昨日とてもたくさん雪が降り、朝は10cmも積もっていた。

story
電車は遅れていたが、動いていたおかげで、無事に早朝でも出勤できた。午後になり、雪は止んで晴れ間がのぞき、やがてかえる頃にはすっかりきれいな青いそらになった。
帰りの電車も遅れていて、この時間にしては込んでいた。隣におじさんが座った。電車に揺られて窓の外の銀世界を見ていた。空はとても寒そうだがとても凛としていてきれいだった。
「田舎に近づくにつれて雪がたくさん残ってるね」
ふと、隣のおじさんが話しかけてきた。「そうですね」ちょうど私も今そう思っていた。真っ白な雪のじゅうたんになった田んぼを見ていて。
「お金が雪のかわりにふってきたらいいのに。でも拾うのが大変か。」
こんなに雪が降るのは、ここいらでは珍しいね。今日は買い物帰り?仕事?えらいね。この雪で、日曜日に予定してたアウトドアが中止になったよ。でも次の日曜日には行きたいな。
どこかのえらい社長さんみたいだ。アウトドア、、確かにジーンズだし、はつらつとしてるなあ。
たわいもない話をしているうちに、電車は駅に着いた。
人ごみにもみくちゃにされながら同じ駅で降りたその人は、話途中で終った私を気にかけているようだった。私はさりげなく歩幅を合わせて、同じタイミングで改札をくぐった。
「さようなら。お帰りは雪だから気をつけてくださいね」
改札機越しにそういうと、彼はとてもとてもあたたかい、やわらかな笑顔で言った。
「ありがとう」
私は何かの宗教は信じていないが、今日は神様に出会ったと思った。
普通、込んだ電車の中で、見ず知らずの人に世間話をする人は、今の時代ではあまりいない。
けれど、その人は、全てが温かくナチュラルだった。
何か意味があって、何かのタイミングが重なって、彼は声をかけた。
それが本当にすごいことだと、
私は思う。
言葉では上手く表現できないが、何かのサインのような、何かの奇跡のようなタイミングで何かステキなことが起きたときに、ああ、神様ありがとうって思う。
今日も、神様に会った、と思った。
今日は朝から全てが上手く行ってなかった。
イライラは最高潮で、たくさんのお菓子を食べてやり過ごした。
もし、その人に会っていなかったら、私は駅に下りたらすぐにハンバーガーを食べに行ってやる!くらいの勢いだった。
全てが上手く行っていないのではなかったのだ。
私が大きく何か変わったから、今までのやり方が合わなくなっただけの事なんだ。
それを知った。
帰り道。
神様は、笑って改札を出て行った。
まだ雪はたくさん残っているが、見上げた夕暮れのインディゴの空にきれいな月が昇っている。
真冬なのに、春先のように柔らかい表情の月だった。
