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タニマチの目

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第29作 男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋

2014-05-11 01:14:18 | 男はつらいよ
本日BSジャパンにて放映された『あじさいの恋』は、
多くのファンの推薦度も高い作品と思います。

マドンナはいしだあゆみです。

寅さんにこれほど積極的にモーションを仕掛けたマドンナは
いなかったでしょう。

味わい深い作品なので、是非ご覧ください。


長ったらしいあらすじは敢えて省略し、
作中で一番印象的なシーンから。


寅さんに惚れているかがり(いしだあゆみ)は
はるばる丹後から柴又を訪れ、
寅さんを鎌倉へデートに誘いだします。

ところが寅さんは、当日になって二人きりのデートに不安になり、
甥の満男(吉岡秀隆)を連れて鎌倉へやってきます。



デートの最中も満男と話してばかりで、
全くムードを作らせてくれない寅さん。
江の島のレストランで夕闇に包まれていく湘南の海を眺めながら、
ようやく二人きりになった寅さんとかがりはこんなやり取りをするのでした。


かがり「寅さんに逢うたら、話したいことが山ほどあると思うたんやけど、
   いざ逢うてみたら、何にも話されへん。」

寅「悪かったな。もしよかったら、あいつだけ先に帰してやってもいいんだけど。」

かがり「そんなことやないの。今日の寅さん、なんか違う人みたいやから。」

寅「そうかな。俺はいつもと同じつもりだけれども。」

かがり「私が逢いたいなと思うてた寅さんは、もっと優しくて楽しくて、
   風に吹かれるタンポポの種みたいに、自由で気ままで。
   そやけど、あれは旅先の寅さんやったんやね。
   今はうちにいるんやもんね。あんな優しい人たちに大事にされて、、、
   もう海が真っ暗やね。・・・(後略)」


かがりの指摘するとおり、
旅先では風の吹くまま気の向くまま、何にも囚われない寅さんなのですが、
一方で、柴又へ戻ったもう一人の寅さんは世間や家族にがんじがらめなのです。

何しろ、柴又という世間からは冷たい視線を送られ、
肉親にも迷惑をかけてばかりの寅さんは、
「名を遂げて柴又に帰る」という夢を何度も見てしまうほど、
柴又・とらやでの肩身の狭さを痛烈に自覚していますから。

寅さんは柴又においては負の社会的記号の塊です。
なおかつ、その故郷に対して「世俗的に」見返す手段をなんら持っていないのですから、
実は柴又は寅さんにとって不自由かつ不快な空間でしかありません。
(「故郷はいいなぁ」といつも言っているのとは裏腹に。)

柴又やとらやに対してコンプレックスを抱き、
世間体ばかりを気にするもう一人の寅さんを、
かがりは洞察していたのです。


寅さんの二面性を見抜くマドンナは、
リリー(浅丘ルリ子)を始めとしてシリーズに複数人登場しますが、
寅さんの面と向かってその自覚を喚起したマドンナは、
本作のかがり唯一人でした。

寅さんに最も惚れたマドンナの明察を、彼はどう受け止めたことでしょう。


しかし、二面的な寅さんを客観的に見つめ、
かつ寅さんに対してその自覚を促す人物は後にもう一人登場します。

奇しくもこのデートで鎌倉に同行している満男です。

本作で「お前もいずれ恋をするんだな、可愛そうに。」と寅さんに言われた満男は、
数年後その予言通りに寅さんと恋道中を共にします。
そこで、満男は数々の啓発的な台詞を寅さんに対して発していくことになるのです。


もし彼が青年へと成長していたときに、寅さんがかがりと出会っていたならば、
あじさいの恋の結末はもう少し違ったものとなっていたかもしれません。


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