2008年度文化映画優秀賞に輝いた「オオカミの護符」を見た。
江戸時代、オオカミは森の王者であり、農家が作る農産物をイノシシと鹿の食害から護る守護神であった。講組織の代表〈代表をくじで決する〉が
反響呼ぶドキュメンタリー映画 謎の“オオカミ信仰”追う
2008年10月2日 朝刊
オオカミが描かれた「お札」を台所や土蔵に張る-。そんな一風変わった関東地方の山岳信仰を題材とするドキュメンタリー映画「オオカミの護符」が四日から、ポレポレ東中野(東京都中野区)で公開される。二百五十年以上も続く“謎の風習”に焦点を当てた本作は、川崎や横浜での上映で反響が大きく、今回の都内での評判次第で全国展開の可能性も出ている。 (石原真樹)
本作は「失われつつある習俗を、新鮮な驚きとともに温かみをもって描きだした」として、文化庁映画賞の文化記録映画部門で優秀賞を受賞した。
物語の舞台は、東急田園都市線沿線の住宅地、川崎市宮前区土橋。お札は家庭の台所や土蔵、門などに張られている。
お札は「武蔵国 大口真神 御嶽山」と書かれ、ギザギザのキバを持つオオカミが横を向いて鎮座する。地元では、このオオカミは「お狗(いぬ)さま」と呼ばれてきた。
昭和四十年代初めまで水田やタケノコ畑、雑木林だった地域の人々がオオカミにどのような信仰を持っているのか。作品はそのルーツを丁寧にたどる。
◇
作品の土台となったのは、土橋のタケノコ農家で生まれ育った小倉美恵子さん(45)が「自分の生き方の土台がここにあるのでは」と、五年がかりで祭事などを撮影したホームビデオ。
映像ディレクターの由井英さん(39)が、このビデオに着目。自ら監督を務め、お札にかかわる人々を小倉さんが訪ね歩く構成で、撮影・編集した。
制作は、由井さんと小倉さんが設立した「ささらプロダクション」。
由井さんは制作の動機について「せっかくの記録をこのままにするのはもったいない。地元を探る目線を大切にしたかった」と語る。
お札は、地域の相互扶助の仕組み「講」の一つである「土橋御嶽講(みたけこう)」の代表が毎春、青梅市の武蔵御嶽神社に受け取りに行く。文献などによると、少なくとも二百六十五年前から続いている風習という。
同神社でオオカミ信仰が土橋だけでなく関東一円に広がっていることを知り、カメラは、その中でも信仰のあつい埼玉県の秩父地方へ入ってゆく。
そこでは、オオカミに穀物をささげる神事「御焚上祭(おたきあげさい)」が毎月行われ、かつてはオオカミの産声が聞こえるとお産場所に赤飯を供えるなど、イノシシやシカから農作物を守る存在として農家らがオオカミをあがめてきたことが紹介される。
ほかにもシカの肩甲骨を焼いて、ひびの入り方で農作物の作柄を占う「太占(ふとまに)」など、先人の自然を敬う心や智恵が出てくる。
◇
印象的なのは、秩父の農家のおじいさんが「おやまさま!」と両手を合わせて拝むシーン。小倉さんは「あの真実味は、ずしんときた。伝統は『やれよ』と伝えるのでなく、その人の中に生きているもの」と振り返る。
由井さんは「かつての人たちがどう生きてきたかを知るのは、私たちがこれから生きる上で、よりどころになるはず」と話す。今春から地元の川崎市宮前市民館や横浜の映画館で上映されてきたが、不思議な味わいも手伝って静かな反響を広げている。
哲学者の内山節さんは「近年、社会に『原点に戻ろう』という機運があるが、みんなどこに戻ればいいのかわからない。少し前までの自分たちがどんな精神世界を持ちどんな生活をしていたのかを知らないからだ。この映画はそれを知る手掛かりになる」と意義を話す。
hpより
~「オオカミの護符」に導かれ、“お山”の世界へ~
上映地である川崎市宮前区土橋で265年もの長きにわたって続く神事「御獄講」を通じてもたらされている「オオカミの護符」に導かれ、旅をする。土橋から出発し、御嶽山の伝統を今に伝える御師の暮らしを訪ね、さらにオオカミ信仰の盛んな秩父各地へと向かう。旅で出会うのはオオカミと深くかかわりを持って暮らしてきた山の人々。「オオカミの護符」は、同じ関東の“お山”を眺め、敬う気持ちで結ばれた里と山の暮らしの交流の姿を物語るものだった。
監 督 由井 英
製作配給 (株)ささらプロダクション
江戸時代、オオカミは森の王者であり、農家が作る農産物をイノシシと鹿の食害から護る守護神であった。講組織の代表〈代表をくじで決する〉が
反響呼ぶドキュメンタリー映画 謎の“オオカミ信仰”追う
2008年10月2日 朝刊
オオカミが描かれた「お札」を台所や土蔵に張る-。そんな一風変わった関東地方の山岳信仰を題材とするドキュメンタリー映画「オオカミの護符」が四日から、ポレポレ東中野(東京都中野区)で公開される。二百五十年以上も続く“謎の風習”に焦点を当てた本作は、川崎や横浜での上映で反響が大きく、今回の都内での評判次第で全国展開の可能性も出ている。 (石原真樹)
本作は「失われつつある習俗を、新鮮な驚きとともに温かみをもって描きだした」として、文化庁映画賞の文化記録映画部門で優秀賞を受賞した。
物語の舞台は、東急田園都市線沿線の住宅地、川崎市宮前区土橋。お札は家庭の台所や土蔵、門などに張られている。
お札は「武蔵国 大口真神 御嶽山」と書かれ、ギザギザのキバを持つオオカミが横を向いて鎮座する。地元では、このオオカミは「お狗(いぬ)さま」と呼ばれてきた。
昭和四十年代初めまで水田やタケノコ畑、雑木林だった地域の人々がオオカミにどのような信仰を持っているのか。作品はそのルーツを丁寧にたどる。
◇
作品の土台となったのは、土橋のタケノコ農家で生まれ育った小倉美恵子さん(45)が「自分の生き方の土台がここにあるのでは」と、五年がかりで祭事などを撮影したホームビデオ。
映像ディレクターの由井英さん(39)が、このビデオに着目。自ら監督を務め、お札にかかわる人々を小倉さんが訪ね歩く構成で、撮影・編集した。
制作は、由井さんと小倉さんが設立した「ささらプロダクション」。
由井さんは制作の動機について「せっかくの記録をこのままにするのはもったいない。地元を探る目線を大切にしたかった」と語る。
お札は、地域の相互扶助の仕組み「講」の一つである「土橋御嶽講(みたけこう)」の代表が毎春、青梅市の武蔵御嶽神社に受け取りに行く。文献などによると、少なくとも二百六十五年前から続いている風習という。
同神社でオオカミ信仰が土橋だけでなく関東一円に広がっていることを知り、カメラは、その中でも信仰のあつい埼玉県の秩父地方へ入ってゆく。
そこでは、オオカミに穀物をささげる神事「御焚上祭(おたきあげさい)」が毎月行われ、かつてはオオカミの産声が聞こえるとお産場所に赤飯を供えるなど、イノシシやシカから農作物を守る存在として農家らがオオカミをあがめてきたことが紹介される。
ほかにもシカの肩甲骨を焼いて、ひびの入り方で農作物の作柄を占う「太占(ふとまに)」など、先人の自然を敬う心や智恵が出てくる。
◇
印象的なのは、秩父の農家のおじいさんが「おやまさま!」と両手を合わせて拝むシーン。小倉さんは「あの真実味は、ずしんときた。伝統は『やれよ』と伝えるのでなく、その人の中に生きているもの」と振り返る。
由井さんは「かつての人たちがどう生きてきたかを知るのは、私たちがこれから生きる上で、よりどころになるはず」と話す。今春から地元の川崎市宮前市民館や横浜の映画館で上映されてきたが、不思議な味わいも手伝って静かな反響を広げている。
哲学者の内山節さんは「近年、社会に『原点に戻ろう』という機運があるが、みんなどこに戻ればいいのかわからない。少し前までの自分たちがどんな精神世界を持ちどんな生活をしていたのかを知らないからだ。この映画はそれを知る手掛かりになる」と意義を話す。
hpより
~「オオカミの護符」に導かれ、“お山”の世界へ~
上映地である川崎市宮前区土橋で265年もの長きにわたって続く神事「御獄講」を通じてもたらされている「オオカミの護符」に導かれ、旅をする。土橋から出発し、御嶽山の伝統を今に伝える御師の暮らしを訪ね、さらにオオカミ信仰の盛んな秩父各地へと向かう。旅で出会うのはオオカミと深くかかわりを持って暮らしてきた山の人々。「オオカミの護符」は、同じ関東の“お山”を眺め、敬う気持ちで結ばれた里と山の暮らしの交流の姿を物語るものだった。
監 督 由井 英
製作配給 (株)ささらプロダクション