中国史上唯一、女の身で皇帝となった人物。
それが、武則天 ( 武曌 ) です。
中華五千年の歴史の中でも 『 異常事態 』 ともいえる この皇帝の在位時期のことは、学校の歴史の授業でもあまり触れられていないようです。少なくとも中学の授業では、90%無視られていました(笑)
インパクトでは、あの毛沢東が国家主席になったくらいの大激震だったはずなのですが。
ジェンダーの問題として捉えても、なかなか無下にできないと思うのです。
今回は、この武曌についての伝記的小説ともいえる本についてのレヴューです。
『 武則天 』 上・中・下 全三巻
原百代:著 毎日新聞社:発行 1998年
( 絶版を確認、在庫のみ販売 )
時は大唐、二代皇帝・高宗の御世。皇后であった武曌の趣味は、『政治』を行うこと。
彼女が政治に加わることは、女性を表舞台から排斥するのが常の儒教社会においては非常に困難なこと。
彼女が意志を貫こうとすれば、それは儒教倫理を通そうとする男性官僚たちとの壮絶な政治闘争を引き起こす。
いつしかそれは、彼女自身が国政の最高責任者である『皇帝』にならざるをえない未来へとつながっていった。
これは、今よりはるかに強固だった男性優位社会に敢然と立ち向かっていった一人の女性の壮絶な伝記なのです。
武曌は西暦690年に皇帝となるのですが、のちに尊号(尊称と言ったほうがよいか?)として『則天大聖皇帝』という称号を贈られます。
この「則天」という文字を取って、彼女のことを則天皇后とか則天大聖皇后と呼んだりします。
日本では『則天武后』という呼び名が一般的です。
中国では大戦後、歴史の再評価が行われた際、曲がりなりにも皇帝となった人物を『皇后』と呼ぶのはおかしいとして、一代の皇帝として『武則天』と呼ぶようになったそうです。
著者の原百代さんも、これに倣いタイトルを『武則天』とし、本文中でもそれに準じた名称を用いています。
この武則天について書かれた小説は他にも何作かあります。
近いところでは津本陽さんの『則天武后』でしょうか。
ですが、津本さんのものは良くも悪くも歴史書に書かれている武曌をそのまま焼きなおしただけ・・・薄っぺらい。そんな印象を受けます。
その点、原百代さんは、歴史書をもちろん参考にしていますが、そのことをしっかりと読者に断ってから原さん流の解釈を加えていたりして・・・そう「深み」とでもいうものがあるのです。
原さんが下調べに用いた歴史書が、また大変なもので、『舊唐書』『新唐書』『資治通鑑』といった専門の学者しか読まないような本物の文献史料なのです。
高校の漢文の授業で使うテキスト。あれの十倍の難しい文法、一億倍の文章量だと想像したら、彼女の偉業に納得できると思います。
そのため、この本に書かれていることは、ほぼ史実に近いものがあります。
その意味で『伝記小説』だと、そう言ってよいと思います。
日本では、いま、次代の天皇位継承者として愛子さまの存在があり、女性天皇問題についての議論が始まっています。
お隣の中国で唯一、女帝として君臨した女性について本を読んでみるのも一興かと思います。
いえ、もちろん愛子さまが武則天のような天皇になった日には、日本に大激震が走るかと思いますが。
中国とは歴史問題で、殴り合いになるかもしれません☆(笑)
( 2011/10/05 加筆 )