夏喜のものろーぐのべる。

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久遠の縁~八犬伝物語~第32話 奇縁模様

2011-10-16 13:38:03 | 久遠の縁~八犬伝シリーズ~
「姫・・・?」
孝は薄れる意識の中、姫を見たのだった。
初めて会ったときと同じ、凛とした、でも可憐さも残る・・・

「玉梓。もうあなたは眠るべきなのです。それなのにどうしてまた・・・」
「うるさい!!お前の父や、この男の父が私の夢を・・・希望を全て奪ったのだ!!」
この男・・・大輔先生を指さした。
「・・・くっ・・」
先生は目を反らし、唇をかむ。
「どういう・・・ことなんですか?」
孝が起き上がれないまま聞く。

「玉梓は・・・俺の父親、そして姫の父親が殺したも同然なんだ。」
「え・・・?」
「大輔!!」
「いいんだ・・・犬士たちはこのことを知らないんだから・・・」
「お前の父親は、私たちを悪者扱いして!!・・・私たちは平和に暮らしたかった!!ただそれだけなのに!!」
玉梓が大輔に近づく。
「でも・・・あなたたちは民を苦しめた。このことだけは変わらないのでしょう。」
凛とした声で姫が言う。

「だまれ・・・だまれええ!!!」
玉梓は姫に攻撃する。
「姫!!」
孝は力を振り絞り、村雨を投げる。

「うっ!!」
そのまま村雨は、玉梓の腕に突き刺さった。
「ぐああああああ!!!」
「玉梓様!!」
網干が近づき、抱き留める。
「すまぬ・・・」
「犬、やるな。」
「姫や先生達に・・・危害を加えるのはヤメロ。」
「何も知らない犬ども目・・・まあいい、これからもっと、お前達は因縁に苦しむこととなるのだから。こいつもな。」
そういって、玉梓は倒れている大を見る。
「え・・・?礼門先輩?」
「父親の因縁を、どう振り切るかも楽しみだな。」
「え・・・?」
「そして、・・・こいつも。」
荘太を見る。
「荘太も・・?どうして・・・?」
「こいつの・・・父親や母親もな・・・」
そのときだった。

ザシュ。
「う・・・?何を・・・?」
短剣が足に突き刺さる。
智香の短剣だ。
「おまえは・・・敵だ。それなのに仲間のことを・・・」
「野本さん!大丈夫なの?」
孝が駆け寄る。
「私より・・・そいつを・・・親玉を・・・」
「もう撤退ですね、玉梓様。」
網干が言う。
「わかっている。・・・犬ども。因縁を断ち切り、私たちを倒すがいい。あはははは!!」
そう言って消えていった。
「消えた・・・なんなんだよ・・・」
「まだたくさん、因縁は残っているようだな。」
「先生!!姫さまも・・・大丈夫なんですか?」
「私は大丈夫。それより孝。犬士達。早く玉梓の怨念を取り払って、平和な世の中を・・・」
すっ、と姫の身体が薄くなる。
「姫様!!」
「大輔・・・頼みますよ・・・今日は此が精一杯・・・お願い・・・早く・・・」
「姫様!!」

姫は消えていった。
「先生・・・俺たちにまだ話していないことがいっぱいあるんですね。それに・・・みんなも。」
「くっ・・・孝・・・」
荘太やみんなが起き上がっていく。
「強いな・・・玉梓。」
信が言う。
「にしても・・・野本さんが仲間って言うなんて。」
「ば・・・聞いていたのか?」
孝が悪戯っぽく言う。
「聞こえました!!僕にも。」
親太朗も言う。
「な・・ちょ!!」

「まあ、それより先生。教えてくださいよ。まだ隠していることがあるんでしょ?」
「孝・・・ごめんな。・・・話すよ。みんなにも。・・・玉梓は、俺の父親と、姫の父親が、殺したも同然。罠にはめたんだ。」
「罠?」
「ああ、父親は、玉梓の悪行を見かねて捕らえ、処刑しようとした。」

「ちょっと待ってください。・・・この時代に処刑って・・・」
大が不思議そうに聞く。
「・・・そうだったな。・・・俺たちは、転生してきたんだよ。昔の時代から。そして、おまえたちも、転生してきた。代々伝わる犬士達の血を持つ。・・・ちゃんと言ってなくて・・ごめん。でも、お前達は選ばれ、転生したんだ。そのことだけは知って欲しい。」

「最初に言ってた、犬士の生まれ変わりってことですからね・・・」
荘太が言う。
「ああ。そして、周りの人達にも因縁がある。それはきっと、じきにわかるだろう。」
「私の・・・父親のこともか?」
智香が詰め寄る。
「・・・そうだな・・・確かに、馬加先生のことも・・・因縁だ。過去の。」
「そうだったのか・・・」
智香がうつむく。
「全ては因縁?だから、私の父親のこともですか?」
大も聞く。
「・・・ああ。きっとそうだ。・・・だからこそ、自分の運命を切り開いていって欲しいんだ。」
「確執・・・俺は・・・」
荘太が言う。
「荘太?」
「孝、知ってると思うが、4年前になくなった両親は、本当の親じゃない。本当の親は、もう亡くなってる。」
「でも今の・・・」
「今のは本当の母親の親戚。もう母親同然だけど。」

知らなかった。
本当の両親だと思っていたのに・・・
「この機会だから、ちゃんと孝には言わないとって。」
「・・・荘太・・・」

「私も、切り開かないと・・・」
大がそっとつぶやいた。
「父のこと・・・ちゃんとしないと・・・」