背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

PRESENT

2021年11月08日 06時08分45秒 | CJ二次創作
このお話は、「IN THE BAR」の続きにあたります。

ジョウの誕生日の夜。
飲み直すために二人で街に繰り出して、店を出るころには日付が変わっていた。
靴擦れしたと言ってサンダルに履き替えていたけれど、やっぱり足を気遣って歩きづらそうなので、最後はジョウがアルフィンをおぶった。店からタクシーが拾えるところまで、道が少し入り組んでいる。
「いいの?」
「いいよ、ほら、乗れよ」
夜風に少し当たろう。ジョウが言ってアルフィンにかがみ込む。
「うん」
アルフィン一人ぐらいならジョウは軽々だ。多少酔ってはいるものの、おぶっても足取りはしっかりしている。
アルコールも手伝ってか、アルフィンはひどくはしゃいだ。
「すごい高い。ジョウの背中、ひろーい」
そこで、アルフィンは道行く人々がじろじろと見ているのに気づいた。
「ジョウ、みんな見てる」
「それは君がきれいだからだろ」
前を向いたままジョウが言う。
「恥ずかしかったら、俺の肩にでも伏せてるといい」
「ん……」
嬉しいなあ、幸せ。
アルフィンの呟きは夜風にさらわれずにジョウの耳にしっかりと届く。
言われた通り、ジョウの肩に頬を押し当てて、癖の強い髪の毛の感触を感じた。ジョウの顎から首筋、襟足にかけて、なんだろう、森の中にいるような、雨上がりの空気のような清冽な香りがした。
シェービングクリーム……? アルフィンは鼻先をそこに押し当てた。
「あ、こら」
しぜん、唇も押し当てられる格好になって、ジョウのうなじにぞわりと鳥肌が立つ。
「いい匂いがする……。ジョウってば香水、つけてる?」
「俺が? まさか」
じゃあ、この人の匂い? 肌の。
少しだけ汗のにおいが混じった、男の人の身体から立ち上る香りだ。
アルフィンは、うっとりとそれを吸い込む。
「素敵。いい匂い」
「……嗅覚がいちばん、記憶に直結してるって言うからな」
そこでジョウは背中に向かって言った。
「匂いは忘れないんだそうだ。その人の顔を忘れても、声を忘れても。匂いは一番記憶に残るって聞いたことがある」
「ふうん」
アルフィンは再度頬を彼の肩に押し当て、目を閉じた。
ぎゅっと彼の肩に回した腕に力を籠める。
「きっと忘れないわ、あたし、今夜のこと。
この夜の風の香りもあなたの背中で嗅いだ匂いも、みんな。一生丸ごと憶えてる」
忘れたくない。そう呟く。
「……ん」
俺も、とジョウは言わなかった。
代わりに、「俺は今夜の君の重さを忘れない。一生憶えてる」と茶化した。
しんみりするのは苦手だった。空気を変えた。
アルフィンは案の定、むうっとふくれた。
「どうしてそんな風に言うの。ぜんぜんロマンティックじゃない」
「俺にそんなもの求めるな」
「せっかくジョウの誕生日なのに、もっとあまあまにしてよゥ」
「甘々ってなんだ。誕生日の主役に、負ぶわせてずっと歩かせてるくせに」
「それは、あなたが申し出てくれたんじゃない」
「靴擦れしてるって君が言うからだろ」
「だって痛いんだもん」
「だから大人しくしてろって。暴れるなって」
「むー」
不承不承、アルフィンが黙り込む。と、そのうち背中から声がしなくなった。
すうすうと、規則的な寝息が聞こえる。
ジョウがそうっと肩越しに彼女を見やる。やっぱり、寝落ちしてしまったようだ。完全に彼に預け切っている寝顔が見えた。
やれやれ。ジョウは微苦笑を浮かべた。
行き過ぎるエアカーのヘッドライトが一瞬だけ彼の表情を闇の中に浮かび上がらせる。
アルフィン、君は気が付いていないんだろうけれど。
店を出て、もうとっくの昔にタクシーを拾える公道にまで出てるんだぞ。それでも俺が君を下ろさないで、背負ったまま歩道を歩き続けるのは何でだ?
俺の背中にのっけて、顔と顔がめちゃくちゃ近いところで話をして、あったかい吐息を感じて、背中に当たる君の胸の感触をどきどきしながら味わっている、男の純情が君に分かるか。
俺のことロマンティックじゃないと君は言うけど。俺にとってはこれ以上ロマンティックな晩もないよ。
高級ホテルのスイートルームを君は予約して俺にプレゼントしてくれたけれど、それ以上の贈り物を俺は君にもらってる。
「ジョウ……好き」
むにゃむにゃと、声にならない程度の声量で寝言が聞こえる。
「……」
一瞬、立ち止まったがジョウはまた歩き出した。確かな足どりで。
そしてスモッグにかすむ都会の夜空を見上げた。紫とも群青ともつかぬ、重たげな色を抱えている。
ネオン街の明かりがちかちかと眩しくて、クラクションが甲高い尾を引いて、車の排気ガスも脇をかすめていくけれど。
いい夜だ。ジョウは思った。
生まれてきてよかったと思える夜だった。

END

これから二人はホテルのスイートに帰り着きますが、今宵はジョウはおあずけですね。
アルフィンは夢の中。
それもまたいいと思える、誕生日が書けていれば。
⇒pixiv安達 薫

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3 コメント

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ほっこりしました (ゆうきママ)
2021-11-08 21:24:15
いい話だ。
いい男は、いい香りがするのよ。
アルフィン、目が覚めたら、
ジョウに謝りっぱなしだな。
だって、誕生日だもん。
返信する
Unknown (おすぎーな)
2021-11-08 22:11:44
投稿ありがとうございます(^o^)v
お久しぶりですぅ♪
Jくん!お誕生日おめでとう~(*^ω^)ノ
11/8に間に合いましたぁ!!えがったぁ!!
あなたたちのイチャコラは私の栄養源でございます(笑)
返信する
はたちの誕生日かな (あだち)
2021-11-09 18:30:18
21でも22でもいいんですけどね。なんとなく。
お二人のおめでとうもきっとジョウに届いてると思いますよ。
指輪とかアクセサリーを贈り合うというイメージがあまり湧かない二人なんです。。。私の中では。
物より、記憶、というような感じ。
憧れなのかもね。コメントありがとうございました。
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