・ むうぶな気持ち ・




限られた人生 素敵に生きよう!

”金魚鉢” オリジナルソング公開

2005年09月19日 | Weblog
埼玉の歌う鉄骨屋さん 岩nori玉さんに 作曲していただいた
”金魚鉢” 満を持して堂々公開 (笑)
きのう 無事 みらいさんの局で お祝い披露を終えました
お話を題材にして 詩にしたもの
よかったら 聞いてください  素敵な一枚のコーナーですよ~!
歌詞と読んで無い人のためにお話も一緒に載せますね




    『金魚鉢』

「待ってよぅ まもる」
浴衣姿のみどりは 可愛く囁く
二人手を繋ぎ歩く 夏祭りの夜
掬った金魚を入れた 金魚鉢
みどりとまもるの愛を 見守ってくれた


「この人と ずっと一緒に居させて」
初詣の願い届かず まもるは帰らぬ人に
涙は枯れたはずなのに 気づけば今日も
鏡の中で滲む金魚鉢
その向こうに まもるの姿見せてくれた


「おいで みどり」
小枝のように やせ細ったみどりに
差し出される まもるの手
神様が二人の願い聞き入れたのを
金魚鉢は 静かに見守った
鏡の奥の世界で二人 いつまでも一緒・・・


**********************************************************************

    「よいしょっと・・・」
このところの春の日差しで 出窓に置いてあった
金魚鉢は その水がぬるむほどだった。
それに気が付いたみどりは 慌てて水を替え
部屋の中を見渡し 金魚鉢の引越し先を
お気に入りの鏡台の上に決めたのだった。
「ごめんね まー君。 気が付くのが遅れて。
でも もう大丈夫だからね」
鏡には まるで もう一つの世界が そこにあるかのように 漂う水草と 
一匹の金魚が 青いガラスでできた金魚鉢と共に映し出されていた。
みどりは 涼しげなその光景を見ながら 思い出の中へと入り込んだ。


  *  *  *  *  *  *  *  * 


 「待ってよぅ まもる。」
みどりは ゆかたを着て 履き慣れない下駄の足元を気にしながら 
どんどん人混みに消えていきそうになる まもるの後姿を追っていた。
 「ごめん。 俺 夜店を見ると 子どもの頃に 帰っちゃうんだろうな。
つい足早になってたよ ははは。」
そう笑いながら まもるは 手を差し出した。
大きな手の平に みどりの手は すっぽり包まれ 優しく引かれて行った。
人いきれと 鼓動の高鳴りとで みどりは 頬が火照るのが
自分でも判った。
 
 まもるとの最初の出会いは まだ 雪がちらつくようなの昨年の2月の終わり。
レンタルビデオ屋で 一つしか残ってなかったビデオに 
二人同時に手を伸ばした時だった。タイトルは「アルマゲドン」。
そのビデオをお互い 譲り合い 結局は 横から 
どこかのオヤジに持ってかれた。
二人は 顔を見合わせて 笑いあった。
みどりは 彼の笑顔が忘れられず たびたび レンタルビデオ屋に 
通うようになった。
見かけるたびに 一言 二言 挨拶をし
デートに誘われるようになるまで ひと月とかからなかった。
なんだか まもると居ると こころが落ち着く。
自分が 素直になれるのが判る。 まもるも そうだと言ってくれた。
そんなまもると 付き合いだして 初めての夏だった。

二人で 夏祭りの夜店を 一つ一つ回りながら
まもるは 金魚掬いの前まで来ると
「俺 うまいんだぜ。 みどりもやる?」
「ううん。 わたしは 下手だから。」
「そっか。 じゃ 見てろ。」
そう言うと まもるは 繋いでいた手を離し
お金を払い ポイを 受け取った。

難なく1匹目を掬い上げたまもるに みどりが 注文をつけた。
「ねえ あのちょっと尻尾の長いやつ あれがいいよ。」
その金魚は 他のどれよりも すばしこく まもるを 手こずらせたが
それでも まもるは なんとかそれを掬いあげ ボールに移した瞬間
紙は破れてしまった。
「参ったなぁ。 いつもなら 軽く10匹は掬えるのに・・・。」
「いいよ。 ちゃんとこの立派なの掬ってくれたし
それに そんなに 飼えないよ。」
そう言うと みどりは袋に入れて貰った二匹の金魚を
嬉しそうに眺めた。
青いガラスの金魚鉢と 水草を 別の夜店で買い求めると
二人は みどりの部屋へと向かった。

「散らかってるけど どうぞ。」
鍵を開け 電気を付けながら みどりが先に部屋に入る。
まもるが部屋を訪れるのは 今日が初めてだった。
散らかってるなんて 嘘だ。
みどりは 今日の日のために 入念に部屋を掃除してた。
「へぇ 綺麗にしてるんだな。 やっぱり女の人の部屋って
どことなく かわいいもんだ。 俺のとは 大違いだよ。」
「そう?」
みどりは 買ってきた金魚鉢に水を入れ
二匹の金魚を放してやり 水草も入れた。
金魚は 勢い良く 泳ぎ回ったかと思うと
すぐに 新しい住家に 慣れたように 落ち着いた。
「こっちの 尻尾の大きい立派なのが まー君。」
「じゃ ちっちゃい方は みーちゃんか?」
「あはは。」
二人は テーブルの上に置いた 金魚鉢に 
注いでいた 視線をずらし お互いを見詰めた。
しばらくの沈黙の後 まもるが 不意にみどりを引き寄せ
耳元で 囁いた。
「みどり お前が 欲しい。。。」
みどりは ゆったり泳ぐ二匹の金魚を見詰めながら
黙って小さく頷くと 震える身体をまもるに 預けた。
まもるは まるで宝物に触れるように
みどりを慈しみ 溢れる愛を注いだ。

 しかし まもるとの幸せな日々は 長くは続かなかった。
お互いが結婚を意識し始めた 今年のお正月
初詣に出かけた二人は それぞれ
「この人と ずっと一緒に居られますように・・・」
と 神様に願ったのだが その願いは聞き届けられなかった。
それは初詣の数日後 みどりの24歳の誕生日だった。
前日から降っていた雪も ほとんど消え 道路は通常の機能を
果たすかのようであった。
まもるは みどりのために用意した
婚約指輪を 背広のポケットに忍ばせ
退社後 約束しているみどりの部屋へと 向かっていた。
どんな言葉で みどりにプロポースしようかと
あれこれ 考えながら 地下鉄の駅へと 急いでいた。
ちょうど ビルとビルとの 間の 狭い路地に
差し掛かったところで スピードを上げた車が まもるの方へと
曲がろうとした瞬間 そこだけ 日陰になっていたのだろう
消え残っていた雪で スリップし あっという間に
歩道に乗り上げ まもるを その車体の下に轢いていたのだった・・・
 
 夕方から待ちつづけたみどりのところに まもるが亡くなったと
連絡が入ったのは明け方に近かい時間だった。
その知らせを受けた後 金魚のみーちゃんが お腹を横にして
元気が無くなり しばらくすると 動かなくなっていた。
寂しがり屋のまもるが 連れていったんだと 思ったみどりは
溢れる涙を拭おうともせず ただ泣き続けた。
まもるからの 婚約指輪は 蓋を開けられることも無く
みどりの鏡台の引出しに 仕舞われることになった。


  *  *  *  *  *  *  *  * 


 すっかり日が暮れ 薄暗い部屋の中で 
ぼんやり浮かび上がっている金魚鉢に まー君が滲んで見える。
みどりは 自分が 涙ぐんでるのに 驚いた。
「涙は もう 枯れたかと思っていたのに。
ねぇ まー君 あれから 君と私だけ
残されちゃったんだよね。」
その時みどりは まー君の様子がいつもと違うのに気がついた。
まるで 鏡の向こうの 金魚鉢に 突進するように 何度も何度も
勢いをつけながら 弧を描いているのだ。
「どうしたの? まー君 やめなさい。 そんなことしてたら
参っちゃうよ。」
金魚鉢を覗いてた みどりは 次の瞬間 「あっ!」と叫んでいた。
金魚鉢の中には 水草が漂っているばかりで まー君の姿が消えていた。
みどりは 自分の目を疑った。涙で 滲んでいた目を
こすってみた。
そして その目で 次に見たものは・・・
鏡の中の 金魚鉢に 仲良く嬉しそうに泳ぎ回る 
二匹の金魚の姿だった。
それと・・・懐かしい まもるの姿もあった。
まもるは あの 夏祭りの夜のように
迷子になりかけたみどりに向かって 手を差し出している。
みどりは 触れてみたいと思い 手を伸ばした。
あの時と同じだ。まもるの大きな手の平に 
みどりの手は すっぽり包まれ 優しく引かれて行った。
ただ あの頃と違っていたのは まもるを失ってから 
みどりの腕がまるで 小枝のように やせ細っていることだけだった。
久しぶりに再会した恋人同士は 擁き合い 
さらに奥の世界へと仲睦まじく旅立っていった。
神様は この時二人の願いを聞き届けたのかもしれない。
  
 みどりの鏡台には 住人の居なくなった金魚鉢と 
空になった婚約指輪のケースが取り残されていた・・・



           「金魚鉢」  完  (2002/07/28)