東京・椋鳥通信

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日本の山林を外資が買収

2010-04-05 |  コラム
2010年4月号『選択』で安田先生が巻頭言にて日本の山林が外資に買収されており国難が迫ってきている。なんらかな大きな山林を守るという市民運動が起きないと、この国難を回避することができないと警告している。子どもの頃、親が故郷の吉野山に戦後の混乱期に旧財閥が旧円の札束を持って、山を買収しに来たという話を思い出した。選択記事の抜粋するとつぎのような編集者との問答である。
安田: 各地で買収の動きは次々に報告がある。特に水事情が厳しい近隣の中国の動きが活発であり、紀伊半島など日本列島の各地を調査した中国人視察団の動きもある。三重県や長野県での買収話は以前紹介された。首都圏近郊でも、埼玉県の山林地域に一山全部の買収話が海外からきたり、山梨県でも立木ではなく山そのものを目的とした買収案件があったと聞く。このほか北海道の道東地区や青森県の三八上北地区、九州の阿蘇など外資による山林売買の噂は後を絶たない。まさに市場原理主義の中で、グローバル資本が投機の対象として日本の水源林を買い占めに来ている状況だ。

 ---かけがえのない国土が侵食されていることへの危機感が全くない。

 安田: 果たして自分の国土を大事だという意識がどこまであるのか疑問だ。日本の森林売買の危機を語るとき、日本国内でも「ニューヨークの摩天楼を買っているのと同じではないか、何が悪いんだ」という意見まで出ている。水源林を売るということは日本に暮らす者の生命の基本を売っているのと同じということを全く理解していない。私は今の時代は、明治維新、第二次大戦敗戦に続く、日本の漂流「第三の危機」だと指摘している。市場原理主義の中で浮き彫りになった第三の危機は、生命の根源たる森林が侵食されている点において、過去の危機よりも深刻だ。森は神話時代からずっと日本人が守ってきたもので、それなくして森の環境国家たる日本の存続はない。外資による森林売買も、文明史の中で位置付けて初めてその深刻さが理解できる。日本の有識者でさえ森林買収の事実を知らない。それが今の日本の漂流の姿だ。

 ---これに対し、国や行政は何をしていたのでしょうか。

 安田: 戦後間もなくは森林資源が非常に高値で売れ、金が儲かったことから、国は林野庁を独立採算にしてしまった。森林を何平米いくら、というように経済価値のみで捉えるようになってから、林野行政がおかしくなった。行政の罪深さは、戦後一貫してコメも農地も守ってきたのに、林野は全く守らなかったことだ。本当に農地を守るなら、水源である林野こそ守らなければならない。

 ---水源林保護のために喫緊の課題は何ですか。

 安田 林野をしっかり守る「林野法」のような法制度をまず整備して水源林は外国人には売れないと堂々と宣言し、むやみに外国人が林野を買えない法律を作る以外にない。また水源林を守るということが日本の国家百年の大計だという認識から、水源林の公有化などへ国民の税金を使うべきだ。

 ---そのためには広く国民への啓蒙活動が必要ですね。

 安田: 国民の合意がなければ林野に特別の保護を与えるなど無理だ。また自由に林野を売れない法律ができたならば森林所有者も不満だろう。また逆に林野だけを保護すれば、他の土地所有者の反発もあろう。その意味でも生命や文化、伝統の源である森の重要性を周知させる国民運動が必要だ。今は資源争奪戦争の時代だ。水はタダだと思っている平和ボケの日本人が多いが、日本の水資源も間違いなく各国の標的となりうる。今すぐ行動を起こさなければ、手遅れになってしまう。

安田 喜憲(国際日本文化研究センター教授)
1946年三重県生まれ。72年東北大学大学院理学研究科修士課程修了。
77年広島大学総合科学部助手、88年国際日本文化研究センター助教授を経て、
94年から現職。2007年紫綬褒章受章。専門は環境考古学。





奪われる日本の森―外資が水資源を狙っている―

2010-04-05 |  コラム
安田喜憲先生が『奪われる日本の森―外資が水資源を狙っている―』(平野秀樹/著 安田喜憲/著 )を出版。本の帯は

『このままでは、日本の国土全体が中国人や欧米人のものになってしまう!?

価格が暴落した山林の売買取引が活発化している背後には、今後の世界的な水資源争奪戦を見越しての水源林獲得という狙いが見え隠れする。ルール整備のなされていない今のままでは国土は簡単にグローバル資本によって買い占められる。生命の源の危機が日本人の喉元にまで及んでいるこの現実に、私たちはどう対処すべきなのか。』
目次をみれば、近未来日本の山林の惨状の予言書といえる。
I 日本を買え……平野秀樹
序章 外資に買収されていく日本
離島・港湾/空港・発電所/牧場・リゾート
第一章 狙われる日本の森
森が動きはじめた
バーナムの森/新旧交替する山林王/山林ブローカー/急増する大規模森林取引/外資が森を買収していないか――国会議員の問いかけ/買い方は誰だ
どこの森が狙われているか
山ころがし――ルポ・北海道から九州へ/木材流通プロの目線
なぜ森を買う?
森はいま底値/伐採放棄の荒技――全山植林放棄の惨状
山林相場は宝の山か
「水」狙い?――おいしい水を世界へ/CO2削減とバイオパイラシー/銀座のビルより森――夢を買う
[column]世界の天然資源が囲い込まれる
第二章 日本の水が危ない
ウォーター・ウォーズ
グローバル化する水道事業/黒船来襲――水メジャーのスマートエリート/外資化のその先
地下水が危ない
安曇野の名水が涸れるとき/大口ユーザーの秘策――フリーライダーを許すな
地下水はだれのものか
「共有地の悲劇」とならないために
[column]豪州の小さなまちから――ミネラル・ウォーター販売禁止
第三章 森が買われることの何が問題なのか
日本の私的土地所有権は特別
世界一の私権――土地収用ができない国/地租改正という負の遺産/政府公権にも対抗できる私権
土地制度で自滅する日本
林地の権利移転はフリー/フランスとの比較/英米との比較
喉元まで及んでいる危機
[column]驚愕したドイツ人――日本は担保価値のない国土が過半!
第四章 日本には国家資産を衛るためのルールがない
森と投資ファンド
外資だから問題なのか
外資の定義/ボーダーレスになるものとならないもの
米国はどのようにブロックしているか
エクソン・フロリオ条項/バード修正条項/外国投資国家安全保障法
狙われたときの定石――EUのケース
外国人土地法
外国人土地法とは/外国人は土地をもてない――それはアジアの常識/日本の無頓着
[column]要塞地帯法
第五章 日本の森と水を衛るのはだれだ
国家の重要資産は銀行と大企業だけか――国家の基本インフラとは何か
インフラファンド
なぜ今、重要なインフラを衛るのか
売り圧力がとまらない/山でも水は抜ける/一国の国益/外資が射程に収めたもの
森を衛る政策
地籍の確定――第二の入会林をつくらない/林地市場の公開化――オープンな林地売買へ/売買規制と公有林化/林業再生・辺境再生――林地を手放さなくて済む生産・生活環境を創る
水を衛る政策
地下水保全域のゾーニング/私水から公水へ
国土喪失
[column]森林と地下水
第六章 外資が国土を占有する日
辺境資源をどう評価するか
しのびよる外資が国土を占領する
II ニッポンの漂流を回避する……安田喜憲
【一】縄文が一万年以上持続した理由
地政学の欠如/美しい日本列島こそが日本民族の起源/北海道の縄文遺跡/縄文が一万年以上持続した理由/森を破壊する文明/北海道の森
【二】稲作漁撈文明の持続性に学ぶ
畑作牧畜民の侵略から日本を守る/森里海の水の循環を守った稲作漁撈民/島国の思想
【三】欧米文明による日本人の心の破壊
山の霊力に満ち溢れる徳一/なぜ日本人は山を崇拝するのか/近代化の中で失われた日本人の心
【四】グローバル市場原理主義による破壊が始まった
欲望の文明の限界/中国の森林荒廃/日本の領土の危機/市場原理主義が日本民族を消滅させる/市場原理主義は日本の山河も荒廃させる/森の環境国家ニッポンの構築
あとがき……平野秀樹


北関東の地方都市はどんな都市デザインを選択するのか

2008-04-15 |  コラム

桜散る北関東の伊勢崎、桐生、足利、小山市をJRで途中下車しながら1日かけて訪ね歩いた。道路整備が進んで郊外化していくと、郊外の道路沿いやインターチェンジ周辺には大規模SC、量販店が集積していく。一方、駅前商店街や旧中心市街地の商店街はシャッター通りとなり、駅前の空きビルには、風俗、サラ金業者がテナントとして入居し、サラ金、風俗、携帯電話看板がいやに目立つ。昭和50年代に駅前に出店した中規模スーパー1階のファーストフードには、不良ぽい高校生がたむろし、お客はその店を敬遠していく。商店街からお客が流出していくと、チェーンの専門店、スーパーが閉店していく。かろうじて残るのは、家族経営の飲食店、和菓子店、惣菜店、呉服店である。特に地域の老舗和菓子店、老舗呉服店はお客は入っていないのだが、冠婚葬祭需要で生業を守っているように思われる。洋泉社MOOK『地方を殺すな!』(2007)で、関越道、新4号国道、北関東道、国道50号に囲まれた「両毛デルタ地帯」といわれる郊外化した地域に、大規模SCや量販店が乱立、かたや商店街はシャッター通りと化し、駅前が風俗街となっている現状を紹介している。
岐阜でも、夜になれば柳ケ瀬ブルースで有名な繁華街「柳ケ瀬商店街」は閑古鳥が鳴いているが、郊外の環状道路沿いの駐車場がタダの24時間ファミリーレストランは、深夜1時でも満席状態である。
どの地方都市でも、高速道路と基幹道路の整備により、大都市から1~2時間圏内となり、かつてあった地方都市中心市街地の支店、営業所は閉鎖され、公共公益施設は建替時に安価な地価の郊外へと移転し、公共公益施設と関係ある企業までもが郊外へ移転していくと、中心市街地の交流人口は一気に減少し、得意先をなくした商店街は壊滅状態となる。企業のコスト削減で、接待消費の激減、東京一極集中の資材仕入、東京を本社とする大型SCでの消費、財政悪化に伴う公共投資抑制等、従来の消費経済の形態が大きく変貌した。つまり、地域でお金が還流しない経済システムとなってしまったのである。
「ファスト風土化する日本」(三浦展著。洋泉社)では、国道、県道沿いにはロードサイドショップが乱立、かつて農地だったようなところには大型SCが林立。家電量販店あり、ファミレスあり、カラオケボックス、新興のパチンコ店ありで、著者いわく、この状況が今日のいたる所で均質・画一的な風景が展開される(著者はこの状況をファスト風土化と称す。)。そしてその時期を同じくして、旧市街地商店街がそのあおりを受け、シャーター通り化している状況が詳しく述べられている。
『脱ファスト風土宣言 商店街を救え!』(三浦展:洋泉社)では、今後のあるべき都市デザインを示唆しているので、HPより転載した。
自然・農村・都市・旧郊外の破壊、地域文化の喪失、環境・エネルギーへの負荷、流動化と匿名化による犯罪の増加、大量浪費空間の出現による現実感覚の変容、大量消費による意欲の低下、生活空間の閉鎖化による子どもの発達の阻害、アイデンティティ危機から生まれるナショナリズム?ファスト風土化がもたらすこれらの問題から地域を守るためにはどうすればよいのか?
中心市街地の衰退を阻止する方法から、人が集まる街づくりや建物・場所の潜在力を引き出す街づくりの試み、子どもが遊び育つ街や真の田園都市の姿、そして風土と建築の関係までを、社会学・都市計画論・建築学などの論客一〇人が明らかにする。
<目次>
序章 「街育」のすすめ?ファスト風土以外の環境に住むことは、われわれの
 基本的な権利だ;
第1章 日本の商店街は世界のお手本?中心市街地の守り方;
第2章 真の田園都市を目指して?神戸・舞多聞みついけプロジェクト;
第3章 「人が集まる街」をいかにつくるか?プレイスメイキングという思想;
第4章 子どもがよく育つ街?街が子どもに与える影響から;
第5章 都市の中で自然と住む?「便利な生活」から「便利で豊かな生活」へ;
第6章 東京都心、空きビル再生の計画と実践
 ?マイ・ロスト・シティと都市再生のストーリー;
第7章 地方都市の潜在力を引き出す?蔵プロジェクト;
第8章 風土がつくる建築?場所の固有性を復活させる;
第9章 ファスト風土の外にこそ多様な世界がある?対談
 オギュスタン・ベルク×三浦展

郷土を愛する人財の育成が急務である。郷土で人間的に文化的に安全・安心して生活できる社会システムの構築は急がれる。受験ではない本当の教育(真の民主主義に基づく自由平等社会の実現を希求する人間教育)が必要である。関東を飢饉等による経済疲弊から救った二宮尊徳翁の精神を見直す時だと、今回の小旅行でふと思った。

参考文献(HP転載)
『ファスト風土化する日本-郊外化とその病理-』(三浦展:洋泉社)
「のどかな地方は幻想でしかない!地方はいまや固有の地域性が消滅し、大型ショッピングセンター、コンビニ、ファミレス、カラオケボックス、パチンコ店などが建ち並ぶ、全国一律の「ファスト風土」的大衆消費社会となった。このファスト風土化が、昔からのコミュニティや街並みを崩壊させ、人々の生活、家族のあり方、人間関係のあり方もことごとく変質させ、ひいては人々の心をも変容させたのではないか。昨今、地方で頻発する不可解な犯罪の現場をフィールドワークしつつ、情報社会化・階級社会化の波にさらされる地方の実情を社会調査をもとに探り、ファスト風土化がもたらす現代日本の病理を解き明かす。」
<目次>
第1章 のどかな地方は幻想である;
第2章 道路整備が犯罪を助長する;
第3章 ジャスコ文明と流動化する地域社会;
第4章 国を挙げてつくったエセ田園都市;
第5章 消費天国になった地方;
第6章 階層化の波と地方の衰退;
第7章 社会をデザインする地域;


閉店する阪急大井町店にて

2008-03-30 |  コラム

3月31日に閉店する阪急大井町店の「閉店セール」に足を運んだ。大井町店は阪急百貨店東京進出第1号店という。55年の歴史で、3度にわたる増床で、8フロア構成の商業店舗となった。当初は、百貨店であったが、時代の趨勢で百貨店業態ではなく専門店運営に業態変更となった。1階食料品は阪急百貨店直営、2階以上が専門店と催場となっている。駅前立地なので食料品はデパチカの雰囲気ではないが、庶民的な品揃えと対面販売に人気があり、常連客も多いという。建物の老朽化での閉店で、5年後には隣接するホテルと一体となった商業施設併設の複合大型ビルに建替えられるという。2階のブックオフは閉店セールで値札価格の半額ということで、高額の本、DVDを数多く買う顧客でレジ回りは大混雑。久しぶりにブックオフで3千円分の本を買いだめした。また、積読本が増え、恐妻からの罵声が聞こえそうだ。