110センチの視野

車椅子からの視野は地上約110センチ。
110センチの視野から見た世界を、ドリームチャレンジャーの平野もときが綴る

そこに意志がある限り...

2007-12-07 19:52:46 | Weblog
オレの本「110センチの視野」、の帯と前書きを書いて頂いた、オレの尊敬する岡田さんが、この度日本代表の監督に就任する運びとなった。まさに青天の霹靂とはこのことだ。岡田さんと言えば、日本を初のワールドカップ出場に導いた男だ。98年フランスワールドカップ直前に、その当時カリスマ的存在のカズこと三浦和良選手を、メンバーから外したことは、あまりにも有名だ。あの時も急きょ、成績不振の加茂監督の後任として、ワールドカップのアジア最終予選の途中で、当時コーチだった岡田さんが絶体絶命の日本代表の監督となった。そして今回も脳梗塞で倒れたオシム監督の代わりに、急きょ岡田さんに白羽の矢が立った。これが運命のいたずらというものだろうか。

イランとの運命の一戦、1997年11月16日、マレーシアのジョホールバルで、フランスワールドカップ、アジア第3代表決定戦は行われた。まさに負ければ地獄の極限状態の試合だった。この試合の前夜、岡田さんは奥さんに「負けたら日本に住めなくなるから海外に移住しよう」という電話をしたらしい。どれほどの重圧を岡田さんと家族の方々が背負っていたかは、オレら庶民にはとうてい計り知れない。
そんな異常とも言える状況を経験したにも関わらず、今回、代表監督を岡田さんは引き受けたのだ。どんな心境なのか、岡田さんから送られてきたメールに、全てが記されていた。

「人生は分からない物です。Jの監督も断り、落ち着いた生活をしようと、思っていたのですがまだまだ人間修養が足らないので、もう少し苦労しろとの事のようです。
考えれば考えるほど引き受けられなかったのですが、何故か「やらなければならない」と言う気持ちが湧き上がってきました。」

岡田という人物がただ者ではないことを物語っている。頭ではそんな事引き受けられないと分かっているのに、勝負師の血が黙ってはいないのだ。脳が、細胞が、「Yes」と指令を出してしまうのだ。そして何よりも「日本のピンチを救いたい」という強い意志が岡ちゃんを突き動かすのだ。

記)もとき

ある男の品格。

2007-12-01 14:51:24 | Weblog
 想像してみてほしい。
 2007年秋、アメリカのミシガン州で実際にあった話である。
 28歳の男が食料品スーパーで、スリの標的を物色している。そこへ72歳の男性が目に留まった。見るからに年老いて見えるその男性は、スリの標的としてはもってこいだ。
 スリの男は悪どい勘で男性のズボンのポケットに財布を察知する。
 何食わぬ顔で男は近づき、商品を見入る72歳の男性の脇に来て、サッとポケットに手伸ばしたその瞬間、男は手首を男性につかまれ、即座にパンチを数発食らわされた。28歳のスリ男はあっけなく逮捕。72歳男性の見事なパンチに「目が覚めました」と反省しきりだったとか。

 72歳の男性は、元海兵隊員でアマチュアながらボクシングの選手だった。年は重ねても、昔取った杵柄はサビついてはいなかった。圧巻としかいいようがない見事なスリ犯の捕獲。恐らく商品に気を取られているように見えた男性は、セイフティーゾーンを超えて近づこうとする男の存在を察知し、動物的センサーでとらえたのだろう。それ以上に興味深いのは、捕まった男に「目が覚めました」と言わせたことだ。倒した相手への「そんなことせずに、しっかり生きていきなさい」という気持ちが男性から男に伝わったのだろうか。素晴らしい話だ。

 ミシガン州でのこの事件話を知った時、この72歳男性には間違いなく「品格」があることを感じた。これこそ「強い男」。スリ現場の話だが、
「負けた男(スリ犯)に目が覚めましたと言わせた、強い男」
のエピソードだ。
 長い相撲の歴史の中で、横綱は70人あまりしかいないという。たった70人の「強い男」たちは、心も体も強かった人たちだ。「真の横綱」などいらない、なぜなら「嘘の横綱」がいてはならないのだから。朝、青くかがやく龍は、悲しいことに現代が生み出した横綱の幻なのかもしれない・・・。

記)JUN