「ギブミーチョコレート」
と君はニコッと笑う。
コンビニエンスストアのひとコマ
僕は「はっ?」と聞き直す
だって今日はバレンタイン
普通は女の子が男の子にチョコを渡す日だから
(もちろん日本独特のものだけど)
だけど、君はちょっと変わった娘
だったということを忘れてたよ。
「ああ、いいよ。どんなのがいい?」と僕。
「うーん、じゃあこれがいい」と
きれいにラッピングされた
かわいらしいものを君は選んだ。
僕はそれを手にとってレジに持っていく。
店員さんと少し目が合ってしまった。
(どう思っているのだろうか?)
お金を払い、チョコを君に渡して店を出る。
「ありがとう」と君。
僕は「そのチョコどうするの?」と訊ねると
「彼にあげるの」とニコッと笑う。
「はあ?」
(僕にくれるのではないのか?
いや、そもそもこれは僕が買ったものだから
もらうというのはおかしい。
でも、君のことだからありえる
が、話の展開上、僕にではない・・・はあ!?)
自問自答してパニックになっている最中、
君は誰かに電話をしている。
恥ずかしながら聞き耳を立てる。
どうやら相手は男性で、
しかもこれからチョコを渡しに行くと君はいっている。
(はあ!?)
「これから彼にチョコを渡しに行くの、一緒にいこ!」と手を繋ぐ。
「はあ?」と僕はなすがままについて行く事しか出来ない
・・・十数分僕は何も話さず歩いた。
君は知ってか知らずかニコニコしながら
オフィス街の一角の喫茶店に入った。
すぐに君は相手を見つけたのか声をかけ、手を振っている。
僕は複雑な心境の中、後をついてゆく。
そこには、にこやかな紳士が座っていた。
君は親しげに話をしている。
(ん?どこかで見たような・・・もしや、父親・・・!)
全てのパズルが解けたと同時に緊張が走る。
(・・・いきなりですかっ!)
君は僕に手招きして
「まずは彼と私からのバレンタインのチョコです、はいっ」とチョコを手渡す。
そして「お父さんと私からのバレンタインチョコ」と僕に手渡してくれた。
僕は、いや僕達は彼女の罠にまんまとはめられてらしい。
父親も彼女の意図をようやく理解し始め、
困惑している男がふたり、苦笑いしながら
お互いの顔を見合わせて
「はじめまして、娘の父です」
「あっどうも、はじめまして、えっと・・・付き合っています」
「そうみたいですね」
「ええ、そうみたいです」
「変な娘ですいませんね」
「どうぞお構いなく」
なんだか妙な
初めての会話だけどなんだか気が会いそうな気がした。