私の大好きだった朝ごはんの時間。
平日なんかはずいぶん独り占めさせてもらって

本当に本当に幸せな時間だった。
私は美味しそうに食べるその姿が、ただただ嬉しくて。
電車が遅れそうになるだけで
「あっ、朝ごはんが!!」と思うほど大事にしていた時間だった。
あんなに女の子らしいさっちゃんが、
日本古来の大和撫子のような、慎ましやかなさっちゃん

が、
その時だけは驚くほど豪快だった。

おから、吹き飛んじゃうんだよ!

でもそれが美味しそうなんだな~ とっても。とっても。
私があんまりにもさっちゃんばかりに声援を送るせいか
ジローもなんとなく頭を持ち上げてくれるようになって。
初めてみたときはすっごく驚いたっけ。
どんどんふたりとも上向きに食べてくれて。
私は分身したいくらい両方を見るのが大変で。喜んでた。
この冬なんてさっちゃんも食欲が増していて
さっちゃんの分も、ジローの分も、
どっちもふたりで一生懸命。
美味しそうに頬張ってた。
もちろん食べ終わればきれいさっぱり

残ることなんてマレだった。
それなのに…
最近のジローは朝ごはんを食べきったりしない。
それどころかほとんど食べない日もあるくらい。
ねぇ、ジロー。どうしちゃったの?
食いしん坊のジローくんはどこいっちゃったの?
寂しくて食欲がない。分かるよ。分かる。だけど…
開園してたった10分でプールに入るジロー。
なーんにもしないでそのままお昼寝。
隅っこでちっとも動かない。
もう食べないの?もう寝ちゃうの?
まだ早いんじゃない?
いくら思っても、声に出しても、
ジローは鼻先だけ出して息をするだけ。
「僕のことはほっといて」
耳を澄ませば
コビトカバたちが黙々と朝ごはんを食べる小さな音だけが聞こえる。
下を向いてただただ真っ直ぐ草を見て一生懸命に食べるその音だけが。
私の大好きだったこの場所。この時間。
いったいこの数日で何が起きてしまったのだろう。
あの時から…私の中の時計は正確に時を告げているのだろうか。
あまりにも早くて、あまりにも遅い。
いつもと同じように独りで立つカバの前。
なんでこんなに違うんだろうな。
さっちゃん。。。
そう。
さっちゃんがいない事実。それが私の目の前に立ちはだかる時。
考えないようにしても、忘れようとしても、どうしようもないと思っていても。
さっちゃんに会いたい。
そう思ってしまう朝なのです。
早いなぁ。明日でもう1ヶ月だ。
上野動物園 カバ サツキ