先日、はやり言葉の「リニューアルオープン」という宣伝文を折り込み広告で見ました。前に述べたように、「英語もどき」ならぬ「カタカナ英語」や「和製英語」が、今や日本語を駆逐していますから、別に驚くことはないのですが、私には「あーぁ、またか…」と、改めて情けなくなりました。
表題にあるように、「リニューアルオープン」というのは、普通は、いや、かつては「新装開店」と言っていました。しかし、「あれっと」思ったのは、この「新装開店」と「リニューアルオープン」の宣伝文句を比べてみたら、何のことはない、「リニューアルオープン」は、「新装開店」を「英語もどき」に変えただけなのでした。
全くもって不明の至りでした。つまり、「新装」は「リニューアル」、「開店」は「オープン」と、日本語をカタカナ語にワープロで?変換しただけなのでした。
じゃあ、「リニューアルオープン」 ならぬ 「新装開店」 は、「英語もどき」 ではない Englishで何と言うのでしょう?
まず、「英語もどき」の辞書ではない、The Random House College Dictionary をひもといてみました。
カタカナ語の「リニューアル」は、和英辞典から renewal(名詞)を、引っ張ってきたのでしょうか?しかし、辞書によると、renew-al の "-al" は、ラテン語やフランス語を語源とする動詞を名詞にする接尾辞だそうですから、renewal の元になる renew(動詞)を調べました。すると、to renew の同義語に次の三つの単語があることが分かりました: to renovate, to repair, to restore。そこで、辞書に載っている例を以下にまとめてみました。
to renew=to bring back to an original condition of freshness and vigor
用例: to renew one's enthusiasm
to renovate=to do over or make good any dilapidation of something
用例: to renovate an old house
to repair=to put into good or sound condition; to make good any injury, damage, wear and tear, decay, etc.; to mend
用例: to repair the roof of a house
to restore=to bring back to its former place or position something that has faded, been lost, etc., or to reinstate a person in rank or position
用例: to restore a painting, to restore a king to his throne
これら4例の中で、「新装」に最も近いのは to renovate でしょう。しかし、「新装」は名詞ですから、英語では renovation にしなければなりません。to renovate には to refurbish という同義語もあります。
ひるがえって、日本語の「新装」は、どう定義されているのでしょうか?
日本人: 「一目瞭然じゃないですか!ほら、読んで字の通り、装いを新たにすることでしょう」
ガイジン: 「なるほど、なるほど。漢字って便利ですね。一見して意味が分かるのですから!」
日本人: 「だから先人の知恵で、中国から漢字を輸入したんじゃないでしょうか」
ガイジン: 「でも最近、見ても読んでも意味が分からない、『英語もどき』の『リニューアル』のようなカタカナ語に人気があるようですけれど…」
日本人: 「……」 ― あなただったら、何と答えますか?
ガイジン: 「じゃあ、『開店』の定義は?」
日本人: 「これも、読んで字の通り、店を開くことでしょう」
ガイジン: 「そうそう、見ての通りで、何も問題はないですよね」 「では、オープンは?」
日本人: 「……」 ― あなたの答えは?
カタカナ語の「オープン」を、日本人は、名詞と動詞の意味で使っています。カタカナ語の常として、日本人は、英単語の語源の意味や品詞に関係なく、勝手に単語を名詞化あるいは動詞化して使っています。
けれども、英語の open には多様な意味があり、その多くは形容詞として使われます。例えば、not shut or closed「(戸や窓などが)開いている」、unoccupied by buildings, fences, trees, etc.「(場所などが)広々としている」、available as for trade「(店などが)開いている」などの意味で使います。
動詞の open は、to move(a door, window, etc.)from a shut or closed position「(戸や窓などを)開く」、to set in action or commence「始める」、to begin「始まる」、to make or force an opening in「通させる」、といった意味で使われます。
ところが、英語の名詞の open は、かなり意味が限られています。the(冠詞)を頭に付けて、the out doors「屋外」、the condition of being unconcealed or publicly known「公然」という意味でも使われますが、長くなるので、この程度にとどめます。
以上でお分かりでしょうが、外国語、特に英語の単語を、語源や品詞に関係なく、日本語の都合に合わせて、勝手に、面白半分?に「英語もどき」にしてしまう日本人の才能?には脱帽しますが、原語の意味から逸脱した外国の言葉が横行・はんらんしているのは異常です。最近の日本の社会状況と酷似しているというのも、偶然の一致ではないでしょう。日本語の乱れは、日本社会の乱れも招いています。いや、日本社会の乱れが、日本語の乱れを招いているのかもしれません。
日本語の伝統や美しさや心を伝える、「和歌」や「短歌」や「俳句」の原点とも言える日本語はどこへ行ってしまったのでしょう?とは言え、「和歌」や「短歌」や「俳句」が消えて無くなってしまったわけでもないのです。NHKの教育テレビではその番組を放送しています。一方で、NHKは他の番組で、日本全国にカタカナ英語を垂れ流しています。
この落差を何とも思わない日本(人)に、私は違和感以上に危機感を常に感じています。それにもかかわらず、日本語を使う専門家である学者・作家・報道人が抗議や対策や運動を起こさないのにあきれています。
先日、常用漢字の使用枠を広げることが決められました。私にとっては当然のことだと思っています。帰国後、編集者の立場から懸命になって日本語を学び直している時に、一番苦労したことは、漢字の使用枠と送り仮名の問題でした。私が中・高校で習った漢字が使えない、あるいは異なった漢字を当てるという確認作業は、今でもそうですが、大変な労力を要しています。
目先の事を場当たり的に、しかも小手先で対処する日本の有識者と呼ばれる人たちは、一体何者なのだろうかと思わずにいられません。十年そこそこで日本語が様変わりする事態に対し、「言葉は時代とともに変わる」などと、のんきなことを言っていられるような問題じゃないと思いますけれどね!たかが十年や二十年で一時代ですか!二十年たったら世代間での意思疎通が難しくなるということでしょう (「意思疎通」 か 「コミュニケーション」か?〈2015年06月23日〉参照)。現実にそうなっていますけれど。
実は10月に 、水村美苗 『日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で』(筑摩書房) という本が出版されました。朝日新聞の「文化」欄に紹介され、私の主張に共鳴できる内容のようなので購入しましたが、残念ながらまだ読むひまがありません。著者の略歴にによると、幼少時にアメリカに移住し、バイリンガルの方のようです。皮肉なことには、英語ができる人でないと、日本語が直面している事態に気付かないようです。
なぜ気付かないかというと、身内の変化、例えば、子供の身長とか体重とか心の変化に、親は毎日見慣れ触れているので疎いのと同じです。「ご飯」が「ライス」、「コーヒー」が「ホット」に変わっても、何にも感じないようなものです。
私は、日本語はすでに滅び(亡び)つつあると思います。やっとその現実に警鐘を鳴らす良識ある日本人があらわれたようです。
本題に戻ります。「新装開店」は、「英語もどき」でない English で何と言うのでしょう?(How do you say "renewal open" in proper Englilsh?)
ある「和英辞典」は、おおよそ次のように英訳していました。
~will reopen~after refurbishment.
「~」の部分は、開店する「店舗」や開場する「施設」の名称です。2番目の「~」は、開店、開場する時期です。この訳から、私は、以下のように書きます。
We are(The store is)renovated(refurbished)and will reopen on the 20th of December.
これでは宣伝文にならないので、次のようにしました。
WE ARE COMPLETELY RENOVATED !!
Ready to Reopen on the 20th of December
Lucky Pachinko Parlor
数日前から、アメリカの上院と下院の公聴会で、いわゆる Big 3 (三大自動車会社)に対し、bailout (資金援助)について審議がされました。私が初めて留学した先が、Big3 の本社所在地、Detroit の近郊でした。当時と現在を比べると、それこそ「隔世の感」を否めません。このことについても近々書きたいと思います。
次回は、今年の在米日本人ノーベル賞受賞者、下村さんと南部さんの日本語についてです。
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