2011.03.11 を忘れるな!
「標準的(正常)な色覚の人」が「色覚障害者の色覚を疑似体験する」
ことはできるのか? そして、その目的とは?
標準的(多数派、正常?)な色覚の人達が、色覚障害者が見ている色を疑似体験して理解できれば、誤解や偏見による不当な差別や制限などの人権的な障害や 人為的につくられる色表示の情報に見られる識別障害を 解消あるいは軽減できると考えられる。
しかしながら、こうした試みには、正しい情報が正しく理解されないと、色覚障害者を含めて新たな誤解や偏見などを生み出す危険性があることに注意する必要がある。ここでは、ヒトの色覚特性を LCD(液晶ディスプレイ)で表現することの問題点についても考察を試みる。
下図は、標準的な色覚の人が見ている単色光スペクトルの色( この例は、sRGB値に換算したLCD表色)を 3種の強度な色覚障害者が見るであろう色に変換したものである。
この図は、あくまでも標準的(正常)な色覚の人が色覚障害者の色覚を疑似体験して理解するために作成したもので、色覚障害のある人が他のタイプの色覚障害を疑似体験しようとしても適当でない場合がある。( 6.を参照のこと。)
また、LCD表色の3原色では、ヒトの色覚3原色を精確に表示できない制約された近似的な表色となるので、実際の色覚と合致しない場合もあるから注意が必要である。(7.を参照のこと)
例えば、L欠失型(第1色盲)の色覚の人が上図の標準型とL欠失型のスペクトルを比べた場合に、色相はほぼ同じでも長波長域での感度低下が同じに見えないから、このシミュレーションには疑問があると誤解するようなことが起こる。
ちなみに、投稿者の色覚( 第2色覚異常中等度)では、上図の標準型とM欠失型(第2色盲)とのスペクトルがほとんど同じに見えて色相の相違を識別することが難しい。
逆に、「色覚障害のある人」が「標準的(正常)な色覚を疑似体験する」ことは、軽度な場合を除いて、色相的には極めて難しい。
また、自然界の多彩で微妙な色の変化を観察したり表現する場合などで、色覚障害がある人には特定の色を識別できなくて非常に困惑させられることがある。しかし、こうした場面を拒絶するのではなく、できれば標準的な色覚の人達からの適切な助言や説明などの支援を得て、色を識別できない精神的な不安や苦痛が緩和されることが望まれる。
このような色覚に関連する様々な障害や問題を理解して、その対応を考えていくうえで、色覚シミュレーションは有効な手段と思われるから、正しく確立されていくことが求められる。
色覚の数理的な展開は下記の文献に準拠している。
・色覚障害のメカニズム 研究ノート No1~9;色覚障害の問題を考える会(出雲)、2003 (下記のコメントを参照のこと)
ここで、標準型(正常)とは、CIE1931RGB等色標準観測者の色覚に対応している。
L、M、S欠失型とは、3種ある錐体細胞L,M,Sのうち1つが欠如した2色型の色覚(第1,2,3色盲)に対応している。 3色型色覚障害(第1,2色弱)はL、M偏位型に分類する。
( 2007年、患者団体?からの長年の要望で 色覚異常の分類に関する医学用語が やっと改訂され、差別や誤解を招く用語をできるだけ排除して人権的な配慮がなされたと言う。
新しい用語で、投稿者の色覚 第2色弱 は 2型3色覚 となるらしい。(程度判定は不明)
本ブログでは、色覚障害の要因が各種錐体の有無や特性にあるとして色の世界を探っているので、医学用語に拘らず直接的な用語や表現を多用している。 08.05.06 )
白色度は、(R,G,B)値の相加平均値で、グレイスケール値 ( 色立方体上の白色成分( 任意の座標から白色軸へ垂線を下ろした点 ))に相当する。長波長域では、いわゆる比視感度曲線とよく似た特徴を示しているが、短波長域ではB(青色)成分の影響が顕著となっている。(明度や比視感度の再評価が必要と思われる。)
なお、LCDで見る場合、色調は画質、輝度調整や視野角などの影響を受けやすいので、微妙な色の変化はsRGB値で確認するなどの対応が必要と考える。
( 文責 奈良井 修二 )
付.1 「色覚障害者の色の世界を探る」試みの手法 (09.09.01)
付図1
付図2
付.2 L、M錐体の応答偏位と混同色軌跡 (2色覚と3色覚の関係)
(LCD表色による1,2型3色覚の色覚偏位を色票で表現した場合 11.02.15 ~03.08)
L、M錐体応答スペクトルの偏位による色3角形上での色座標の偏位(混同色軌跡に相当する)と色票の見え方を対比した試算例。
下図の上枠は、上図の点C4を通る L,M錐体偏位型の混同色軌跡に対応した色票を配列したものである。また、下枠は、上枠をM錐体欠失型(2型2色覚;第2色盲)の色覚で見た場合を本稿シミュレーションで変換したものである。
投稿者の色覚(第2色弱中等度?)には、上枠の緑色系と赤色系を含むはずの色票群が下枠の黄色系のみの色票群と全く同じ色の配列に見える。 なかでも、上枠下段の色票列は下枠下段のように同じ色に見えるから識別できない色(混同色)になることを示している。
本稿の色覚モデルから半理論的に展開した近似的な計算にもかかわらず、1,2型の2色覚および3色覚のLCD表色によるシミュレーションは概ね妥当な成果に達したと考えている。なお、色覚障害上の諸問題を考えていくためにはなお一層の取組みが必要となる。
(12.05.09 M偏位型(2型3色覚)の混同色列(投稿者の色覚では識別ができない)を5原色に分解する演算例を4.の末尾に載せている。3原色では表現できない白色や対立色的な関係にある黄色あるいは青色、緑色や赤色の混色度合を推定することができる。色覚障害のシミュレーションと組み合わせて使えば、色覚障害者自身が標準的色覚者の色の見え方を推察できると考える。)
(12.05.24 L偏位型(1型3色覚)の混同色列と5原色分解の演算例を添付。)