思い出したくないことなど

成人向き。二十歳未満の閲覧禁止。家庭の事情でクラスメイトの女子の家に居候することになった僕の性的いじめ体験。

顔を見るメライちゃん

2015-08-30 10:45:27 | 9.いじめられる僕
 素っ裸で土下座させられ、何度も地面に頭をこすり付ける。その姿をメライちゃんは鷺丸君の腕の中で冷やかに見つめていたと言う。Y美が教えてくれたことだ。許されて立ち上がった僕は、おちんちんを反射的に隠したものの、すぐにY美に手を取られた。おちんちんを丸出しにさせられた僕の顔をY美がじっと見つめる。
「ねえ、お前確か、メライのこと好きじゃなかったっけ?」
 殊更に真面目な表情をして訊ねる。このいかめしい顔の下には嘲笑が隠れているのだろう。残酷な質問だった。僕は答えることができず、言葉を濁してすぐに俯いた。メライちゃんと鷺丸君は、玄関の前で鷺丸君のお母さんと挨拶を交わしている。
「ちゃんと答えなさいよ」
 手が顎の下に入って、刺すような目をしたY美と向き合わされる。僕が「いいえ」と答えると、横からS子が「嘘ばっかり」と半畳を入れた。
「でも、まあこいつはこう言うしかないかもね。メライにあんな見っともない姿を晒したんだから、もう諦めるしかないって。男の子の手で逝かされたところをしっかり見られちゃったんだよ。ほんと、かわいそう。でも、メライを鷺丸君に取られて良かったね。諦めがつくでしょ。ちゃんと鷺丸君にお礼を言いなよ」
 いくらY美の命令でも鷺丸君に頭を下げるのだけは絶対にできない。「いやです」とはっきり口に出せば良いのに、これまで何度も切実なお願いを踏みにじられていることもあって、怖くて言葉が出てこず、曖昧に首を横に振るばかりだった。そのうち、無性に悔しくなって涙があふれてきて、瞬きをした拍子に一筋こぼれた。
「泣いてるじゃん」
 ルコが言い、僕の顔を覗き込むと、「ぼく、メライちゃん取られちゃったのお?悔しいでちゅねえ」と、幼児言葉で話し掛けてきた。
「これも人の彼氏のおちんちんを勝手に咥えるからですよお。罰が当たったんですよお。ふん、いい気味ィ」
 突然、憎々しげな口調になって、乳首を抓られる。痛くて悲鳴を上げ、体をくねられて逃れようとすると、今度はY美にぴしゃりとお尻を叩かれた。
「大袈裟な声を出すなよ。動くなって。みっくんのおちんちんを口に含んだのは事実だろうがよ。写真も撮ってあるみたいだよ。ばらまこうかな」
 赤面する僕にY美が追い打ちを掛ける。元はと言えば全てY美の命令であり、僕に拒否することなどできなかった。大勢の女の人たちが見守る中、素っ裸の僕はみっくんのおちんちんをしゃぶらされ、みっくんの放出した大量の精液を飲み込まされた。ルコはそのことを根に持って、僕を恨んでいるようだけれど、筋違いも甚だしかった。しかし、ルコもまたY美には逆らえないので、恨みは僕にぶつけるということになる。
 庭のふかふかした芝生を通って、門扉へと続く石畳まで歩かされた。
「ほんとに家まで裸で歩かせるの?」
 お姉さんが目を丸くして訊ねる。冗談かと思ったらしいが、どうやらY美が本気のようなので、さすがに少し恐れに似た感情をY美に覚えたようだった。どこか遠慮がちな言い方だった。
「もちろん。だから応援呼んだんだもん。ね?」
 Y美がそう答えて、集まった女子たち、S子、ルコ、ミュー、風紀委員、N川さん、エンコを見回す。彼女たちは、それが合図でてもあったかのように、Y美の後ろに隠れる素っ裸の僕にじわじわと近付いてきた。
 門扉から素っ裸のまま外へ出されようとする僕を見て、鷺丸君のお母さんが慌てたように玄関から飛び出してきた。
「心配ないですよ。それよりコーラスの練習はいいんですか?」
 Y美が明るく、いかにも責任感のあるしっかり者の女の子のように応じる。大抵の大人はY美のこの演技に騙される。
「大人のコーラスはね、指導の先生が別に来るから、私は別にずっと立ち会う必要はないのよ。ねえY美ちゃん、お願いだからナオス君をしっかり隠してあげてね。全くの裸で外を歩かされるのは辛いと思うからね」
「はい。しっかりガードするから大丈夫です。もしも見られたら、罰として裸にされたって答えるんです。そうすると、みんな納得してくれるんです」
「なるほどね。男の子は裸にする罰が反省を促す上で有効だったりするのよね。もっとも私は自分の子にはそのような真似はしなかったけど。良かったらコーラスの練習をちょっと覗いて見て。あのピアノ伴奏者ね、男の子なんだけど、遅刻したことでヌケ子さんたちに締め上げられてね。罰として、洋服をすっかり脱がされちゃったのよ。今、パンツ一枚でピアノ弾いてるの」
 困ったような顔して、でもしっかり笑いを浮かべながら、鷺丸君のお母さんが六角形のアトリエのガラス戸を指した。
「何それ。ほんとにお洋服、脱がしたんですか?」
 祈る時のように両手を組み合わせた風紀委員の眼鏡のレンズが光った。いかにも嬉しそうだった。
「そうよ。自分の目で確かめてみたら」
 早速アトリエの大きなガラス戸にまで行き、ガラスに額を当てるようにして女の人たちが中を覗く。ミューが中から聞こえてくるハミングに合わせて、足場のコンクリートを運動靴の足先でコツコツと叩いている。
 Y美が女の人たちの後ろにいる僕を見つけて、僕の腕を背中に回すと、ガラス戸にぺたりと一糸まとわぬ体を押し付けた。横からS子がおちんちんを引っ張り上げたので、おちんちんの裏筋がガラス戸を通して、中の女性コーラスの人たちに丸見えになってしまった。気付いた女の人たちの表情が歌いながらも次々に弛む。
 黒髪が肩まで伸びた、細身の男の人が白いブリーフだけを身に着けた状態でピアノに向かっていた。年は二十代前半くらい。恥ずかしいのか、顔を上げず、その視線は鍵盤にのみ向けられ、窓ガラスに素っ裸の身を押し当てられている僕にはなかなか気付かなかったけれど、女の人たちの歌声の微妙な変化を感じたのか、ちらりとコーラスの人たちの方を見た瞬間、ガラス戸の外からじっと中を覗いているY美たちと僕の惨めな姿が目に飛び込んだようで、ぎくりとしたような表情をして、慌てて目を逸らした。
「なかなか美形だったね。あの裸見てると、なんか憎たらしくなるね」
「でも気が弱そうだった」
「気が弱いからみんなの前でパンツ一枚にさせられるのよ」
「やっぱり約束の時間を守らないのは駄目だよね。裸にされても仕方がない」
「ああいう男の人を裸にして苛めるのは楽しいよね」
 女の人たちが口々に好き勝手なことを言い、玄関に向かった。ルコがすかさず僕の肩を叩き、「心配しないで。私たちはね、あんたの裸でもじゅうぶん楽しんでるから」とフォローする。別にフォローなんかしてもらう必要は全然なく、それよりもむしろ、「どうせ苛めるならああいう美形の人かな。こんな小学生みたいな発育不全の男の子を苛めても面白くない」と彼女たちが気付いてくれる方が僕としては断然有難いのだけれど、そのような望みは到底叶いそうもなかった。
 金属の甲高い耳障りな音がして門扉が開いた。いよいよこれから真っ裸のまま外へ連れ出される。池の方からメライちゃんと鷺丸君がのそのそと来て、別れを惜しんでいるようだった。時刻をずらしてくれれば良いのに、わざわざみんなと一緒に辞去すると言う。メライちゃんは僕が依然として衣類を与えられずに素っ裸でいることにぴっくりしたようだった。僕に近づくと、「まさか、そのまま帰るつもりじゃないでしょうね」と、小さい声で訊ねる。非難がましい言い方だった。
「僕だって服を着たいよ。でも・・・」
 知ってるくせになんで僕を責めるのかという不満が滲み出て口ごもると、すかさずY美が割って入った。
「こいつ、素っ裸のままだから、あんたもしっかりガードするんだよ」
「本気なの? ねえ、Y美さん。それはやめた方が」
 その瞬間、Y美の顔が生白くなり、目が細くなって釣り上った。感情を害して、反撃に出る時の顔だった。背が一段と伸びて、メライちゃんと僕の頭上を覆うようになった。胸の前で組んだ両腕は細いのに、鋼鉄のように硬く、どうしてこんな力が出るのかと思うほどで、Y美に頬を張られると、頬だけでなく頭全体がじんじんと痛み、連続してビンタされた時には、頭を支える首の筋肉までも硬くなる。僕はメライちゃんに逃げるように目配せしたけれど、遅かった。Y美の腕がメライちゃんの胴へ伸びて、カメレオンが舌で捕食するように、くるくるとメライちゃんを引き寄せた。
「あのさ、お前、なんで意見する訳? 彼氏できたからって調子に乗んなよ。誰のおかげなんだよ。おい」
 絶句したメライちゃんは大きく目を見開いたまま、じっと動かない。
「チャコの前でお前を素っ裸に剥いてもいいんだけどね」
 頬を手で挟んで、無理矢理に口を開かせる。
「それだけはいや。許して」
 がっちりと頬を掴まれたメライちゃんが横目で僕を見ながら、やっとという感じで声を振り絞った。みんなに裸を見られ、恥ずかしいことをさせられたけれど、僕にだけは見られていないということが唯一の救いになっているのかもしれない。僕と目が合うと、メライちゃんは押さえ付けられた顔を無理にでも左右に振って、声高に「いや」と鋭く叫ぶのだった。不覚にも萌してしまった欲望を僕の目の中に認めたのかもしれない。
「だったら余計な口出しするんじゃないの。この自慢の可愛い前歯、へし折るよ。にっこり笑う時とか、この前歯がないと、相当間抜けに見えるね。私はどっちかというと、お前の前歯を引っこ抜きたい。前歯を折られたお前の顔を見たいんだよね」
 コツコツと人差し指でメライちゃんの艶やかな上唇の後ろに控える健康的な白い歯を叩きながら、Y美が不敵な笑みを浮かべた。
 背後からS子に腕を取られた僕は、鷺丸君の家の敷地を出て、公道に足を踏み入れた。背中をどんと押され、Y美とY美が呼んだ仲間たち、それにメライちゃんが加わった八人の女の人たちとともに歩道を歩かされる。服を着た女の人たちに囲まれて、僕だけが丸裸であり、裸足だった。
 道路を横断して、車が一台かろうじて通れる幅の狭い道を進み、最初の十字路を右に曲がった。この十字路をもしもまっすぐ進んだら、集合団地の中を通ることになる。
 団地を抜ける道をY美が避けてくれたのは有難かった。沢山の好奇心旺盛な子供たちに取り囲まれたら、さすがのY美も窮するだろう。Y美の即興の作り話や演技は大人を相手にした時に効果を発揮するのであって、子供ではなかなか通じない。このことはY美が一番承知しているのだろう。
 僕は以前、マジックショーの帰りにメライちゃんと二人でここを通り抜けたことがあった。Y美に洋服を全て持ち去られたので、練習の時と同じパンツ一枚の裸だった。団地街に入ると、どこからともなく現われた子供たちに白いブリーフのパンツ一丁の姿を散々からかわれ、パンツのゴムを引っ張られたりしているうち、どういう訳か下着泥棒の濡れ衣を着せられ、女の人たちを前にして水溜りの中で土下座させられた。
 嫌な思い出しかない巨大な団地街を通らずに済んだのは、もっけの幸いだった。しかし、だからと言って僕の羞恥が軽減された訳ではない。
 これまでにも公道を素っ裸で歩かされたことがある。何度もある。今は八人もの女の人にガードしてもらっているが、これよりもうんと少ない人数、例えばY美一人に野外を連れ回されたことだってあるから、それを思えば今回の僕への仕打ちが特別に辛いものだとは言えないかもしれない。手でおちんちんを隠す自由だって認められている。
 でも、それでも僕はこれまでにない不安を感じていた。幾ら女の人たちが裸の僕を守ってくれると請け合っても、安心できない何かがあった。ガードしてくれる女の人たちの中にメライちゃんが混じっていることが、もう散々恥ずかしいところを目撃された後でもなお、僕に辛い思いをさせた。
 おちんちんからお尻の穴まではもちろん、勃起させられたところ、射精の瞬間までしっかり観察されてしまった。メライちゃんが昨日までとは明らかに違った目で僕を見るのも、当たり前かもしれない。
 実際、メライちゃんは、一糸まとわぬ恥ずかしい姿で長い距離を歩かされている僕に対し、不快なものでも見るような、嫌悪感を漂わせたような眼差しを向ける。それは、素っ裸のままY美に土下座させられた時に背中に感じたのと同質の視線だった。
 Y美が僕に教えてくれた、メライちゃんの冷ややかな視線とは、この眼差しから出たものに違いない。
 ガードしてくれている他の女の人たちも、全く油断できない。特にY美よりも更に上背のあるS子は、僕には恐怖以外の何者でもなかった。バスケットボール部に所属して、あまり熱心に練習する方ではないらしいが、身長が高いという理由で、他の真面目に練習に取り組む生徒を差し置いてレギュラーに選ばれている。動きは鈍いものの、怪力の持ち主であることに変わりはなく、片手で僕の背中に回された両腕を押さえることができる。この人に襲いかかられたら、どんなに厚着をしていても、一分とかからずに素っ裸に剥かれてしまうだろう。
 それ以外の女の人、ルコ、ミュー、風紀委員、N川さん、エンコもY美と行動をともにすることが多い仲間であり、Y美の思い付きがそのまま通ることが多いのは、一重に彼女たちの支援があるからこそだった。
 このような集団に連れられて、西日が眩しい平らな土地をひたすらに歩いた。おちんちんを手でしっかり隠し、もう片方の腕を使って胸から脇腹を覆う。少なくとも前からでは、素っ裸であることにすぐに気づかれないようにする。
 振り返ったY美は、僕が手で裸を隠すのを憐れむような目で見た。
「どんなに手で隠しても素っ裸なのは一目瞭然だけどね」
 ぷいと背中を向けてせっせと歩き出す。
 道路沿いには地主たちの大きな家があって、家と家の間の広い土地に背の高い雑草がみっしりと生い茂っている。雑草が途絶えると畑が見えてきて、果樹園の看板が見えた。大きな果樹園と歩道の間に用水路があり、深々と水が音もなく流れていた。歩く人など滅多にいないのに、幅の広い立派な歩道が延々と続いて、どこまでも裸足のまま歩いて行けそうだった。メライちゃんの住む南側の地域とはえらい違いだった。
 南側の地域は、プレハブ小屋のような民家がぎっしりと並んで、道路は何十年も前に舗装されたきりで、ところどころに穴があって、土が露出していた。歩道はなく、車と人が同じボコボコの道を使っている。以前、服を借りるため、メライちゃんの家の前でパンツ一枚の裸で待機したことがあった。夾竹桃のそばで服の破れた子供、上半身裸の子供たちが遊んでいた。僕が白いブリーフのパンツを一枚身に着けただけの格好で歩いていても、それほど違和感を覚えることのないような雰囲気だった。
 それに比べると、今の道路は全然違う。周囲を見渡しても人の姿がなく、舗装は立派だった。裸足でも、靴を履いた女の人たちと同じくらいのペースで歩けたし、足の裏が心地良く感じられる程だった。困ったのは、人通りの少ないことから、女の人たちが僕をガードする役目をいい加減にこなすようになったことだった。
 車の音が聞こえてくると、僕はびくっとして、急いで女の人たちの間に身を潜ませる。車が前から来るのであれば、先を歩く人たちの背中にぴったりと身を寄せればよいのだけれど、問題は後ろから迫る場合だった。
 後ろをガードする役の風紀委員とN川さん、エンコの三人がのんびりとお喋りしながら歩くものだから、振り向くと十メートルも離れた場所にいて、全然ガードの役を果たさない。僕の右側、車道側を歩くミューは黙って僕のペースに合わせてくれた。ルコはメライちゃんと並んで歩き、自分たちのペースだった。メライちゃんはなんだか僕を避けているようだった。
「この中で一番背が高いのはS子だけど、一番体重が重いのは?」
 風紀委員が問い掛けると、
「そりゃエンコだよね」N川さんが間髪を入れずに答える。
「横幅があるのは?」
「エンコ、断然エンコ」
 風紀委員とN川さんのエンコをからかう問答が続く。
 後ろから来た車が通り過ぎる手前でうんと速度を落とし、窓から僕をじろじろ見る。「何してるのか」と声を掛けてくることもあった。くすくす笑って通り過ぎるドライバーもいた。これも後ろの三人がのんびり歩いて、素っ裸で公道を歩かされている僕の恥ずかしい気持ちを理解してくれないせいだった。「ひどい。それって言い過ぎ」エンコがぶつ真似をして、風紀委員とN川さんに抗議する。
 連続して後ろから車が来るので、先を行くY美とS子の前に走り出て、彼女たちの体で裸身を隠そうしたところ、彼女たちの不興を買ってしまった。「勝手に列を乱すな」とY美に叱られ、頭髪を掴まれる。「痛い。ごめんなさい」と、叫ぶ僕は引っ張り上げられた頭髪に手をやって、おちんちんが丸出しになった。前と後ろからゆっくりと車が通り過ぎた。一台は軽くクラクションを鳴らした。
 荒地の向こうに竹林があって、生温かい風が汗ばんだ体を嬲ったと思ったら、S子がいきなり、おちんちんを扱き始めた。S子にはこれまで何度もおちんちんをいじられてきたけれど、粗雑に扱うので痛くて堪らなかった。それが今回はどういう訳か、別人のようにソフトな手つきになって、おちんちんの真ん中あたりを指で軽く締めるように振動させる。その左右に動かす幅が少しずつ広くなった。いつの間にかY美に手首を掴まれ両手を上げている僕は、腰を引っ込めながらくねらせ、喘ぎ、悶えた。
 後方にいた風紀委員とN川さんが駆け付け、硬化したおちんちんを指で突っついては、キャッキャッと笑い声を上げた。これまでにも何度も弄んできたのに、まるで初めて見たかのように喜ぶ。メライちゃんが呆れたような目つきで僕の顔を見た。
 路地を曲がってしばらく進むと、道幅が狭くなるとともに、少しずつ人家が増えてきた。すれ違う人たちは、性別を問わず、女の人たちに囲まれて歩く素っ裸の僕を見ても、不思議なくらい関心を示さなかった。黙ってY美たちに会釈を返して、通り過ぎる。
 田んぼの畦道を抜けて山道に入り、しばらく進むと、再び立派に整備された道路に出た。ここにも歩行者が滅多に通りそうもないのに幅広な歩道がどこまでも続いている。車の交通量が今までよりぐっと増えたので、さすがにY美は振り返って、風紀委員とN川さんに僕との間隔を詰めて、しっかり後ろをガードするように言いつけた。
 バス停の前で、一人の着物姿のおばあさんが必死になってバッグの中を探していた。Y美がどうしたのかと声を掛けると、お財布とパスがないと言う。これから町に出て大事な人と会う、お金はその人に借りれば良いけれど、老人無料パスがないことにはバスにも乗れない、と嘆く。
 三時間に一本しか、バスは通らない。家まで忘れ物を取りに戻る余裕もない。もうまもなくバスが来る筈だと言う。地区限定の無料パスであり、全ての老人に発行される訳ではないから、外見だけの判断で運転手さんが無料にしてくれることはない。Y美はおもむろに猫の頭の形をしたカラフルな財布を取り出すと、硬貨を何枚かおばあさんの手のひらに乗せた。
「これ、使ってください」
 そっとおばあさんの手を包むようにして硬貨を握らせる。おばあさんはびっくりして何度も礼を言い、必ずお返しするから連絡先を教えて欲しいとせがんだ。しかし、Y美は「困った時はお互い様ですよ」と言って、取り合わない。ふと、おばあさんが女の人たちの間で身を竦めている素っ裸の僕に気づいた。
「あれ、この子は?」
「この子は悪い男の子たちに苛められてお洋服を全部取られちゃったんです。私たちが面倒を見て、この子を家まで連れて帰るんですよ」
 またいい加減な作り話をしてY美が答えると、S子たちがそうだそうだどばかりに頷いて、嘘に加担する。おばあさんは親切を受けたばかりなので、あっさりとこれを信じ、「かわいそうに。でも、親切なお姉さんたちに助けられて良かったわねえ。裸でも男の子だもんね、我慢できるもんね」と励まし、僕の頭を撫でるのだった。ちょうどその時、こちらに向かってくる乗用車の列の向こうにバスが見えた。
「バスの人に見られるのは、マジでまずい」
 Y美が舌打ちして、僕のおちんちんを隠している方の手を取り、S子たちに目配せする。
「まるっきり子供のおちんちんね。こんなに小さくても恥ずかしいのかしら」
 おばあさんがおちんちんへ視線を当て、クスクス笑う。僕がS子やルコたちに手を引っ張られて道路脇の斜面を下り、丈高い草の裏側へ回るまでを、おばあさんがバス停のところから微笑しながら見ていた。バスが到着し、おばあさんがステップに足を乗せた時、もう一度振り返り、Y美に向かって頭を下げた。
 閉鎖したガソリンスタンドの角を曲がると、車の通りはぐっと少なくなった。大きな倉庫とその横にたくさんのトラックが並んだ敷地を通り過ぎる。道路脇の下の蔦や灌木の茂みの間から川が見え隠れした。これまで僕が何度も泳がされてきた、みなみ川だった。
 夏草の生い茂る中、木造二階建ての建物が見えた。積み重ねた石をセメントで固めた門柱には、集会所とだけ書かれた看板が傾いている。
 暑い日差しの中を歩き続けた一行は、引き寄せられるように敷地内へ足を踏み入れた。引き戸は鍵がかかってなくて、呼びかけても一向に返事がない。
「誰もいないみたいねえ」
 Y美を先頭にためらうことなく中に入り、上がる。かなり老朽化した建物で、歩くと床が鳴った。近隣の人たちが寄り合いに使うのだろうか、台所のほかは、部屋が二つあった。階段の昇り口には虎模様のロープが掛かって、二階への出入りを禁じていた。
「元は誰かが住んでたのかな」家の中をきょろきょろ見回しながら、ルコが言う。
「住んでた人が死んで、集会所にしたんだよ、きっと」
 幽霊の手つきをして風紀委員がおどけると、エンコがいきなり風紀委員の胴に腕を回して、ぎゅっと締め上げた。
「怖くないんだよ、ちっとも。つまらないから、やめてくれる?」
「苦しいからやめて、放してよ。わかったから」
 抱え上げられた風紀委員のスカートの右側がめくれて、太腿が露わになった。もう少しでパンツが見えそうになる。
 やっと放してもらった風紀委員は捲れ上がったスカートを戻して、ちらりと僕の方を振り返った。あわよくばパンツを見ようとした僕を詰るように、ちょっと怖い目をして睨みつける。続けて、僕の手を退かせて、おちんちんに顔を近づけると、「パンツ見てないよね。こんなに小さく縮んでるもんね」と、自分に言い聞かせるのだった。
 ここで休憩を取ることにした女の人たちは勝手に冷房を付け、蛇口を捻り、顔を洗い、水を飲んだ。
 横に長い和室には大きなガラス戸があって、そこから朽ちた垣根やたった今歩いて来た道路が見えた。隅に積まれた座布団を一人ずつ取る。僕もN川さんに続いて座布団へ手を伸ばすと、いきなりS子に座布団を叩き落とされた。僕とメライちゃんは他の女の人よりも身分が低いから、そのことを示すために座布団は使わせないのだと言う。
 畳に直に正座させられた僕の隣では、メライちゃんが膝を組んで座り、物憂げな顔をしてガラス戸の向こうを見ていた。砂利が西日を受けて白く輝く。ポロシャツの襟をツンと立てて、その中に顔を埋めるメライちゃんは、誰かが外からガラス戸に近づいたら確実にスカートの中を見られてしまうのに、構わずにじっと動かなかった。
 虫の飛ぶ音がして、メライちゃんがこちらに首を回した。一糸まとわぬ体を晒して正座させられている僕を見ると、溜息をついて、再びカラス戸の方へ視線を戻す。
「ねえ、裸んぼくんの服とか靴、どうしたっけ。紙袋に入れてたよね」
 座卓に頬づえをついて、ぼんやりしているY美にS子が話し掛ける。S子はメライちゃんと僕から取り上げた座布団を重ねて枕代わりにして、寝そべっている。
「あ、いけない、くそ手品師んちに忘れてきゃった。ま、いいか。どうせ着せるつもりはないし」
「でも、裸で歩かせて騒がれたくないんだよね」
「うん。まあ、そんなところ」
「だから、私たちをわざわざ呼んだんでしょ?」
「お母さんがうるさいの。さすがに裸でバスに乗せたのはまずかったみたい」
「そうなんだ。Y美も大変だね」
 日蔭のない道をずっと歩いた疲れが出たのか、会話はそれきり途絶えた。縁の下からヒグラシの鳴き声が聞こえる。メライちゃんは早く家に帰って、妹たち弟たちの世話をしなくてはならない。それなのに、Y美はいつまで引き留めるつもりなのだろうか。そんなことを考えているうちに、ふっと眠気を催した。
 適度に足を崩すことは許されても、基本的には正座が僕に課せられた姿勢だった。その点、メライちゃんは好きな姿勢で座ることができた。但し、他の女の人たちのように自由に立ち歩くことは認められていない。お湯を沸かしてくるように言いつけられたメライちゃんが腰を上げた時、よろめいて僕の方に倒れたけれど、僕の肩に手を掛けて体勢を立て直し、無言のまま台所に向かった。
 少し眠ってしまった。女の人たちの雑談が聞こえてくる。Y美はあまり喋らず、皆と一緒に笑い、相槌を打った。おもにミューとルコが話をした。ミューは最近、ホックが前にあるブラジャーを着けるようになったと言う。「それは着けやすいの?」「それが思った程でもないのよ」ミューが答えて、ひとしきり下着の話で盛り上がる。
「もう服を選ぶのが面倒くさくてさ」とミューが漏らすと、すかさずルコが「それは贅沢な悩み。服を着たくても着させてもらえない人がいるのに」とたしなめ、「ほら、あすこに約一名」と、ガラス戸に向かって正座させられている僕を暗に笑う。僕の剥き出しの肌に視線の矢が複数刺さる。
 そのうち、Y美とS子がぽつぽつと会話に加わるようになった。俄然、話題がえげつなくなる。全く耳を疑いたくなるような内容だった。Y美たちは、とんでもないことをしてお小遣いを稼いでいるらしい。
 お小遣い稼ぎに使われているのは、OLのH山さんだった。以前、僕が素っ裸で横断歩道を渡らされた時、僕を庇って、警察に被害届を出すべきだと勧めてくれた人だ。彼女はY美の怒りを買い、裸に剥かれた。更に住所から電話番号、勤務先まで全て調べられ、その後、頻繁に呼び出された。
 まもなく三十に届こうとするH山さんが独身であり、付き合いのある男性も特にいないのを良いことに、交際の場だと称して、Y美は指定の場所へH山さんを行かせた。そこはS子の先輩の親が所有するマンションであり、平日の昼間は自由に使えた。H山さんが合鍵を使って部屋に入ると、シャワーを済ませた男がいるということだった。
 もともとは、S子がアキ先輩の願いを聞き入れるためにできることはないかとY美に相談したのが始まりだった。一回の料金がどれくらいなのかは分からないけれど、ざっと話を聞く限りではH山さんの懐にはごくわずかしか入らず、ほとんどはY美たちの取り分になっていたようだった。
 素っ裸のまま正座させられている僕は姿勢を崩し、軽く足を揉んだ。ガラス戸にはメライちゃんの姿、お尻をぺたりと床に着け、立てた両膝を両手で結ぶ姿が映っている。スカートの中が見えそうだったけれど、丁度その位置には、生垣の下のドクダミの葉がガラス戸越しにわっと広がっていた。
 Y美たちに注意されないうちに素早く正座の姿勢に戻った僕に、女の人たちのとりとめのないお喋りが聞こえてくる。
 高まる性欲に悩んだ末、モン先輩は気心の知れた女の友人であるアキ先輩に打ち明けた。とにかく一度性行為をしたい、しないことには頭がおかしくなりそうだと訴え、空のビールを壁に叩きつけ、ギザギザの割れ目をアキ先輩に向けた。
 アキ先輩は、「仕方なしに」と言い訳して自分がブラウスのボタンを外し、モン先輩の相手になったらしい。しかし、モン先輩の性欲は底無しであり、アキ先輩がヘトヘトになってもまだ満足しない。応じないと暴力的になるのも怖かった。このままずるずる相手を続けると、自分の体がおかしくなる。
 そこでアキ先輩は、後輩のS子に自分の代り、モン先輩の相手になれそうな人を見つけるように頼んだ。S子から相談を受けたY美は、たまたま出会った、Y美の言う「むかつく、説教くさい、おばさん」であるH山さんをあてがったらどうかと提案し、ことはトントン拍子に進んだ。
 性的な官能をほとんど毎日のように体験させられたH山さんは、最初に会った時の地味な事務員のような印象が薄れ、急速に色っぽくなって、なんとも男性好みの女の人に仕上がった、とS子が評した。
 H山さんは大人だし、会社で働いていて、時々残業とか付き合いとかがあるから、Y美たちの呼び出しに応じられない日もあった。そういう時は代わりを出すらしい。
「代わりって誰?」
「Fって、ルコの従妹の、あのいかにもお勉強できますって態度が鼻につく女」
「脱がせたら巨乳だったね」
 ルコがえへへと笑った。
 高校受験を控えて熱心に勉強に取り組んでいたのに、知らない男の人への性的な奉仕を強制されるようになってからFさんの生活はすっかり荒れ、勉強にも身が入らなくなったようだった。露出度の高い服を着て、夜の接客業みたいな化粧をしたFさんが遊び人風の男の人と腕を組んでふらふら歩いていた、昼間からお酒を飲んだみたいでけたたましく笑い声を上げ、以前とはまるで別人のようだった、とミューがショッピングセンターでFさんを目撃した時の印象を語った。
「ふん、化けの皮が剥がれたね。それがあいつの本性だから」
 ルコがちらりと僕の方を見て、毒づいた。
 さっきから時折、ひぐらしの鳴き声とは別の方向から、何か物の倒れる音が聞こえる。恐らくみんな気づいていたとは思うけれども、誰もそのことを口にせず、聞こえない振りを決め込もうと、一層お喋りの声を高くする。
 物音は天井からだった。
 天井を見つめる僕をY美が強張った顔をして睨みつけた。天井を見つめる行為自体、怪しい物音を認めることになる。僕にも気付かない振りを強要したいのだろうが、言葉では言えないものだから、不安と恐怖が怒りになって僕へ向けられる。すぐに天井から目を逸らしたけれど、折悪しく、その時、ごくわずかな沈黙の間を図ったように、ごろりと物の転がる音が天井した。もうごまかしようがないほど、はっきりと聞こえた。
「何、あれ?」
 メライちゃんを除く女の人たちは、顔を見合わせた。
「誰かいるのかな」
 声を落として、女の人たちが小さな一つの座卓を囲む。寝そべっていたS子が背筋を立てて、不安そうに天井を見上げた。
「ネズミとかじゃないの?」
 ごとり、とまたしても音がして、続いて、天井が奇妙な軋みを立てた。人が寝返りを打ったような音だった。
 Y美が立ち上がって、正座させられている僕のところへ来ると、
「お前、いいからちょっと二階へ上がって見てこい」と命じた。
 脇の下に腕を差し入れ、無理矢理に立たされた。風紀委員が冷房のスイッチを切った。冷え冷えとした空気の中、僕はおちんちんに手を当てながら、何か着る物が欲しいと頼んだ。もしも人がいた場合、素っ裸では具合が悪い。しかし、Y美の答えはそっけなく、「いいから早く二階へ行ってこい」の一点張りだった。
 諦めて素っ裸のまま居間から廊下へ出る。メライちゃんが心配そうな面持ちで僕を見送った。物音の正体が自分へ危害を加えるのではないか、と案じているのだろう。Y美とS子に追い立てられて廊下を進み、階段の前まで来ると、Y美が立ち入り禁止を告げる虎模様のロープを外した。
 上から白檀の香りが流れてきて、この家に入った時にはこんな匂いはしてなかったのに、これだけでもう得体の知れない何かが二階に潜んでいるのはほぼ確定的であり、僕は恐怖の念がいよいよ強くなって、膝が震えた。
「ね、お願いだから、勘弁してください」
「だめだよ」Y美は許してくれなかった。
「お前は、この中でただ一人の男だろうが。こういうのは男が行くものでしょ。何を怖がってんだよ」
「そんな。こんな時だけ」
 絶句する僕の喉元にS子の手が伸びた。
「愚図愚図言わないの。あんた、男の子でしょ?」
 苦しい。S子の指がしっかり喉に掛かっている。返事ができない。
「自分が男の子だってこと、隠したいの? 素っ裸のくせに」
 声量を抑えたS子の低い声は、自分の望まない方向に事が進んでいることに対する激しい苛立ちが込められていた。
「いえ、そういう訳では・・・」
 やっとS子の太い指が喉を離れ、咳き込みながら答えると、今度はY美がS子と入れ替わって僕の前に出た。
 いきなりおちんちんを扱かれる。身をくねらせ、腰を引いて、Y美の手から逃れようとしたけれども、無理だった。心臓がバクバクしてまともに歩けない程怖いのに、こんな状況でも性的刺激を与えられ続けると、おちんちんが硬くなってしまう。たちまちのうちに射精寸前まで追い込まれたおちんちんを見て、S子の硬い表情が少し綻んだ。
「おちんちん大きくしてやったから、これで少しは自分が男だって自覚できるんじゃないの。何かあったら大きな声を出しなさい」
 ぴしゃりとお尻を叩かれて送り出された僕は、観念して階段を一段一段のぼった。不思議なことにおちんちんを扱かれて気持ち良くなると、快楽で頭が少しだけぼんやりして、恐怖心が和らいだ。それよりも未知の場所へ素っ裸のまま、しかもおちんちんを大きくさせた状態で足を踏み入れることに対して、体が熱くなるような羞恥を感じる。
 二階はシンプルだった。階段の正面に窓があり、右手には洗面所とトイレがあった。左手に進むと、廊下の右側は窓、左側に古びて変色したふすまが端まで続いていて、びっしりと閉められてあった。白檀の香りがいよいよ強くなる。匂いの元がふすまの向こうにあるのは間違いなさそうだった。
 静かに歩いても床が鳴るので、今まで以上に忍び足になった僕は、真ん中辺りのふすまに当たりをつけて、そっと中の様子を探るべく聞き耳を立てた。勃起させられたおちんちんがふすまの破れ目に触れ、おちんちんの裏側に木の骨組みに当たった。
 何か硬い小さな物体の転がる音がする。一階で聞くよりも音が響かない分、妙な生々しさがあった。生唾を飲み込んで、そっとふすまに手をかけた瞬間、
「誰だ」
 野太い声とともに内側からふすまが開いた。
 大きな人の形をした何かが立ちはだかっている。頭の中が真っ白になった。紺の作務衣を着た、頭髪をきれいに剃り落とした大柄な男の人がへなへなと座り込みそうになった僕の腕を掴んで、立たせた。
「お前、真っ裸じゃないか。何しとる、こんなところで」
 香木の煙が立ち込める板張りの部屋には、ブルーシートが敷かれ、手のひらに乗るサイズの木彫りの像が所狭しと並んでいた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
 男の人の手にノミが握られて、刃先がお臍を狙っているような気がして、悲鳴を上げ、ひたすら謝る。男の人の握りしめる力が強くて、腕が痛い。もがいた瞬間、腕が自由になったので、裸身をくねらせて男の人に捕まらないよう、板敷の部屋へ逃げた。
 そこは、仕切りを全て取り払った広い空間だった。ブルーシートの向こうには緋色の絨毯が敷かれ、真ん中に白い着物の女の人が白い鉢巻をして後ろ向きに座っていた。いかにも近寄ったらいけないという雰囲気を醸していたのに、ノミを持った男の人から逃れることで頭が一杯の僕は、そこまで感じ取る余裕がなかった。
「待て、こら」
「ごめんなさいごめんなさい」
 木像を踏まないように跳躍して、着地すると、そこにもあった木像を踏んでしまう。ドミノみたいに幾つかの木像が倒れ、男の人の目がカッと見開いた。木像を踏みつけてバランスを崩した僕は、木像の上に倒れないよう緋色の絨毯に向かって跳躍し、両手で絨毯に着くと、そのままごろごろと転がって、中央に座る白い着物の女の人にぶつかった。
「こいつ、恐ろしい侮辱を働いたぞ」
 坊主頭の男の人が怒鳴り、僕の腕を掴んで背中に回し、板敷の部屋から廊下へ追い出す。「痛い。腕が折れちゃう。離してください」
 両腕をねじ曲げられ、指先が肩甲骨に当たった。痛みを訴える僕の声は無視され、押されるようにして階段を下りる。背後から男の人の怒りをそのまま表したような大きな足音がどすどすと響いた。
 二階からどたんばたんと激しい、異常な事態を知らせる物音、人の声が聞こえても、Y美は階段の下に踏み留まっていた。S子は、廊下の奥の方から様子を見守る他の女の人たちに混じって、固唾をのんでいる。
「なんだ、お前はこの裸んぼの連れか」
 坊主頭の男の人がY美を見て、怒鳴った。Y美は落ち着き払った態度で男の人の顔をじと見つめ、静かに「はい」と答えたのち、後ろから階段を下りてくる女の人に目を移した。Y美の顔がぱっと明るくなった。
「あら、Iさんじゃないですか」
 Iさん? あのヘルパーのIさんなのか? 僕は両腕を背中に拘束された不自由な体をよじって、着物姿の女の人をもう一度見た。確かにIさんだった。
「Y美ちゃん、ここはみなみ川教の集会所だよ。勝手に入ったら駄目じゃないの」
 険しい表情をしてたしなめ、僕のお尻の肉を摘まむ。
「あんた、またこの男の子を苛めてるね。この子は相変わらず素っ裸なのね。私は、この子が服を着たところを今の今までただの一度も見たことがないんだよ。いつも素っ裸じゃないか」
 乾いた声で笑う。
 無断侵入した一同は、休憩に使った和室に集められ、正座させられた。
 Iさんは、Y美の家の近所にある、みなみ川教信者の高齢者向け共同宿舎で介護する仕事をする女の人だった。しかしそれは表向きであり、みなみ川教という宗教で巫女のような役を果たすのが第一の使命だと本人は心得て、信者たちもそのように認識している。即ち、神様のお告げを知らせたり、どのような振る舞いが効験あらたかになるかを指導したりすることがIさんの日々の活動の中心だった。
 よく分からない不気味な人という印象を僕はIさんに対して拭うことができない。実際、信者たちの肉体や魂を生き生きとさせる効用があるという不可解な理由で、これまでに何度も、時には大勢の老人たちの前で、僕は精液を搾取されたり、お尻の穴を広げられ、強制排泄をさせられたりした。どれだけ辛い思いをさせられてきたか知れやしない。
 それだけではない。僕が他の人たちに素っ裸で苛められ、晒し者にされている時だって、ただの一度も助けてくれたことはなく、むしろ積極的にこれを笑い、苛めに加担するような真似ばかりしてきた。
 そのIさんが怖い顔してY美たちを見下ろしている。これから長いお説教が始まるのだ、ねちねちと責められるのだ、と覚悟をしていると、開口一番、「勝手に入ってきたあなたたちに質問したいことがあるのよ、質問してもいいかしら」と訊ねた。鍵がかかっていなかったという理由で無断で知らない家屋に入ってよいのか、という質問だった。
 皆を代表してY美が答えた。集会所の看板があったから公共の建物だと思った、もしもみなみ川教の所有する家屋だと事前に知ることができたら、もちろん入らなかった、と弁明して、最後に自分たちの非礼を詫びた。すると、Iさんは凛とした声で、「事実に違いないな」と念を押し、「それならば罪はない」と厳かに断じた。
 女の人たちは、ほっとしたように顔を上げた。S子は泣き止んでいたけれど、エンコとN川さんはまだ泣き顔だった。しかし、安心するのはまだ早かった。Iさんが隣で仁王立ちする坊主頭の男の人に目配せすると、男の人は素っ裸の僕をいきなり畳に押し倒し、顔を踏んで畳に押し付け、麻縄で僕を縛り始めた。
 いやだ、やめて、助けて、と哀訴しながら必死に抵抗するも、坊主頭の男の人の怪力を前にしては全くなすすべもなかった。麻縄が乳首を挟んで二重三重に巻かれる。Y美をはじめ、S子、ミュー、ルコ、風紀委員、エンコ、N川さん、そしてメライちゃんが息を詰めて見守る中、後手高手に縛られてゆく。
 同い年の女の人たちの前で、素っ裸の身を抵抗むなしく麻縄で二重三重に縛られるのをじっと見られるのは、体がカッと熱くなるほどの羞恥の念を僕に起こさせた。縛られる過程でおちんちんはもちろん、お尻の穴までしっかり晒してしまった。
 きつく縛られ、腕の自由が全く利かない。動かせるのは指だけだった。麻縄の食い込んだ裸身をメライちゃんがびっくりしたような目で見つめている。
「それはそれとして」Iさんが言葉を続けた。
「この男の子の不作法が引き起こした罪の数々は、そう簡単には許されるものではないのよ。それは理解してちょうだいな」
 畏まって話を聞くY美たちにIさんが言い、両腕を背中できつく縛られたまま立つ僕に冷たい視線を向けた。さっきまで泣いていたエンコがどういう訳か怖い顔をして、ほぼ正面にある僕のおちんちんをじっと睨んでいる。
 どんな罪を犯してしまったのか。まずIさんは、勝手に儀式の閉じられた空間を破り、不浄の空気を流し込んだこと、次にブルーシートに飛び乗って、木像を足で倒したことの二つを挙げた。みなみ川教の人たちにとって、足で木像に触れることは恐ろしい冒涜だった。そして最後に、これが最も重いものであると前置きして、様々な自然の霊との交流を邪魔立てしたことを言った。
 これらの罪を償うのは並大抵ではないらしい。もし僕が清めの儀を行じなければ、その悪業の報いはY美をはじめ、この場に居合わせた女子たちにも及ぶ。なんだか信じられないけれど、Iさんに言わせるとそのようになる。
 要するに、僕が罰を受け入れるかどうか、という二者択一だった。Iさんはその選択肢を当人である僕にではなく、Y美に突きつけた。Y美はあっさりと承諾した。
「ターリ、例のものを持っておいで」
 Iさんが言うと、坊主頭の大柄な男の人が廊下に出た。どすどすと二階へ駆け上がる足音が響いた。「犯した罪が罪なだけに清めの儀は簡単に終わらないからね、覚悟してよね」とIさんが僕の方を向いて言い、縄尻を引っ張って鴨居に結んだ。
 みなみ川教という地元の守り神を崇める宗教団体の不気味さに怖気を振るっていると、Iさんが「足、邪魔だね」と呟き、畳に落ちていた麻縄を僕の足首に掛けて、ぐるぐると縛り付けた。
 両手両足を縛られて鴨居につながれた僕をY美たちが取り囲んだ。僕の裸なぞ見慣れている筈なのに、こんな風に麻縄が肌に食い込んだ体は珍しいのか、風紀委員がシャツの裾で拭いた眼鏡を掛け直し、しげしげと見て、縄の間の乳首をいじったり、背中に固定された腕を撫でたりしている。どすどすと廊下を歩く音がしたかと思うと、Iさんにターリと呼ばれた男の人の作務衣の裾が見えた。
 麻縄で締め付けられて腕がきりきりと痛む中、ターリさんからローションを受け取ったIさんは、手のひらにたっぷりとそれを乗せると、おちんちんに塗り始めた。お尻の穴からおちんちんの袋までローションを念入りに塗り、同時におちんちんを扱く。
「あなた、代わってくれるかしら」
 Iさんが風紀委員の横で熱心に見入っているエンコを指名した。待ってましたとばかりにエンコはIさんが放した後、間髪を入れずにおちんちんを扱き始めた。ぬるぬるした手でまさぐられ、体が反応してしまう。感じたくなくても快感がひたひたと押し寄せてきて、不自由な体をくねらせてこらえる。固く結んだ口から声が漏れてしまう。
「おちんちん、大きくなったね」
 ルコがメライちゃんを肘で突いて、教える。メライちゃんは僕の顔から下腹部へ視線を移すと、誰かに背中を押されたかのように、一歩前へ出た。
 射精寸前まで追い込まれた僕は、「まだ射精しては駄目、我慢しなさい」というIさんの言いつけを守れそうもないことを訴え、射精の許可を懇願した。手も足も縛られてろくに動けない体を左右にくねらせ、腰を伸ばしたり縮めたりして、悶える。エンコはおちんちんの袋をむんずと掴んで、かすかに震わせた。指先がお尻の穴に当たる。
 ローションにまみれた指先がずぶりとお尻の穴に入った。喘ぐ僕の顔へメライちゃんが視線を向ける。
 そう言えばさっきから、メライちゃんは僕の顔ばかり見ているような気がする。僕としては、おちんちんだけでなく、顔をじっと見られるのも大変に苦痛だった。肉体が反応する以上、どうしても僕の意に反して、顔に喜色のようなものが浮かんでしまう気がして仕方がない。顔を赤く染め、汗まみれになりなから、恥辱に耐える僕の顔に、快楽に打ちひしがれて、うっとりしてしまう表情が浮かばないとも限られない。それをメライちゃんにはやはり見られたくなかった。
 やめて。そんなに見ないで。なんでそんなに僕の顔ばかり見るの。
 お尻を棒のようなもので叩かれた。ターリさんがIさんの指示に従って、お風呂の湯まぜ棒のようなものを振り下したのだった。痛くて悲鳴を上げる。
「十三発。この子の歳の数だけ、精液を許可なく畳に垂らした罰」
 Iさんが部屋じゅうに響くような大きな声で宣言した。ローションまみれの硬くなったおちんちんの先から精液が糸を曳いて落ちた。
 拘束された体を右に左に振っても、お尻を叩かれる痛みからは逃れようがなかった。股の下に入れられた板が跳ね上がった時には、激痛に声も出なかった。散々痛めつけられた後、おちんちん責めが再開され、今度はお尻の穴も広げられた。ローションを塗った棒、小さな瘤のような玉が串刺しになった棒がお尻の穴に当たる。
 一度二度、軽く突かれてから、三度目は強く押される。玉の一つがお尻の穴に押し込まれる。これまでの異物を入れられてきた経験から、僕はお尻の穴を緩め、うんちをする時みたいに軽く下腹部に力を込めた。そうしないと、後で痛くなるからだ。ローションのおかげでずぶずぶと串刺しの玉が入ってゆく。
 腰をやや突き上げた格好になった僕の口から、恥ずかしい声が漏れてしまう。
「あう、あうって、よがってやがる。どんどん入ってくじゃねえか」
 ターリさんが僕の腰をしっかり掴んで、棒を回転させる。刺激に耐えきれずに声が出てしまうのをこの人は喜んでいるようだった。
 異物を挿入された状態で、なおもおちんちんがびんびんに大きくなった状態を保っている。そんな僕の顔をメライちゃんがじっと見つめるのだった。Y美が「時々うっとりした顔をするんだよね」とさも不思議な現象であるかのように言うものだから尚更熱心になって、僕の表情の変化を読み取ろうとする。
 おちんちんに古いリボンを巻き付けられる。エンコがリボンの端を握って、横から左右に振動を加えた。もう我慢の限界だった。甘い電流のような痺れが全身に渡って、思考能力もない。ただ、動物みたいに喘いで、口にする言葉は「お願い、お願いですから」だけだった。
 そろそろいいでしょう、というIさんの声が聞こえた。おちんちんの先にシャーレをあてがう。リボンの振動が少し強くなった。僕は約束通り射精をする前に声を上げて知らせた。射精寸前まで僕の顔を見ていたメライちゃんは、いよいよの時にはおちんちんに視線を移した。メライちゃんに射精の瞬間を目撃されるのはこれで二回目だった。
 シャーレの中に放たれた精液をIさんは「これは使えないから」と言って、Y美に渡した。禊によって出された精液は納めることができないらしい。Y美からそれを受け取ったメライちゃんは、白く濁った液体をちらりと見てから、どう始末したらよいのかY美の指示を仰いだ。
「いらないってんだから、出した本人に戻すしかないね」
 こうしてメライちゃんがシャーレの縁を僕の下唇に乗せ、ぐいと押し込んでから傾けた。最初はおずおずとして申し訳なさそうだったけれどすぐに慣れたようで、僕がむせて苦しがると、イラッとした顔をしてシャーレを一旦放した。
 どうしてもメライちゃんを諦め切れない僕は、メライちゃんに無理矢理飲まされる精液を薬だと思い込むことにした、メライちゃんへの思慕を断ち切ることができる強力な薬なのだと。唇の端に付いた精液をメライちゃんが指で拭って、僕の口に突っ込んだ。


30 コメント

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Unknown (Gio)
2015-08-30 14:25:17
更新お疲れ様です。
メライちゃんも完全にY美側になりましたか。てっきり一緒にいじめられる側になると思ってましたが。ともあれ失恋したナオス君が夏祭りをどう乗り切るのか、今後の展開をお待ちしています。
どうか御体にお気をつけて、マイペースでお進めください。
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Unknown (X)
2015-08-31 19:49:44
やはり男は邪魔。気持ち悪い。ホモは虫酸がはしる。ナオスも依然ほど必死でおちんちんを隠さないので面白くない。
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Unknown (ああああ)
2015-08-31 21:03:32
>X
そういうなよ、俺みたいに男×ショタが好きな人間もいるんだし

特に、みなみ川教の爺さんにナオスきゅんが攻められるのなんて何回み見返しちゃうくらいに好きです
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Unknown (M.B.O)
2015-08-31 21:51:38
最新話待ち遠しかったです。
Y美の悪の所業がここぞとばかりに語られましたね!
H山さんにFさんとその後の荒れた人生観が悲惨でした。
そして、メライちゃんがついにY美側に付いてしまったのですね…残念です。

みなみ川教は個人的に関わりたくない人達ですね!
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Re:Unknown (naosu)
2015-09-03 05:45:30
Gio様
お久しぶりでございます。
お陰様で細々と続けております。
ありがとうございます。
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Re:Unknown (naosu)
2015-09-03 06:00:56
x様
コメントありがとうございます。
確かにcfnmを謳っていますから、男性が出てくることに対する拒否も分かります。この小説も途中までは女性ばかり出てきますし、昔からお付き合いいただいている方には最近の傾向に違和感を感じられるかもしれません。
どうぞお許しいただければと思います。

ああああ様
ありがとうございます。
嬉しいです。
これからもいろいろと展開しますので、ひとつよろしくお頼み申します。
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Re:Unknown (naosu)
2015-09-03 06:06:28
M.B.O様
いつもありがとうございます。
これからも思い出したくないことがいろいろと起きますので(笑)、お楽しみいただければ幸いです。
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お疲れ様です。 (俺、見られたい)
2015-09-03 17:23:51
俺も男は邪魔者に賛成です。度々ナオス君は男にいじめられますがCFNMとは女性は脱がず男は全裸で女性から好きに弄ばれるが正しいのでは?
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Unknown (X)
2015-09-03 18:40:35
その通り。よく分かっていらっしゃる。
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Unknown (Unknown)
2015-09-03 23:23:12
チンポ見たがる女の関連なのでは?Y美や他の女子達もチンポ見たがるみたいですが、何故かナオス君が、ターゲットにされているのでは?
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