背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

11月9日

2021年11月09日 03時16分38秒 | CJ二次創作
目を覚ますと、ジョウの顔があった。

がばと跳ね起きた、つもりが、頭を鈍器で殴られたような痛みが走り、シーツに突っ伏す。
「……いったあ」
頭を押さえて、再度起き上がる。なんとかシーツから身体を持ち上げることが出来た。
ジョウがクイーンサイズのベッドの上、白いバスローブを羽織った格好で寝息を立てている。胸元が肌蹴て胸筋が覗く。自分の腕を枕にして、心臓のあるほうを下にして眠っていた。      
洗いざらしの髪。濃い睫毛。たくましい上腕筋。
起き抜けのアルフィンにはセクシーすぎる姿。
しばらくじいっと見惚れていたが、ふと我に返り、アルフィンは自分の格好を点検する。
昨夜着ていたシフォンのロングスカートとブラウス。袖がシースルーでお気に入りのやつ。
下着もつけている。だいじょうぶ。と、ほっとして、何が大丈夫なのと自分で突っ込み。時計を見ると、7時23分。窓の外が明るい。スイートルームの豪奢な部屋を隅々まで照らす朝の陽光。
もう一度ジョウに目をやる。依然起きる気配はない。
「……」
どうしよう、やらかした。
アルフィンはよろよろとベッドを抜け出し、バスルームに向かった。
服を脱いで、シャワーを浴びる。いつもより、温度の設定を上げて熱い湯に打たれていると、頭がようやくすっきりしてきた。
昨夜の記憶が蘇る。
そうだわ。あたし、ジョウと一緒にこの街でウインドウショッピングをして、映画を見た。それから予約しておいたホテルの傍のイタリアンレストランで軽くご飯を食べた。なんとなくまだ帰りたくなくて、飲み足りないからもう一回街に出ましょうと誘った。靴を履き替えるからと彼とBARで待ち合わせして、それで繁華街に出かけて……。
思い出した。
店を出てタクシーを拾えるところまで、あたし、負ぶってもらったんだった。ジョウに。
そのまま彼の背中で寝落ちした。いつ、どうやってここに運んでもらったか、さっぱり記憶がない。
どうしよう……。
シャワーを長めに浴び終えて備え付けのバスローブを羽織り、部屋に戻る。と、
「おはよう」
ジョウがベッドの上、身を起こしていた。
「お、おはよ」
反射的にアルフィンはバスローブの袷を搔き合わせる。乾き切らない髪が、恥ずかしかった。金髪を背中に流してもじもじしていると、
「さっきルームサーヴィスが来て朝食をセットしていってくれた。食べようか」
とジョウが言った。
見ると向こうのテーブルの上にたくさんのお皿や銀器が並べられていた。パンやスープ、アドガドとトマトのサラダ。何種類かの卵料理にソーセージ、ハム、ハッシュドポテト。焼きたてのベーコンも。カットされたフルーツは見るからに新鮮そうだ。
「美味しそう。でも、いつの間に注文したの?」
ジョウは微笑った。
「ホテルに着いてから。君をベッドに運んで寝かせてからだ」
「……すみません」
きのう誕生日だったこの人に、次の日の朝食の準備など至れり尽くせりなことをさせた。アルフィンは小さくなった。
「いや。アルフィンの好物ばかり頼んでおいたから。ところで足は大丈夫か」
「足?」
「靴擦れしたって言ってただろう。昨日、寝かせてから簡単に手当しておいた。少し良くなってるといいけど」
言われて左足かかとを見る。と、昨日は簡単に絆創膏を当てていただけだったところに、滅菌ガーゼが貼られていた。
アルフィンは驚いた。
「ジョウ、これ、いつ?」
全然記憶がない。
「君が眠ってからだよ。ドラッグストアで軟膏を買って塗って、ガーゼを当てただけだけどな。少しは楽か」
何でもないことのように言う。
「ジョウ……」
アルフィンは泣き顔になった。くしゃっと顔を歪め、涙を堪える。
「ごめんなさい。ジョウ、許して」
「お、おい、なんだよ」
「だって、あたし」
誕生日なのに、あなたに何かしてあげるどころか、飲んだくれて負ぶわれて寝落ちして部屋に運んでもらって。それなのにあなたはまた夜にホテルから出て、ドラッグストアであたしのために薬とか買ってくれて。
そしてぐうぐう寝入ってるあたしの足の手当をして休ませてくれて。
しかも次の日の朝食のオーダーまでフロントにして。
――情けない。恥ずかしい。穴があったら入りたい。
あたし、全然だめだ。ジョウの相手として、というより、女として完璧に失格。
アルフィンは顔を両手で覆ってしまう。ジョウは困惑しつつ、ベッドから抜け出てアルフィンの許に歩み寄る。
「なんで泣くんだ。何も責めたりしていないだろう、俺」
「責めてくれた方が楽よ。ごめんなさい。ほんと、せっかくの誕生日だったのに、あたし」
ジョウはアルフィンの手首を両の手で包み、そうっと顔から離した。
涙を溜めた碧眼が現れる。
かがみ込んで、目線の高さを同じくしてジョウは言った。
「謝らなくていい。贅沢な一日だった。色んな意味でフルコースだったし。
俺は楽しかったよ。君の寝顔がラストに見られて幸せだった」
「……ジョウ~」
アルフィンは彼に抱き着こうとした。でも、手首をつかまれてできなかった。
「それに、チェックアウトもまだだしな」
ちょっと声色を変えて、ジョウはアルフィンを見やる。
「?」
「何時にアウトだっけ、このホテル」
「10時までだと思うけど……」
「いまは何時だ」
「7時50分」
「2時間あるよな。2時間あれば大概のことはできるぜ。たぶん」
アルフィンは、ジョウの目を見つめた。そして彼の思惑を悟り、じわじわと体温が上がるのを感じた。
頬が熱い。いま身に着けているバスローブの袷が大きく開いて、胸元が露わになっていることに、そこでようやく気付いた。
恥ずかしい。掻き合わせたい。でも、ジョウが手を離してくれない。
アルフィンはたまらず俯いた。視線を床に逃がす。
「そ、そうかな」
うん、とジョウは頷いて、
「昨夜のぶん、今朝に繰り越しただけだから。アルフィンは謝る必要なんかない。気にしなくていい」
テーブルを目で示した。
「まずは朝飯にしよう。――アルフィンに食べさせてもらうところから、再開だな」
「え、た、食べさせ?」
「あーん、ってしてくれるんだろ、誕生日のお祝いに。それぐらいねだってもいいよな。これだけ待ったんだから」
「えええ」
完全に真っ赤になったアルフィンの手を引いて、ジョウはテーブルのある方へ向かう。
椅子を引いて自分が座り、膝の上に彼女を載せた。
「何か俺に言うことは?」
彼女の腰に手を添えて、ジョウはアルフィンを見つめた。
アルフィンは、彼の肩に手をかけてその頬に頬を寄せた。
1日遅れの言葉を囁く。
「お誕生日おめでとう、ジョウ」
会えてよかった、うれしい。
それを聞くと、ジョウが照れたように微笑んだ。


結局その日、二人は滞在時間を延長し、レイトチェックアウト方式で12時前まで部屋で過ごした。

END

おまけでーす。あーんとかこの後、滅茶苦茶甘えると思います。
⇒pixiv安達 薫


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2 コメント

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アルフィン学習しようよ (ゆうきママ)
2021-11-09 16:09:39
やっぱり酒に弱いんだな。
まあ、酒乱にならなかっただけいいか(笑)
あ~んは、グレーブの病院でやってたよ、きっと。
誕生日おめでとう!
返信する
続編を意識して (あだち)
2021-11-09 18:32:34
短編を書いていることはないんですが、
気が付くと次の話、次の話と続いていくときがあります。これも、IN THE BARという掌編から派生したお話。報われないようでいて、しっかり報われるジョウに幸あれ! です。
返信する

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