めざめていても夢はみる

ぼくはいつまでもさまよいつづける、
夜が明けても醒めない夢のなかを…

いそがしい日(中篇)

2015-12-11 20:02:55 | ちょっとしたおはなし



「軟骨! 軟骨!」

自分の名を呼ぶ声に、軟骨外野手は振り返る。
と、
「監督っ‼︎」
精肉店の窓の向こうに、軟骨外野手が所属する〔丁字路メニーマネーズ〕の監督・空瓶2世が立っていた。



「久しぶりだな、軟骨。シーズンオフだからって気抜いてんじゃねぇぞ」
「いや、そんなことは……」とそこで気づいて「監督、今日はゴルフだったんじゃ……?」

空瓶2世監督は、野球よりもゴルフが好きで、しかもかなりの腕前だ。野球よりも上手い。
シーズンオフともなれば毎日ゴルフに行くほどだが、
「ちょっとね、これ」と、照れ臭そうに左腕を見せる。
昨日、ラウンド中に池に落ち、骨折してしまったのだ。
そうなれば今日以降のゴルフをキャンセルせざるを得ない。
「だから、こんなことをしたのさ」
「……?」
「『地元の消防団長』ってのはオレなのさ」
「え⁉︎」
監督はニヤリと笑みを浮かべ、
「楽しかったろう? この暇な時期に、こんないそがしい思いができて!」
「云ってる意味がわかりません!」
軟骨は苛立つ。なんでこんなことをされなくてはいけないのか……?
「オレも暇だったのさ……」
「暇って……」
「お前と同じく暇だったのさ!だから、もうちょっと付き合え!」
監督はそう云うと、腕を吊っていた三角巾とギプスを外して床に叩きつけ、走りだす。建物の奥に向かって。
「待ってください!」

突然、精肉店の建物が大きく揺れはじめる。そして、あちこちにヒビが入ったかと思うと、四階建ての精肉店はあっと云う間に崩れてしまった。
あたりは埃が立ち込め……
やがて……
「はははははははははははははーっ‼︎」
高笑いとともに、埃の向こうに巨大な影が!



「ははははははははははははははははははははははははーっ‼︎」


つづく







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