
◯
ある県議会議員の弟が経営する工務店の地下室で、大食い大会が行われている。
町おこしのために地元のパン屋がつくった〔なまずバーガー〕を、参加者たちが次々と口に放り込んでゆく。
観客はみな、金持ちで、暇を持て余した近所の奥様連中で、毎月会費10万円を払って、月2回、第2第4月曜の昼に開かれるこの大食い大会を観戦する。ほとんどが家族に内緒にしている。
今日もそんな奥様連中で会場内はいっぱいになっている。
彼女たちはつつましくおしとやかで、あまり派手に声援や歓声をあげたりはしないが、参加者たちに注がれる視線はとても熱い。
やがて、
大会がはじまって2時間も過ぎると、参加者たちの食べるペースが鈍りはじめてくる。みな、満腹になり、食べるのが苦しくなる。限界になってくる。「これ以上食えない」と棄権する者も出てくる。
しかしただひとり、試合開始当初と変わらないペースで黙々と食べつづけている参加者がいた。
近所の魚屋〔魚忘(うおぼう)〕の次男・弥助(やすけ)だ。
彼は満腹というものを知らないらしい、手は止まることなく、次々と〔なまずバーガー〕が彼の口のなかに消えてゆく。ここへきて、むしろペースアップしているように見える。
弥助はこの大会の常連で、初参加以来毎回優勝している。今回優勝すれば50大会連続優勝になる。

そして制限時間の3時間が経ち、やはり今回も魚忘の弥助がダントツで優勝した。
ここへくると、つつましくおしとやかな奥様連中も、さすがに感嘆と賞賛の歓声をあげた。
今回弥助は50大会連続優勝という前人未到の記録を樹立するとともに、なまずバーガーを6059個も食べ、自らが持つ6042個という大会記録をも塗り替えた。
それらのことが加味され、弥助には普段の10倍の賞金が与えられることになった。
その額700万円。
「これで店をたたまなくて済む……」
奥様連中が弥助に群がる。たくさんの笑顔が彼をかこむ。
弥助はもう有頂天だった。
と、
そこへ、
ふいに男が2人現れ、無言で弥助を連れ去った……。
つづく
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