背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

夏空とヒマワリ

2021年08月11日 07時29分53秒 | CJ二次創作
まんまるい塊が、ぼんと足元に転がってきた。
向日葵の柄が全面にプリントしてある。山吹色のビーチボールだ。
拾い上げたところに、「すいませ~ん」と黄色い声が駆け寄る。
女の子の二人組みだ。ビタミンカラーの水着が目に眩しい。
ジョウは、「はい」とボールを片方の子に手渡す。
泣きぼくろのある、グリーンのビキニの子だ。
「ありがとうございま~す」
「いや」
と行きかけると、「あのう、ちょっといいですかぁ」と甘い、トロビカルジュースのような声が引き留める。
ジョウは肩越しに振り返る。
「え」
「昨日もこのプールに来てましたよねえ」
濃いネーブル色の水着の子も、びっくりするほど泣きぼくろの子とそっくりな話し方をする。無用に語尾が伸びる。
「あたしたち、あの人いいよねって昨日も話しててエ」
「もしかしてこのホテルに泊まってるんですかぁ」
「あたしたちもなんですう、何階ですかー?」
「え…」
ジョウは棒立ちになる。
「一人ですかあ。連れの人とかいないの?」
「よかったら、あっちで冷たいものでも飲みませんかー?」
「ね」
ふふっ、何がおかしいのか、女の子同士目と目を見交わして微笑みあう。
その笑顔もロールシャッハテストのように左右対称で、ジョウは見分けがつかなくなり混乱する。
「ね、ね、行きましょうよ」
「ほらあ」
どっちか分からないが、片方がジョウの腕を把った。
びくっと筋肉が反応する。振りほどきたいが、なまじ自分から動かすと、女性の大切な身体の部分に触れてしまいそうで、無下にもできない。
参ったな。
「おごりますよ、ね?」
泣きぼくろの子がぐいとジョウを引っ張った。
そこへ、氷のように冷えきった声が背後から。
「――結構よ。間に合ってるから」
泣きぼくろとジョウの間に割り込んだ。アルフィンだ。
アルフィンがジョウの腕をひったくるように奪い返した。ぎゅうっと両手で抱え込む。
そして、碧くひんやりした瞳を二人に向けて、
「生憎だけど、冷たいものもナンパも要りません。この人に気安く声、かけないでくれる。ましてや色仕掛けなんて、言語道断よ!」
と言葉のつぶてを投げた。
アルフィンの剣幕と美貌に、二人が鼻白む。
ジョウがとりなそうと何か言いかけて、「ジョウは黙ってて!」と牙を剥かれる。
「……はい」
「分かったらとっとと向こうへお行き!  ジョウはこっちにきて」
腕がもげそうなほど、力任せに引かれる。
「いてっ、お、おい、アルフィン」
「うっさい、いいから来るの!」
アルフィンはジョウをずるずると引きずって、二人の女の子から離した。
振り返っても、もうカノジョたちの姿は見えない。
プールサイドの人ごみのせいもあるが、大分距離を稼いだ。
でも万が一のため、アルフィンはジョウにくっついたままだ。まだ頭からは怒りの湯気が立ち上っている。
「まったく、ちょっとあたしが目を離すとこれなんだから!」
さっきからぶつぶつと同じ文句ばかり繰り返している。
「何よ、女の子にくっつかれてデレデレしちゃってさ!」
「ボールが転がってきたから拾ってやっただけで、お、俺は別になにも……」
「ん、もう鈍いわねェ! わざとよ、そんなの、決まってるでしよ?」
「わ、わざと…?」
なんで? と疑問系の顔をアルフィンに向けている。
はああああ。
アルフィンの肩からがくりと力が抜ける。
「あなたに声をかけたかったからに決まってるじゃないの、ナンパよ、逆ナンてやつ!」
「逆ナン?」
ジョウが目を丸くする。
全く鈍すぎる。アルフィンの苛立ちはうなぎのぼりに上昇していく。
「もう気をつけてよ、ジョウ、プールサイドは獲物を狙うハゲタカみたいな女でいっぱいなんだからね」
ハゲタカ?
「あ、うん、」
生返事。さらにイラッとくる。
「聞いてるの、ジョウ?」
「き、聞いてるよ。で、でもな、アルフィン、ちょっと……」
言いよどむ。
「なによ!」
アルフィンは噛み付かんばかりだ。ぎろりと睨む。が、ジョウはまともにアルフィンに視線を合わせられない。
「頼むから、す、少し、離れてくれ」
胸が……とはとてもじゃないが言えなかった。
見ると真っ赤になって、しきりと腕を引いている。
アルフィンはそれが何よと全然動じなかった。
「いいの、こうしてないと変な女が寄ってくるから、少し我慢してなさい」
却ってジョウの肘をぎゅっと白いビキニの【谷間】に押し当てる。
あの、当たってる。さっきから。もろ、なんですが。
ジョウの眉間に苦悶が刻まれた。
何か反論しようとして断念し、やっとのことで、
「……アルフィン、最近、胸、大きくなった?」
と素で尋ねた。すると、
「そーいうことは、思ってても口に出すものじゃないの」
とぴしゃりとやられた。
「はい」
ジョウはしゅんとなった。
今日は全くいいとこなしの、ジョウ。
プールサイドに植えられた、向日葵も笑ってる。

fin.

「夕空とヒマワリ」
でもまあ密着されてるので一番いい思いしてると言えば、してます。笑
⇒pixiv安達 薫

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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向日葵は知っている (ゆうきママ)
2021-08-11 08:58:48
おはようございます。
 逆ナンの女達は、ジョウの素性を知ったら、どう出ただろうか。だって、壊し屋だよ(笑)お金持ちだけどね。
 アルフィンほど、「向こうへお行き!」が似合う女性はいないかも。ぴったり!
返信する
ナンパがすごそうなのは (あだち)
2021-08-12 07:57:03
アルフィンさんだけではないような気が、笑
「最終兵器アッシュ」のオープニングをイメージして書きました。いちばん、原作の二人に近いのではないでしょうか。。。十代の年齢相応。ジョウに釣り合う女性はなかなかいませんね。胆力があって、タフじゃないとね。
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