青い鳥のお話~イソヒヨドリ~7からの続きです。
ハクモクレンのつぼみがほころび始めた3月末。
イソヒヨドリが毎日ついばんでいたサンシュユの実は、ジョウビタキのジョビ子さんとの争奪戦が勃発したこともあり、ついに枝先からなくなってしまいました。
サンシュユやモクレン、桜(ソメイヨシノ)もそうですが、春先の樹木の花は、葉が出る前に満開になるものが多くて、見ごたえがありますね。
にぎやかになっていく花景色とは逆に、うかない表情で、実がなくなったサンシュユの木を眺めるイソヒヨさん。
「何とかしてくれよ…」とでも言いたげな顔です。
あきらめきれない様子のイソヒヨさんは、その後も隣家の物置の上からうちの庭を眺めに来ていましたが、それが1日1回になり、2日に1回になり。。。
桜が満開となった4月の頭には、すっかり姿を見かけなくなりました。
思い返せば、私が初めてイソヒヨドリを見かけたのは、昨年の4月。
式年遷宮のお祝いでにぎわう、伊勢神宮の門前町でした。
輝く青と深い赤、目の覚めるような派手な色彩のオスが、グレーと茶の渋い色彩のメスに向かって、よく響く口笛のような美声で、さかんにさえずっていました。
イソヒヨドリにとっては、これからいよいよ本格的な繁殖シーズン。
うちに通ってきていたイソヒヨさんも、嫁さん探しに、海辺に帰っていったのかもしれません。
仲間もいない、こんな山あいに長居してもしょうがないと思いつつ、あの綺麗でユーモラスな姿を、もう少し長く見ていたかったなあと、心残りに感じていたところ―――
急な寒の戻りで、みぞれまじりの冷たい雨が降った4月5日。
ふと窓の外を見ると、お隣の2階の屋根に、あの青と赤のツートンカラーが!
約2週間ぶりですが、ちょっとふてくされたようなカメラ目線は相変わらずです。
何となく、別れの挨拶に来てくれたのかな?と感じました。
その予感どおり、この後ろ姿が、イソヒヨさんのラストショットとなりました。
花冷えの雨の中、ビューン!と弾丸のように勢いよく飛び出していった青い鳥。
願わくば、また元気な姿を見せてくれますように。
次の冬、サンシュユの木が再び赤い実をつける頃―――
青い鳥のお話~イソヒヨドリ~6からの続きです。
「神の使い」とあがめられたり、「闇の組織からの刺客」と恐れられたりしていたのは、いつのことやら……
今や「ゲテもの(サンシュユの実)と狭いところ(雨樋)好きの変な鳥」呼ばわりされている、我が家のお客さん、オスのイソヒヨドリ。
庭のサンシュユの実目当てで、この青い鳥がせっせと通ってくるようになってから、ほぼ1カ月がたった3月下旬。
サンシュユの木は、今年の花が真っ盛りです。
イソヒヨドリが毎日2~3粒ずつ食べ続けているのは、去年の花がつけた実で、もう上の方の枝にしか残っていません。
細い枝にとまれないイソヒヨドリは、太い枝からパン食い競争のように飛びつこうとするも、失敗してバサバサと騒いだ後、そのまま飛び去ってしまうことも増えてきました。
このサンシュユの実が、すっかりなくなってしまったら、もうイソヒヨさんが我が家の庭に来ることもないのかなあ……
そんな寂しさの予感のようなものが漂い始めた、ある日のこと。
「えーと……毎度おなじみ……イソヒヨドリです…」
あれっ? イソヒヨさん、なんか心ここにあらずって感じじゃないですか?
「……いや、そんなことないっす! 今日も行きますよ!」
おっ、待ってました!
サンシュユの実も、だいぶ残り少なくなってきましたけど、どうせイソヒヨさんしか食べないものですからね。
遠慮なさらず、どうぞどうぞ!
「い…行き……行きますよ……ムムムムム……!」
ちょ、何ですか、そのポーズ!
ヨガの倒立か、名古屋城のシャチホコかって感じで、屋根にめり込みそうなんですけど…
イソヒヨさんが、無理目なポーズで固まってしまったので、その視線の先をたどってみたところ―――――
あっ、ジョウビタキのジョビ子さん!
イソヒヨさん、もしかして、これが気になってたんですか?
ジョビ子さんはメスのジョウビタキで、最近うちの庭に来てくれるようになったんですよ。
小柄で目がパッチリしてて、どこか上品な雰囲気で、かわいらしいんですよね。
「いや……かわいいとかじゃなくて……なんか嫌な予感がするっていうか」
嫌な予感? 何だろう?
「こんにちは♪ ジョビ子です」
ジョビ子さん、今日もエレガントですね!
最近、ジョビ子さんをうちの庭でよく見かけますよね?
妻がサンシュユの木にお手製の団子をくくりつけて、シジュウカラに食べさせているので、もしかしたらジョビ子さんもそれ目当てかな?なんて言ってたんですが……
違いますか?
「お団子ってこれのこと? 残念ながら、これには興味ないのよネ」
はあ、そうなんですか。
小麦粉、砂糖やハチミツ、雑穀なんかにラードを混ぜて作る、バードケーキとかいうものらしいですよ。
シジュウカラやメジロには人気みたいですけど、ジョビ子さんもおひとついかがですか?
「うーん、私はどっちかっていうと、こっちの方が……(ブチッ)」
あっ、ジョビ子さん、それは……!
「(モガモガモゴ)……」
え? え!?
「(ごっくん)……ふむ、なかなかオツな味じゃないの」
えええ~~~!!
「―――ゆ、許さん!!!」
ああ、まずいです! ジョビ子さん、逃げた方がいいですよ!
「あら、何か問題でも?(キリッ)」
パララーッ♪ パララーッ♪
どこからか、「仁義なき戦い」のテーマ曲が…!
「(くるり)……いえ、何でもありません」
えっ、あ、あれ?
「今日のところは、これでカンベンしといたるわ!」
イソヒヨさん…もしかして……
この姿を見たときから、なんとなく、そうじゃないかと思ってはいたんですが―――
実は、すっごく気が小さいですよね?
その数日後。
サンシュユの実を食べようとしていたイソヒヨさんが、背後から忍び寄ったジョビ子さんに、ヒッ!ヒッ!という威嚇音とともに跳び蹴り攻撃を食らわされ、慌てて逃げていく様子を目撃してしまいました。
青い鳥のお話~イソヒヨドリ~8(最終回)に続く
青い鳥のお話~イソヒヨドリ~5からの続きです。
お隣の物置の上から、うちの庭に飛び降りてきたイソヒヨドリ。
そのお目当ては、我が家では「まずくて鳥も食べない」と言われていたサンシュユの実でした。
それから毎日、隣家の物置の屋根にあらわれては、あきれるほどのへっぴり腰でサンシュユの木に飛び移り、赤い実を2~3粒ついばんで帰っていきます。
今まで見かけたことがなかったのに、なぜ今年突然あらわれたのか?
サンシュユの実は本当に美味しいのか?
美味しいなら、どうしてもっと一度にたくさん食べないのか?
うちに来ていない間は、どこでどうして過ごしているのか?
色々と疑問を抱きつつも、1週間たち、2週間たち、私たちは徐々に、このユーモラスな青い鳥が身近にいる生活に慣れ始めました。
そんなある日のこと。
私は偶然、「どこでどうして過ごしているのか」という、イソヒヨさんの秘密の一端をかいま見てしまいました。
ビューンとどこからかすっ飛んできたイソヒヨドリが、お隣の小屋の屋根に着地するなり、ものすごい勢いで屋根の上を走って、雨どいの中に駆け込んだのです。
彼の姿はそのまま、手品のようにトタン屋根の下に消えてしまいました。
木の枝にとまっている時の不器用でヨロヨロした動きからは考えられません。
鳥というよりも、ネズミのような小動物か、波打ち際のフナムシのような、ちょっと我が目を疑ってしまうほどの俊敏な動作でした。
雨樋の中に潜り込んで、いったい何をしているのでしょうか?
不審に思って、トタン屋根の向こう側にふと目をやると……
……?
……!?
……!!??
見ていると、頭を出したり引っ込めたりして、「モグラたたきじゃないんだから…」と突っ込みたくなるような動作をしています。
どうやら、何か怖いことか驚くようなことがあって、このトタンの下に逃げ込んできたようですね。
入っていくときの慣れた動作からして、普段からここを休憩所もしくは避難所にしていたようです。
その後もここに出入りする様子を何度も見かけたので、夜のねぐらにもしているのかもしれません。
しかし、そんなところに潜んでいたとは……驚きました。
それにしても、観察するにつけ、イソヒヨドリというのは、表情豊かで動作のユニークな野鳥だとしみじみ思います。
セキレイのようにしきりに尾羽を上下して、自分の存在をアピールしたり…
窓から覗くと、逃げるどころか、不思議そうにこちらを見返してきたり…
我々の意表を突きながらも、どこかとぼけた行動で、ますますウォッチング熱をかき立ててくれるイソヒヨさんでした。
青い鳥のお話~イソヒヨドリ~7に続きます
青い鳥のお話~イソヒヨドリ~4からの続きです。
約1カ月ぶりに、お隣の物置の上に姿を見せた青い鳥、イソヒヨドリ。
隣の家の窓から撮影されていることに気づいている様子なのに、逃げようともせず、カメラ目線で次々にポーズを決めてくれました。
その姿を見ていると、もしかして、本当に自分に会いにきたのかな……などという妄想の世界にひたってしまいそうになります。
このイソヒヨドリさん、今回は前のような日帰り訪問ではなかったようです。
翌朝、外を見回してみると、朝もやの中に浮かび上がる姿が……
お隣の2階の屋根にとまって、昇る朝日をじっと見つめていました。
羽をまん丸に膨らませて、朝日を受けて輝くその姿は、小さな太陽のようです。
どこか神々しくさえある横顔に、伊勢と出雲での不思議な出会いを思い出し、やっぱり神様の使いなのかな……などという空想の翼を広げてしまいそうになります。
時折、かぼそい声で、フィーフィー…と鳴いています。
昨年の春と初夏に聞いた力強いさえずりは、まだ時期的に封印中のようです。
イソヒヨドリはその後、活発に動きまくり、ご近所さんちのソーラーシステムの上で周りを見回したり、耕された田んぼに降りて、セキレイと一緒に虫を探したりしていましたが――
午後になって、またまたお隣の物置の屋根に姿をあらわしました。
相変わらずのカメラ目線で、こちらに身を乗り出すようにして、もはや見られているというより、にらみつけられているような……
なぜ、いつもそこでこっちを見ているんでしょうか!?
「ここで何してるか、本当に知りたい?」
うん、知りたいです。
それにしても、光線の当たり具合や姿勢で、羽の色や体型が全然違って見えて、イソヒヨさんの印象が統一されなくて困ってしまいます。
「じゃあ説明するね! ……せーのっ!」
あ、そのポーズ、昨日もやってましたね……
―――って、うちの庭に向かって飛んできた――!?
「(シュタッ!……おっとっと…)お宅の庭の、この木なんですがね」
サンシュユの木ですか? この時期に咲く黄色い花がきれいなんですよ。
それはともかく、イソヒヨさん、足下がめちゃくちゃグラついてますよ。
もしかして、海育ちで、木にあんまり止まったことがないのでは?
「(よっこいしょ……うんしょ…)これ、赤い実がなってますよね」
なんかすごいへっぴり腰ですね……
赤い実?
これのことですか?
毎年きれいな実がなるんですけど、酸味と渋味がハンパないので、今まで何の鳥にも食べられたことないんですよ。
漢方の材料になると聞いて、義母が「体に良いかも」と食べようとしたんですが、近所のおじさんに「鳥も食べんものは毒に決まっとる」なんて言われて……
……イソヒヨさん、聞いてます?
「(ガサゴソ……ガサゴソ……ブチッ!)…………ごくん」
えっ? 今、食べた!?
「――何か問題でも?(キリッ)」
いや、すごいイケメンな表情で、背景の色合わせも最高ですが、その実、まずくないですか!!??
イソヒヨドリは、うちのサンシュユの実を2粒食べてから、ビューン!と弾丸のようなスピードで、どこかへすっ飛んでいってしまいました。
―――ということで、お隣の物置の上でこちらをにらんでいたのは、うちの庭に飛び降りるチャンスをうかがっていたというのが真相のようです。
あの赤い実を早く食べたいのに、カメラごしに凝視されて、どうしようか、このまま降りていこうか、でもちょっと気になる……という心の葛藤が、物置の屋根の上で、いろんなポーズや表情をとらせていたんですね。
そんなこととは露知らず、じろじろ眺め回してごめんなさい。
しかし、伊勢と出雲で出会ったあの青い鳥が、うちの庭木の実をついばんでいる光景というのは、ちょっと信じられないものがあります。
不思議な鳥の不思議なお話、もう少し続きます。
青い鳥のお話~イソヒヨドリ~6に続く
青い鳥のお話~イソヒヨドリ~3 からの続きです。
昨年の伊勢・出雲旅行で出会った青い鳥、イソヒヨドリが、隣家の物置の上にひょっこりあらわれたのが、今年の1月下旬。
それ以降、仕事の合間にしょっちゅう窓の外を見ていたのですが、1週間たっても、2週間たっても、イソヒヨドリは姿をあらわさず……
もう来ないのかな?とデジカメ写真を見返すにつけ、不満に感じてしまうのは、その写りのお粗末さです。
次回、イソヒヨドリがあらわれた時のために、もっとズームの効くデジカメを!!!
ということで、入手したのが、このカメラ。
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50倍(35mmフィルム換算で1200ミリ)という高倍率光学レンズが売りのキヤノン PowerShot SX50 HS です。
ピント合わせの速さや正確さ、画質の良さでは、もちろん高級デジタル一眼+望遠レンズにはかないません。
しかし、こちらは小型で軽く、三脚なしで超望遠撮影ができて、何より予算が10分の1以下!
鳥の名前はスズメ、カラス、ハト、セキレイ、カワセミぐらいしか知らないし、大きなカメラと三脚を持って歩き回る気力・体力もないけど、気軽に野鳥撮影を楽しみたい!という私のような人間には、最適のデジカメです。
カメラが自宅に届いたのは、2月の中旬。
いざ構えてみて、撮影が意外に難しいことに少々とまどいました。
ここ数年、レンズが明るい小型のコンデジを使用していたため、手ブレを気にすることなく、適当にバシャバシャ撮るクセがついてしまい、カメラをしっかりホールドすることができなくなっていたようです。
1200ミリというような超望遠になってくると、まず被写体をフレームの中にとらえること自体が難しくなります。
カメラをきちんと固定できないと、手ブレというような生やさしいレベルでなく、被写体があっという間にフレームの外に飛んでいってしまうのです。
幸い、このSX50 HS には、簡単なスイッチ操作で、ズームアウト&ズームインで見失った被写体を探し出したり、強力な手ブレ補正をかけたりする、フレーミングアシストという機能がついています。
そういったお役立ち機能に助けられつつ、電柱や電線のガイシのような動かないものから練習を始めて……
スズメなどの小鳥も何とか撮れるようになった、約1週間後。
お隣の物置の上に……
イソヒヨドリが…………
帰って来た~~~~~~~~!!!
「よっ! 久しぶり!」
待ってましたよ! 1カ月ぶりですね!
「今度はちゃんと撮れてるか?」
そのために、新しいカメラまで買ったんですよ。
「背中もカッコイイだろ!(キリッ)」
ハイ、なんかもう、非現実的なまでに綺麗でカッコイイです。
でも、なんでそんなにカメラ目線なんですか?
「こんなポーズなんかどう?」
いいですけど……野鳥の撮影って、こんな簡単なもんでしたっけ?
なんかモデルの撮影会みたいじゃないですか?
っていうか、こないだから、そんなとこで何してるんですか?
「……何って、お前を見張ってるんだよ!!!」
ぎゃ~~~~!! 怖い!!!
「……んなわけないだろう」
あ……冗談ですか……
「闇の組織に狙われてる」とか何とか聞いたから、やっぱりそうなのかと……
「闇の組織って何?」
Iso Hiyo Networkとかいう……いえ、何でもありません。
それよりイソヒヨさん、撮る角度や体勢で、見た目が変わりすぎですよね?
「そうかなあ……」
「そんなことないよ?」
そんなことないことないです。
すぐ上のは「幸福の青い鳥」って感じですけど、その上のは「悪い魔法使い」みたいです。
「そんなことないって言ってんだろうが!」
いやもう、その顔、本気で怖いんで、やめてください。
でも本当に、イソヒヨドリさん、ここに何しに来たんですか?
「それはね……」
「秘密です」
隣家の物置の屋根を舞台に、さんざん色んなポーズをとってくれてから、またいずこかへ去っていったイソヒヨドリ。
彼の真の狙いは、いったい何なんでしょうか!?
青い鳥のお話~イソヒヨドリ~5に続く
青い鳥のお話~イソヒヨドリ~2 からの続きです。
2013年に伊勢神宮で初遭遇し、出雲大社で再会したイソヒヨドリのお話は、2014年に入って、予想外の展開を迎えました。
伊勢旅行・出雲旅行の写真を見返しては、「イソヒヨドリには驚いたね」「また会いたいなあ」などと話していたところ……
ネット上で、私が住んでいる広島県福山市の海岸付近でも、イソヒヨドリが見られるという情報を目にしました。
ドライブによく行く、潮待ちの港町「鞆(とも)の浦」にもいるようです。
今まで何度も訪れているのに、一度も見たことがありませんでしたが、本当にいるのでしょうか?
半信半疑で、鞆の浦に出掛けてみたのは、2014年の1月下旬。
よく晴れた寒い日の午後でした。
「そんな簡単に 『あっ、いた!』なんてことはないよな~」などと思いつつ、防波堤の上によじ登り、ふと横を見ると……
なんだか見覚えのある黒っぽいシルエットが、防波堤の先に設置された、波消しブロックの上に……
あれ、イソヒヨドリじゃないの!?
妻が慌ててデジカメのシャッターを切るも、撮影できたのは、色も大きさもよくわからない、この一枚のみ。
黒い影は、ひょいひょいとブロックを渡って遠ざかり、やがて見えなくなってしまいました。
その後は、探しても探しても、トンビやカモメばかりで、イソヒヨドリらしき鳥は見つからず。
「あれはきっとそうだよな?」
「うーん、姿かたちや動きはそれっぽかったけど…」
「うちの方にも遊びに来てくれたらいいのになあ」
「海から結構離れてるし、山に囲まれてるから、食べ物に困るでしょ」
帰りの車の中で、そんな会話をした、その翌日。
自宅の窓際で、友人に携帯メールを打っていて、ふと目を上げると、お隣さんの物置の上に、なにやら青っぽい物体が……
あれ、イソヒヨドリじゃないの!!!???
「しゃ、写真撮って! イソヒヨドリが来た!」
妻は、私の頭がおかしくなったと思ったそうですが、とりあえずデジカメを引っつかんで走り寄り、飛び立つ寸前の姿をパチリ。
コンデジのズームに限界があり、小さくしか写っていませんが、背中の濃いブルーとお腹のエンジ色は、間違いなくイソヒヨドリです。
「信じられない! なんでこんなところにいるの?」
「昨日の会話を聞いてて、ついてきたのかな?」
「すごい! でも、なんか怖い! 私たち、IHNに狙われてるんじゃないの」
「IHNって何だよ」
「Iso Hiyo Network――闇の組織よ」
頭がおかしいのはどっちなのか?という疑問はさておいて……
もう少しはっきりした写真が撮れないかと周りを探してみたのですが、イソヒヨドリの姿はそれっきり幻のようにかき消えてしまいました。
不鮮明ながら証拠写真を撮っていなければ、自分でも幻を見たのではないかと疑ってしまうところです。
それにしても、この展開は何なんでしょうか?
イソヒヨドリって、こんなにそこかしこにゴロゴロいるものなんでしょうか。
(沖縄など南の島嶼部には、それこそスズメやカラス並みにいるらしいですが)
それともメーテルリンクの『青い鳥』のように、それまで身近にいたのに、興味がないせいで目につかなかっただけなんでしょうか。
野鳥好きの妻や義母は、「自宅周辺でこんな鳥は絶対に見たことない!」と断言していますが…
悔やまれるのは、手持ちのコンデジが鳥の撮影に全く向いていないことです。
イソヒヨドリが異常なまでに接近してきてくれた伊勢以外では、いつも豆粒のような写真しか撮れていません。
さらに、いつも妻がメインで持っているので、撮りたいときに手元になく、シャッターチャンスを逃すこともしばしば。
がぜん野鳥(というかイソヒヨドリ)の撮影に興味が出てきた私は、次の接近遭遇に備えて、自分専用のデジカメを入手することにしました。
とはいえ、ボディ+レンズで何十万、何百万という野鳥撮影の本格コースは予算的にNG。
かつ、外出時は元々手ぶら派なので、なるべく小型で軽量のもの。
ネットで比較検討した結果、用途・予算にぴったりだったのが、こちらのカメラです。
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コンデジながら、1200ミリ(35mm換算)という高倍率光学レンズ搭載のキヤノン PowerShot SX50 HS。
今春、後継機が発売される予定とのことで、価格もそこそこ下がってきています。
50倍ズームのデジカメで、イソヒヨドリの超アップ写真を撮影したい!
その希望が現実となったのは、新しいカメラが到着してから1週間後のことでした。
青い鳥のお話~イソヒヨドリ~4に続きます
青い鳥のお話~イソヒヨドリ~1 からの続きです。
20年に一度の遷宮準備に賑わう伊勢神宮の内宮前で、人なつっこい青い鳥、イソヒヨドリに出会ってから、2カ月後。
私たちがその鳥に再会したのは、60年に一度の遷宮を終えたばかりの出雲大社の門前でした。
2013年は、伊勢と出雲、日本の神道の要ともいえる2つの神社が、そろって遷宮を迎えた記念すべき年でした。
伊勢参りから帰宅後しばらくして、妻が2枚のチケットを差し出しました。
「博物館の観覧券が当たったよ~!」
インターネットミュージアムという、博物館・美術館情報サイトの招待券プレゼントに当選したとのこと。
出雲大社真横の島根県立古代出雲歴史博物館で開催される、『出雲大社展』。
特別展の開催期間は、6月中旬まで。
折しも出雲大社では、遷宮を記念しての奉祝行事の真っ最中です。
これはもう、行くしかないですよね!
まず到着日は、歴史博物館にて『平成の大遷宮・出雲大社展』を鑑賞。
60年ぶりの遷宮に関する資料や美術品が充実しており、見応えがありました。
こちらの博物館には、今回の特別展以外にも、常設展としてさまざまな出土品や模型、ミニシアター等があり、出雲大社はもちろん、出雲地方の歴史・文化が詳細に解説されています。
宿は、出雲大社から徒歩1分の大島屋旅館さん。
「創業250年余」という触れ込みはダテじゃなく、長い歴史を感じさせまくりの建物内部の古さには少々驚きましたが、部屋や設備のレトロな雰囲気に、不思議な懐かしさと落ち着きを感じる宿です。
やや高台に建っているので、窓からの眺めが良く、宿の方々はとっても気さくで親切。料理も(少々甘めの味付けですが)ボリュームたっぷりなので、機会があれば、ぜひ再訪してみたいと思いました。
翌朝、早く目が覚めたので、朝食の前に宿の周りを散歩することにしました。
宿から真西に徒歩10分。
国譲り、国引きの神話で知られる、稲佐(いなさ)の浜を目指します。
11月、やおよろずの神々が全国から出雲に集まる神在月(かみありづき)に、神々をお迎えする神迎神事(かみむかえしんじ)の舞台にもなるのが、この稲佐の浜。
浜は西を向いているので、朝日が背中側から差し込んできます。
龍の頭のような形をした、弁天島。
昔は海の中にポツンと浮かんでいたらしいのですが、近年、砂浜が広がり、歩いて近づけるようになったそうです。
弁天島の上には、海の神である豊玉毘古命(とよたまひこのみこと)をまつる祠があります。
鳥居の端にカラスがとまって、ポーズをとっていました。
砂浜に咲くスナビキソウの花に、“海を渡る蝶” アサギマダラが集まっています。
どこか遠く、南方の島から飛んできたのでしょうか。
朝日を浴びて、人影もまばらな稲佐の浜には、静かに寄せる波の音が響き、荘厳ともいえる雰囲気に満ちていました。
身も心もスッキリした気持ちで、宿まで歩いて帰ってきたところ……
フィフィフィ! フィーホーフィー!
大きな鳥の声がしました。
大島屋旅館さん前の電線に、一羽の鳥が止まっています。
フィーホーフィー フィフィフィ!
この高く澄んだ鳴き声は、なんか聞き覚えがあるような……?
鳥が、宿の屋根に飛び移りました。
朝日に映えるダークレッドの胸の色、頭から背中にかけての濃いブルー。
伊勢神宮の門前で見た、イソヒヨドリではないですか!
「また出た、あの鳥!」 「えっ、何でここにいるの!? ついてきたの!?」
驚きのあまり、訳のわからないことを口走る我々の目の前で、しばしさえずった後、イソヒヨドリは、稲佐の浜方面に向かって飛び去っていきました。
海から少し離れた伊勢と違って、出雲はまさに浜が目の前にあるので、磯の鳥であるイソヒヨドリがいても、むしろ当然なのでしょうが。。。
遷宮詣でに訪れた、伊勢・出雲の2カ所で、それも向こうから近づいてくるようにして出会ったこの鳥に、何だか不思議なものを感じてしまいました。
優しく明るく大らかな雰囲気の伊勢神宮と対照的に、出雲大社には、ぴんと張りつめた清々しさ、底知れない神秘的な空気が漂っています。
60年に一度の遷宮を終えたばかりの御本殿の真裏。
銅板部分には、松ヤニ・エゴマ油・鉛・石灰などを混ぜた「ちゃん塗り」と呼ばれるグリーンの塗装が施され、御神紋の金色を引き立てています。
この日の奉納神楽は、石見神楽の細谷社中の方々でした。
私は、猿田彦の舞で有名な備中神楽の節回しが好きなのですが、石見神楽の軽快なリズム、エンターテイメント性の高さは、やはり魅力的ですね。
……「青い鳥のお話」と題しておきながら、単なる旅日記と化してしまった気がしますが……
神様の使いのように現れるイソヒヨドリの姿とともに、2013年の伊勢・出雲の旅は、特別な記憶になりました。
青い鳥のお話~イソヒヨドリ~3に続きます
イソヒヨドリという野鳥をご存じですか?
体長約23cm、海岸の岩場などを中心に生息する、深いブルーと赤褐色のコントラストが美しい鳥です。
この鳥を初めて見たのは、2013年4月、お伊勢さんの門前町「おはらい町」の中でした。
外宮へのお参りを済ませ、内宮参拝の前に、おはらい町にある「五十鈴川カフェ」で一休みしていた時のことです。
テラス席に、五十鈴川の流れを背にして座っていると、後ろの方から鳥の声が聞こえてきました。
フィーホーフィー フィフィフィッ!
高く澄んだ口笛のような、気持ちいい抑揚のある音色です。
聞いたことがない鳴き声だな、何だろうと思っていると、「あなたの後ろに、青い鳥が飛んでいる」と、妻が指さしました。
私が振り返ったときには、その鳥の姿はありませんでした。
「川岸だから、カワセミかな?」と言うと、「ううん、もっとずっと大きい鳥。色もデニムみたいな渋めの青だよ」。
何だろうね、そんな鳥は知らないな、と言い合いながら店を出たところ……
フィーホーフィー フィフィフィッ!
少し離れた建物のてっぺんから、あの鳴き声が大音量で聞こえました。
鬼瓦の横に、一羽の鳥が、天を見上げて鳴いています。
腹はエンジ色ですが、喉のあたりに空の色に溶け込むような青が見えます。
「あの鳥だ~!」
夫婦で騒いでいると、鳥はその反応を面白がるかのように、建物づたいにヒョイヒョイと近づいてきて、目の前の屋根の庇に止まりました。
間近で見ると、その色合いの強烈さに圧倒されそうになりました。
深みのある青と赤のコントラストは、まるで南国の鳥のように、周囲の景色から浮きあがって見えます。
ハトとまでは言いませんが、ヒヨドリやツグミと同じくらいの大きさで、精悍な顔つきには、かなり迫力があります。
フィーホーフィー フィフィフィッ!
今度は別の方向から、同じような鳴き声が聞こえました。
うどん屋さんの看板の下に、こちらを覗き込んでいる茶色い鳥がいます。
青い鳥とよく似た体型と鳴き声なので、こちらがたぶんメスなのでしょう。
オスに比べて地味な色合いですが、胸から腹にかけてのウロコ模様がさりげなくオシャレです。
この鳥は夫婦そろって好奇心が強いようで、人を恐れる様子があまりありません。
特にメスの方は、しまいには地面に降りて、私達の後をチョコチョコついて歩いていました。
もしかしたら、餌付けしている人がいるのかもしれませんね。
【 PHOTOHITO イソヒヨドリ 】
妻が昔、三宅島のフェリー乗り場で見かけた「イソヒヨドリ」という鳥の写真に似ていると言い出して、帰宅して調べてみたら、ビンゴのようでした。
イソヒヨドリは、沖縄や奄美大島などでは全島に生息しており、本州でも海岸の岩場などを中心によく見かけられるそうです。
最近では近畿地方を中心に、内陸部での繁殖例が増えているとのこと。
伊勢神宮は海岸から直線距離で10km程度ですから、いてもおかしくないんですよね。
聖地と呼ばれるような場所は、ある種の厳しさ、ほんの少しの怖さを漂わせているところが多い気がしますが、お伊勢さんは、あくまで優しく明るく大らかな感じがします。
お伊勢さんの門前のイソヒヨドリは、その美しい羽の色と、よく通る鳴き声、人なつっこい様子で、私たちに鮮烈な印象を残してくれました。
それから2カ月後、私たちは、とある場所でイソヒヨドリに再会しました。
青い鳥のお話~イソヒヨドリ~2に続きます