2011.03.11 を忘れるな!
色覚障害者自らでなければ自らの色の見え方を探ることはできないのか?
ある医学参考書(眼科 Mook No.16、1982)のある章の末尾には、二色型色覚異常は錐体の欠損型で説明できるとし、さらにつぎのように記している。「やや不明なのは三色型色覚異常である。・・・欠損型ではなく変形型なのである。・・・今後興味をもってこの複雑な三色型色覚異常の解明に当たる人が出てくることが望まれる。」 治療の対象にならない障害への医学の姿勢として理解できないこともない。
この本が出てから四半世紀。「色弱(三色型色覚異常)のメカニズム」は解明されたのであろうか? 色弱や色盲の色覚特性とこれらの関連性を(数理的に)説明できないままに、色覚(障害を含む)のメカニズムが解明されていくとは思われない。
このような疑問を色覚障害を扱っている数少ない某大学の眼科医(多分正常な色覚の人)に質したところ、「あなたがそう思われるのであれば、あなたがされたらどうですか」と他人の事のようにバッサリ。従来、こうした分野から締め出されていた色覚障害者(耳順に近い歳)には いささか不協和音に聞こえたのである。
一般的なあるいは専門的な色覚障害の解説の中には、光の波長や表色の条件等を明示していない粗雑な単色光スペクトル図らしきものを載せて色覚や色覚障害のシミュレーションを説明するとか、色覚を理解するにはどう見ても不適切な CIExy色度図に色を変換して色覚をより煩雑で難解なものにするなど、何故か色覚研究が色彩を扱う実利的分野にミスマッチしたまま因循姑息な状況が続いている、ように見えるのは、投稿者だけの錯視であろうか。
さらに表色(LCDを含む)に関して言えば、無色(暗黒)の中に色を表示しているのか、白地に色を貼り付けているのか理解に苦しむような図式が少なくないのである。
(色々なサイトに掲載されている単色光スペクトルらしきものや彩色されたCIExy色度図などを収集、例示していたが、表色条件等を検証できないため全てを削除。06.07.05)
色覚障害者の色の見え方を障害のない人は正しく理解することができるのであろうか?
色覚障害者が自らの色の見え方を正しく理解することは果たして可能なのであろうか?
「解からなくなったら原点に戻れ」 これが問題解明の原則だと思うのだが・・・。
さらには、「古きを温ねて、新しきを知る」 ことも・・・。
先哲も曰く、
「稽古とは、一より習い十を知り、十よりかえるもとのその一。」と。 学問もまた然りかと。
以下、研究ノートに準じてその要点を補足する。(06.07.05)
本稿での色覚(障害)に関する考察の原点は CIE1931RGB等色関数にある。 これは1920年代に J. Guild や W.D. Wright らが測定した複数の被験者の等色数値を平均化して 標準観測者の色覚特性として作成されたものである。
下図に示す単色光スペクトルは、この等色関数をヒト本来の3原色に対応するRGB(応答)関数に正規化して LCDによる表色(sRGB値換算)を試みたものである。
等色関数の正規化について (07.02.17)
この表色では、色覚B(青)の最大値をsRGB値Bの最大値(255)に比例させている。 ヒトの色覚3原色とLCDなどのsRGB表色の3原色は必ずしも一致していないので擬似的な表色であることに留意が必要である。
(参考 07.08.28 ) 心理物理学的な色覚から乖離した等色関数の例
(参考 07.10.19 / 08.02.20 添削) 等色関数の正規化 と 白色の等色特性
元のCIE1931RGB 等色関数の各R,G,Bスペクトルの積分値は等しい。これが、心理物理学的な測定による必然的な結果なのか、あるいは等エネルギー分布の光が白色の色覚を生じる特性に合わせた恣意的な設定なのか、投稿者は不勉強で分からない。
ヒト本来の色覚系に正規化する演算は、CIE等色関数B,G,R値から負の値を消去し、ヒト本来の3原色軸を推定するもので、ベクトル的な Bn=Gn=Rnで特異な白色の等色(Gn=Rnで特異な黄色の等色)を満足させ、スカラー的に各スペクトルの積分値が等しいという白色光に対応する性質も保たれる。
ヒト本来の3原色色覚系として数理的に確立するためには、新しい分子生物学的な知見を基に心理物理学的な等色関数などを再検討して整合性を高めていくことが必要である。
規格化(3原色BGRの最大値を1)したスペクトル等の表現ついて ( 08.08.14 省略 )
正規化された(規格化しない)色立方体での色3角形(△BGR=B+G+R=1の平面)への投影図は、対立色表示の色度図に変換(写像)できる。
(07.01.16) 色立方体と対立色表示の色度図との関係図 ( 08.06.22 拡大 )
( 対立色表示の色度図上に色立方体全体を写像してできる正6角形を色相表現すれば、太陽光の分散と合成の関係からつくられたとされるニュートン(Newton)の色環(1703)や対立的な色の感覚に基づいてつくられたというゲーテ(Geothe)の色彩環(1793)に よく対応した色相の構図とも解釈できる。 08.06.12 )
( 色3角形の応用例 )
偏位型(色弱)の色覚領域の変化について (研究ノートNO.9に準じて 06.11.10 )
次の4.(補足)で述べるL、M偏位型(第1、2色弱)の応答スペクトルに対応する色覚領域の2次元的な変化を色3角形(対立色表示の色度図)上に示すと下図(偏位率0.75の場合)のようになる。色弱と言う色覚の数理的な展開や特性の理解が多分に平易となる。
各偏位型での単色光スペクトルの軌跡に囲まれた色覚領域および局所的な色覚領域の変化は、色弱という色覚の色の見え方の特性(例えば、心理物理学的な知見である混同色軌跡の方向性や識別の難易度の相違など)について、各欠失型(色盲)の色の見え方との関連性を含めて十分説明できることを示唆している。
当然、前提としている多くの仮説やこれらの計算結果に対しては、色の識別閾に留意した心理物理学的な解釈や脳内の神経生理学的なメカニズムからの検証が必要になる。
本ブログに示すような取り組みが、1.の冒頭部分でも触れたように、新たな誤解や偏見をもたらすことのないように臆病にならざるを得ない。何故なら、色覚障害のある投稿者には、自らが調製する色覚シミュレーションなどの色票等を 自ら識別できないという 辛さや怖さと悔しさがある。
たかが色弱、されど色弱。 ( 色盲より障害の程度が低いと軽視されるけれども・・・ )
色弱は、色覚障害のメカニズムを解き明かす標(しるべ)の一つとなるのではなかろうか?
投稿者は、色弱(自らの色の見え方)を正しく理解し、他者に正しく説明できるであろうか?