-ウラヌス・・・ウラヌス・・・-
夢を見ていた。
随分と、懐かしい夢だ。
-・・・コホッコホッ・・・ねぇ、ウラヌス・・・-
星明かりしか点らない真夜中に、小さく小さく聞こえた声。
カリカリとドアを掻く音に子猫かと耳を疑ったが、咳混じりに僕を呼ぶその声は、忘れるはずもない。
僕の小さな、お姫様のものだった。
ドアを開けた先であなたは言った。
-・・・あ、ウラヌス!!良かった、やっと会えた!!-
熱で顔を真っ赤にしながら、それでも満面の笑みで笑ってた。
-コホッ・・・どうしても・・・会いたかったの。
年に・・・コホコホッ・・・たった二回の・・定例会でしょ?-
「プリンセスはお風邪を召されたから」と聞いて、今回は会えないものだと思っていた。
どうやって守衛の網を突破したのか。息を荒げてまで、あなたは僕に手を伸ばす。
まだ熱い、だめだよプリンセス。風邪が悪化してしまうよ。
だけど。
-ウラヌス・・・あのね・・・-
僕はこの小さなてのひらに。
-あのね・・・おかえりなさいっ!-
いつもこんなに、救われる。
「ん・・・」
物音にうっすらと開けた瞳には、
朝のものなのか夕のものなのか・・・もはやどちらかわからない光が差し込んでくる。
「えと・・・5時、か。う~・・・どっちのだ・・・。」
頭の奥が痛い。
昨日、ワインを飲み過ぎたんだ。
しばらくレースで日本を留守にしていたから、
久しぶりに帰ってきた昨日は、やたら盛大な歓迎を受けた。
以前のような、戦いに忙しい毎日はごめんだが、酒を覚えた美奈たちもなかなかの強者だ。
ただひとつ残念だったのは。
-はるかさん、うさぎちゃんったら風邪引いちゃって今日は来られないの。
衛さんからの電話によると、まだ熱があるってさ。
うなされながら、“はるかさんとこ行く”って聞かないって。-
そう。子猫ちゃんに会えなかったことだった。
「まぁ、風邪ならしょうがないか。」
・・・カリカリ・・・
「そういや、前もこんなことがあったな。」
・・・カリカリ・・・
「あの時は確か、夜中にこっそり部屋を抜け出して。」
・・・カリカリ・・・
「そうそう、ちょうどこんな猫がドア掻くような音がして・・・。
・・・。
・・・猫!!?」
僕は急いで扉を開けた。
「・・・あ!!良かったぁ、はるかさん、いたぁ・・・♪」
扉を開けた先に待っていたのは、子猫であながち、間違ってはいなかった。
「っこ、子猫ちゃんどうして!?
って言うか、今は風邪で寝込んでるんじゃ・・・」
「へへへ、もうらいじょうぶだよ。グスっ・・・
ちょっとだけ鼻声らけど、うさはもう十分元気れす。」
どうしよう。全然大丈夫じゃない。
「昨日はごめんね。まもちゃんがお外に出してくれなくて。
ただの風邪らって言ってるのに。」
「当たり前だよ、だって、まだ熱あるんだろう?
嬉しいけど、だめじゃないか外は寒いのに。
僕が衛に叱られるよ。ほら、中に。衛に電話しなきゃ。」
「わぁ~だめらよはるかさん!」
「だめだ。」
「だって・・・」
「だってじゃないよ、ほら早く・・・」
「待って!!」
「・・・?」
「あのね、はるかさん・・・」
「・・・?」
「・・・はるかさん、おかえりなさいっ!!!」
鼻を垂らしながら。熱で顔を赤らめて、汗を額に光らせて。
少し辛そうに、それでもそっと、僕に温かい手を伸ばして。
その姿は、昔と全然変わってない。本当にまだ、幼い小さな子供のようだ。
だけど僕は、そんなあなたに。
「あぁ・・・ただいま。僕のお姫様。」
何度も何度も救われるんだ。
数時間後、
逃走を聞きつけた衛に彼女共々長々とお説教をくらうはめになったが、
それはそれでまた、別の話。
【Fin】
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夢を見ていた。
随分と、懐かしい夢だ。
-・・・コホッコホッ・・・ねぇ、ウラヌス・・・-
星明かりしか点らない真夜中に、小さく小さく聞こえた声。
カリカリとドアを掻く音に子猫かと耳を疑ったが、咳混じりに僕を呼ぶその声は、忘れるはずもない。
僕の小さな、お姫様のものだった。
ドアを開けた先であなたは言った。
-・・・あ、ウラヌス!!良かった、やっと会えた!!-
熱で顔を真っ赤にしながら、それでも満面の笑みで笑ってた。
-コホッ・・・どうしても・・・会いたかったの。
年に・・・コホコホッ・・・たった二回の・・定例会でしょ?-
「プリンセスはお風邪を召されたから」と聞いて、今回は会えないものだと思っていた。
どうやって守衛の網を突破したのか。息を荒げてまで、あなたは僕に手を伸ばす。
まだ熱い、だめだよプリンセス。風邪が悪化してしまうよ。
だけど。
-ウラヌス・・・あのね・・・-
僕はこの小さなてのひらに。
-あのね・・・おかえりなさいっ!-
いつもこんなに、救われる。
「ん・・・」
物音にうっすらと開けた瞳には、
朝のものなのか夕のものなのか・・・もはやどちらかわからない光が差し込んでくる。
「えと・・・5時、か。う~・・・どっちのだ・・・。」
頭の奥が痛い。
昨日、ワインを飲み過ぎたんだ。
しばらくレースで日本を留守にしていたから、
久しぶりに帰ってきた昨日は、やたら盛大な歓迎を受けた。
以前のような、戦いに忙しい毎日はごめんだが、酒を覚えた美奈たちもなかなかの強者だ。
ただひとつ残念だったのは。
-はるかさん、うさぎちゃんったら風邪引いちゃって今日は来られないの。
衛さんからの電話によると、まだ熱があるってさ。
うなされながら、“はるかさんとこ行く”って聞かないって。-
そう。子猫ちゃんに会えなかったことだった。
「まぁ、風邪ならしょうがないか。」
・・・カリカリ・・・
「そういや、前もこんなことがあったな。」
・・・カリカリ・・・
「あの時は確か、夜中にこっそり部屋を抜け出して。」
・・・カリカリ・・・
「そうそう、ちょうどこんな猫がドア掻くような音がして・・・。
・・・。
・・・猫!!?」
僕は急いで扉を開けた。
「・・・あ!!良かったぁ、はるかさん、いたぁ・・・♪」
扉を開けた先に待っていたのは、子猫であながち、間違ってはいなかった。
「っこ、子猫ちゃんどうして!?
って言うか、今は風邪で寝込んでるんじゃ・・・」
「へへへ、もうらいじょうぶだよ。グスっ・・・
ちょっとだけ鼻声らけど、うさはもう十分元気れす。」
どうしよう。全然大丈夫じゃない。
「昨日はごめんね。まもちゃんがお外に出してくれなくて。
ただの風邪らって言ってるのに。」
「当たり前だよ、だって、まだ熱あるんだろう?
嬉しいけど、だめじゃないか外は寒いのに。
僕が衛に叱られるよ。ほら、中に。衛に電話しなきゃ。」
「わぁ~だめらよはるかさん!」
「だめだ。」
「だって・・・」
「だってじゃないよ、ほら早く・・・」
「待って!!」
「・・・?」
「あのね、はるかさん・・・」
「・・・?」
「・・・はるかさん、おかえりなさいっ!!!」
鼻を垂らしながら。熱で顔を赤らめて、汗を額に光らせて。
少し辛そうに、それでもそっと、僕に温かい手を伸ばして。
その姿は、昔と全然変わってない。本当にまだ、幼い小さな子供のようだ。
だけど僕は、そんなあなたに。
「あぁ・・・ただいま。僕のお姫様。」
何度も何度も救われるんだ。
数時間後、
逃走を聞きつけた衛に彼女共々長々とお説教をくらうはめになったが、
それはそれでまた、別の話。
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