『トリストラム・シャンディ』のことなど

『トリストラム・シャンディ』に関することなど、気が向いたら書きます。

『トリストラム・シャンディ』英文原書の新しい教科書版

2019-08-27 10:32:20 | 『トリストラム・シャンディ』
岐阜大学地域科学部の内田勝です。『トリストラム・シャンディ』英文原書の新しい教科書版が、今年2019年に刊行されました。ノートン・クリティカル・エディション(Norton Critical Editions)の改訂版で、新たな編者はロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校英文学科教授のジュディス・ホーリー(Judith Hawley)です。書誌情報は以下のとおりです。

Sterne, Laurence. The Life and Opinions of Tristram Shandy, Gentleman. Edited by Judith Hawley, Norton Critical Edition, W. W. Norton, 2019.
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英語圏文学専攻の学生にとって、ノートン・クリティカル・エディションは便利なシリーズです。古典となった文学作品の本文に加えて、執筆前後の作者の書簡といった背景資料、同時代の読者たちの反応、さらに現代の文学研究者による代表的な論文までもが一冊の中に詰め込まれているからです。

『トリストラム・シャンディ』についても、すでに1980年にハワード・アンダーソン(Howard Anderson)が編集した版が刊行されていました。私自身も、大学院生時代に訳書や辞書と首っ引きでこのノートン版を読んだのが、『トリストラム・シャンディ』の原文に触れた初めての経験です。

新しい版では、現代の研究者による代表的な論文の部分が刷新され、現在のスターン研究の動向を反映させた構成になっています。ノートン・クリティカル・エディションの公式サイトで目次が公開されていますが、目次2ページ目後半 "TWENTIETH- AND TWENTY-FIRST-CENTURY STUDIES" の部分に注目してください。

https://wwnorton.com/books/9780393921366/about-the-book/table-of-contents

私としては、トマス・キーマー(Thomas Keymer)の名著 Sterne, the Moderns, and the Novel (Oxford UP, 2002) からの抜粋が含まれているのが嬉しいです。

坂本武編『ローレンス・スターンの世界』(開文社出版、2018年)の序章で私は、『トリストラム・シャンディ』英文原書の代表的な版として、以下のペンギン・クラシックス版のペーパーバックを挙げています。

Sterne, Laurence. The Life and Opinions of Tristram Shandy, Gentleman. Edited by Melvyn New and Joan New, Penguin Classics, Penguin Books, 2003.


ペンギン版は今後もこの作品の標準的な版であり続けるでしょうが、大学や大学院の授業で用いるなら、背景資料が充実した新しいノートン・クリティカル・エディションが便利だと思います。

新たなノートン版『トリストラム・シャンディ』の書評はまだあまり出ていないようですが、過去1年間の18世紀英文学研究を振り返る以下の記事は、代表的な論文の部分をアップデートしたこの版を好意的に評価しています。

Lewis, Jayne. "Recent Studies in the Restoration and Eighteenth Century." SEL Studies in English Literature 1500-1900, vol. 59, no. 3, 2019, pp. 667-713.
https://muse.jhu.edu/article/731672