1043 おまつりの日々
今日は近くの神社でおまつり。
ともだちと一緒に行くつもりだったのに、
クラスのばか男子たちに誘われたせいで
一気に変な六人で行くことになってしまった。
「ねーえー、変じゃない? ほんとに変じゃない?」
玄関までの廊下をおかあさんに押されながら
わたしは何度も振り返る。
「変じゃない、変じゃない。かわいい。
それよりほら、男の子たちを
あんまり待たせるのもかわいそうだよ」
玄関の鏡で見るわたし。
着慣れない浴衣なんか着ると、なんだか別人みたいだ。
友達とだけならこんなに気にならないのに、
今日はやけに気になってしまうのは――
たぶん、中にあいつがいるせいだ。
「ほんとに変じゃない?」
「うんうん」
背中を押されながら扉を開ける。
お祭りまではまだまだの、
お昼三時のまぶしい太陽。
手でひさしを作りながら門柱を抜けると、
壁に寄りかかっていた男子たちが
体を起こしてわたしを見た。
「えと……おまたせ」
つい、顔をそらしながら。
どう思うんだろう。似合うって思ってくれるかな。
でも、
「なんだよ、そんなかっこで行くつもりか?」
「え?」
思わず振り向くと、シャツに半ズボンで
釣りざおをもった三人が
驚いた顔でこっちを見ていた。
立ちすくむわたしに、あいつが言う。
「今日、おま釣りに行くって言ったよな?」
え? うそ……! おまつりだから、
お祭りに行くんだと思ってたのに。
「わ、わかってるわよ。急いでたから
普段着で出ちゃったんじゃない。
ちょっと待っててよね」
なんでもないふりをしてゆっくり玄関に入ると、
あわてて廊下に駆け上がった。
ばかだ……ばかだ! 何勘違いしてたんだろ。
釣りに行くのをお祭りに行くんだと思っておめかしして。
絶対笑われた。何でわからなかったんだろ。
何で訊かなかったんだろ。ばかばかばか! わたしのばか!
「どうしたの?」
おかあさんの声に、涙がぼろぼろこぼれてしまう。
「ごめんね、せっかく着せてもらったのに
お祭りじゃなかったんだって。普通の服にするね」
「え? なんなの?」
「いいから。脱ぐのはできるから」
おかあさんの前でふすまを閉めて、
一人泣きながら浴衣を脱ぐ。
帯をほどき、腕を抜き。
横にたたんであった普段着に替えて、深呼吸。
――泣いちゃだめだ、泣いちゃだめ。
鼻をすすり、目をぬぐい。
男子たちが気付かないように祈って外に出た。
「ごめんね、遅くなっちゃった」
赤い目を気付かれないように、
足元を見て声をかけると……
「なんだよ、そんなかっこで行くつもりか?」
「え?」
思わず顔を上げると、さっくりと浴衣を着た三人が
驚きの中に隠しきれない笑みをこらえてこっちを見ていた。
立ちすくむわたしに、あいつが言う。
「今日、お祭りに行くって言ったよな?」
ああ、そう……。ひっかけられたわけ。
釣られたわけね、わたしは。
深いところでなにかが音を立てて
壊れていくのがわかった。
「ははは、ほーらな。
こいつなら絶対受けると思ったんだ」
噴き出しながら得意げに言うあいつ。
離れるように走り出す男子二人。
歩み寄るわたしの顔には、
きっと笑顔が浮かんでいるんだろう。
「着替えて来いよ。
わざわざこんな早い時間にしたんだから、
ゆっくりでいいぞ」
なるほど。このばかな時間も
はじめから全部計算尽くだったわけだ。
「そんなのに――」
ぶるぶると震え出す腕。
あいつは笑いながらわたしを見る。
「気をつけろー! そいつ 目、笑ってねえぞ」
遠くから男子の声。
驚いたようにわたしを見るけど、もう遅い。
「そんなのに気を使うくらいなら
もっとましなことに気を使えぇ!」
腕をしならして平手。
地面に倒れこむあいつの前に立ち、
しびれる右手を握りこんでわたしは言った。
「さあ、お祭りの前に血祭りでも始めようか」