色覚障害のメカニズム

色覚障害者の色の世界を探る:LCD表色による実験的投稿(OCNブログに初投稿'05.08.30 最終'16.04.08)

7. ヒトの色覚は3原色?対立色? (色3角形の謎)

2008年12月04日 | インポート

     2011.03.11 を忘れるな!

 1801年に T.Young が提案し、後に H.Helmholtz が発展させた3原色説 と1872年に E.Hering が提唱した対立色説は、1925年 E.Shredinger により 相互に一次変換できることが数学的には証明されている。 また、20世紀後半になると、眼の網膜上の神経生理学的な研究から前者を後者へ変換する過程があると考えられ、段階説を唱える研究者もいる。

 両説とも初期の段階に比して大いに進展し熟度も高まっているにも係わらず、3世紀にも渡って曖昧な関係のままに置かれていることの方が奇怪にも思える。

 色覚障害がこのような色覚のメカニズムとは無関係ではないであろう。 しかし、脳の中の情報処理過程は、巨視的にも微視的にも、なお大部分は暗闇の中にある。

080609_2

 上図は、3原色の色立方体と対立色との数理的な関係から、対立色表示の色度図上に色3角形(B+G+R=1)を表示したものである。(3.を参照のこと。) 図中の白丸は単色光スペクトルの軌跡( CIE1931RGB 等色標準観測者によるRGB値を正規化したもの )を例示している。 また、この正規化に対応して RGB値を sRGB値に置き換えて カラー表示を試みている。これは、両者がB=G=R=1で白色点を定義する相似性からの便宜的な応用である。

 この B+G+R(白色度)を指標(変数)とする対立色表示の色度図上では、色覚障害の特徴である混同色軌跡や波長識別閾などの検証にも簡単に利用できる。また、この色度図は、同様な一次変換である CIE1931xy 色度図や他の変換系のものと比較しても、色覚を数理的に論じる場合において単純で扱いやすく、原理的にも直感的にも理解しやすい。

 色3角形上の色相と彩度の関係は下図のようになる。色調のもう一つの要素である明度は白色度(=B+G+R)で表現することになる。 ( 研究ノート No.3 から  08.12.12 )

 No3081212

 3原色説と対立色説の数理的な関係をひとつの色度図上に表現できると言うことは、元来両説の色覚特性を合わせ持つ 脳内のアルゴリズムを解読していくうえでの原理的な関係を示すものと考えられる。就中、特異な白色点(軸)W’と黄色軸Ye の存在が対立色説を理解する前提となる。( 3.末尾の「色覚の進化」についての推理を参照のこと。)  

 3種の錐体を網膜に持ち 色覚(脳)を有する動物が、このような代数幾何学的な過程を どのように学習して、さらに遺伝子情報に組み込んできたのか興味深いものがある。対立色で表示される色3角形が成立していく過程は神秘的でもある。

 ヒトの色覚については、3原色説対立色説 が長い間 議論されてきたところであるが、段階説で解決されたとは考えられない。 対立色表示の 色3角形 の関係から、ヒトの色覚のメカニズムには 両者が原理的な関係で組み込まれている と推論するとしても、3次元的な色覚を2次元的表示に変換する過程で現れる 対立色表示の色3角形は謎 に見える。

 人間がヒトの脳を理解し、超えることができるのはまだ遥かに遠い先のようである。

 

(対立色表示の色度図とLCD等による3原色表色)  

 既に述べたように、LCD などでカラー表示する場合には、いずれの場合も色覚3原色である純粋なR,G,B 色を精確に表示することができないから、制約された近似的なカラー表示になることは避けられない。  

 Lcd_01

 例えば、下の参考に例示したような分光スペクトルを持つLCDでは、上図左の色度図の点線で囲まれた領域(推定)での表色に限定される。このLCDの表色領域内だけのシミュレーションに限定すれば、対応する可視波長域は狭くなり、L欠失型の長波長域の感度低下全域を表現できないなど現実の色覚全般をシミュレーションするには不十分である。この領域外の色を含めた波長域でヒトの色覚特性を擬似的に表現しようとすれば、右図のような sRGB値による表色が有効であると考えられるが、ヒトの色覚とは合致しないことが起こる。

 デジタルカメラ等で撮影した画像の色調を sRGB 値に置換えてLCD や CRT などで再現させる場合には、各機器の受光特性表色特性(ガンマー値特性等を含む)などの影響を受けることになる。したがって、ヒトの色覚特性をシミュレーションする場合には、このような影響を配慮して適用条件や変換条件等を明示した最適なものを作り上げていくことが望まれる。

 LCD表色によって色覚特性を表現するには配慮しなければならない問題が多いが、安直な技法として極めて有用であると言える。補正等は今後の課題として、直感的な理解を助けるためにカラー表示の色度図を用いて以下補足する。

 (補足 1) LCD表色による検討を本章後半にて展開中であるが、参考までに留め置く。 

 2.で示したパステルカラーの色環と各欠失型の混同色軌跡とその方向をこの色度図上に表すとすれば下図のような関係になる。色の偏位は、白色度(=R+G+B)が常に一定であるとは限らない。

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              混同色軌跡線群の代数幾何学的な解析 ( 研究ノートNo.5 からの抜粋 )

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 ただし、本章末尾で解析しているように、表色に用いるRGB 3原色の特性によって混同色軌跡線群の様相はいくらか異なったものとなる。

 

 (補足 2)

 4.で示した L、M 偏位型のスペクトル分布から計算した単色光スペクトルの軌跡を この色度図上に描いたのが下図である。L、Mのスペクトル分布が接近すると、軌跡はB-Ye軸上に収斂して2色型の色覚になることが理解できる。(第1,4象限での色覚領域の変化(偏位)については、3.の末尾を参照のこと。)

 原点(白色点)と交差するスペクトル波長は、L欠失型で約495nm、M欠失型で約500nmとなって、心理物理学的に中性点と呼ばれる事象とよく一致している。 また、右眼が正常で左眼が第2色盲という被験者の両眼比較の研究(G.H Grahumら 1958)による波長(色相)の相関関係にもよく対応している。 さらに、パネルD-15テスト色覚判定の原理(混同色の圧縮される方向性)とも十分整合していると言える。

 Ss 

 (補足 07.08.15 )CIExy色度図に描かれた混同色軌跡の例 (以前収集したものから)

 070815_02 070816_02 

 (参考) LCD3原色について

 下図は、LCD3原色の分光スペクトルの測定例である。

  0808_001

      ・出典;野本知理 「スペクトル色々」( http://T.NOMOTO.org/spectra/

 LCD3原色の色覚上のスペクトルは、上記スペクトル分布と色覚3原色R、G、Bの感度応答スペクトル分布を波長毎に乗じて積分した値で求まる。LCD表色による色覚近似の程度を評価する(前図の黒い点線の領域を推定する)ことも今後の課題であろう。

 ( LCD3原色を色覚3原色の応答感度スペクトルに換算する計算例 10.12.25)

 上図の測定例では縦軸(強度)の心理物理学的尺度は不詳であるが、5nm単位相当で強度を推定したものが下の上段の図となる。これに中段の応答感度スペクトルを波長毎に乗じて、色覚上の応答感度スペクトルに換算してみたものが下段3つの図である。

 101223_03_3

    101229_02

 LCD3原色の色覚応答スペクトルが下段の図のような場合、各原色の強度分布の重心に相当する波長は、B:455nm、G:545nm、R:610nm となる。 なお、これらの縦軸は不詳であるから計算例として適当とは言えないし、幅広いスペクトル分布を持ち他の原色応答にも影響を与えるようなLCD3原色の色覚特性についての扱いは今後の課題と言える。

 このように課題の多い計算例ではあるが、計算値から表色領域を色3角形(B+G+R=1の平面)上に示せば下図のようになる。

               Lcd101228_01_2

( 以下では、 LCD3原色を近似的に単色光と見なし各波長を450nm、545nm、615nm として解析を試みている。) 

 ( LCD表色による色覚偏位の計算について 08.08.27) 

 0808271223

 色票の偏位 計算例  ( 08.09.02 )

  下の色票の変化は、上記の条件での  L、M欠失型を計算したものであるが、この色票を表示するLCD機器の特性( 3原色、ガンマー値など )が一致しているとは限らない。

 色票の上段は、LCD表色による RGB 色立方体の上面(青色成分=240/255)、下段は底面(青色成分=0/255)に相当する。 

           080903_022cc

 投稿者の色覚(第2色覚異常中等度=M偏位型=M欠失型に近い色覚)から見れば、標準型とM欠失型の色票はほぼ同じ色相の分布に見える。すなわち、標準型から赤色や緑色の成分がほぼ抜けた黄色と青色の色相に偏位していると言える。 L欠失型も色相的にはほぼ同じであるが、標準型やM欠失型に比べて上段の右上に青色、左下に白色が際立つ領域が、下段の右上に明度の低い領域があることなどが特徴的と言える。(本ブログの画像では圧縮等によるノイズの影響から表色の対比が難しいところも見られる。) 

 なお、この計算例では、光の波長範囲は概ね 450nm から 615nm となるから、自然の色(可視光線の領域)に対応する色覚の変化を全て表現できることにはならない。

       LCDによる表色範囲の例示  080907_01_3 080927_02_2

 

 ( LCD表色による色3角形と混同色軌跡の計算例 08.12.21 )

 08122402

 ヒトの正規化した色覚で推定した混同色軌跡を同様にLCD表色による色3角形上に換算すると上図のようになる。 ( この手法は、4.の偏位率の推定で部分的に応用している。)

 ( 各種表色系での混同色軌跡の計算例 08.12.29  )

      From_cie081229_02cc

 先の計算例ではB軸(原点)の補正を今後の課題としていたが、この問題の影響が少ないCIE等色関数を利用して、Yeモデルで計算した混同色軌跡線をCIE表色系やLCD表色系に換算したものが上図である。 先の計算例とは微妙に異なるがほぼ似た結果になる。

( CIExy色度図上の混同色軌跡について  09.01.08 )    

 同様に、Yeモデルで計算した混同色軌跡を色3角形(対立色表示の色度図)に示したのが 下の図(1)である。 これをCIExy色度図上に換算したのが 図(2),(3)である。 3原色(対立色)説を直接的に表現する色3角形に比して、CIExy色度図は座標系が極めて歪んだ関係にあるので評価が難しいが、図(2),(3)の結果は 心理物理学的に判定した混同色群をCIExy色度図上に並べると直線状を呈することやこれらの直線群には収束点があるという指摘によく対応していると言える。 しかしながら、各色覚型の波長(色)識別閾は顕著に増大するから、目視等による混同色軌跡等の特定は容易ではないと思われる。 

 図 (1) 色3角形上の混同色軌跡  090108_02_2

  図 (2) CIExy色度図上への換算  Cie_090108_01

  図 (3) CIExy色度図上の軌跡群(M偏位型)   Ciem090115_01   

注) 各種表色系での計算上の混同色軌跡群には収束点があるように見えるものもあるが、 偏に、色覚モデルを心理物理学的に検証する際の数学上の問題と言える。

 「色を混同する」とは 標準的な色覚の人が色覚障害者の色識別能力を評する言葉である。色覚障害者には色の識別ができないのであって 色を混同したという認識はない。投稿者のような色覚障害者が使うのは適切とは言えない。混同色軌跡とは、3色型の色覚領域が2色型へ圧縮される過程を示すものと考えられるから、先ず、2色型の色覚領域が課題となる。

 LCD表色系の3原色は単色光ではなくて幅広のスペクトルを持っているから、上記のような計算は近似的なものとならざるを得ないが、このような手法が十分な検証のもとで確立されていけば、汎用のLCD画面上でも各種色覚障害のある人が見ていると思われる画像に精度を高めて変換し、標準的な色覚の人がそれらを疑似体験することが可能と考える。

 

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