Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

映画「パレードへようこそ」(6月20日)

2015-06-20 23:57:46 | 映画


先日病院に行って以来、島外へ出かけていなかったので、久しぶりに高松へ映画を見に行きました。

今日見に行ったのは、ホールソレイユで上映中のイギリス映画「パレードへようこそ」。本当は同館で上映中の「きっと、星のせいじゃない」や「博士と彼女のセオリー」も見たかったけれど、映画を立て続けに見ると確実に疲れるので、1本だけにしました。先月、この三本が上映されると知ったときは三本とも見るつもりだったのになぁ。でも、来週からは劇団新感線のゲキシネ「阿修羅城の瞳」が上映されるので、それは必ず見に行こうと思ってます。高松でゲキシネが見られるなんて!生きててよかった!

さて、前置き(?)はこれくらいにして、映画の感想です。すでに都市部では公開が終わっていると思いますが、ここから先はネタバレがありますのでご注意ください。


1984年、イギリス。サッチャー首相の炭坑閉鎖案に反対するストライキが4か月目に入ろうとしていた頃、ロンドンに住むゲイのマークはストライキのニュースを見てあることを思いつく。それは、炭坑労働者とその家族を支援するために、募金を集めようというものだった。おりしもその日はロンドンでゲイ・パレードが行われる日で、マークは集まっていた仲間の前で自分のアイデアを話した。仲間とともに募金を集め始めたマークだったが、炭鉱労働組合には、同性愛者であることから支援を拒まれてしまう。そこで「組合がだめなら直接炭坑労働者に話をもちかけよう」と考えたマークは、ウェールズの炭鉱町ディライスに電話をし、ディライスの炭鉱を代表するダイを通して自分たちの募金を炭坑労働者のために役立ててもらえるように話をつけるが…。

「ブラス!」「フル・モンティ」「リトル・ダンサー」等々、イギリスの炭坑を舞台にした映画にはいい作品が多いですが、この「パレードへようこそ」もとてもよかったです。とはいえ、この映画の場合は炭坑に住む人々とロンドンに住むゲイたちの交流を描いているので、他の映画とは一線を画するのですが。それにしても、80年代のサッチャー政権を、リアルタイムの情報ではなく映画からでしか知らない私などからすると、サッチャーさんっていったいどんな首相だったのかしらんと思います。今度、メリル・ストリープ主演の「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」を見てみようかな。

炭坑労働者とゲイは、サッチャーと警官という共通の敵がいるのだから協力し合えるというマークの最初の主張は「へ?」でしたが、国家という強大な敵に立ち向かう同士として交流するようになってから、映画に共感して見ることができました。スマホどころかパソコンも携帯もない、80年代のアナログ感から、彼らの活動に温かみを感じたのもあります。今だったらFacebookやtwitterで支持も得られるだろうけど反対派からも攻撃されて、事態はもっとドロドロややこしいことになっただろうから。

しかし、この映画が昨今流行りの“実話を基にしている”映画とはいえ私はその実話を知らずに見たので、炭坑労働者とゲイの交流が上手くいくのかどうか、クライマックスまでずっとハラハラドキドキしながら見ていました。マークの仲間から裏切り者が出るんじゃないのかとか、パレードをきっかけにマークの仲間になったジョーは両親に内緒で募金に参加してたけど、ばれたらどうなるのかとか。そして、80年代に生きるゲイたちが最初に直面した問題、エイズのことも。80年代のポップでチープなきらびやかさの中で、じわじわと広がっていく暗い影に心がざわつきました。もしマークたちが、80年代ではなくゼロ年代の若者だったら、エイズの恐怖も対処方法も知っていただろうに、と。それでも、自分の本当の気持ちを押し殺して男性と結婚しなければいけなかったジョーの母親の時代に比べれば、ジョーが生きる80年代はまだ開かれているのでしょうけど。

出演している俳優は、私の知らない人が多かったのですが、ディライスの委員長のヘフィーナ役のイメルダ・スタウントンと書記のクリフ役のビル・ナイの2人は私でもわかりました。炭坑の男どもいも言いたいことをばしばし言うパワフルなヘフィーナは頼もしくて魅力的でしたが、驚いたのがビル・ナイ演じるクリフ。今までビル・ナイはあくの強い役しか見たことがなかったので、クリフみたいに口下手で控えめな役は新鮮でした。終盤、ヘフィーナとクリフが一緒にサンドイッチ(?)を作る場面は、キャストの豪華さと絵面の地味さのギャップがおかしかったです。でも、この場面でクリフが自分はゲイだとカミングアウトしたのに対して、ヘフィーナが「そんなこととっくに気付いていた」と返したのを見て、ヘフィーナがなぜマークたちの支援に協力的だったのか、彼らを自分たちの住むディライスに招待しようとしたのかがわかった気がします。ゲイだからという理由で人を嫌悪してはいけないことを、ゲイであることを隠して生きることはつらいことを、ヘフィーナはクリフを通して知っていたのかもしれません。

クライマックス、1985年のゲイ・パレードの場面は、見てるうちに目頭が熱くなって、スクリーンを見ながらバッグの中のハンカチを探し出すのが大変でした。最後に流れた彼らのその後を語るテロップは切なかったですが、単なるハッピーエンドで終わらせなかったのは潔いなと思いました。

いまから30年後、過酷な労働条件で働く人々や、偏見と差別の目で見られる人々を題材にした映画は作られるでしょうか。その映画を作る人の目には、30年前すなわち現在はどう映っているでしょう。そしてその映画を見る人の目には―考えるのは怖いけれど、「あの頃の人たちは大変だったんだなぁ」と思ってもらえるならいいのですが。そのために自分に何ができるのかを、考えつつ。


4 コメント

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Unknown (kayoh)
2015-06-22 20:25:43
どんどん行動範囲が広がっていますね!(^^)
まだまだ以前のようにはいかないのでしょうが
焦らず、養生しつつも楽しんでくださいね。

そしてもちきちさんの映画評はいつも参考にさせてもらっているのですが、
ネタバレなので、観る前だと読む時にとても緊張します(笑)。
できれば、星の数などでもちきちさんの評価を表示しておいていただけると嬉しいです!
あ、できればなんでどっちでもいいんですけどね(^^)

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コメントありがとうございます。 (もちきち)
2015-06-22 23:21:53
>kayohさん
こんばんはー。
今頃になって気づきましたが、行動範囲が広がるのは楽しいですね。
いろいろチャレンジして、まだできないことor難しいことも知ることができて、リハビリに役立ててます。

映画の感想、ネタバレなしで書ければいいのですが難しいですねー。もうちょっと工夫してみます。
今回の「パレードへようこそ」は、イギリスの炭坑映画が好きな人にはおススメです。
でも宣伝で押してたほど歌や音楽が前面に出てる映画ではなかったのが、肩すかしだったかな?

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Unknown (kayoh)
2015-06-23 18:46:04
いやいや違うんです!
ネタバレ大歓迎なのですが、
観る前までは、もちきちさんがどう評価してるのだけざっくりと知りたいのです。
ですから鑑賞前は片目で拾い読みして、
「どうやら面白いらしい」とかだけ読み取っています。漫画評の時もそうしてたものでした。
そして鑑賞後、または読後にじっくりもちきちさんの感想を読んで、
「そうそうそう!」と共感したり
そういう見方もあるのかーと感心したり?
一方通行ですけど、それがまた楽しいのですよね。

でも時々誘惑に負けて、じっくり読んじゃうんですよねー(笑)

パレードへようこそ、イギリスの炭鉱映画が好きな人となると微妙です(笑)。
でも「リトルダンサー」もなんだかんだで面白かったからいいのかも…
って炭鉱映画じゃないかw
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炭坑映画というよりも (もちきち)
2015-06-23 22:07:16
>kayohさん
こんばんは~

そうですね~文章の前半はネタバレなしの感想、後半にネタバレを含む感想、みたいに分けて書くと読みやすいかもしれませんね。「ゴーン・ガール」の時のように、日をおいて書くとか。

「パレードへようこそ」は、炭坑労働者よりもセクシャル・マイノリティのほうが重きを置かれてるので、そのへんも好みが分かれそうですね。
まあ、「リトル・ダンサー」も「フル・モンティ」もゲイが出てきますけど(^^;)これもイギリス映画の伝統?
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