けせらせら、な日々

ふぃくしょん、ときどき真実

笑顔 ★テーマ募集『心にやきついているあの笑顔』★

2001-09-26 16:01:43 | Weblog
なんにも取り柄のないヤツだったけど、笑顔だけはとびきり良かった。

ヨコシマな心をしっかと持っているくせに、最高に無邪気な顔で笑うのだ。
そんな笑顔にだまされるもんか、と心を武装してキリリと立ち向かったはずが
気がついてみたら、アタシはヤツの術中にはまっていたのだった。

恋愛の賞味期限が切れたころ、ヤツはどんどん身勝手にわが道を走り始め
追いつけないアタシは、疲れ果て、全部をあきらめた。

男は、恋愛なんてものに、ウツツを抜かしてばかりはいられないんだよ。
仕事も、友だちつき合いも、趣味も、みんなどれも大事なんだ。
わかるだろ?オマエだって、他にやることがいっぱいあるだろ?
大切なモノがたくさんあるだろうよ。

もっともらしいことを言いながら、ヤツは笑った。

はいそうですか、と言葉を返してから
アタシは泣いて、悩んで、落ち込んで・・・・
そうして長い時間をかけて、ようやく立ち直った。

時折ヤツは、受話器から笑顔が飛び出してくるような騒々しい、にぎやかな声で
「元気か?」という電話をかけてよこした。

・・・・何年ぶりかに呼び出されて出掛けた、六本木のワインバーで
アタシは妹が兄貴に報告するような調子で「結婚するよ」伝えた。

そうか、よかったな。俺、指輪買ってあったのにな。
いつか渡そうと思って、何年も持ってたんだ、いや冗談冗談。
そんなドラマチックな男じゃないし俺。

よかったよかった、オマエみたいなワガママなのを
もらってくれる奇特な男が現れたんだな。
本当によかったよ、おめでとう。

そう言って見せたヤツの笑顔は、それまでアタシの見た笑顔の中で
最上級のものだった。

そう今でもアタシの心にやきついて、消えないほどに。

ミライのおんな ★テーマ募集『プロジェクト未来』★

2001-09-25 15:59:55 | Weblog

あ、ちょっとお銚子もう1本もらおうじゃないの。
1本なんて吝嗇なこと言ってないでさ、もっとじゃんじゃん呑もうよ。

あ、サッチャンどこ行ってたの?え?ご記帳?
やあねぇ、美佐ちゃん、最近耳が遠いんじゃない?ご不浄よ、ご不浄。

あはは、どっちもどっちだわねえ、今時ご記帳もご不浄も死語だわよ。
そうそう、ご記帳といえば、ホラ昔コイズミさんって総理がいたでしょ。
ああ、今はもう「大スターのお父さん」って言われてるけど
そう言えば昔は総理大臣だったわねえ。

靖国に行く行かないで、あの頃はずいぶん揉めてたわね。
あの当時はまだ、外国も日本に関心があったからねえ、今みたいに
「よその国のことなんか、もうどうでもいいもんね」
なんていう風潮じゃなかったもんねえ。

まだ日本にも力があったってことかしらねえ。
長寿薬の開発に、日本だけが反対したでしょ
あれからよね、世界中から干されるようになったのは。
そうそ、せっかく180歳まで生きられる薬が開発されたってのに
どうしてあんなに頑なに反対したんだか、しかも完成した薬を
ゼッタイ輸入しないって頑張ったんだもんね。

あれは大昔の、鎖国政策みたいなもんだったねえ。
なんでも反対したのは、世の男性たちだったみたいよ。
ふ~ん、なんで反対したんだっけかしらねえ。

もうこれ以上、馬車ウマのように働きたくないってのがタテマエで
女たちの横暴が、この先何十年も続くのに耐えられない、ってのが本音みたいよ。

へえ、やっぱりそうなのねえ。
だけど男って馬鹿だよね、いくら日本に入ってこなくたって
外国に行けば、いくらでも売ってるんだから。

そうよ、私なんかハワイで飲んだわ規定の錠数。
あたしも、香港に買い物行ったとき、買って飲んだわ。

まあ、そのお陰でうちのダンナなんか、もうすっかりヨレヨレだけど
私なんかこのとおりだもんねえ。
寿命が延びた、って思ったら余計お洒落にもお金かけるしね。

あたしなんかこの前「スワロー・クラブ」で若い男の子と遊んじゃったわ。
え?それって昔のホストクラブのこと?
そうよそうよ、可愛い子ばっかりだから、今度は温泉じゃなくてそっちにしよう。

じゃ今夜はこのへんで、もう寝ましょうよ。
やっぱりお肌もね、少しは休ませないと。

実年齢は80歳なんだから、あはははは。
そうそ、あは、あはははははは。

待つ、ということ

2001-09-23 15:57:54 | Weblog
友人と待ち合わせをして、5分10分待たされることなど、苦ではない。

空港の到着口にあらわれる人を、待つことも嫌ではない。
どんな表情でゲートをくぐるだろうと、想像して待つのはむしろ楽しい。

急に降り出した雨の夕方、傘を持って駅の改札口に立つことも
お茶を飲みながら、本を開いて入り口に目をやる喫茶店も
嫌いではない。

哀しいのは、待てと言わない人を待つということ。

それは嫉妬に似て、じりじりと胸を焦がす。

あてのない約束、叶わない望み、そして待てと言われないこと。
積み上げた色とりどりの積み木が、いっきにくずれるような
不毛な情けない想い。

それは嫉妬に似て、必死に繋いだ糸を邪険に断ち切るような
胸の奥にたまった澱のような、心細くもどす黒い想い。

そんなことが、あった。
もうずいぶん前のころだけれど。

きのうのこと

2001-09-22 15:56:22 | Weblog


母と手をつないで、泣いている男の子がいた。
金髪の、5歳くらいの男の子。

歌うように大きく口を開けて
何かを必死に訴えながら、彼は泣いていた。

母はリズムをとるように頷きながら、まっすぐに前を見て歩いている。
男の子も母の歩調に遅れずに、ちゃんとついて歩いている。
               泣きながら、歩いている。

何が哀しかったのか、どんな悔しいことがあったのか。
白い頬を紅潮させて、涙をポロポロこぼしながら
それでも彼は歩いている。

あんなに声をあげて泣いたのは、いつのことだったろう。
人目も気にせず、泣きたいだけ泣いたのは、いつのことだったろう。

いつの間にか大人になって、人は声を立てずに泣くようになる。
幼い頃よりもずっと、泣きたいことはふえたのに。

泣いても叶わぬことが多いことを、知って覚えて
人は、ただ黙って泣くようになる。

夕暮れの用賀中町通り
    絵のような男の子と、その母が歩いていた。

かおり ★テーマ募集『思い出』★

2001-09-22 15:55:06 | Weblog
思い出というものは、いつでも取り出せる、ポケットの中にあるものではなくて
記憶のひだの、織り込まれた引き出しの中に、しまわれているものかも知れない。

当たり前に送っている日々の暮らしの中から、ふとしたきっかけで
心の淵から唐突に、その姿を現す。

私のそのきっかけは「香り」であることが多い。

お蕎麦やさんで嗅ぐ、そば粉の香りが、遠い昔の麦こがしの香りと重なる。
ああ、お祖母ちゃんが作ってくれた、あの懐かしい味。
美味しいねと言う私の顔を、柔らかな笑顔で見つめていてくれた。

雨上がりの夕暮れにおもてに出ると、始まったばかりの夜の匂いがする。
胸が締め付けられるような切ない夜の匂いに、過去の自分がフラッシュして見える。
あまりにも無防備だった自分の、禍々しい昔が浮かんでくる。

ベッドサイドに置いた香水が、ふいに強く香り出すとき
かつてその香りを私に与えた人を思い出す。
一生手放すまいと思っていたその腕と、その首筋に漂っていた香りを感じると
私の目の前にその人の幻が立つ。

封印されてしまった思い出は、心の奥底の箱の中に眠ったまま
いくつもの年を重ねる。
そしていつか、なんの前触れもなく、私の目の前でリボンが解かれて
音もなくその箱は開かれる。

その底に残っているものがあるとしたら
それは、希望であって欲しいと、私は思う。

ストレスについて

2001-09-17 15:53:30 | Weblog


ストレスがたまる・・・という言葉がポピュラーになって久しい。
癒す・・・が、その対義語として使われだしたのはいつ頃からだろう。

普通に生きていても、気の滅入ることや腹立たしい事は多々あって
それは健康を損ねるほどに、人を蝕むことはあるだろう。

ただ私自身は、ストレスというものの正体がよく分からない。
「ストレスがたまったなあ」ともあまり思わない。
もっと言えば、あまりイライラしないのである。

どんな渋滞に巻き込まれても、こんがらがったネックレスをほどいていても
大して苛立ちもしないし、ストレスも感じないのである。

しかし「おお、みゆこは気が長いんだね、おっとりしているのだね」
と言われると、それは違うんである。

前に書いたと思うが、何処にいっても私はヒトに舐められるタイプなので
結構ぞんざいで可哀想な扱いを受けるのだ。

昨日のパン屋さんのレジでもそうだった。
店員さんはパンを袋に入れながら、奥の厨房のニイチャンとしゃべりまくり
がはははは、と大笑いをしている。手は止まったままだ。
私のパンはカウンターに取り残され、代金皿に入れた千円札はそのままである。

「あのぅ・・急いでくださいませんか?」
「えっっ?あ?はあ。そんでさぁ、私が行った時はさぁ・・ぎゃははは!」

カレーパンに唾がかかるだろ!トレーに手をついてるけど
その下には私の焼きそばパンがあるんだぞ!見えんのかコラ!

「ね、ちょっと早くして下さい」(眉間にかすかな縦皺)
「ええ?・・・・・・・」(思い切り仏頂面)

・・・・・ドン!カウンターの上に袋詰めの終わった「私の」パンが置かれた。

「で、さぁ、その店だけどさぁ」「・・・ちょっとアナタ!」

そこから先は、皆さまのご想像にお任せしましょう。
約10分後、少しばかり喉が痛くなった私は、てぶらでその店を後にした。

ストレスはたまらないのでなく、ためないものだ・・と
そんなふうに思っているわけではないのだが
結果的にはそうなるのが、私のパターンかも知れない。

イライラしないのではなく、イライラする時間が短いのかも知れない。
それはとりもなおさず、瞬間湯沸かし器のような性格ということだろうか。

・・・・ちがうよね?(誰に聞いてる)

鳴らない電話 ★テーマ募集『誕生日』★

2001-09-16 15:51:25 | Weblog
リビングボードの上に置いた時計の
日付が変わってから始まったかすかな期待は
それからの彼女をずっと不安定にした。

わずかな時間の眠りの中でも、彼女は何かの気配をさぐって
うとうととまどろんでは何度も目を覚ました。

去年も、その前も
彼は忘れず電話をくれて「オメデトウ」と一言だけの
言葉のバースディプレゼントをくれた。

エプロンのポケットに入れたケイタイと、リビングに置かれた電話機が
痛いくらい気に掛かる。

電話機の向こうに彼が居るような気がして
彼女は何度も振り返る。

大きな樹の下で昔、彼と語らった今頃の季節
二人の頭上にハラハラとこぼれた葉をつかまえて
彼は黙って、彼女に渡した。

厚い本に挟まれたその葉は、長い年月をかけて
美しい葉脈を浮き上がらせた押し葉になった。

彼女はそれを手のひらに乗せて、自分のこれまでとそして今とを
ぼんやりと想う。
これでよかったとも、ああすればよかったとも
そのどちらもが正しいように思えて、彼女はその日何度目かの溜息をつく。

夕暮れが来て、子供達の元気な「ただいま」が聞こえ
窓いっぱいに広がる夜景をサイドメニューにした、穏やかな夕食が終わる。
「おめでとう」と渡された夫からの贈り物は、ずっしりと心に重い。

とうとう電話は鳴らないまま、また新しい日付に変わる頃
彼女は少し微笑しながら、独りつぶやく。

「何も変わらない。私の暮らしも、その中で静かに息づく彼への思いも
 何一つ変わらない。ただ電話がなかっただけのこと。
 それだけのこと・・・・。」

これが「一番」

2001-09-06 15:48:03 | Weblog
「これは一番大事なことなのよ」と娘に言うと
「ママの『大事なこと』ってたくさんあるのに
 いつも『これが一番』って言うね」と言い返される。・・・たしかに。

守るべきルールや気をつけるべきことは数々ありて、どれも大切なことゆえ
『これが一番!』というのは変かもしれない。

子供をしつけるだけでなく、自分自身が気をつけるべきことはたくさんある。

だいたい小さな不愉快さは、いつでもどこにでも転がっている。
不愉快だと感じたその時が「自分を諫める絶好のチャンス」と思い
そのすべてを反面教師にして学ぼうと、思ってはいるのだが・・。

スーパーのレジで、まだ支払いをしている私の目の前に
商品満載のかごをドンと置く人・・・これこれチョット待ってなさいよ。

喫茶店から出ようとドアを開けると、次々に入ってくる人達。
ほとんどの人が、ドアを押さえている私を無視して入ってくる。
せめて会釈くらいできないのか・・・私はこの喫茶店のドアマン(?)か。

美術館で素晴らしき絵の世界にひたっていると、決まって騒ぐ人。
絵の解説を大声で読む人もいる。「お静かに」と書かれた貼り紙は読めないのか。
意見の交換は、見終わって外に出てからやってほしい・・・アンタの講釈は要らぬ。

道を譲ってあげたにもかかわらず、当たり前のような顔で通り過ぎるドライバー
・・・軽く頭を下げるぐらいのことが、どうして出来ないのか。

そんな不愉快な出来事にあうたびに、自分は気をつけようと思う。

知らず知らずに人を傷つけた、悪気なく言ってしまった・・
そんな言い訳が出来ない年齢になったと思う。

自分も周りも、気持ちよく過ごせたらいい。
それが目下の私の『一番』大切なこと。