
●会 場
新宿文化センター 大ホール
●入場料金
S席:10,000円
A席:8,500円
3演目セット券(S席):28,000円
※全席指定・税込)
※3演目セット券は、チケットスぺースにて電話予約のみ取扱い
フェスティバル特設サイト
http://www.parco‐play.com/web/play/flamencofestival/
公式ブログ
http://flamencofestivalintokyo.tumblr.com/
●ご予約・お問い合わせ
チケットスぺース 03‐3234‐9999
●チケット取り扱い
・チケットぴあ
0570‐02‐9999(Pコード 429‐103)
http://pia.jp/t/flamenco/
・ローソンチケット
0570‐08‐4003(Lコード33391)
0570‐00‐0407(オペレーター対応10:00~20:00)
http://l‐tike.com/flamenco/
・e+(イープラス)
http://eplus.jp/flamenco/
・新宿文化センター
窓口販売のみ(9~19時 休館日を除く)
これら一連の公演は、フラメンコ・フェスティバルといっても、ただフラメンコ舞踊を踊るのではなく、それぞれが劇場用の舞踊作品として上演される。その作品の解説に私は興奮しているのである。以下、作品についての記述のみチラシから書き出してみる(原文は志風恭子氏/色字は筆者による)。
◆ベレン&マヌエルの『トラスミン』
1966年父(巨匠マリオ・マジャ)の公演先のニューヨークで生まれたベレンは、父からフラメンコ舞踊の伝統と類いまれな創造性を受け継いだ。彼女は、90年代の半ば、それまで思いもよらなかった斬新な動きで、若手ニューウェーブの火付け役となる。そして21世紀に入ると、歌い手マイテ・マルティンとの共演を機に、伝統を蘇らせるネオ・クラシックを打ち出し、またもや時流を変えた。(中略)『トラスミン』では、ギターとカンテだけのシンプルな構成で伝統的なフラメンコに徹するが、もちろん独自のひねりは忘れない。
◆イスラエルの『黄金時代』
早くから正統派舞踊手として頭角を現すが、20代半ばから発表を始めた前衛的な作品群で、才能を開花する。(中略)『ラ・エダー・デ・オロ(黄金時代)』も2005年より上演される彼の代表作の一つ。カンテとギターだけのシンプルな音と共に、19世紀末から20世紀前半にかけての「フラメンコ黄金時代」が生み出した伝統のフラメンコを、彼独特の斬新なタッチで今に蘇らせる。伝統の中に未来を見る珠玉の名作だ。
◆ロシオ・モリーナ舞踊団の『ダンサオーラ』
天才的な音感、驚異的な身体能力、そして天性の踊り手としての感性。(中略)その巨大な世界がぎゅっと濃縮されたのが今回の公演(略)だ。ダンサオーラとはダンサーとバイラオーラ(フラメンコ舞踊家)を掛けた造語。そのタイトル通り、ロシオはここで、フラメンコであると同時に、それを超えた舞踊家としての可能性を存分に探求する。また、この作品では初めて即興の部分を入れ、毎回、新しいことに挑戦するという。
(引用終わり)
私はベレンとイスラエルは、何度か生のステージを観ている。ベレンの踊りはモダンな動きにも伝統的な根っこが感じられたことが嬉しかった。イスラエルは予測不可能な動きの中にフラメンコのコンパスが息づいていて、心から楽しめた。ロシオは映画『フラメンコ・フラメンコ』で観ただけだが、モダンなスタイルを身体性の強化で推し進めた美学のありように驚嘆した。若手のマヌエル(ロシオだって若手だけどね)は未見。
そんな私が、解説の何に興奮したかといえば、ベレンとイスラエルの作品に「伝統」という言葉がジャジャーン!と踊っていたからだ。バックもギターとカンテのみときた。もう、やったね!そうこなくっちゃ!!という感じである。そしてロシオの、飽くまで舞踊性の洗練を目指していると思わせる作品の解説にあった「即興」の2文字!舞台作品で、しかも舞踊団で、即興なんてマジですかっ???もうもう、どれもこれも、なんて楽しみなんだろう!
けれども、私が踊りをやっている人にこの公演をオススメしたい理由は、それだけではないのだ。
この夏も恒例の新人公演、怒濤の3日間があった。例年通り、私はバイレソロとバイレ群舞の選考委員を務めて講評を書き、それとは別に、アクースティカの『新人公演応援團』に舞踊出場者全員についてのコメントを書いた。毎年、出場者が舞台から発するエネルギーには圧倒されるが、今年は例年より残念な思いをした人が少なからずいた。目指している方向は間違っていないのに、大劇場での見せ方が上手くないのだ。先生からどれほど学び、スペイン人のクルシージョを沢山受け、スタジオで死ぬほど自主練習したとしても、この劇場での見せ方ばかりは実際の舞台を観て感動したり、実際の舞台を経験して苦労したことがなければ、身に付かないだろう。
何も大劇場だから派手なことをやれと言っているのではない。その空間をどう使うか、広くか狭くか、濃密にするか軽やかにするか、そんなことは個人の感性や美学の問題だ。肝要なのは、大劇場の空間を肌で感じて自分のものとしてコントロールすることだと私は思う。
10月に来日する3組は、おそらくそれぞれが全く違う印象を私たちに与えるだろう。それはどれが正解というのではなく、個々が追求しているフラメンコの世界の、現時点でのひとつの到達点なのだと思う。その舞踊はもちろん、彼らの空間の使い方にも、ぜひ着目してほしい。ソロであれ、パレハ(ペア)であれ、群舞であれ、大劇場で感動をもたらすものには、考え抜かれた工夫がある。素晴らしい才能を持った大物スターたちの舞台を、自分の目で観て、体感することは、フラメンコにたずさわる人には特に、得難いものを与えてくれるに違いない。生のステージがもたらすものを感じに、いざ劇場へ!