将棋雑記

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旧パラを検証する71

2012-05-02 22:32:00 | 旧パラ検証
旧パラを検証する71
第七号8
詰将棋解剖学⑤入門より創作まで 谷向 奇道
第四節 守備駒の位置を変換する手筋
 この手筋は目的によって次の四種の場合に分類される。
(A)玉方の守備駒の利きが強くて攻撃が困難なる時、その防力を弱める為に捨駒でその駒の位置を変更させる場合。
(B)玉方の駒の在る位置に詰方の駒を利かし、或は駒を打ちたい為に、捨駒によってその駒の位置を移動させる場合。
(C)玉の退路を断つ為に守備駒をその位置へ移動させて壁を作らせ、逃路を封ずる場合。
(D)「打歩詰」を回避する為に捨駒で守備駒の位置を変える場合。
 註、(D)は更に二種に分かれるが、「打歩詰を回避する手筋」は次節で纏めて説明するから、本節では詳細及び実例は省略する。
第四十五図は(A)の場合の基本的なるものである。
 古作物

図の局面で二二金が打てれば簡単な詰であるが、守備駒二三龍が強力で容易に詰み相にない。かゝる場合には当然二三龍の防力を無能化する為に之を移動させる捨駒の手筋が考へられる。
 二四桂、同龍、三四角が右の目的にそう一聯の好手順で、三四角に対し、同龍でも二三合でも二二金打の詰がある。玉方は二一玉と引く一手となり以下飛車を入手して詰む。
 第四十五図詰将棋(古作物)詰手順
 二四桂(A)、同龍、三四角(A)、二一玉、四三角成、一一玉、二二金、同龍、同金、同玉、四二飛、二三玉、三二飛成、一四玉、一五歩、同玉、三五龍、一四玉、二五龍迄十九手詰
 第四十六図では二四金と打捨て、同玉に三三角成が出来れば詰形となる。その為には守備駒二一桂の位置を変更しなければならない。

それには一三金打だが、直ちに行っては同玉と取られて後が続かない。二六龍の活用範囲を拡げる為に先づ一五金、同龍と飛車の位置を変更し、次いで一三金と二一桂の移動を計るのが好手順である。玉方二四玉と寄る一手そこで一四金打、同龍、同金、同玉と清算して一五飛と打つ。二三玉に対して(二四玉ならば三五角)二二角と成り、二四玉の時今度こそ一三飛成と桂の移動を強要する。同桂の一手で主眼の三三馬が達成する。
 第四十六図詰将棋作意
一五金(A)、同飛、一三金(A)、二四玉、一四金打、同飛、同金、同玉、一五飛、二三玉、二二角成、二四玉、一三飛成(A)、同桂、三三馬、一四玉、一五龍迄十七手詰。
 第四十七図は三四龍の活躍を主眼とした作品であるが、一一玉と逃げ込まれると、守備駒五三馬の威力が強く三一龍の手が無いので詰まない。即ち五三馬の位置を変更する(A)の手筋を適用しなければならない。

第四十七図詰将棋作意
 二一桂成、同玉、四三角成(A)、同馬、二二歩、同玉、二三銀、二一玉、一二銀成、同玉、一三歩成、同玉、二五桂、同金、一四香、二二玉、二三歩、二一玉、一一香成、同玉、三一龍、一二玉、二二龍迄二十三手詰。
 四三角成の好手が十八手目に効果を現し三一龍を成立せしめるのである。

次に守備駒の位置を変更する手筋(B)の場合の例を挙げる。
 第四十八図に於いて先づ六三龍の利きを三三へ到らせる為に(六三龍と二四銀との連絡をつける目的で)四四桂と打ち、同歩と歩の位置を変更させるのは即ち(B)の手筋である。
次に「玉を攻めるには大駒上部より圧するを可とする」と言う(原則1)に従って、三一馬から三三龍と捌く為に二一桂の防力をはずすべく三三銀成とするのは(A)の手筋である。同桂に三一馬、同玉、三三龍とし、三二銀上るに対し、後に龍の利きが六二に到する様に四三桂、同金と金の位置を移動させる(B)の桂捨を放ち、次に二二金、四一玉、三二龍、五一玉と追って、最後に六二銀と玉の逃路を封鎖する(C)の捨駒を打って詰む。本局は守備駒の位置を変更する手筋のみで構成した作品であった。
 第四十八図詰将棋作意
 四四桂(B)、同歩、三三銀成(A)、同桂、三一馬、同玉、三三龍、三二銀上、四三桂(B)、同金、二二金、四一玉、三二龍、五一玉、六二銀(C)、同歩、五二歩、六一玉、四一龍迄十九手詰

第四十九図の玉は三三より四四への逃路をもつてゐる。それは二二角で止まるが角では威力が弱くて成功しない。三三玉の形の時、馬を作る手段は一一角打であるが現在の形では玉方一一香が之を封じてゐる。一一角打を得る為に一一香を移動する―こゝに(B)の手筋が適用される。即ち一二飛成である。
 第四十九図詰将棋作意
 一二飛成(B)、同香、三三金、同玉、一一角、二三玉、二二角成、一四玉、一五金、同玉、一六歩、一四玉、一五歩、二五玉、三七桂、三六玉、四六金、同玉、五五馬、三五玉、
四五馬迄二十一手詰。
(第十二図再掲)

第十二図(再掲)は第二編、第一節で桂の使用法の例として掲げたものであるが、一四桂、二四桂の再度に亘る桂の打捨ては玉方の歩の在る一三、二三の位置に夫々香及び桂を打たんとするが守備駒の位置を変更する手筋の(B)の場合である。
 第十二図再掲詰将棋作意
 三二銀(A)、同角、四二銀、二二玉、一四桂(B)、同歩、三二桂成、同玉、二四桂(B)、同歩、四一角、四二玉、五二飛、四一玉、五一と、三一玉、二三桂、二一玉、一一桂成、同玉、一三香、二一玉、一二香成、三一玉、二二成香迄二十五手詰

 第五十図は少々難解な作品と思うが、守備駒二二金及び二一桂の防力が強いことを考へればその移動を計る為に、三三龍行の手段が浮かんで來る事と思う。三三龍を同金なら二二銀打、四二玉、三三銀成以下詰であるから同桂と取る。そこで二一の個所が空いたから二一金打と敵状を打診する好手を放って以下比較的容易な手順となる。
 第五十図詰将棋作意
 三三龍行(B)、同桂、二一金、四二玉、二二龍、三二金合、同龍、同玉、二二金打、四二玉、三二金打、五一玉、四一金、同玉、三一金寄、五一玉、五二香(A)、四二玉、三二金寄、五二玉、六三銀、五一玉、四一金迄二十三手詰

次に(C)の場合を例示する。第五十一図は三一飛の活用法如何と言ふ作品だが、玉を一三から二四へ出しては詰まない。
 先ず二二香成と邪魔駒を捌き、同玉に三三銀と打つ。これは一三玉上を制する絶対の手段で同時に二一桂の移動を強要してゐる。同桂。そこで一三角と打つ。この角打ちは、逃走を牽制する手筋と考えても差し支えないが、この場合一三同香と取り玉の逃路を封ずる事になるから守備駒の位置を変更する手筋として扱った。
 第五十一図詰将棋作意
 二二香成、同玉、三三銀(A)、同桂、一三角(C)、同香、三二金、二三玉、二一飛成迄九手詰
 註、第四十六図詰将棋における「一三金打」は守備駒の位置を変更する手筋と考えても、敵状を打診する手筋と考えても差し支えなく、又、本局に於ける「一三角打」は守備駒の位置を変更する手筋と考えても、逃走を牽制する手筋と考えても、玉を限定する手筋と考えても差し支えない。
 かくの如く一つの手段が、二つ以上の手筋の効果手である事が往々にあるのであつて、従って詰手順中の或る手段がどの手筋に属すべきかと言う問題は極めて難しいのである。
一つ手段を唯一の手筋に属させる様な詰手筋の分類法は恐らく不可能ではないかと思われる。故に読者が筆者の分類法に不満を感ぜられる場合には自分で納得のゆく分類法によつて手段を記憶されるがよい。要は、分類法の如何にかかはらず詰手筋の活用が自由に出来ればよいのである。

第五十二図は遁路の無い玉ではあるが詰方の動きによつて遁路を生ずる。形から見て一一飛、一二馬を利用して持駒を増す手順が考えられるから、四三飛成としたい所だが六四玉と上られる。先ず六四銀、同香と六四玉出を封ずるのが(C)の手筋で然る後四三飛成、同玉、二一馬、五三玉、一三飛成、同馬と一筋の駒を捌いて持駒をたくはへ、次に左邊へ逃げられる事を考察して馬の好位置に据える為に四二桂の移動を計ることに想到せば容易に詰上る。
 第五十二図詰将棋作意
 六四銀(C)、同香、四三飛成、同玉、二一馬、五三玉、一三飛成、同馬、五四銀(A)、同桂、四四金、六三玉、五四馬、七三玉、八五桂、八二玉、八一と、同金、九四桂、七一玉、八一馬、同玉、八二金迄二十三手詰

第五十三図は入玉型の作品で持駒に角があるから「成駒を作る為の遠駒の手筋」を考えて見る。が直ちに三七金と打つと同玉で、七三角と打った時二六玉と逃げられる。この二六への逃路を封ずる為に先ず二六飛と打って同香と取らせるのが(C)の場合の捨駒である。
 第五十三図詰将棋作意
 二六飛(C)、同香、三七金、同玉、七三角、四七玉、五七金、三六玉、四六角成迄九手詰。
 守備駒の位置を変更する手筋の(C)の場合は以上三例の如き場合の外に、遠駒によるものが相当多いのであるが、それは第八節で詳解するから、茲では一例を挙げるに止める。

第五十四図では一見二二龍、二五桂等の手段が映るが二四から三五への逃路があつて不成功に終わる。この逃路を封鎖する為に先ず三五角と打つ。これが遠駒による玉の逃路を封鎖する手段で玉方同歩でも同金でも逃路無く詰む。
 第五十四図詰将棋作意
 三五角(C)、同金、二二龍、二四玉、三三龍、一三玉、二五桂打、同銀、同桂、同金、二四銀(C)、同金、二二龍迄十三手詰。
 例に依って練習問題二題を掲げる。


[前号練習問題解答]
(将棋図巧第二十一番)六二龍、同香、八三金打(模様見の手筋)、六四玉、六五歩打(模様見の手筋)、同龍、七五銀打(模様見の手筋)、同銀、七六桂打、同銀、七五金行(玉を限定する手筋)、同龍、五四金打、六五玉、五七桂、同と、五五金(邪魔駒を捌く手筋(C)の甲)、同銀、四三角、六四玉、五四角成迄二十一手詰
 (本号練習問題解答)
 (将棋図巧第六十九番詰手順)
 七八金打、同角成、同金、同馬、八九金(A)、同馬、八八銀(C)、同馬、七七龍(A)、同馬、六八角(C)、同龍、八九金迄十三手詰
 (将棋玉図第六十四番詰手順)
 七二銀打(A)、同馬、九三桂(A)、同龍、七二銀成、同玉、八一角、同玉、九二銀(C)、同龍、六一飛成、同銀、六三角、七二銀、七三桂迄十五手詰。
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前号練習問題(図式百番第五十七番の改作)は同号詰将棋学校大学(B)として出題してありますので詰手順は十二月号で発表する。
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 何度も書いていますが、例題は自作では無くて、古作物で知られている作品が適切だと思う。
 また今回、気になったのは例題五十四図で三五角を遠くないのに遠駒と書いたこと。要するに妙手は視覚的には遠くなくても遠駒と呼ぶと定義しているのです。これが原因で、後に七條兼三氏の作品を門脇氏が解説した時に、(昭和五十四年五月号詰パラ)92玉に対して74角、81玉に対して63角と打つのを、この解剖学を根拠に遠角と呼んで、議論を巻き起こしたものです。まあ、客観的に見て遠駒と呼ぶのには無理があるなあ、と思いますね。例えば、五十四図で35角を遠駒と呼ぶのなら、もし作意が79角なら何て呼ぶのか?超遠駒?やはり遠く無いのを遠駒とは呼び難いですよね。しかも根拠の解剖学は、あくまで谷向氏の個人的定義ですしね。
 自作の例題の話に戻りますが、この自作の例題自体が古作物の改作が多いし、しかも出典も出さないでの改作も多く、問題だと思います。そして、無双作品の改作について大学に投稿したことは、今の常識では考えられないのですが、四百人一局集に当時の大学担当者の麻植長三郎氏の記事を見て、得心が行きました。要するに、当時の鶴田主幹が麻植氏の反対を押し切って、掲載し麻植氏は担当を辞めたということなのです。これは、鶴田氏得意の物議を醸して話題作りをするというパターンだったのかもしれません。でも一番問題なのは、改作を投稿した谷向氏の姿勢だと思うのですが、、、。