【岡潔の思想】46(胡蘭成 其の2)
数学者の高瀬正仁氏は、その克明なフィールドワークにより、岡先生の伝記をものされました。わたくしはその著書、そしてツイートの「日々のつれづれ」を拝見させていただき、その貴重な、詳細を究めた取材力にも驚かされました。
その「日々のつれづれに」には、胡蘭成、保田與重郎氏のことに言及されております。
「昭和43年の龍神温泉行のことは胡蘭成のエッセイを読んで知りました。昭和44年に学習研究社から『岡潔集』(全5巻)が刊行されたのですが、各巻に月報がついていて、岡先生にゆかりの人たちがエッセイを寄せていました。
その中に胡蘭成のエッセイもあり、そこに龍神温泉のことが書かれていました。保田先生と胡蘭成は晩年の岡先生と親しいおつきあいのあった人ですが、三人が一堂に会したのは非常に珍しく、昭和43年秋の新和歌浦から龍神温泉への旅が最初で最後だったのではないかと思います。二人ずつの組み合わせはわりとひんぱんに実現しました(中略)
胡蘭成のエッセイによると、龍神温泉で胡蘭成が「天下英雄会」というものを提案し、結成を呼びかけてみなで署名をしたということでした(略)
龍神温泉では夕食の宴席で三先生が語り合い、その様子をみなで拝聴するという恰好になりました。地元の青年たちも集まってきたそうです。
もっぱら岡先生が滔々と話し続け、保田先生がときおりコメントをはさみました。岡先生と胡蘭成の間で議論になることもあり、そんなときは保田先生がとりもつような形になりました。」という興味深い記述がございます。
※典比古
「天下英雄会」のことに関しては、横山賢二氏のブログに次のように記されております。
岡潔講演録(24)
「情の発見」 【7】 老子は日本と縁が深い 日本民族とは違いますが、中国という集団生活、それで中国を自分だと思う。やはり似たことになるらしい。老子の言葉、非常に味わい深い、縁の深いものを老子の言葉に感じる。やはり日本民族とは同じであって、如の里、そうだろうと思う。つまり、仙人の境地の本質的な部分は同じである。
日本人には情的に大円鏡智、平等性智、妙観察智の三智がよく働く。情を自分だと思ったら既によく働く。日本民族という情を自分だと思ったらもっとよく働く。真情を自分だと思ってれば既によく働く。三智が情的によく働く。しかし成所作智だけはあまりよく働かないらしい。 ところが、如の里には不随意的にではありますが(成所(じょうしょ))作智(さち)の親が働く。だから如の里のあるかぎり三智の方から、また時々作智の親が働くという立場から調べれば、段々わかってくるだろうと思います。が、ともかく、日本民族を自分と思ったらよく働く。日本人という情はちょっと変えられないものですね。 |
(※解説7)
先に岡は「中国は知を中心に見ているから、革命が政治の生命だと思っている」といっているが、この辺は当然中国人、胡蘭成の言動からわかってきたことである。
それもそのはずで、胡蘭成は意気投合した岡と組んで、「天下英雄会」なるものを結成し、当時の日本の保守系大革命を目論んでいたのである。
しかし岡は日本人の性に合わない革命に関しては「そんなことしたら日本は死んでしまう。ソーッと持っていかなければ!」といって、次第にその路線からは遠ざかるようになるのである。
そのかわり前人未踏の「心の世界」へ深く深く分け入っていき、それに着いてこれる少人数の人を育てようとするのである。
それはともかく老子であるが、岡は中国文明の中では老子を最高峰とみている。老子の言葉「上善は水の如し」という「流体」の世界観や、情緒をあらわした「如」という言葉等から考えると、老子は第9識(知の世界)を突破して、第10識(情の世界)があることを既に知っている節があるからである。
もう1つ言いたいのは、老子の説く赤子に帰れという「嬰児復帰(えいじふっき)」である。「汝等幼な児の如くならずんば、天国に入ることを得ず」といったキリストと、この老子は「嬰児復帰」の考え方を持っていることは確かなようだが、第9識(知の世界)にいるはずの孔子と釈尊にそういう言葉があったかどうか、もしあれば誰か教えて頂きたいものである。
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「嬰児復帰」というこの言葉は、芭蕉が云ったという三冊子の「俳諧は三尺の童にさせよ」に通じます。
この「天下英雄会」をうけて、岡先生が「葦牙会」を立ちあげました。
■ここに高瀬正仁氏の「日々のつれずれ」の中に
「岡潔先生をめぐる人々 フィールドワークの日々の回想(52) 春雨村塾にて」という大変興味深い記事がございます。
この中には、先生がお書きになった、葦牙会の趣意書もございます。
次回4日は「詩あきんど」11月諸会お知らせ、5日は【新豆腐を味合う 大山豆腐の会】を記事にいたします。
尚、本日2日は、会場「オフィスふとまにあ」で午後1時〜4時「研修会」
がございます。
■【岡潔の思想】47(保田與重郎 解題)は次回7日に記事に。
10月31日(日)「新豆腐を味合う 大山豆腐の会」がございました。
当日、松鈴庵庵主相原氏(着物の方)は、茶会があり欠席投句。
会が始まる前にご挨拶をいただきました。

※皆さんがほぼ揃って、これから会が始まる10分ほど前(東学坊宴席)。