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取引基本契約書⑮。(管轄裁判所、協議事項、経過措置)

2007年01月20日 00時11分17秒 | 取引基本契約書

こんにちは。

今回は管轄裁判所協議事項経過措置を取り上げます。

管轄裁判所』とは、契約の内容により紛争が発生した場合に、解決を図るための機関について取り決めた条項で、民事訴訟法第11条に「当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。」と任意管轄(の内の合意管轄)を認める規定が設けられています。
また、この任意管轄に対して、公共的理由により支払督促の申立て(簡易裁判所)など予め裁判所が特定されているものは専属管轄と言い、この任意管轄と専属管轄を総称して法定管轄と言います。
この法定管轄(法立によって定められた裁判所の管轄)には、裁判所で取扱う事件の内容によって以下の3種類の観点から当該事件を担当する裁判所が絞り込まれることになります。
この様に事件ごとに特定の裁判所がこれを取扱う権利を管轄権と呼びます。



また、知財に関してですが、特許権実用新案権回路配置利用権またはプログラムの著作物についての著作権の訴訟は、
名古屋高等裁判所仙台高等裁判所札幌高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所に土地管轄が認められる事件については、東京地方裁判所(控訴は東京高等裁判所)が専属管轄
広島高等裁判所福岡高等裁判所高松高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所に土地管轄が認められる事件については、大阪地方裁判所(控訴は大阪高等裁判所)が専属管轄
と限定されています。(民事訴訟法 第6条

意匠権商標権、著作者の権利(プログラムの著作物についての著作者の権利は除く)、出版権著作隣接権もしくは育成権に関する訴訟、営業上の利益の侵害に係る訴訟は、
①名古屋高等裁判所、仙台高等裁判所、札幌高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所および、東京地方裁判所が専属管轄
②広島高等裁判所、福岡高等裁判所、高松高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所および、大阪地方裁判所が専属管轄
と限定されています。(民事訴訟法 第6条の2)

協議事項』とは、契約書内で取り決めていない事項や、契約の内容の解釈で食い違いが発生した時などに、契約の当事者同士の協議で解決を目的とした条項を言います。
つまり、契約書は、その契約による取引で発生するであろう事柄を事前に予見して成文化しているものなので、その予見の範囲が及ばなかった事柄をカバーする目的があると言えます。
当然ながら当事者の意思よりも法律の規定が優先する強行規定に関しては、協議による解決の効力は及びません。

経過措置』とは、取引基本契約(以下「新基本契約」といいます)を締結する以前に、同様の基本契約(以下「旧基本契約」といいます)などを締結していた場合、旧基本契約の効力を新基本契約の締結と同時に失効させることを意図した条項です。
旧基本契約時に締結されていた個別契約も、新基本契約に準じる形にしているものを多く見かけますが、これは新しい契約書であればあるほど現行の法に合致したものであるため、手続面や安全面などでメリットが多いからであると考えられます。

以下、【管轄裁判所】、【協議事項】、【経過措置】の条文例を記載します。


管轄裁判所

パターン①
『甲(発注者)および乙(受注者)は、本契約に関して紛争が生じた場合には、○○地方裁判所を管轄裁判所とすることに合意する。』

⇒交渉の上、管轄裁判所を決定する条文例で、最もフェアであると考えられます。

パターン②
『甲(発注者)および乙(受注者)は、本契約に関して紛争が生じた場合には、甲の本社所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的管轄裁判所とすることに合意する。』

⇒こちらは発注者(買主等)提示方の条文例です。
説明の必要はないと思われますが、甲にとって有利で乙にとっては不利になります。
乙は裁判所が遠隔地である場合、当該紛争によるコストが増加することも考えられるため熟慮しなければなりません。

パターン③
『本契約または個別契約に関し当事者間で発生するいかなる紛争、論争、意見の相違についても相互協議により両当事者間で解決されるものとする。かかる相互努力により解決できない紛争、論争または意見の相違は、社団法人日本商事仲裁協会の手続規則に従い、日本国東京における仲裁により最終的に解決されるものとし、仲裁で使用される言語は日本語とする。当該仲裁判断は最終的なものであり、且つ、本契約の当事者を拘束するものとする。』

⇒パターン③は、裁判所による紛争解決ではなく、俗に『仲裁』と呼ばれる手段を用いて紛争の解決を目指す条文例となっており、国際取引契約の大半で用いられていると言われています。
仲裁とは、紛争当事者の合意により仲裁人を選出し、その仲裁人の判断によって紛争を解決することを言います。
仲裁人の判断が最終決定となるため、当事者は異議を申し立てることはできません。
裁判判決による強制執行は、例えば日本であれば裁判所が出した判決の強制執行は基本的に日本でしか強制力がなく、また、中国の様に『執行難』と揶揄されるほど強制執行が行われにくい国では、裁判を行っても時間がかかっただけという結果になってしまう可能性があります。
他国内で裁判を行い勝訴判決を得ることが強制執行を最も行いやすい手段であるとは思われますが、控訴なども考えると旅費や現地法に詳しい弁護士等の報酬など発生するコストが莫大なものになると考えられるので、一般的に一度で終了する仲裁が利用されます。
なお、日本側の企業としては、日本商事仲裁協会で仲裁が行なわれることが最も有利であると考えられますが、やはり相手方から簡単には承諾を得られないことが多く、この場合に用いられる手段として、両者から等距離にある第三国の仲裁機関や、異議を申し立てた側が相手方の国の仲裁機関で仲裁を行なう場合の条項がなどがあります。
特に後者は、一方が異議申し立てを行なっても仲裁に関しては相手方に有利な条件であるため、訴えの濫用に対し抑止力になることが考えられ頻繁に用いられます。


協議事項

パターン①
『本契約もしくは個別解約に定めのない事項、その他本契約もしくは個別契約各条項の解釈に疑義を生じた場合は、その都度甲(発注者)乙(受注者)協議のうえ決定する。』

⇒定めのない事項および条項の疑義に関し、協議を行なう旨の条文例です。
国内では頻繁に見かけ、欧米契約ではもっとも見かけない、しかしながらアジア圏ではちらほら見かけることになるという民族性のおもしろさを感じさせてくれる条文です。

パターン②
『本契約に定めのない事項が生じたとき、もしくは本契約各条項の解釈について疑義が生じたときは、甲(発注者)乙(受注者)誠意を持って協議の上これを解決する。』

⇒別のパターンの条文例です。


経過措置

パターン①
『本契約の締結以前に甲(発注者)乙(受注者)間で締結した取引に関する基本契約がある場合は、本契約の締結をもってその効力を失うものとする。』

⇒一般的な経過措置の条文です。
契約が切り替わるタイミングのコンセンサスきちんと得ておくことが重要です。

パターン②
『本契約の締結以前に甲(発注者)乙(受注者)間で締結した取引に関する基本契約がある場合は、本契約の締結をもってその効力を失うものとし、当該基本契約に基づき甲乙間で締結した個別契約は本契約を適用するものとする。』

⇒個別契約の履行に関して、新基本契約に準じる形にした条文です。
ただ、個別契約の締結は注文書とそれに対する承諾という形に変えられることが多いため、個別契約には金銭の債権債務が関っていることがほとんどです。
そこで新基本契約に準じる形にすると債権債務にどのような変化が起きるのか事前に確認し、旧基本契約時に締結された個別契約に対し、新旧どちらの基本契約を適用させるのかを熟慮した条文にしなければなりません。


以上、今回はここまで。

では、また次回。


【ブログ内関連記事】

※当ブログのカテゴリー『取引基本契約書』をご参照下さい。


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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
文章が見えません (坂田敏晴)
2009-05-03 10:58:49
取引基本契約書を拝見いたしました。
役に立つ情報ありがとうございます。

右に上下のスクロールバーがありますが、文字がバーに隠れて読めません。どうにかならないでしょうか。

あと、斜体は大変読みづらいと思います。
返信する
文章が見えません (坂田敏晴)
2009-05-03 10:58:49
取引基本契約書を拝見いたしました。
役に立つ情報ありがとうございます。

右に上下のスクロールバーがありますが、文字がバーに隠れて読めません。どうにかならないでしょうか。

あと、斜体は大変読みづらいと思います。
返信する
こんにちは。 (法務屋)
2009-05-19 00:45:43
坂田さん

お久しぶりです。

レスが遅くなりすみません。
また、ご丁寧にありがとうございます。

文字が読めないのは、恐らくテンプレートの構成に問題があると思われるので、少し検討してみたいと思います。

斜体に関しては、解説との違いを際立たせるためなのですが、読みにくいということであれば申し訳ありません。
ただ、修正作業に結構な時間を要するため、とりあえずは現状のままでご容赦ください。

今後ともよろしくお願い致します。
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