背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

重石

2023年12月27日 07時30分06秒 | CJ二次創作
「ジョウ、ちょっと、言っておきたいことがあるんだけど」
意を決した風に、アルフィンが食後、彼をつかまえる。
きっ。顔つきが厳しい。
「ん?何だ」
部屋に行きかけた彼が立ち止まり、顔を覗き込んだ。
すぐ近くに彼の顔が来て、アルフィンの心臓が跳ねる。どき。
「ちょ、ちょっと、近い」
思わず身を引いた。
「ああ悪い。……んで。何?言っておきたいことって」
「あーーうん」
態勢を立て直す。仕切り直し。
改めて彼に向き直り、言った。喉のあたりが熱い。言葉がちゃんと出てくるだろうか。緊張していると自覚する。
「あのね、あなた、あたしに今まで一回も好きとか付き合ってとかそういうこと言ったことないでしょ。ちゃんと。だから、そ、そういうこと、一度でいいからちゃんと、い、言ってほしいな、って」
「好きだよ」
ジョウがさらりと口にした。アルフィンが言い終わるまで待たずに。
真顔で。
「ーー」
アルフィンの頭が真っ白になる。呆けた顔で、彼を見上げた。
ジョウは続けた。
「言われたいのか。付き合ってくれって。ん? 同じ屋根の下で暮らしているのに、付き合うとかあるのか。恋人になってくれとか違う表現のほうがいいのか」
ぶつぶつ、口の中で言葉を転がす。
「ジョウ……」
アルフィンが、やっと硬直した身体を解いた。瞬きもせずに彼を見つめ、名を呼ぶ。
「心配になったか? ごめん。気が回らなくて」
ジョウはそこでわずか伏し目になって微笑んだ。ようやく照れくささが襲ってきたようだった。
でも、声のトーンを落としても、再度口にした。
「好きだよ。俺と付き合ってほしい。これでいいか?」
満足? と訊かなかったが目で訊かれた。優しい優しいまなざしで。
アルフィンはそれに見惚れた。ぼうっと頭が麻酔にかかったみたいにうまく回らない。
「ーーあ、はい。うん……じゅ、じゅうぶん、です」
生返事をして答えた途端に我に返る。ぼぼぼぼっと顔から火が出た。火事だ。あっつい。
アルフィンは思わず両頬を挟むように手で押さえた。
ジョウは笑った。
「何で敬語なんだよ」
「だって……びっくりしちゃって」
あんまりあなたが、さらっと言うから。拍子抜けしたというか、本当に驚いたのだ。
どちらもジョウが到底口にしなさそうなセリフ。だから、一生一代勇気を振り絞ってお願いしたのに。こんなに簡単に手に入るなんて。空耳かと思う。でも、確かにいまジョウは言ってくれた。ずっと欲しかった言葉をくれた。
「ジョウ、可愛いとかは言ってくれるけど、あたしのこと大事にしてくれるのはわかるけど、その……言葉でほしいっていうか、形あるものーーううん、言葉は形にはならないけど、その、何ていうか重石みたいなのが、なんだか今日はどうしても欲しくって。あたし……」
「重石」
ジョウは繰り返した。
それは、俺の隣で俺と共に生きていくうえでの、という意味でか。君を俺のところに繋ぎ留めておくための、いや繋ぎ留めておけるだけの。
ジョウは思ったが、訊くことはしなかった。
代わりに、
「好きだよ」
もう一度言った。
彼女を見つめながら。
アルフィンは、今度は彼の眼をまっすぐ見つめてその言葉を聞いた。
好きだ。
もう一度、聞こえたーー声ではなく、心の柔らかい所にダイレクトに届く。
アルフィンの中にあるきれいな湖。その底に沈めばいいと、ゆっくりと回転しながら深く深く水中に飲み込まれていってくれと、そんな願いを言葉に込めて、ジョウは伝える。


あれから何度もあなたには愛の言葉をもらったけれど。
あの時の好きだよ、が一番ドキドキしたな、と後になってアルフィンは語った。それはそれは幸せそうに。
ジョウは「だって重石だもんな」と目を細める。そう願いを込めて伝えた。
「重石?」
アルフィンはきょとんとする。
「忘れたんならいいさ」
ジョウは言った。
でもそれは今でも彼女の湖の底にあること、ジョウにはちゃんと分かっている。

END

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