空を横切る飛行機雲の行方

2006-08-21 18:16:37 / ryota

甲子園の熱闘。

言葉で言い表せないほどの清々しい爽やかさ。

そして例のごとく、無意識のうちに回想が自分の頭の中で繰り広げられるのです.....。

「あっ、8月21日と言えば!」


日常生活に埋もれて、あろうことか、今日という自分の人生を大きく変えたであろうあの出来事を忘れていた自分に気が付きました。



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1995年8月21日。
山梨県甲府市小瀬陸上競技場。


気温、39℃。


全日本中学陸上選手権大会。
三種競技A。




炎天下の下でスタートの号令を待つ。

100m先に見える1点を見つめて集中力を高める。そして自分を信じる。

1種目目、100m。


波打つ鼓動を必死に押さえながら号令と共に一気に体を前へと投げ出す。

無心.....。

向かい風の影響もありベストタイムには程遠いものの何とか1種目目の100mを無難に乗り切る。


2種目目、砲丸投げ。


全部で3投しかチャンスがない。
その3投の中でいい記録を残さなければそこでアウト。


ところが僕は1、2投目とファウルをしてしまう。

ここまでは「記録なし」という状態。
もし3投目でファウルをしてしまうと僕の夏は終わり.......。

不安を必死に飲み込んで3投目を待つ。

ファウルをしないようにしようと弱気になると良い記録は出ないし、かといって記録を狙って思いきって投げようとしてもファウルをするリスクがある。


まさに絶体絶命。



精神を集中することだけに集中する。

猛暑の中での想像を絶するような練習。

その中で培った強靭な精神力と練習量を信じる。


そして運命の3投目。


体を大きく捻って投げ出された4kgもの鉄球が大きな弧を描いて14mの白線を越える。

赤旗は上がらない。

「よしっ!」という声と共に白旗が上がる。


2種目目の砲丸投げ。崖っぷちから何とかいい記録を残した。
しかし安堵している余裕はない。

あと1種目残っていた。




陽が徐々に傾いていく。

3種目目、走り高跳び。
僕が最も苦手にしている種目。

記録を点数に換算するこの3種競技。しかし皮肉なことに、僕が最も苦手にしているこの走り高跳びが、最も点数の換算率が高いのだ。

分かりやすく言えば、走り高跳びを得意としている選手であれば、この3種競技では絶対的に有利なのである。
100mと砲丸投げが苦手だったとしても、この走り高跳びですごい記録を出す事で一気に逆転も可能ということ。


2種目を終えて僕は現在1位。
このまま逃げ切る事が出来れば念願の全国制覇。しかし僕を僅差で追う2位、3位の選手は走り高跳びを得意とする選手。


それまでの僕の練習でのベストが1m85cm。この記録を出せば恐らく逃げ切って優勝ということになるのだろうが、2種目を終えて疲労もピーク。集中力も途切れそうになっていた。


健闘はしたものの、僕は結局1m75cmという平凡な記録を残して、残る選手たちの記録を待つ事になった。

走り高跳びを得意とする追っ手の選手たちが次々にバーの上を跳んでゆく。

そして2種目を終えて二位の選手が1m88cmの跳躍を迎える。
これを跳ばれたら逆転で優勝されてしまう。
もし失敗をしたら僕の優勝。

人の結果如何で自分の勝敗が決まるのを待つと言うのは決していいものではない。僕はその跳躍を見る事ができなかった。

目をつぶり固唾を飲んで運命を待つ......。



二分くらいすると、静寂を切り裂くように、溜め息と共にバーが地面を叩き付ける乾いた音が聞こえた。



ゆっくりと目を開ける。


スタンドで握手を交わしている陸上部の恩師と両親。歓喜の声を上げながら抱き合うコーチたち。






何が起こったのか分からなかった。




ゆっくりとスタンドの方に近づいていくと、いつもは鬼のようにみんなに恐れられている恩師が顔をグチャグチャにしながら僕を痛いくらいに強く抱きしめる。目からは光るものが流れている。


「光永、お前は本当によくやった!!全国チャンピオンだ!!おめでとう、本当によくやった!!」

僕は流れる涙を抑える事ができなかった。

そしてその日の空は、ちょうど写真のような空だった。


自信を持てない僕に、
「お前はやればできる。お前は頑張れば全国チャンピオンになれる。」

と毎日のように呪文のように励まし、そして褒めてくれた恩師。

二人三脚で勝ち取ったあの勝利の味は今でも忘れる事ができない。

小さい頃から泣き虫で、コンプレックスだらけだった僕に、

「やってやれないことはない」

ということを教えてくれた僕の大事な大事な恩師にいま、改めて感謝したいと思う。


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今思えば、僕は人生の岐路に立たされた時、必ずと言っていいほど様々な人に助けられている。
そして支えられている。


幸運にもいま僕は様々な人の惜しみないサポートのお陰で大好きな音楽をやらせてもらっています。

スタッフ、ファンのみなさん、家族、友達......。

その中で音楽という枠を超えて、色々な「出会い」をさせてもらってます。

その人と人との「出会い」こそが生きる上で最も大切なもののような気がしてます。


いまもう一度あの頃の気持ちを素直に思い出して、あの頃の晴れ渡るような達成感や感動を、みんなと共に味わいたいと思う。



「いまの僕にできること。いまの僕に歌えること。」


いまはこれだけに集中していきたいと思う。



内容がだーいぶ暑苦しくなっちゃったけど、今日はこの辺で!!


今日は11周年記念日ということで、11年前はまだ飲めなかったお酒で、あの頃の自分の健闘を讃えて、あの頃の僕と、心で「乾杯」をしながらお祝いをしたいと思います。


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