海岸線を歩いていた。季節は夏であったが、涼しい風がなびいていた。白岩は思った。こんなにも晴れやかで青い海と空に囲まれた崖の上を草を踏みしめながら歩くのはなんだか残酷であると。なぜならば海ではしゃいだり遊ぶことこそ青春であるからだ。前方には木製の柵が延々と続く景色しか見えない。
夏をテーマとした写真を撮ってくることを義務付けられていた。海岸線を離れ内陸部に戻ると売店があり白岩と同じ写真部の生徒がたむろしていた。
「おい写真はもう撮ったのか?」と中川が尋ねてきたので、白岩は
「まだだ」と答えた。
「俺たちはもう50枚は撮ったぞはやくしないと夕方になってしまうぞ」と囃し立てる中川の肩を押して振り返ることなく白岩は撮るべき被写体を求め歩く。
後ろでは中川とその仲間が売店で買ったであろうグラビア雑誌を見ながらあれこれ話していた。そんな声も聞こえないくらい草を踏みしめながら進んでゆくと木柵の向こう側に大きな灯台が見えた。海を背にし灯台はすくっと立っていた。コンクリートで建造されたであろうそれは白いコーティングが施され新しくできたばかりのように見えた。木柵に近づき下から見上げてみると天を目指し伸びているようだった。
首から下げていた一眼レフを覗くと白岩はシャッターをきった。カシャンという音でネガフィルムにその風景は刻まれた。おそらく天頂までおさまったのかは分からなかった。風がさっきよりも強さを増した。夕方が近づいてきている。
木柵からまた内陸部に戻り、今度は背景に海が広がるような構図を狙って白岩はシャッターをきった。級友たちは随分とたくさん撮ったのだなと思い返す。灯台を背にし木柵に沿って行く。前から観光客風の女性2人が歩いて来るのが分かった。
「写真撮ってるの~?」とひとりの女が聞いてきた。白岩は黙って通り過ぎようと思ったが、もうひとりの女が
「ダメだよ、いきなり声なんてかけてごめんなさいね」と言って行ってしまいそうになったので、
「写真部なんで課題で夏の被写体を探しているんです。」と言った。
「へぇ~高校生かな?」とグレーのタンクトップのリップは赤いルージュで笑みを浮かべる女は聞いてきた。
「中学2年です」と白岩は答えた。
「見えない。もっと大人かと思ったわ」とタンクトップの女と花柄の半袖のワンピースに白い帽子の女は顔を見合わせて笑った。
白岩は久しぶりに女性と言葉を交わした。じっと黙って風を受けていると、花柄のワンピースの女が帽子が飛ばされそうになるのを押さえながら
「じゃああたし達を被写体にしてよ」と言うとタンクトップの女にいいよねと耳打ちし、頷き合うと木柵の前で並んで撮られるのを待っている。
白岩はシャッターを何回も切った。海岸線にカシャカシャカシャという音が響き、風のなびきで何処かへ飛んでいく。女達は白岩がシャッターを押すたびに表情を微笑から真剣な眼差しに変えていった。
ネガフィルムの36枚は取りきって巻き戻し音が鳴ると女達は、白岩に投げキッスをして、「じゃあね!」と告げると小走りにキャッキャと言いながら灯台の方へと去って行った。白岩は崖の上の大地に風を受け立ち尽くしていた。
見送ると、白岩はその場にあぐらをかいて座り込んだ。
夏の夕暮れが風にのって、土の上に尖って生えている草たちをなびかせていた。木柵越しの海に浮かぶ船は西へ向かい、ここより遠くの売店からはクラスメイト達の談笑が聞こえた。そして船が汽笛を鳴らすのを白岩は寂しい気持ちで聴いた。
夏をテーマとした写真を撮ってくることを義務付けられていた。海岸線を離れ内陸部に戻ると売店があり白岩と同じ写真部の生徒がたむろしていた。
「おい写真はもう撮ったのか?」と中川が尋ねてきたので、白岩は
「まだだ」と答えた。
「俺たちはもう50枚は撮ったぞはやくしないと夕方になってしまうぞ」と囃し立てる中川の肩を押して振り返ることなく白岩は撮るべき被写体を求め歩く。
後ろでは中川とその仲間が売店で買ったであろうグラビア雑誌を見ながらあれこれ話していた。そんな声も聞こえないくらい草を踏みしめながら進んでゆくと木柵の向こう側に大きな灯台が見えた。海を背にし灯台はすくっと立っていた。コンクリートで建造されたであろうそれは白いコーティングが施され新しくできたばかりのように見えた。木柵に近づき下から見上げてみると天を目指し伸びているようだった。
首から下げていた一眼レフを覗くと白岩はシャッターをきった。カシャンという音でネガフィルムにその風景は刻まれた。おそらく天頂までおさまったのかは分からなかった。風がさっきよりも強さを増した。夕方が近づいてきている。
木柵からまた内陸部に戻り、今度は背景に海が広がるような構図を狙って白岩はシャッターをきった。級友たちは随分とたくさん撮ったのだなと思い返す。灯台を背にし木柵に沿って行く。前から観光客風の女性2人が歩いて来るのが分かった。
「写真撮ってるの~?」とひとりの女が聞いてきた。白岩は黙って通り過ぎようと思ったが、もうひとりの女が
「ダメだよ、いきなり声なんてかけてごめんなさいね」と言って行ってしまいそうになったので、
「写真部なんで課題で夏の被写体を探しているんです。」と言った。
「へぇ~高校生かな?」とグレーのタンクトップのリップは赤いルージュで笑みを浮かべる女は聞いてきた。
「中学2年です」と白岩は答えた。
「見えない。もっと大人かと思ったわ」とタンクトップの女と花柄の半袖のワンピースに白い帽子の女は顔を見合わせて笑った。
白岩は久しぶりに女性と言葉を交わした。じっと黙って風を受けていると、花柄のワンピースの女が帽子が飛ばされそうになるのを押さえながら
「じゃああたし達を被写体にしてよ」と言うとタンクトップの女にいいよねと耳打ちし、頷き合うと木柵の前で並んで撮られるのを待っている。
白岩はシャッターを何回も切った。海岸線にカシャカシャカシャという音が響き、風のなびきで何処かへ飛んでいく。女達は白岩がシャッターを押すたびに表情を微笑から真剣な眼差しに変えていった。
ネガフィルムの36枚は取りきって巻き戻し音が鳴ると女達は、白岩に投げキッスをして、「じゃあね!」と告げると小走りにキャッキャと言いながら灯台の方へと去って行った。白岩は崖の上の大地に風を受け立ち尽くしていた。
見送ると、白岩はその場にあぐらをかいて座り込んだ。
夏の夕暮れが風にのって、土の上に尖って生えている草たちをなびかせていた。木柵越しの海に浮かぶ船は西へ向かい、ここより遠くの売店からはクラスメイト達の談笑が聞こえた。そして船が汽笛を鳴らすのを白岩は寂しい気持ちで聴いた。
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