フツーにわかる、「胸の形」の治し方

胸郭の形成・美容手術について、だれでもわかるように、ストーリーで解説します。読み物として楽しんでください。

脂肪注入で漏斗胸は治せるか?

2024-06-18 16:42:44 | 治療の解説

 美容外科のひとつに、「脂肪吸引」や「脂肪移植」と呼ばれる分野があります。読んで字のごとく、体の一部から脂肪を吸い取るのが「脂肪吸引」で、それを移植するのが「脂肪移植」です。脂肪吸引と脂肪移植に特化したクリニック(というかチェーン店)も存在します。こうしたクリニックで「漏斗胸を治せます」と宣伝しているところがあります。

 しかしこれは誇大広告であると筆者は思います。大多数の場合、脂肪注入だけでは漏斗胸は改善しません。脂肪注入では胸郭の形をまったく変えないからです。漏斗胸患者さんは、胸の形について悩み、それを改善したくて病院においでになります。しかし胸の以外に、何らかの心肺機能も伴っている場合がほとんどです。これは胸壁によって心臓と肺が押されているためです。

 脂肪注入を行う場合、まず腹部もしくは大腿部から脂肪を採取します。大きな注射器を用いて液状の脂肪を採取し、それを乳房や大胸筋の中に注射します。こうした組織は胸郭の外にあります。それゆえ脂肪を注入しても、胸壁の形が改善することは絶対にありません。なぜなら、胸壁による圧迫は残ったままだからです。

 それゆえ脂肪注入を行っても、心肺機能には全くプラスの影響がありません。

若い漏斗胸患者さんの場合、胸痛や息切れなど、明らかな自覚症状がない場合もあります。しかしよく聞いてみると、「体育の際に息切れがしやすい」とか「冷え性」であるといった、微細な症状はあるものです。胸郭の陥没を修正することにより、こうした症状は軽減しえます。しかし脂肪注入を行っても、こうした症状は決してなくなりません。

 美容クリニックへ行くと、患者さんは脂肪注入の手術をお受けになることを強く勧められます。これは多くの美容クリニックでは医師の給与が歩合制になっていて、手術費用の40~60%が医師に支払われるからです(脂肪注入の料金は1回につき100万円~300万円ほどかかります)。このように巨大なインセンティブがあるので、個人クリニックの美容外科医たちは患者に脂肪移植を勧めるのです。

 ただし、脂肪注入が漏斗胸の治療にまったく役にたたないというわけではありません。一部の患者では、胸壁の変形が軽度で、心肺機能がほとんど正常です。こうした患者さんの場合には胸壁の陥没を脂肪注入で治すことも、選択のひとつです。

 また、胸郭の変形を治しても、胸壁の形に微細な凹凸が残る場合があります。胸壁の輪郭をブラッシュアップするためのminor techniqueとしては、脂肪吸入は有用な手段です。

上記に述べるように、筆者は脂肪注入を完全に批判はしません。ある一定の状況では、有用な治療手段と思っています。



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