おかあさんのうた

どこをどう歩いてきたんだろう。
おかあさん、子供たちよ。
あのぬくもりはもう帰っては来ないのだろうか。

2010-02-07 23:46:50 | 随筆
 あれ、ゆふこがいる。

この家、誰の家?

あのひげを生やしたおっさんは誰?

あれ、ゆふこがいなくなった。どこ、行ったの?

「買い物じゃないの、すぐ帰るといってたわよ」

このおばさんだれ?でも、やさしそうだ。


 ゆふこが見えた!

でも、声掛けちゃいけないんだ。誓約書に押印したからね。

そっと、ゆふこのそばによってみる。

ゆふこは逃げない。

ぼくをじっと見つめている。

目が潤んでいる。

 ぼくは勇気を出して、そっとゆふこの耳元に口を寄せた。、

「帰れるようになったら、そしたらもどっていくからね」

ゆふこは黙っていた。なつかしいゆふこの匂いがした。


 むこうで、家の壁に男はもたれ、女は男の前に座って男に話しかけている。

突然、ゆふこは僕の腕をとって、グングン家の中へぼくをと引っ張っていく。

男と女の前を通って、急ぎ足に家の奥へと連れて行く。

そうか、ゆふこももぼくに話しかけちゃいけないんだ。

誰もいないところで話そうって云うんだね。

右手を掴まれた腕からゆふこのぬくもりが伝わってくる。

あたたかい、確かにゆふこ、おまえのぬくもりだ。

おれのこと許してくれていたんだね。

 
 突然、視界からゆふこもおっさんんもおばさんんも消えてしまった。

ぼんやりしている。靄がかかったように何も見えない。

右腕の掴まれた感触とぬくもりだけが残っている。


 夢か。

夢をみていたんだと、次第に意識がはっきりしてきた。

ゆめなら覚めるな。夢に戻ろう。

ゆふこの手のぬくもりが右腕に残っている。今のうちにゆめの家に帰ろう。

ゆふこにあいたい。

夢の続きをみよう。

真っ暗な部屋の中でじっと目を瞑る。

ーーーーー。

  無情に意識は目覚めていった。

また、無意味な一日が始まる。